あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 レインがすんげー大爆発を起こした。

 『ナイン』と同じくらいの大惨事が起きた。

 地面がガラス化し、すべてが消し飛んだ。

 

 巨人の痕跡はさっぱりない。

 全部死んだというか、消し飛んだようだ。

 

 森は焼け、地は溶け、すべての生物が死滅したかのように見えた。

 だが、あなたはふつうにピンピンしていた!

 いや、熱かったけども。べつに大打撃ってほどではない。

 

「ふぅ。あなたはフツーに平気なのね……自信無くすわ……」

 

 などと大きく溜息を吐くレイン。

 手にしていたロッドを『ポケット』へと放り込む。

 どうやら、熱耐性を与えてくれる類のロッドだったらしい。

 

 そんなレインと対照的に、あなたは大興奮だった。

 あの大爆発すごかった! 最高! 自分にも教えて!

 

「ええ? そんなにすごかったかしら? そ、そう? まぁ、あなたがどうしても教えて欲しいと言うなら、教えてあげなくもないけど……」

 

 どうしても。ぜひとも教えて欲しい。

 『ナイン』に見劣りしないすばらしい威力だった。

 究極的には触媒無しで使えるようになりたいが。

 この雰囲気からすると、触媒ありでも使いではありそう。

 

 魔法なので、武具のエンチャントによる強化が乗る。

 『ナイン』は広域制圧こそ強力だが、その威力はしょっぱい。

 この魔法ならば、威力も範囲も申し分ない最高の広域制圧攻撃ができるはずだ。

 

「そこまで褒められると照れるわね。ふふふ……」

 

 などと頬を染めるレイン。

 まぁ、この魔法にも難点はありそうではあるが。

 敵を問答無用でぶっ殺すには最高だろう。

 威力と範囲は手放しで褒められる。

 

「は? 私の最高傑作にケチをつけるつもり? なにが問題だって言うのよ? 言ってごらんなさいな」

 

 一転して剣呑な目線を向けて来るレイン。

 そんなレインに、あなたはクレーターを指差す。

 

 そこにはなにもない、清々しいとも寂しいとも言える光景がある。

 そう、なにもないのだ。城砦も、死体も、なにもかも。

 あなたはレインに尋ねた。戦利品はどこにあるの? と。

 

 地面がガラス化し、なにもかもが消し飛んでいる。

 巨人の死体はもちろんのこと、その装備や道具も。

 そして、城砦だって綺麗さっぱり消し飛んでいる。

 ここから回収出来るものは、汚いガラスと焼けた土くらいだ。

 もちろん、金になんかならない。

 

「……戦利、品? ……せんりひん……ああ……ああああ……」

 

 いまようやく気付いたらしい。

 レインは自分のやらかした事態に項垂れ、地面に突っ伏してしまった。

 金に対するモチベーションの高いレインにはキツかろう。

 そんなレインの姿を見て、ほかのみんなが慌てて駆け寄って来た。

 

「ど、どうしましたレインさん! なにかお具合が!?」

 

「落ち着いてください、レインさん。まずはゆっくり深呼吸を……」

 

 フィリアとクロモリが慌てて介抱する。

 しかし、レインの嘆きは止まることを知らない。

 

「け、研究に、いくらかかったと思ってるの……! き、金貨、金貨5万4000枚……5万4000枚も、したのよ……! 戦列艦をセットで買えるくらい……あ、ああああ――――!」

 

 嘆き、叫ぶレイン。

 まぁ、その気持ちはわからなくもない。

 

 大金を賭して作った魔法が産廃だったらね……。

 まぁ、威力と破壊範囲は申し分ないので。

 魔法自体は間違っても産廃ではないのだが。

 

 やはり、敵の持ち物を戦利品とする冒険者には不適格と言うか。

 悲しいことだが、普通の冒険では出番はなさそうだ。

 いずれにせよ金貨5万4000枚をドブに捨てたことになるか。

 

 あなたはそんなレインの肩を叩いて、ささやく。

 魔法そのものじゃなくて、魔法の研究課程の資料も寄越してくれたら金貨10万枚払うよ、と。

 

「売った」

 

 買った。

 これにて一件落着。

 

 金貨100万枚でも惜しくない魔法だ。

 研究課程の資料も手に入るのだからいい買い物だった。

 エルグランドに持ち帰って、さらなる改良・研究もしたい。

 

 先ほどのは純粋物理属性のように感じた。

 これを純粋魔法属性に変えられれば最高だ。

 すばらしい殺戮魔法となってくれるだろう。

 そのためにも研究資料はぜひとも欲しかった。

 

「ああ、でも、あれだけ頑張ったのに、こうなるなんて……はぁ……」

 

 むしろ、あれっぽっちの研究期間でこの成果ならすばらしいのでは。

 そう思いつつ、レインを見て、あなたはふと気づく。

 レインの魔力がまったく減っているように見えない……。

 

 あれだけ強力な魔法をぶっ放しておいて、それはありえない。

 いったいどういうことなのか、あなたはレインに直球に疑問を投げた。

 

「ああ、それ。あの触媒は私の魔力で作ったものよ。まだ、同時に2個しか保持しておけないんだけど……あなたなら、もっと作れるんじゃないかしら」

 

 なるほど、そこらへん含めて魔法と……。

 すると、実質的に魔力消費無しで使えると言うことになる。

 

「まぁ、そうと言えなくもないわね。巻物じゃないスクロール作ってるようなものだけど」

 

 そう言われるとそうか。

 

「『神話級呪文(ミシックスペル)』の魔力消費は莫大よ。だから、その呪文そのものに触媒の精製過程を組み込むところからはじめて、まぁ、いろいろと苦労したのよ」

 

 あなたの使う『神話級呪文』相当の、拡張した自作呪文。

 あれは通常の魔法の数百倍もの莫大な魔力を消費する。

 レインの『神話級呪文』も条件は似たようなものなのだろう。

 2回分しか保持できないとはいえ、魔力リソースを浪費せずに使える専用の触媒はなかなか考えたものだ。

 

「資料の類は後で用意しておくけれど……敵はどうなったかしら?」

 

 死んだんじゃないか?

 あなたはさらりとそう返す。

 どう考えても1人残らず死んでいる。

 

 一応、異空間に逃れるとかすれば生存してるかもだが。

 森の中で察知されずに放ったのだ。

 気付いて退避した可能性は低い。

 

「そうよね……あっけなく終わったわね」

 

 あっけなかったと言うのかな、これ……。

 ド派手な破壊の惨状にあなたは思わず半目になる。

 これをあっけなくと言ったら、あなたの漁色だって地味と言えるだろう。

 

 まぁ、一瞬で終わったというのをあっけなくというなら。

 たしかに魔法1発で終わったなら、あっけないと言うのか……。

 

「まぁ、なんであれ、敵は見事に壊滅しました。私たちの責務は果たしたというべきでしょう」

 

「そうですね、薬師様。撤収しましょうか」

 

「長居してもしょうがないですからね。帰りましょう」

 

「野営では疲れが取れ切っていない気がするのよね。ちゃんとしたベッドで寝たいわ」

 

「サクッと帰るか。行きは魔法だとまずいという話だったが、帰りは構わんだろう?」

 

 そうだねとあなたは頷き、『引き上げ』の魔法を起動する。

 すでにあの神殿のあたりにマーキングは設定してある。

 

 しかし、奪還すべき城砦は消し飛ばしてしまったが。

 このあたりはどうやって説明したものか……。

 あなたはそんな不安が脳裏を過ぎったが、気にしないことにした。

 そのあたりの説明はレインあたりに丸投げしよう!

 

 

 

 『引き上げ』で神殿に帰還。

 あなたたちは上級神官であるセマリアに報告をする。

 

「はい、見ておりました。あの凄まじく巨大な雲が、城砦を破壊した痕跡なのですね。恐ろしくも凄まじい魔法に敬意を……」

 

 そのようにセマリア神官はあなたたちに祈るような仕草をした。

 城砦は綺麗さっぱり消し飛ばしてしまったが……。

 まぁ、巨人族の脅威は消えたはずだ。

 

「はい。あなたがたの勇戦に最大限の感謝を……どうぞ、盾をお持ちください」

 

「はい、セマリア神官殿。あなたの盾を、その誉れと誇りと共に受け継ぎたいと思います」

 

「ありがとうございます、そのように言っていただければ、安心して盾を託せます」

 

 無事にこうして依頼は終わったわけだが……。

 これで終わりなのだろうか?

 あなたはなんとも言えない違和感に首を傾げた。

 

 レインも言っていたことだが。

 あっけなさ過ぎるだろう、いくらなんでも。

 行って、魔法をパナして、それで終わり。

 帰りも魔法でびゅーんひょい。あっけなさ過ぎだ。

 

 ザイン神の試練だったというなら。

 たったこれだけの冒険で終わるのは不自然のような。

 魔法で城砦を吹き飛ばしたら、大ボスが出て来るとばかり思っていた。

 

 まぁ、物語の定番ではそうだが。

 これは現実だ。早々ヒロイックな展開はない。

 そう言うことなのだろう、たぶん。

 

 神の試練ならば、ヒロイックなこともありそうなものだが……。

 そう思いつつも、あなたはその疑問を呑み込んだ。

 口にしたらなんか悪いことが起きそうだったので。

 

「ささやかではありますが、皆さんの働きに感謝の宴を開きたいと思っております。どうぞ、参席いただけませんかな」

 

「はい、もちろんです」

 

「心ばかりのもてなしをさせていただきます。宴の準備が済むまで、どうぞごゆるりと過ごしてくだされ」

 

 考えていると、そんな話になっていた。

 仕事だからやっただけなのだが……。

 まぁ、彼らが感謝する気持ちもわかる。

 

 その辺りの行為は素直に受け取るとしよう。

 あなたたちは宴に参席することとし、その宴の準備が終わるのを待つことにした。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――

 

 金髪の女たらし率いるエヴリシング・バット・ザ・ガール、EBTG。

 それによって成された驚異の大破壊は、各地から観測が可能だった。

 

 圧倒的な大破壊による衝撃波は遥か遠方まで届いたし。

 光と熱は、なによりも眩く輝いていた。

 そして、なによりも目立ったのは、生成された巨大なキノコ雲。

 その頂部は約20キロメートルもの高さに達していた。

 数百キロ以上離れた地点からも観測が可能であった。

 

 誰もが皆、その魔法の余波に慄いていたし。

 やがて、そのキノコ雲の先が、軍を派遣した地点であると理解した。

 魔法による通信で、軍部は派遣軍とコンタクトを取ろうとし。

 そのすべてが徒労に終わり、軍部は魔法による影響を理解した。

 

 派遣軍は壊滅した。

 強大な魔法の攻撃に晒されたことによる壊滅。

 それはすなわち、派遣軍に攻撃を行った何者かがいる。

 

 小癪な小人どもが成したこととは思えない。

 強くなり過ぎた小人たちは反乱し、国を興すに至ったが。

 あれほど凄まじい魔法を使えるようになるわけがない。

 

 魔法とは知だ。知識だ。学びだ。学問だ。

 知識も学問も、1年や10年では形にならない。

 成熟した文明を持つ巨人たちはそれを知っている。

 彼らもまた、10年100年とかけて知を積み上げたからこそ。

 

 小人どもはまだ成熟した国を持っていない。

 神々の恩寵を無邪気に信じ、秘術と奇跡を区別できない愚か者ども。

 秘術とは業であり、知識だ。創り上げるものなのだ。

 

 あれほどの凄まじい魔法を作るのにどれほどの知が必要か。

 莫大な財貨を注ぎ込み、賢者の知恵を集め。

 その果てにようやく完成するだろうものだ。

 100年後ならばともかく、今の小人どもにそれは不可能。

 

 であれば、それを成したのは知恵あるドラゴン以外にありえない。

 ドラゴンどもならば、それを成せるだけの知恵がある。

 

 巨人とドラゴン。

 その関係性は、食い合う間柄であり、利用する存在だ。

 一口で言い表すにはむずかしい、複雑な間柄。

 

 成体のドラゴンは巨人を襲って宝物を奪い取る。

 幼体のドラゴンは巨人に飼われ番犬のように扱われる。

 やがて、成体になれば反旗を翻すわけであるが……。

 

 いがみ合い、憎み合ってはいるが。

 滅ぼし合うほどの致命的な種族間対立があるわけではない。

 全体として言えば、油断ならない隣人である。

 しかし、殺し合う隣人ではない。そのようなもの。

 

 だが、これは明白な敵対行為である。

 油断ならない隣人が、近くにいる敵となった。

 巨人族は瞬く間に沸騰していった。

 

 報復のための軍が編成されていく。

 あの凄まじい攻撃を成した者を討伐するために。

 派遣軍とは比較にならないほど強大な軍が。

 

 巨人族の帝国は、数多の国によって成り立つ。

 であるからして、それらの国には王が存在する。

 各種の巨人族の中でも最大の英雄にして最強の強者たち。

 

 それらが諸王として国々に君臨し、帝国の長を選定する。

 言うれば選帝王と言うべき存在。それらが諸王。

 

 その1人、暴風の巨人王ノグリア。

 身長20メートルにも及ぼうとする魁偉な体躯を持ち。

 赤銅色の肌、赤く燃える瞳、そして鋼のような髪。

 英雄に相応しい面持ちの王は軍を率いて立つ。

 

 その恐るべき戦団は、立ちはだかるものすべてを粉砕し、制圧する。

 たとえドラゴンであろうと、なんであろうとも。

 同胞を滅ぼした者たちに、同じく滅びをもたらす。

 

 進む先は、制圧したという城砦のある先。

 そこに攻め込み、敵を探し、滅ぼす。

 

 恐るべき軍団が、今にも殺到しようとしていた……。

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