あなたたちは神官、騎士たちの消えた神殿で迎撃の支度をしていた。
と言っても、出来ることはそう大したことがない。
道具類はすべて『ポケット』の中か『四次元ポケット』の中。
取り出しやすいように工夫しておく必要すらない。
せいぜい、重要度の低いものを『四次元ポケット』に移しておくとか。
あとは飲み水やら、食料品を手早く食べれるように小分けしておくとか。
まぁ、本当にちょっとした工夫程度のことしかできない。
この工夫が後々響いて来る……と言うほどの影響もない。
せいぜい、わずらわしさがちょっと軽減されるくらいだ。
そんな、できることのなさに歯噛みするような状況。
まぁ、こういう時に落ち着いて休めるのが腕利きと言うもの。
やらなくていいことをして疲れたり、リソースを消費したり、最悪は怪我をしたらまぬけなだけだ。
あわてない、あわてない。
ひとやすみ、ひとやすみ。
あなたは心の中でそう唱えて、自分を落ち着かせる。
コンディションをできるだけよい状態にもっていかなくては。
最善の状態で戦いに持ち込みたい。
この戦い、あなたからすれば、そう苦戦はしないだろう。
だが、あなたの仲間たちはそうではないのだ。
あなたがミスをすれば仲間たちが死ぬ。
いや、ミスをしなくても死ぬことはある。
戦いとはそう言うものだ。
うっかり死ぬとかよくある。
エルグランドなら指差して笑うだけだが。
この大陸ではそうもいかないのがむずかしいところだ。
レインならばたぶん大丈夫だろうが。
サシャは微妙だし、フィリアはとても危険だ。
死んだら蘇生すればいい……普通はそうなる。
しかし、EBTGくらい高位の冒険者になると、逆にそうもいかなくなる。
フィリアは敬虔な信仰者であり、召命を受けた信仰の戦士である。
死後、その魂はザイン神に召し上げられ、その傍に侍ることになる。
つまり、フィリアを蘇生したらザイン神に喧嘩を売ることになる。
さすがに中級から上級の神格に喧嘩を売るのはまずい。
さすがのあなたでも勝てない可能性が高い。
中級神格以上は本当に次元が違うのだ。
ボルボレスアスのパンサラゲア神には勝てたが。
見ただけで死ぬとか、見られただけで死ぬとか。
そう言う類の理不尽な権能を持っていなかったお陰だ。
ボルボレスアスの魔法の息吹が薄く、神の威光も弱い特性が影響しているとは思うが。
一応、カテゴリー的には上級神格なのだろうが、別大陸の下級神格相当くらいの力しかなかったと思うし……。
仲間たちを死なせたら、蘇生不能な可能性がある。
だから、あなたは可能な限りコンディションを良好に保って戦う必要がある。
自分に許した範囲内の力……つまり、EBTGのメンバーの1人として遜色ない程度の力量。
その範疇内で、仲間たちを全員生き残らせる。
圧倒的なパワーで敵を薙ぎ倒してはだめなのだ。
あなたが欲しいのは、頼れる仲間たちだ。
間違ってもあなたを褒め称える賑やかしではないし。
冒険先で使える性欲処理の道具でもない。
あなたが薙ぎ倒せば、みんなの心のどこかに甘えが産まれるだろう。
あなたがいればなんとかしてくれる……そんな甘えだ。
いまもその甘えが一切ないとは言わないが。
自分でなんとかすると言う克己心をみな持っている。
まぁ、今の今まで、あなたは自分の力を抑える決まりを破らなかった。
その結果、レインやサシャが死んだこともかつてあった。
そういったところもあって、みんな真剣に戦っているのだろう。
ここにきて、それを破ったらどうなることやら。
今のままでいてくれればいいが、そうではないかもしれない。
だから、自分に許した力量の範囲内で最善を尽くし、最良の結果を掴む。
考えただけで疲れて来るが、やらなくてはいけないことだ。
これがエルグランドだったら諦めない限り自動で蘇るから楽なのに……。
「どうしたんですか、お姉様。しょぼしょぼした顔をして」
考え込んでいたら、いつの間にやらフィリアが傍にいた。
あなたは厳しい戦いになりそうなので、気落ちしていたと正直に答えた。
「お姉様でもそんなナーバスになることがあるんですね」
まぁ、そう言うこともある。
あなただって、女の子が居ればいつでもご機嫌な簡単なやつではないのだ。
「そうですか? おっぱい揉みますか?」
わぁい、揉む揉む。
あなたは大喜びでフィリアのおっぱいを揉んだ。
あなたは簡単なやつだった。
あなたたちは神殿の屋上などで周囲を警戒しつつ時間を過ごした。
夜半に、あなたは巨人の姿を見かけた。
闇に紛れる、漆黒の肌を持つ巨人だった。
それは夜を味方にすれば、誰あろうと見抜けないほどの隠形を可能としていた。
暗視能力には距離の制限がある。
せいぜい、長くとも30メートルそこら。
一般的には20メートル前後程度が精一杯。
それは巨躯の巨人にしてみれば、まさに
隠密を目的として居れば、その距離に身を置くわけもなく。
闇の巨人は、あなたたちEBTGに気取られずに姿を消した……。
と思っているのだろう。
あなたには余裕で見えていた。
あなたの暗視能力には距離制限がないからだ。
いや、厳密に言うとないわけではないのだが。
一切光源がなければ先ほど言ったように30メートルそこらしか見えないが。
光源があれば、そこから同様に拡大してものが見える。
30メートル地点にロウソク1個分でも明かりがあれば、そこからさらに30メートル見えるのだ。
そして、野外で、星明かりがあれば、実質の見通し距離は無制限だった。
あなたは仲間たちに巨人の斥候らしきものの姿を確認したと警戒を促した。
ほんの1人での登場だ。まず間違いなく斥候の類だろう。
どこかに本隊がいるのは間違いない。
あなたたちは神経を尖らせて敵を待った。
そして、30分ほど待ったところで、レインが警戒を打ち切ることを提案して来た。
「敵の力量からして、まず間違いなく最上級の呪文が使えるわ。集団を転移させることだってできる。でも、してこない。それはつまり、あちらにとって都合がいい……と思われるタイミングを狙っているのだと思うわ」
「すると……セオリーからして、夜明け頃か」
「そうね。巨人族の多くは夜目こそ利いても、暗視能力を持つ種は限られてるわ。
じゃあ、払暁の頃まで仮眠を取るとしよう。
さすがに全員でぐうぐう眠るわけにはいかないが。
見張り役を立てて、固まって寝ることにしよう。
「ええ、そこからが……戦いのはじまりよ」
眠れるだろうか。まぁ、気合で寝るしかない。
あなたたちは固まって仮眠を取ることにした。
……………………
「…………だれか起きてます?」
「起きてます」
「私も起きてるわ」
「私も起きてるー」
「……巨人族との戦い、どうにかなるでしょうか?」
「分からないわ。でも、私たちはいつだってどんな戦いでも諦めずに戦ってきた。違う?」
「そして、乗り越えれなかった戦いだってありませんでしたね。あの、ドゥレムフィロアとの戦いのように」
「だから、今回も諦める理由はないよ。ね、フィリア」
「はい……ですが、少し不安に思います。この戦いは、思えば私のわがままからはじまった戦いです。皆さんを巻き込んでしまったのではないかと……そう思うのです」
「あー、そうね。まぁ、あとでお酒を1樽ほど奢ってくれたらチャラにするわ」
「要求量が厚かましいぞ、レイン」
「そうですぜ、あたしみてぇに水で薄めた酒の1杯でも文句を言わねぇのが貰い飯のプロですぜ」
「そんなプロフェッショナル嫌ですよ……」
「まぁ、なんでしょう。私も自分の意思でここまで来ましたから。薬師様もそうです。それにとやかく言うつもりはないですよ」
「レインなんかは金目当てで来てるし、フィリアが気に病むことはないと思うよ」
「いいじゃない、だって、儲かるんだし」
「お金と言えば、『砕けぬ盾』の分配金ってどう計算するんでしょうか。レリックって金銭価値に換算できるものなんですかね?」
「一応、その性能から価値を換算できなくもないが、レリックは唯一無二の力を持つものも多いからな……」
「『砕けぬ盾』の力は、守るための力だよ。あらゆるエネルギーのダメージを減算し、呪文そのものへの抵抗力も与えてくれる。しかも、フィリアの持つ信仰呪文の行使能力を大幅に底上げしてくれる。魔力が大幅に増えてるし、聖騎士としての行使能力も付与されてる感じ。あ、もちろんだけど、盾としての性能も超一級品ね」
「強力だな」
「盾として見ても、付加能力も、超強力だね」
「金銭に換算できなくはなさそうだけど、ものすごい額になりそうね」
「金貨数万枚……いえ、下手したら数十万枚……」
「……返済までに何年かかるでしょうか」
「まぁ、そこな女たらしが立て替えてくれるわけだし、無茶な催促とかはしないでしょ」
「そうですかい? 払えねぇなら体で払ってもらおうかグヘヘヘヘ! って言い出しやしませんかね?」
「言うわね」
「言いますね」
「言うだろうな」
「君たちね……」
「体と言えば、リフラ。あなた本当にいいの?」
「なにがですかい?」
「だからまぁ、その、あなたも彼女に処女で報いるとかそんな話になってたじゃない。いいの?」
「あたしゃの処女にそんな価値なんざァありゃしねェですからね。20も半ばの年増女の処女になんの価値があるんで?」
「知らんのか、リフラ。そこな女たらしの理論によると、高齢の女ほど数が少ないので希少価値があるらしいぞ。その理屈で行くと、20代半ばのおまえの処女には絶大な価値があるはずだ」
「ええ……なんですかいそりゃ」
「私は救貧院の老婆を口説いてる姿を見て正気を疑ったぞ」
「えええええ……見たくねェ……さすがに懐が深すぎらぁ……業もおんなじくれぇ深いですぜ、そいつは……」
「だが、おまえの処女に1番高い価値をつけてくれるぞ。金をゆするといい」
「レウナ?」
「リフラ、ゆすれ」
「へっへっへ、さぁさぁ、あたしゃの処女の大売り出しだ。この世に1点限りの希少な逸品、娼館で水揚げするなら金貨で100かと言いたいが、100寄越せとは言いやせん。50、いや、48、45でどうだ!」
「だれが叩き売れと言った?」
「あなたたち、昔からこんな面白い会話してたの?」
「まぁ、リフラはいつもこんな調子だった。出会った当初からな」
「へぇっへっへっへ、レウナさんも昔からこんな調子でしたぜ」
「愉快な集団だったのね……なんだか2人の会話を聞いてたら緊張がどっか飛んでったわ」
「私もです。なんだか今なら安らかに寝れそう……」
「ゆっくり寝なよ。ちゃんと見張りはしておくから」
「はぁい、おねがいします」
「おやすみ、よろしくおねがいするわ」
「おやすみなせぇ」
…………………………
翌朝のこと。夜明けから間もなく。
空が白み始めた時、それは現れた。
なんらかの高位の転移魔法による連続的な転移。
巨人族が次々と現れ、平原にその列を成していく。
あなたたちの見る前で、それは見る間に軍勢と言うべき数にまで達する。
魔法のオーラ漂う荘厳な武具に身を包んだ巨人族の軍勢。
天を突く魁偉な巨躯には限りない錬磨が香り。
手にした武具には、憐れな敵対者の血潮が染み付く。
赤銅色の肌、赤く燃える瞳、そして鋼のような髪。
嵐の巨人、その最精鋭であろう者たちが群を成す。
巨人族たちの野太く重い唸り声が、地響きのように響く。
それは太古の音楽を思わせる輪唱の声。
手にした武具を叩き合わせ、身を揺らしてリズムを取る。
やがて、その軍勢の数が300を超えたころ。
最後に、恐るべき巨躯の巨人が姿を現した。
他の巨人たちよりも、頭3つ分は大きい。
15メートル級の巨人らと比較してそれであるから、20メートルにも及ぶか。
その身を魔法の鎧で多い、数多の装身具で飾っている。
軍勢すべてに魔法の武具を行き渡らせ、それを維持できる偉大な指導者。
その身から放射される威圧は、その巨人の地位を示しているかのようだった。
「おお……
「喪われた将軍ら、戦士らを悼むには、すべての戦士が涙を流したとても足りぬ……」
「ゆえ、貴様らを討つことで、その慰めとしよう」
「小人どもよ。我が名はノグリア」
「嵐の王の御前であるぞ。ひれ伏すのだ」
その言葉と共に、巨人の王は剣を掲げる。
そして、軍勢に向けて突撃の号令を下した。
戦いがはじまった。
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