「わ、我が王はいずこに!? どうなったのだ!?」
「うろたえるな! 『尚早な埋葬』とか言う妖術に違いない! 妖術師がいれば……!」
立ち合い人の巨人がうろたえ、そのように叫ぶ。
だが、いまは決闘の真っただ中である。
妖術師……魔法使いを呼んで来ることはできない。
そのことに気付いてか、巨人があなたたちを睨みつける。
「この小人どもを殺してからだ!」
「我が王を救うのは俺だ!」
2人の巨人が勇ましく襲い掛かってくる。
殺到する2人の巨人の攻撃を受け止め、それを抱え込む。
圧倒的な体格の差があるため、抑え込むようなことはできない。
受ける側に回るのは圧倒的な不利である。
その上でそんな真似をしたのにはもちろん理由がある。
あなたたちを覆う巨大な影。
それは巨人たちのそれだけではなく。
巨人たちのさらに背後からも生まれている。
「なに!?」
「馬鹿な! どこから!」
その影に巨人たちも気づき、振り返り、驚愕した。
そこには超大型サイズのレッド・ドラゴンの姿があったのだ。
巨人たちにも見劣りしないその巨躯が、1体の巨人にのしかかる。
「早くなんとかしなさいよ! そう保たないわよ!」
そして、そのレッド・ドラゴンが、高い女性の声でそう叫ぶ。
その声はあなたのよく知る人物の声だ。
そう、EBTGの頭脳にして酒カス、レインの声である。
『変幻自在』。最高位たる9階梯呪文。
それは術者を、まさに変幻自在の存在にする呪文だ。
瞬きの間に姿を変幻させ、その姿を幾度となく切り替えられる呪文。
あなたたちがノグリアに向けてレインをぶん投げた時に消えたカラクリもコレだ。
レインはこの呪文により、非常に小型の動物に変身した。
あなたにもよく見えなかったが、鳥か何かに変身したように見えた。
身長20メートルを超えるノグリアにはさぞかし見づらかったろう。
これによってレインは気付かれぬままノグリアに接近。
そしてノグリアに『尚早な埋葬』を叩き込んだ。
触れて発動させねばならないと言う制限こそあるが。
ひとたびキマれば、脱出不能の牢獄に囚われ、地面の下に封印されることとなる。
レインはしっかりと仕事をしてくれた。
そして、今度はドラゴンに変身してさらに仕事をしてくれている。
この働きにはちゃんと報いなくてはだろう。残業には手当てが必要だ。
「行きましょう、お姉様!」
あなたはフィリアの声に頷き、レインに抑え込まれている嵐の巨人に襲い掛かった。
「ぬぉおっ……! 離せ!」
「やなこった、よ! おまけにあげるわ!」
組み付かれた上で、至近距離でファイアー・ブレスを叩き込まれる巨人。
ドラゴン最大の武器たるブレスの威力は絶大であり、瞬く間に巨人が焼けただれる。
しかし、巨人も精鋭だ。なすすべなくやられるほど弱くもない。
その拳がレインの頭部を捉え、レインがうめき声と共にのけぞる。
その勢いのまま、巨人がレインをそのまま押し返した。
「きゃあああぁっ!」
ずずん……と重い音を立てて地面に転がるレッド・ドラゴンの姿をしたレイン。
巨人はよくがんばった。いくら自分よりいくらか小さいとは言え、ドラゴンだ。
その圧倒的な筋力を振りほどき、跳ねのけるとは、じつによくがんばった。
しかし、もはや時すでに遅しである。
あなたとフィリアは既に巨人に取りつき、攻撃体勢に入っていた。
あなたは手にした剣に氷属性のエンチャントを施し。
フィリアは『砕けぬ盾』に神聖なエネルギーを宿し、振りかぶる。
「この『誉れ高き加護』を宿した『一撃』を恐れぬ者だけが立ちはだかりなさい!」
裂帛の気合と共に撃ち込まれるシールドバッシュ。
あなたは全体重をかけて剣を捻じ込み、そのまま剣をこじる。
驚異的な強度を持つ愛剣が肉を抉り、骨を砕く。
「ぐわぁぁぁあああアアアアッ――――!」
巨人の悲壮な絶叫。
レインのブレスによって生命力の過半を喪っていた状態だ。
そこにあなたとフィリアの容赦ない残虐攻撃を受けて、巨人の生命の火が瞬く間に小さくなっていく。
さて、残り1体。
あなたとフィリアは武具にエンチャントも施し、準備は万全。
レインは先ほど1発殴られたのでちょっと負傷しているが。
その強靱な外皮と耐久力もあってダメージは深刻ではない。
3人に勝てるわけもなく、巨人はそのまま始末された。
決闘の勝利により、あなたたちの周囲の壁が消えていく。
事前に立てていた作戦が無事に決まって万々歳だ。
『砕けぬ盾』が割と融通利かせてくれたのもありがたい。
「決闘の立ち合い人が決闘に乱入するのはよくあることとは言え、それを前提に決闘を組むのってありなんですね……」
実際に実行したフィリアも驚いている。
この盾に、決闘を神聖なものとして強制的に執行する力があるのは分かっていたが。
そこに立ち合い人を加え、複数人での決闘にするのはまだしも。
立ち合い人を交えた乱闘にしてもオーケーとまでは分かっていなかったらしい。
決闘と言ったら立ち合い人同士の乱闘はよくあること。
それを踏まえて試してみたのだが、うまくいってよかった。
事前にEBTG内で実験した際はうまくいったが、本番でうまくいかない可能性もあった。
命を賭けた決闘でも、立ち合い人が乱入しての乱闘はオーケー。
使いどころも、悪用方法もじつに多そうな能力だ。
残念ながら、1日に1回しか使えないと言う制限があるが。
「やれやれ、もう2度とこんな真似はごめんよ」
ドラゴンの姿から、元通りの人間の姿になってぼやくレイン。
今回の作戦で最も負担が大きかったのはレインだ。
いくら『変幻自在』で小動物に変身しているとは言え。
相手も超一流の戦士たる巨人だ。察知される可能性は低くない。
命を賭した決死行なだけに心理的負担も激しかったようだ。
屋敷に帰ったらいくらでも酒を奢ろう。
それくらいは仲間へのねぎらいとして当然だろう。
そう伝えつつ、戦いはまだ終わっていないとも注意を促す。
決闘に突入していたあなたとフィリアとレインはともかく。
それ以外のメンバーは、巨人の軍勢と戦闘状態に入っていたのだ。
1人1人の戦闘力はEBTG側が上とは言え、やはり多勢に無勢。
やもすれば誰かが死ぬ、あるいは全滅にまで至るかとも思っていたのだが。
戦場には巨人の死体がいくつも転がり、そして戦闘は今もなお続いていた。
あなたたちは戦いの旋律が響く方向へと全員で駆け出した。
そこでは、サシャが自分の分身と共に、まさに
その間を縫うようにクロモリが弓で援護をし、時として回復魔法でサシャの傷を癒す。
そんな常識的な戦い方をする2人に対し、残る2人、リフラとレウナ。
その2人は、それはもうド派手な戦い方をしていた。
「いひひひひ! 『死の光線/デス・ビーム』! 『死の光線/デス・ビーム』! 『死の光線/デス・ビーム』! おまけにもっぱつ『死の光線/デス・ビーム』! そんでもってさらにおまけの『死の光線/デス・ビーム』! そしたらさよなら『死の光線/デス・ビーム』!」
リフラが凶悪な殺人光線を乱射しまくっている。
放つ都度にげふごほと血反吐をぶちまけているが、あれは大丈夫なんだろうか。
「『復元/レストレーション』! ごふっ……『復元/レストレーション』! 『復元/レストレーション』! げぼっ……『復元/レストレーション』!」
その傍に立つレウナはリフラに回復魔法を乱発しまくっている。
こちらもリフラほどではないが、吐血しているが……。
リフラのような凶悪極まりない強化を追加していないから消費は少ないはずだが。
だからと言って、最高位の回復魔法をああまで連発できるものだろうか。
2人が手にしている、異様な魔力を感じる杖。
それに何かカラクリがあるのだろうか?
明らかに消費している魔力量がおかしい。
と言うより、2人とも既に魔力はほぼゼロに見える。
それでいながら魔法をどうやって発動して……?
「うっわ……なんてえぐいことしてんのよ……禁呪じゃないの……」
レインがドン引きと言った様子でそう溢す。
しかし、使っている魔法はふつうのものでは?
そう思ってよく見て……あなたは2人の生命力の異常に気付く。
リフラが魔法を発動すると、生命力が激減し、瀕死の状態に。
それをレウナが魔法で強制的に全快にまで持ち込む。
全快した生命力をまた全部使い尽くし、魔法が発動する。
レウナもそれは同じことで、魔力ではなく生命力がガンガン減少している。
自分に『復元/レストレーション』を使うことで回復させているが……。
あれは、生命力を魔力に変換して強引に発動しているのだ。
エルグランドの魔法には標準で搭載されている機能。
だが、別大陸の魔法にはそんなエグい機能はついていないはず。
となると、2人が使っているあの杖にそのカラクリがあると言うことだろう。
ともあれ、援護をしてやらなくては。
あなたたちは迅速に4人の下へと駆け付け、戦闘に参加した。
「来た! ご主人様来ました! 助かったぁ!」
サシャが泣きそうな声であなたの到着を喜ぶ。
あなたはお待たせと叫びつつ、冷気を宿した剣で巨人へと挑みかかる。
フィリアもまた同様に剣と盾を手に戦闘へ。
レインは魔法による援護を主体として立ち回っている。
既に敵の軍勢、その数は3分の1にまで減じていた。
初手に行ったレッド・ドラゴンの召喚が影響としては大きいだろう。
厳密に言えば、そのレッド・ドラゴンを隠れ蓑とした奇襲が功を奏したと言うか。
やはり、巨人からして見れば、レッド・ドラゴンこそが敵に見える。
10分の1以下と言う微小な生物であるあなたたちは、視覚的に脅威と映りづらい。
そのため、レッド・ドラゴンに注視してしまい、その隙を突かれまくったわけだ。
「馬鹿な! 王が負けたというのか!」
「ありえん! なにか妖術、秘術の力だ! 王が正面から戦って負けるはずがない!」
「妖術師ども! 王をお助けするのだ!」
あなたたちの登場で巨人たちがうろたえる。
だが、すぐに気を取り直し、かなり正しい推察をする。
それは王への信頼が言わせた言葉だったろうが、実際に正しい。
『尚早な埋葬』はきわめて強力な魔法だ。
決まって、効果を発揮すれば、当人の力では脱出不可能。
外部からの助力がなければ永遠に封印されたまま……。
逆を言えば、外部からの助力さえあれば問題なく復帰してくる。
まだ油断はできない。
いま魔法使いにノグリアを解放されれば、趨勢がひっくり返る可能性がある。
敵を全員仕留めるまで、全力で戦い続けるのだ。
あなたは声に魔力を乗せて、仲間たちを鼓舞した。
「そんなら気合を入れていっちょやったらぁ! またまた『死の光線/デス・ビーム』でさぁ!」
「だぁぁぁあもおおおおお! おまえが頑張ってるなら私が泣き言を言うわけにはいかんよなぁ! 『復元/レストレーション』!」
「あともう少し! もう少しがんばったら終わるんだ! 薬師様、援護をおねがいします!」
「はい! おまかせくださいサシャ先輩!」
「元よりこれは、私のはじめた戦い! 私が逃げだすことなど、許されるわけがありません! ザイン様、我が聖戦成すを照覧あれ……!」
「必死でがんばった方が晩酌も美味しくなるってものよ! せいぜい気張らせてもらうわ!」
あなたの声に乗った魔力はたしかに仲間たちの心を揺すぶった。
その心を高揚させ、勇気を奮い立たせる声の魔力。
あなたたちの戦意は十分。
まだ、戦いは終わっていない。
勝利を掴むその時まで、戦い続けるのだ。
それから、およそ10分ほど。
サシャの『影分身の術』が消え、1人になり。
あなたたちが粗方のリソースを使い尽くした頃、戦場に動く巨人は1人も残っていなかった。
血臭と死臭に満ちた平原。
そこに疲れ果てた状態でどろりと転がるのはあなたたちEBTG。
「うげへぇ……つ、つかれた……2度とやらねぇぞ、こんなこたぁ……命がいくつあっても足りやしねぇや……」
「そうだな、ごふごふっ、吐血が止まらん。どうなってるんだこれは。ごほっげほっ、ごふっ」
疲れ果てているリフラ、吐血が止まらないレウナ。
レウナは厳密には生物ではないのでべつに問題なかろうが。
と言うより、レウナは呼吸っぽいことこそしているが、本来的に呼吸が不要だ。
そのため、肺の中が血で満タンになっても苦しくもならない。
そのたぷたぷの肺から血をゆっくりと吐いている感じなのかも……。
「私もつかれました……腕があがりません……うおおう……」
「私ももう、腕が上がらなくて……」
順当に武具で戦っていたサシャとクロモリはへとへとだ。
サシャは特に魔法を用いつつも、主体は近接戦闘だ。
そのため血みどろの状態で戦い続けていたせいか疲労困憊と言った様子。
「私も疲れたわ……まぁ、みんなほどじゃないけれど」
「レインさんも精一杯戦ってくださったんですから、卑下することはないですよ」
魔法での援護が主体だったレインはやや疲労が軽い。
だが、フィリアの言う通りに謙遜することはない。
みんな精一杯戦った。それでいいではないか。
無事に戦いは終わり、あなたたちは勝利した。
もう、ここから戦うことは、とてもではないが無理だ。
あなたたちは限界に達していたのだ。
――――最悪とは、まさにその限界の時に訪れる。
誰ともなく知る、そんな最悪の教訓。
それは今回においても引き起こされる。
あなたたちが、さしたる脅威でもなしと捨て置いたもの。
敵巨人の軍勢の中にいた、1人の嵐の巨人の兵士だ。
そいつはサシャの手で切り伏せられ、重症を負って地に伏せていた。
しかし、死には至っておらず、意識を喪ってもいなかった。
あなたたちの不運が、そこに3つあった。
その兵士には、手慰み程度に秘術の心得があったこと。
巨人兵団の妖術師……つまり魔法使いは、十分に同じ魔法使いへの対策していたこと。
そして、その対策を、自身の手ではなく、スクロールによって行っていたこと。
あらゆる行動不能効果を解除する『解放』のスクロール。
あなたたちによって優先的に殺された妖術師が所持しており。
英雄の窮地を救う妖術師の見せ場として、吟遊詩人は度々その使用を謳った。
ゆえに、絶対の窮地にある王を救うべく、その兵士が『解放』のスクロールの使用を試み。
10を超える失敗を経てもなお果敢に試み、やがて、それは成功してしまった。
――――嵐の王、ノグリアが現世へと立ち返る。
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