あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 戦うとなったら仲間たちへの相談は避けられない。

 あなたは神殿内に戻ると、仲間たちを叩き起こして回った。

 

「うおおぉぉうう……なんで起こすのよぉ……! 頭が、おえっ、うえおぅえええ……」

 

 レインに『軽傷治癒』をぶち込んで癒す。

 

「あっ、ふぅ! 最高ね。これで今日も安心して酒が飲めるわ」

 

 やめんか。

 いや、まぁそれはいい。

 

「うぅ、頭がガンガンします……ちょっと飲み過ぎました……」

 

「少しの2日酔いは酒の妙味のようなものだ。酸いも甘いも噛み分けるものだろうが」

 

「ううん……なにか、あったんですか、お姉様……」

 

 2日酔いだったり、眠そうだったりの面々に、あなたは宣言する。

 これから巨人族の王が攻めて来ると思うんだけど、いっしょに戦う? と。

 

「…………なんて?」

 

 巨人族の王が攻めて来るらしい。

 まぁ、巨人族の大将軍とか超将軍とか豪将軍とかの可能性もあるが。

 いずれにせよ、報復として攻め寄せて来る可能性はきわめて高い。

 

「報復って……ちょっとした一軍を倒されただけで、ですか?」

 

 サシャが疑問気に首を傾げている。

 可能性はとても高いだろう。

 これは面子の問題だ。

 殴られたら殴り返す。

 この面子を維持できないと、帝国は瓦解する。

 

 非合理ではあるのだが、冒険者も似たようなところがある。

 舐められている冒険者のところには仕事が回ってこない。

 舐められているからだ。弱いと思われるからだ。

 

 だからこそ、虚勢を張ってでも冒険者は舐められないようにしなければならない。

 それがどんなに不合理で無意味に思えても、そこには意味があるのだ。

 賢しらに戦わないことがもっとも利益があると謳っても、誰もがそれを信じてくれはしないものだ。

 

 実際、喧嘩で負け放題の冒険者がいたとしてだ。

 そんな冒険者が「町中の喧嘩で戦っても利益がないから戦わないだけ。実戦なら俺はとても強い」と言い出したとして。

 それを信じてくれる人がどれだけいるだろうか。

 ただの負け惜しみだろバーカ! としか思われないだろう。

 

「ううん、たしかに言われてみるとそうではあるんですが……それって、国レベルでもそうなんですか?」

 

「国レベルでもそうよ。トイネなんか特にその典型じゃないかしら。あの国は面子で動いてるところあるから……」

 

 たしかに、トイネはそんな感じの国だ。

 舐められたら殺す、これが基本原理。

 それらしく理性的な言い訳はしているが。

 やはり、根底にはそのような原理がある。

 

 舐められたら殺す。それが出来ない奴は舐められる。

 なぜなら、舐めても殺されないからだ。

 舐められれば、そのまま最底辺まで落ちていく。

 そのような原理が働く限り、面子で動くことは変えられない。

 

「巨人族との戦いですか……」

 

 サシャが難し気な顔をする。

 あの戦いはなかなか厳しいものだった。

 そして、次に攻め寄せて来る軍勢はそれを超えるだろう。

 殲滅された軍より弱いのを投入してどうするのか。

 

 あれよりもずっとずっと厳しい戦い。

 そして、報酬は期待できない。

 報酬を払える人間がいないからだ。

 

 もちろん巨人族の軍勢から装備は剥ぎ取れるが。

 それは本来あってしかるべきものなので慰めにはならない。

 

「私は戦います。ザイン様はそのような姿を望まれているはずです」

 

 手に入れた『砕けぬ盾』を手に、フィリアがそのように言う。

 フィリアが受け継ぎ、そしてやがてフィリアが誰かに継がせる。

 そのような円環が、いまこれからも続くように、フィリアは戦うだろう。

 

「私は見届けるものだからな。見届けるとしよう」

 

 レウナも参加のようだ。

 そして、あなたは残った3人に目線を向ける。

 

 サシャとクロモリはあなたのペットだ。

 そのため、強制的に戦わせることもできる。

 と言うよりも、本来ペットと言うのはそう言うものだ。

 

 だが、その上であなたは自由意思に任せるつもりだ。

 エルグランドなら問答無用で戦わせに行くが。

 この大陸の人間は命の価値が高いので、その辺りを尊重してやりたい。

 

 もしも逃げたいのならば、逃げてもいい。

 咎めたりもしない。今後も共にあり続けよう。

 

 これは言ってみれば、依頼への同行の提案だ。

 利益が見込めないので断るのは当然のこと。

 その上で、可能なら参加して欲しいと願っているだけだ。

 

「私は行きますよ。ご主人様の奴隷ですからね」

 

「はい。私もそのように。あなた様と共にあると誓った身ですから」

 

 サシャとクロモリも参加するらしい。

 しかし、なんとも心打たれる理由と言うか。

 性欲が爆発しそうでつらい。そろそろ気が狂う。

 

 リフラともイイコトしたい。だけど出来ない。

 許せねぇ……! 『アルメガ』の野郎、許せねぇ……!

 あなたは再燃して来た怒りが爆発しそうだった。

 この怒り、巨人族のカスどもにぶつけてやろう。

 

「…………一応聞くんだけど、勝算はあるの?」

 

 最後に残ったレインが、慎重にそう尋ねて来た。

 勝算に関しては、正直なんとも言えないところだが。

 EBTGの戦闘力は、もはや大陸屈指のレベルに至っている。

 これより上位の存在はごく稀、あるいはいないだろう。

 

 この古代の時間軸でそれがどこまで通じるかは正直謎だが。

 それでも手も足も出ないと言うことはない、はず。

 それを考えれば、勝算はそれなり以上に存在すると言うことになる。

 そして、負けるかと言えば、可能性は薄いと言えるのではないだろうか。

 

 少なくとも、敗色濃厚となったら離脱するくらいはできるだろう。

 この神殿を枕に討ち死にとまではいかない……と思いたい。

 

「そう、そうね……敵の強さを侮るのはいけないことだけれど、過剰に警戒し過ぎるのはいけないことよね……そうね……」

 

 ぶつぶつと呟いて、しばらくして考えがまとまったのか、レインが顔を上げる。

 

「巨人族から剥ぎ取れる品は、相当な価値があるわよね?」

 

 それは間違いないだろう。

 少なくとも、最初の接敵で魔法の巨人や太陽の巨人から剥いだ装備。

 あれらは高品質の物品だったので間違いなく金になる。

 

 そして、王が引き連れる軍勢となったらそれ以上。

 魔法の武具で武装していることは間違いないはずだ。

 それらを手にした戦士たちは精鋭の中の精鋭だろう。

 そんな軍勢となると、きわめて強力だろうが……。

 倒せたならば、それを得られる価値の高い戦いになる。

 

「そうよね。危険は大きいけど、見返りは莫大……うん、私もやるわ。でも、いよいよとなったら逃げるわよ?」

 

 それは当然のことではないだろうか。

 あなただっていよいよとなったら逃げるつもりだ。

 さすがに、命を懸けてまでと言うつもりはない。

 

 フィリアは命を賭して戦いそうだが……。

 まぁ、いざとなったら殴って気絶させて、連れて逃げよう。

 この古代の時間が、いったいどういう場所なのかも不明だし。

 死んだらどうなるか分かったものではないのだ。無事に離脱するべきだろう。

 

「そう言えば……リフラはどうした? そもそもあいつ、ここ3日ほど姿を見ていないぞ」

 

 レウナがそこに気付いた。

 あなたはリフラも戦うつもりだと答えた。

 というより、あなたはリフラに依頼されて戦う予定なのだ。

 

 この情報をもたらして、気付かせてくれたのもリフラだ。

 リフラはこの神殿の騎士と神官たちのために戦うつもりでいる。

 

 いまここにいないのは、3日懸けて斥候をしていたので汚れていたからだ。

 沐浴をしに行っているところである。まぁ、そうせずに戻ってくるだろう。

 

「そうか……まぁ、あいつはアレで身持ちが堅いからな……あまり乱暴なことはせず、優しく手ほどきをしてやってくれるか?」

 

 なんの話だ、なんの。

 

「あいつがまとまった金を持っているとは思えないし、あなたが納得するような宝物を持っているとも思えない。なら、あいつが払ったのは処女……違うか?」

 

 違うが?

 

「なに? 馬鹿な。あいつが満足いく報酬を持っていたと言うことか!? ちょっとの小銭と下着があれば、生きていくには十分とか言っていた女が! いや、そうか! パンツをもらったのか!」

 

 違うが? いや、たしかに最初にもらってはいたが……!

 あなたがもらった報酬は銅貨1枚こっきりだ。

 そう言う意味ではたしかに小銭と下着しか持っていなかったのか。

 いや、そこまで素寒貧になるまでぶらついていただけか?

 

「なに? 小銭1枚だけ? ……なぜそんなので請けたんだ? やはり、こっそりと処女を払ってもらう予定じゃないのか?」

 

 違う。

 あなただって神官たちや騎士たちに死んでほしくないと思っている。

 そして、リフラが彼らに義理立てするなら、そこに肩入れしてもいいと思った。

 あなたにだってそのくらいの善性は持ち合わせがあるのだ。

 

「なるほど、あなたにそのような善性があることは私もよくわかっている。あなたは善い人だ。そこは私も自らの見識と誇りに懸けて認めよう。しかし……あなたは、リフラが処女をくれるというなら喜んでもらうだろう。違うか?」

 

 違わないけど違うのだ!

 今回の依頼に関しては本当に処女とかそのあたりは全然絡んでない!

 純粋にリフラの心意義に心服して助力しようと思っただけだ!

 

「たしかにもらった報酬は銅貨1枚。だが、あなたはここから言葉巧みに処女を払わせる……そんなつもりじゃないか?」

 

 違う! 違うんだ!

 たしかにいつもならそんなことやらかしてるけども……!

 でも、今回は本当に違うんだ……!

 

「ま、まぁまぁ、落ち着いてくださいご主人様。べつに怒ったりしませんから……さすがにすぐにと言うのは困りますが、神殿でいかがわしい行為をしないだけの理性はあるとは分かってますし……」

 

 などと取りなそうとしてくるサシャ。

 しかし、内容からあなたのことは思いっ切り疑っていた。

 いや、もう疑っているなんてレベルではなく、確信していた。

 あなたが適当な詭弁で誤魔化そうとしているだけだと信じ込んでいる。

 

「べつに、あなたの行動なんて今さらなんだし、隠す意味もないと思うのだけど。まぁ、秘すれば花みたいなこともあるしね……」

 

 などと、そのくらい分かってるよとでも言いたげな顔をするレイン。

 

「えと、さすがに神殿ではちょっと……まぁ、冒険中と言うこともあって、お姉様が自制なさってくださるのは分かっていますし、心配はしていませんでしたけど」

 

 フィリアもあなたのことを全く信じていなかった。

 

「あの、あなた様……よければ、ローションとか要りますか?」

 

 クロモリはあなたを応援してくれているらしい。

 でもやっぱり、クロモリもあなたのことを信じていなかった。

 あなたは悲しくなった。日頃の行いのせいとは分かっているが。

 それはそれとして、悲しくなった。だって、誰も信じてくれないんだもん。

 

 本当に純粋に心意義に心服して助力しようとしているのに。

 銅貨たった1枚の報酬でも、まぁいいかと思わされる。

 リフラにはそのような気持ちのよさがあったのだ。

 

「……もう、手か口でしてもらったと言うことか?」

 

 そう言う気持ちのよさじゃなくて。

 こう、リフラのためならちょっと骨を折ってやってもいいかと思うような。

 なんとも言い難い、力になってやろう感があると言うか。

 

 かつて、アルトスレアを襲った未曽有の大戦役たる星屑戦争。

 その戦いもリフラの友人たちがリフラのためにと戦ったという。

 たしかに、そう思わされるような奇妙な魅力のある人物だった。

 あなたもまた、その魅力に参ってしまった1人と言うだけだ。

 

「そうか……まぁ、そこまでして隠したいならとやかくは言わんが、あいつはあんなのでも友人だ。頼むから優しくしてやってくれ」

 

 やっぱりレウナはあなたのことを信じていなかった。

 あなたはもう嫌になった。がっくりと項垂れる。

 

「おまたせしやした……どうしたんですかい?」

 

 そこでリフラがタイミングよく戻って来た。

 沐浴をして来たのだろう、濡髪から水滴が落ちる。

 

「リフラか。いや、なに、おまえが彼女に払う報酬について、まぁ、手柔らかに頼むと言っていたところだ」

 

「はぁ。もうすでに払いやしたぜ? 銅貨1枚で助けてくれるらしいんで、こいつァ助かりますぜ」

 

「隠さなくともいいぞ。皆まで言わずとも分かっている。いや、あるいはこれからそうなるのかもしれんがな」

 

「へぇ? なんの話です?」

 

「私も報酬として彼女に純潔を捧げたわけだし、まぁ、なんだ……他の面々も似たようなものだ。おまえも仲間入りすると言うだけだ」

 

「へぇ……??? そうなんですかい。ははぁ、なるほど……」

 

 リフラがあなたのことを見つめる。

 頼むから弁解してくれ。あなたはリフラの心意義に納得して助力しようとしたのだ。

 普段の行いが悪いことは分かっているが。

 その気持ちを信じてもらえないのはとても悲しい。

 

「水臭ェこたァ言いっこなしですぜ。あたしの処女が欲しいンなら差し上げますぜ。銅貨1枚じゃ、ちと申し訳ねェと思っていたところでさぁ」

 

 しかし、そこでリフラは漢気溢れる提案をして来た。

 自分の身を切るくらいなんてことないと言う気風のよさ。

 浮かべる笑みは、余人には醸し出せない太い笑みだった。

 それはまさに、あなたを魅了して力になってやろうと思ったリフラの豪放さであるが。

 いまこの状況では誤解を後押しする結果にしかならない。

 

 あなたはがっくりとその場に突っ伏した。

 日頃の行いゆえとは言え、信じてもらえなくて悲しかった……。

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