あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 クロモリの先導であなたたちは森の中を進む。

 以前から使われていた、人間用の街道を用いての移動だ。

 足場に不安はなく、クロモリも索敵に集中して進めている。

 そのおかげもあり、進行速度はきわめて速い。

 

「でも、こんなに堂々と街道を歩いちゃって大丈夫なの? 目立たないかしら?」

 

「そうですね……」

 

 レインの疑問にクロモリがくるりと周囲を見渡す。

 そして、目を細めて足元のある一点を指差した。

 

「レインさん。そこに道があります。おわかりになりますか」

 

「え? 道? ……どこに?」

 

 レインも目を細めて確認するが、わからないらしい。

 あなたもわからない。道なんてどこにあるのだろう。

 

「小さい獣道です。おそらく小型の動物の巡回路でしょう。少しだけ下生えが薄い」

 

「そう……? それがどうかしたの?」

 

「あの道、通れますか?」

 

「通れなくはないけど……あー、そうか。そう言うことね……」

 

 そう言うことだ。

 巨人にとって、あなたたち人間の街道は小さすぎるのだ。

 よく注視しないと見つけられないし。

 仮に見つけられても、巨人には細すぎて歩くのにも難儀する。

 

 道から足がはみ出せば、そのまま森に体が突っ込む。

 巨人はなんせあなたたちの10倍近い体躯があるのだ。

 この街道は、彼らにとって逆に使いにくいだろう。

 

 片側だけ整備された道を歩き、もう片側は整備されていない道を歩く。

 左右で足場の安定感が違うので、逆に疲れてしまうのだ。

 そう言う意味で、街道を堂々と歩くのは巨人相手に限って言えば安全だった。

 

「じゃあ、気にせずに歩いて大丈夫なのね」

 

「はい。少なくとも、同じく街道を歩いていた巨人とバッタリ遭遇……と言うことはないでしょう」

 

 まぁ、街道を人間が歩くと言う認知は当然あるので。

 この街道を見張っている巨人がいる可能性は否定できないが。

 さすがにそこらへんまで考慮していてはキリがない。

 

 それに、隠密行動をしているわけでもないのだ。

 街道を歩いて進軍の疲労を軽減する方が価値がある。

 敵に見つかったら素早くぶっ殺して進めばいい。

 

 どうせ監視している連中なんて大した強さではない。

 強力な戦士を監視に使うのはもったいなさ過ぎる。

 大した強さではない、二線級の部隊あたりだろう。

 先日の太陽の巨人と魔法の巨人の部隊を倒したあなたたちなら瞬殺できる。

 

「力技だな……」

 

 レウナが呆れたように言うが、結局それが一番早い。

 あんまり小賢しく策を弄しても意味がない。

 

 あなたたちが隠密活動を主眼とした訓練を積んでいるならともかく。

 基本的には真っ正面の戦闘を得意としたオーソドックスなチームなのだ。

 ほとんど全員が魔法を使えるという点は特殊ではあるが。

 

 あなたとサシャで剣士が2名、魔法使いのレイン、神官のフィリアとレウナ、野伏せりのクロモリ。

 ちょっと人数が多いが、オーソドックスな安定感のある編成だ。

 このチームが最大限に力を発揮するのは、やはり正面戦闘だろう。

 

「そう言われるとそうなんだが、しかしなぁ……もうちょっと、こう……なんとかならんか?」

 

 じゃあ、森に火を放って、敵を攪乱して進もうか。

 熱気林は水気が多いので大火事にはなり難いが……。

 魔法をふんだんに使って薙ぎ払えば話はべつだ。

 

 高火力の魔法で焼けば水気も吹き飛ぶ。よく燃えるだろう。

 一度強く燃え出せば、水気が多い部分まで火が達してもすぐには消えない。

 熱量が下がるまでの間は、それなりに安全に進める。

 

「より一層力強い力技を使おうとするな。隠密活動をする手はないのかと言っている」

 

 なくはないが。

 やはり、相手はその辺りも警戒しているだろうし。

 特に、あなたたちが隠密するとなると、使うのは魔法になる。

 魔法を使っての隠密活動は、いろいろと面倒も多い。

 

 相手が弱小の戦士集団ならばいいのだが。

 なんせ相手は超強力な戦士集団であり、魔法使いの存在は否めない。

 少なくとも、魔法の巨人と言う強力な魔法将軍はいるのだ。

 魔法が専門の巨人がいないと、誰が保障してくれるのか。

 

「うむむ……そう言われると、そうか……」

 

 まぁ、大人しく力技で進もうではないか。

 やっぱりそれが一番楽で速いし。

 

 

 森の中をしばらく進み、やがて日が暮れだした。

 無理のない速度で進行しているので、さすがに限界があった。

 

 あなたたちは街道から少し外れ、森の中で野営の準備をする。

 街道沿いであろうとこの手の森の中での野営は危険ではあるが。

 なんせ、巨人やら人間がぶつかり合ったり、進軍したりしているのだ。

 獣たちも警戒して、あまり周囲に気配は感じられない。

 今はそんなに心配しなくてもいいだろう。

 

「天幕を横向きに張りましょう。夜の森の中で火はすさまじく目立ちます。視界さえ通れば10キロ先からでも見つけられます」

 

「はい、薬師様。燃料も、煙が出るものはまずいでしょうか?」

 

「まずいですね。暗視能力がなくとも、煙は意外と見えますから。煮炊きをするなら、炭を使うか、錬金術道具を使います」

 

「なるほど」

 

 あなたはもちろんその手の準備をしている。

 べつに野営の際に目立たないようにと言う意図ではなく。

 煙が出ると目に沁みてしんどいからと言うだけの理由だが。

 

 炭を用意し、それを即席のかまどで着火。

 熱気林の中なのでまったく寒くはないのだが。

 やはり、火を囲むと安心感がまったく違う。

 暑い寒いではなく、あると気分がいいから火を焚くのだ。

 

「あぁ、おなかペコペコだわ。さすがに1日歩き通しは疲れるわね」

 

「そうですね、しっかり食べて、体力を回復させましょう」

 

 食事の準備はあなたの役目だ。

 あなたはマトン肉入りのシチューを鍋ごと『四次元ポケット』から取り出す。

 それを火にかけた状態にし、各々によそって配ってやる。

 

 もちろんパンもたくさんあるのでたくさん食べて欲しい。

 このパンは屋敷で使用人に地道に量産してもらっているものだ。

 オーブンに余裕があれば余分に焼いて、それを備蓄しているのだ。

 

「うーむ、マトンなのに癖がない。これはうまい」

 

「ほっとする味わいですね……おいしい……沁みる……」

 

「イモがほくほくでおいしいです。いくらでも食べれちゃいますね」

 

 好評なようで大変結構。

 それらを食べ終えたら、ゆっくり休む。

 

 普段は不寝番などは置かないのだが。

 敵の存在が明白な上に、相手が高度な知能を持った巨人たちだ。

 これがソーラスの迷宮だったら、知性の高い相手が少ないからよかったのだが。

 そのため、あなたたちは交代で不寝番をすることにした。

 

 ただし、昼の活動で疲労が大きいクロモリはしっかり休ませる。

 昨日は相当な強行軍で偵察までして来てくれたのだ。

 ゆっくり休ませはしたが、疲労が抜け切れていない可能性もある。

 明日もしっかり働いてもらわないといけないので、優先的に休ませる。

 

 まず、あなたとフィリアが不寝番をすることにした。

 時計で時間を測り、3時間ごとに交代をする予定だ。

 あなたとフィリア以外は、地面にロウ引きした布を敷いて、その上で毛布に包まって寝る。

 

 この大陸は湿気が強いので、防湿に大きく手間を裂く。

 キャンバス布にロウを沁みこませ、それを火であぶって馴染ませる。

 それによって布は防水能力を持ち、水を弾くようになる。

 この上で寝れば、湿気には悩まされなくなるわけだ。

 防水能力はしばらくすると落ちるので、冒険の都度にロウ引きをしている。

 

「野営をして、不寝番をするって、考えてみるとずいぶん久し振りです」

 

 火に新しくケトルをかけながらフィリアがそんなことをこぼす。

 考えてみると、レインとサシャとは不寝番を置いた野営をしたことがあるが。

 フィリアとはこうした不寝番をするのは初めてかもしれない。

 

「私たち『銀牙』は迷宮には潜らず、種々の依頼を達成するのが主眼のチームでしたから、こういう野営は数多かったです。もう5年近くになるんですね……」

 

 遠いどこかを見つめながら、フィリアは昔を懐かしむ。

 そう言えば、その『銀牙』のメンバーはどうしているのだろう。

 

「アルベルトからは時々手紙が来ますよ。元気にしているみたいです」

 

 それはいいことだ。

 以前に全員まとめてぶっ殺したあなたが言うことじゃないが。

 やはり、おなじ冒険者だ。無事に冒険しているのは喜ばしいことだ。

 

「ほんとにお姉様が言うことじゃないですね……まぁ、そう根に持つような人たちでもないですが、当人たちには言わないでくださいね。煽りにしか聞こえないので」

 

 言わない言わない。

 エルグランドなら余裕で言うが、こっちで言ったら遺恨になりかねない。

 あなただってそのくらいの理解はあるのだ。

 

「……思えば、かつては彼らと肩を並べて、共に成長していましたが。いまとなっては彼らを大きく上回りました。すこし、寂しいような気もしますね」

 

 なんて、フィリアが笑う。

 その気持ちは、これからもずっとついて回るだろう。

 あなただって、いつもその気持ちを抱いていた。

 

 冒険者には厳密には同期と言えるようなものはない。

 こちらの大陸の冒険者学園卒の場合はまたべつだが。

 少なくとも、エルグランドではそのような括りはなかった。

 

 それでも、同じ時期くらいに冒険者を始めた者や。

 同じ都市から冒険者として身を立てて行った者に親近感を抱くことはある。

 そして、それは多くの場合で相手側も同じことである。

 なんとなく先輩のように思ったり、なんとなく後輩のように思ったり。

 そんな緩やかな連帯はたしかに冒険者の中にもある。

 

 あなたにも、かつてはそんな人たちがいた。

 少しばかり教えを授けてくれた先達がいたし。

 見るに見かねて教えを授けた後進がいた。

 

 自分はこんな成功をしたと自慢できる友人がいて。

 こんな成功をしたと自慢してくる友人がいた。

 

 いまはもういない。

 

 冒険者をやめて、市民として生きることを選んだり。

 エルグランドと言う大陸から去った者もいるし。

 昇天して、人の(ちまた)から去った者もいる。

 そして、もう2度と還らない死を選んだ者もいる。

 

 冒険者として精進し続け、強くなり続ければ。

 絶対にそんな気持ちは抱き続けることになるのだ。

 だから、昔からの友人というのはすばらしく得難いものであり。

 何を置いても優先するほど重要なものとなり得る。

 

 アルベルトたちとの絆は大事にした方がいい。

 フィリアがフィリアであることのよすがになる。

 つらくてもうやめたいと思った時、それは力になるだろう。

 あなたはフィリアにそんなことを静かに諭した。

 

「そうなんですね……お姉様も、そんな弱気を抱くこともあるんですね」

 

 もちろんある。

 それを表に出すことはないけれど。

 時として寂しくて悲しくなることだってある。

 

「そっか、お姉様も……そうなんですね……」

 

 フィリアはそうこぼして、しばらく黙り込んだ。

 やがて、ケトルがしゅんしゅんと音を立てて湯を沸かしてくれた。

 あなたはなんとなくコーヒーを淹れる気持ちになった。

 

 あなたはあまり飲まないが、この大陸ではコーヒーの栽培が盛んだ。

 コーヒー豆を火で炙り、パチパチと豆の皮を弾けさせる。

 そしたら次に、袋に入れて石でガスガス叩いて砕く。

 これを鍋で軽く5分ほど煮込んで抽出し、火からおろす。

 しばらく待って豆ガラを沈殿させたら、上澄みをカップに移す。

 

「う~ん、この、雑味たっぷりの濃いコーヒー……冒険者のコーヒーですね」

 

 非常にキツい味わいだ。だが、眠気が覚める。

 たまにはこういうのも悪くない。

 思い出話に浸る時と同じくらいの頻度なら。

 

 

 フィリアとなんてことはない話の華を咲かせ。

 やがて、3時間ほど経ったところでサシャとレウナを起こす。

 

「ふわぁ……うーむ、普段は途中で起きて見張りなんてしないから、ややしんどいな……」

 

「私も、ずいぶん昔に1回やったきりなので……慣れないですね……」

 

 あなたはケトルと鍋を示す。

 コーヒーの用意がしてあるので、飲みたければ飲んでよい。

 おかわりが欲しくなったら、豆を砕いて自分で淹れるように。

 

「おお、至れり尽くせりだな。さっそくいただくとしよう」

 

「うひぃ、これは濃い……めちゃくちゃ濃いコーヒーですよ……ミルクが欲しい……」

 

「だが眠気が覚める……まぁ、私はそもそも睡眠不要ではあるのだがな……」

 

 そんなことを話しながら、不寝番に入るサシャとレウナ。

 その声を聴きながら、あなたとフィリアは隣り合って就寝の姿勢に入る。

 

 コーヒーを飲んだので、やや寝つきは悪いが。

 ゆっくりと身を横たえて目を閉じているだけでまったく違うものだ。

 あなたは焚火の音色に耳を傾けながら、ゆっくりと体を休めた……。

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