あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 フィリアとちょっとお茶をして休み。

 それから、あなたはクロモリと共に斥候に出た。

 

 周囲は熱気林だ。身を隠しながらの侵攻はしやすい。

 だが、そのような地形は野臥せりの本領が発揮できる。

 クロモリを斥候として送り出し、それを補助するのは価値の高い戦術行動だろう。

 

 そのような考えの下に出撃し。

 特になにと遭遇することもなく、時間ばかりが過ぎた。

 まぁ、斥候で何とも出会わなければ、それはそれで収穫だ。

 

「先ほどのが威力偵察ではなく、正規に編成された攻撃隊である可能性は高そうですね」

 

 所持品からしてもその可能性は高いだろう。

 あの巨人たちの部隊は食料をロクに持っていなかった。

 ちょっとした嗜好品とか軽食、保存食くらいは持っていたが。

 ちゃんと腹を満たせるほどの食事は持っていなかった。

 1日分ですら持っていなかったのだ。

 

 それはつまり、行って帰って来れる距離に相手の拠点がある。

 それこそ、1日以内に行って帰って来れる場所にだ。

 

 おそらく、神官たちが話していた人類の城砦から来たのだろう。

 正確な距離は聞いていないが、人間と巨人の進軍速度は次元が違う。

 人間が2日かかる距離も、巨人ならその半分以下で移動できる。

 

「すると、やはり陥落()とされていますか、城砦は」

 

 まぁ、それ以外にはないだろう。

 その城砦を雪隠(せっちん)詰めにしている可能性は否定しないが。

 攻め落として拠点化し、そこから攻めて来ていると考えるのが自然だ。

 

 籠城されると厳しいほどの堅城の可能性もあるが。

 あの魁偉な体躯の巨人を思えば、それを跳ね返せる城砦など夢物語だ。

 堅固でこそあれ、無理押しされれば陥落する程度だろう。

 そして、そうした城とはいつか落とされるもの。

 

「であれば、やり方はいくつか考えられますね……」

 

 巨人と人間の関係において、人間は奉仕種族として奴隷にされている。

 その一方で、身の回りの世話をさせることはまずない。

 単純な話、体格が違い過ぎて身の回りの世話が不可能だからだ。

 どう頑張っても10倍でかい相手の世話は無理だろう。

 

 そのあたりは巨人たちも巨人の使用人を使うらしい。

 人間は庭小人めいた雑用をさせたり、迷宮に潜らせたりとか。

 まぁ、生活とはやや遠いところで奉仕させられるらしい。

 

 つまり、あの城砦に人間はおそらくいないだろう。

 日常生活の場にならともかく、戦場にそんなの普通は連れてこない。

 ならば、丸ごと消し飛ばしてしまえば、それにて一件落着!

 同士討ちの心配もなくてすばらしい!

 

「とんでもなく乱暴ですね……いえ、効率的なのは認めますが……」

 

 レインが『フェイタル・エクスプロージョン』なる魔法を開発している。

 その試し打ちとして、その城砦に撃たせてみよう。

 そりゃもうすごい大爆発らしい。

 巨人も消し飛ばしてくれるだろう。

 

 城砦は試し打ち相手としても申し分ないし。

 やはり、規模の大きいものに撃たせた方が破壊規模が分かりやすい。

 『ナイン』並みだったらうれしいのだが……。

 

「それでいいのでしょうか……」

 

 なんかダメなのだろうか。

 あなたにはそのあたりはわからない。

 強烈な攻撃で1発ドカンと吹き飛ばしておしまい。

 わかりやすくていいではないか。

 

 もしや、クロモリはなにかすごい提案があるのだろうか?

 冴えた解決方法があるなら採用するが……。

 

「そうでは、あるのですがね……ええ……いえ……」

 

 なんだかよくわからない。

 クロモリはちょっと変わってる。

 あなたは首を傾げた……。

 

 

 

 それからしばらく斥候をしても、なんの収穫も得られなかったので帰還。

 身を休めてしばらくしたら、レウナとフィリアを起こす。

 魔力は回復していたので、再度神官たちの治療を行う。

 

「これでみなさん全快されたでしょうか」

 

「少なくとも、治療が必要なやつはもうおらんだろう。申告者はいないわけだし」

 

 治療は必要ないと強がっている者もいるかもだが。

 そうだとしても、聖騎士には独自の治療技術が存在する。

 神より賜った治癒の力がその手に宿っているのだ。

 まぁ、あんまり強力な力ではないのだが、多少のケガはそれで癒せる。

 放っておいても、各自で勝手に治すだろう。たぶん。

 

「そうですね。どうしても今すぐ必要と言うわけでではないでしょうし……私たちが居なくてはいけない状況は脱した……そう考えてもいいでしょうか」

 

 まぁ、この神殿の作りを思うと、あなたたちがいた方がいいが。

 少なくとも、あなたたちがいないと死者が出るほど差し迫った状況ではない。

 この状況ならば、出撃してもいいだろう。

 

「そうだな、この神殿自体は神殿でしかないからな……」

 

 レウナがあなたの言葉に頷く。

 この神殿はあくまでも神殿だ。

 そのため、城壁や堀はもちろんないし、攻城防衛設備もない。

 

 防衛をするには、打って出て戦うしかない。

 攻撃こそ最大の防御。そうならざるを得ない。

 神殿だから当たり前と言えばそうではあるが。

 

 だから、あなたたちが打って出る。

 それこそ斬首戦術をするレベルで打って出る。

 もはや反撃を通り越した逆襲のあなただ。

 

「では、私たちの魔力が再度回復し次第、打って出ますか」

 

 そのつもりだが、ちょっと様子見だ。

 城砦の正確な位置が不明なので、クロモリが偵察に行っている。

 正確な位置を確認したら戻ってくるとのこと。

 

 1人だけなら、あなたたちを引率しているよりさらに早く動けるらしい。

 なにより、神殿と城砦は人類側が拠点として使用していた場所。

 その2つを結ぶ道は、最低限とは言え整備されている。

 そんな移動のしやすい道があれば、偵察も速く済むだろう。

 

「なるほど。さすがですね、クロモリさんは」

 

「うむ、本職は違うな。頼りになる」

 

 あなたもそう思う。

 こういう冒険の時には、本職がいると断然違う。

 

 エルグランドで野歩きには慣れていると思っていたが。

 本職のプロフェッショナルの技を見ると、あなたのそれは児戯に等しかった。

 あなたは割と力任せなところがあるので。

 技術の比重が大きいクロモリの技は参考になる。

 

「ともあれ、それまでは休むか……どうせ、休むのだから魔力は使ってもよかろう。防衛用に、なにか細工でもしておくか」

 

「そうですね。壁にシンボルを刻んで、敵を弱体化させる類のものでも……」

 

 そのあたりのことはよく知らないので任せる。

 エルグランドには防衛と言う概念があんまりない。

 なんせ『ナイン』が大量に流通しているのだ。

 

 城壁やらトラップがあっても『ナイン』で吹き飛ばせばいい。

 そのため、エルグランドではそう言う攻城戦の技術がぜんぜん発達していなかった。

 

 

 フィリアとレウナがあれこれと魔法で悪だくみをし。

 ついでにレインも魔力に余裕があるからとあれこれやり。

 あなたはあなたで魔力任せに『壁生成』で城壁を作った。

 

 残念ながら『壁生成』の魔法による壁は割と作りが脆い。

 なので、堅固な城壁にはならないのだが、容易く侵攻されないだけ有利になるだろう。

 神殿の周りをグルッと囲う壁を作り、あなたの仕事はそれで終わり。

 

 『ナイン』を埋設しておくのも考えたが。

 踏んだ時に起爆する設定が分からなかったのでやめた。

 人間ならわかるが、巨人の荷重がどのくらいか不明なので。

 

 そうやってみんなで悪だくみをして魔力を使い切り。

 そこでクロモリが疲れた表情で戻って来た。

 

「ただいま戻りました……疲れました……『木渡り』を使ったり、『下級回復』のポーションを使っての強行軍でしたが、なんとか……」

 

 おつかれさま。

 疲れているところ悪いが、偵察の結果はどうだったろう。

 

「はい、あなた様。偵察の結果ですが、常人の足で歩いて2日ほどの距離に城砦を確認しました。これは神官がたからの情報通りでした」

 

 2日とはまたずいぶんな距離だ。

 それを半日足らずで往復してくるとはなかなかの健脚。

 魔法を併用したりなどしたおかげではあるだろうが……。

 

「そして、城砦ですが……やはり、あなた様の見立てた通り、巨人によって陥落しているようです。城砦周りにキャンプすら張られていました」

 

 人間なら数百人収容できる施設だとしても。

 巨人の図体はそのキャパシティを容易く食いつぶす。

 そのため、巨人が駐屯するとなると城砦ではまるで足りないのだろう。

 周囲にキャンプ村が産まれるのも自然と言える。

 

「詰めている巨人は、先だっての攻撃隊である太陽の巨人が幾人かと、魔法の巨人が2体ほど。それ以外にもいるようでしたが、正確な数は不明です。申し訳ありません」

 

 そのあたりの情報は正確に求めていないので構わない。

 重要なのは、城砦の位置だ。敵兵力の確認は二の次。

 不意打ちで吹き飛ばせば、少なくとも深手は負うだろう。

 なんせレインの『神話級呪文』だ。生半な爆発ではない……ハズ。

 相手が生き残っても手傷は負っているので、掃討は楽だろうし。

 

「そう言うものですか? いえ、あなた様がそれでよいとおっしゃるなら……」

 

 それでよい。

 ともあれ、クロモリはもう休むこと。

 ここまで強行軍でさぞや疲れたろう。

 あなたはクロモリに休むよう命じた。

 

「はい……ですが、あの……無理やり戻って来たものですから、体がおかしくて……厚かましい願いなのですが、キツい酒をいただけないでしょうか」

 

 なるほど、激しい運動のし過ぎで身体が昂っていると。

 疲労が激しくなりすぎると、逆に眠れなくなったりする。

 そう言う時にはやはり酒だ。無理やり体を弛緩させて休ませる。

 あなたはクロモリに瓶ごと蒸留酒をプレゼントした。

 

「ありがとうございます、いただきます」

 

 飲んで、あとは休むこと。

 また明日、みんなを引率してもらう。

 そのためにも疲れを残さないように。

 

「はい、了解しました。では、申し訳ありませんが、先に休ませていただきます」

 

 あなたは頷く。

 あなたもすぐに休む。

 明日は巨人の城砦への攻撃だ。

 疲れを残したくはない。

 

 

 

 それから、体を休め、部屋で就寝。

 みんなで酒を飲むなどして緊張を和らげたらすぐに寝る。

 干し草ベッドでゆったりぐっすりと眠る。

 

 そして、翌朝にはしっかりと朝ご飯を食べ、それからお茶を飲みながら食休み。

 ゆったりと胃の中身を消化したら、軽く体をほぐす。

 それから、あなたたちは神官たちに激励の儀式を受けてから出立する。

 

「このワインは祝福。あなたの戦いによき先ぶれがありますように」

 

 そのように神官たちがワインに祈りを込めて、あなたたちへと1杯ずつ振る舞われる。

 それを口にすると、ほっとするような熱が胸に宿った。

 強化魔法と言うには少し毛色の違う、肉体の活性化する感覚。

 

 純粋に体に活力が満ちる心地よさがあり。

 その活力は戦いにあたって有利と働くだろう。

 なかなか悪くない激励の儀式だった。

 

「では、まいりましょう!」

 

 張り切るフィリアが先陣を切って歩き出す。

 あなたたちはそれに続いてぞろぞろと歩き出す。

 その背に、ザイン神の神殿の者たちの声援がかけられる。

 

「武運があることを祈っています!」

 

「巨人どもを皆殺しにしてください!」

 

「戦い大好き! あなたたち大好き! 私大好き!」

 

 それが激励の言葉でいいんだろうか。

 そう思わされるものも混じっているが。

 まぁ、応援の気持ちは伝わる……ような気がする。

 

 ともあれ、あなたたちはそんな声援を受けて旅立つ。

 彼ら彼女らの期待に応え、巨人は皆殺しにしてやろうではないか。

 あなたはそんな決意を胸に、ひたすら前を向いて歩きだした。

 

 

 

「城砦までの距離は、われわれの足で歩いて1日ほどでしょうか。途中、野営を挟みますがご容赦ください」

 

 そこはしょうがないだろう。元より想定済みだ。

 常人の足で2日ほどの距離を1日で歩けているのだ。

 クロモリの案内がスピーディな証明である。

 

「そう言っていただけるとありがたいです。一応、転移魔法で跳べればと思って目印によさそうな場所のスケッチは取って来たのですが……」

 

「ええ、それがあれば跳べるとは思うわ。でも、その手の場所に罠を張っている可能性は否めないわ」

 

「とのことですので、徒歩で向かうことになっております」

 

 レインの補足は頷けるところだ。

 転移魔法で奇襲されると被害は甚大になる。

 それを防ぐ方策を練るのは当然だろう。

 そして、それを逆用して罠に嵌めるのは誰でも考えるだろう。

 

 単純に、転移した場所を察知されるだけでも痛いし。

 なんらかの魔法で出現先を危険な場所にされたりとか。

 上空に放り出されるとか、むしろまったく別の場所に吹き飛ばされるとか。

 そう言う致命的なトラップにはかかりたくないものだ。

 

「では、まいりましょう。先日お伝えしたように、私に続いてください。なにかあれば声を上げて止めてください」

 

 あなたたちは頷くと、クロモリの先導に従って歩き出した。

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