ああ、疲れた。
引き上げて沐浴でもしよう。
その後は酒飲んでごはん食べて寝る!
そんな、のんきな予定をぶち上げて。
さぁ帰ろうと立ち上がったところで、戦場にその巨人の王は現れた。
20メートルを超える魁偉なる巨躯。
その身に纏った絶大な価値ある魔法の武具。
強壮なる力を宿したことをありありと示す肉体。
それは、あなたたちが封じたはずの、嵐の王ノグリアだった。
「おお……おおおお……なんと、なんと言う、ことだ……夢ならば、夢ならば、覚めてくれ……神よ……!」
ノグリアは周囲の光景を呆然と眺めまわし。
信じたくないと、震える声で神への祈りを捧げていた。
彼が封じられるまでは、だれもがその生命を輝かせていた。
だが、いまとなっては、もはやその輝きはどこにもなく。
命だったものが無数に散らばる戦場に絶望の声。
「おまえもか、キゾリア……ルフェイン、妻のもとに帰らずしてどうする……カシキオラ……冗談だと言ってくれ……おれの、俺の兵たちが……」
死んだ巨人たちの名だろうか。
聞き慣れない単語をこぼし、なにかに語り掛けるノグリア。
その眼には、次第に冷たい狂気の色が宿り始めていた。
「なんたる、ことだ……俺は、どれほどの涙を流せばいい……! 散っていった戦士たちに、その妻たちに、子たちに、どう言えばいいのだ……! おまえたちの夫は、父は勇敢であったと、その雄姿を語ることすらできぬではないか! 俺は、俺は! 俺はぁ!」
自分の髪を掴み、それをぶちぶちと引きちぎり。
泡を吹きながら叫ぶノグリア。
そして、その額を飾っていた宝冠に触れる。
「おお……そうか……理解した……嵐の王が継ぐ、この宝冠の力の意味を、俺はようやく理解したのか……そうか……」
あなたたちの見ている前で、その宝冠が強烈な魔力の波動を放ち始めた。
発生する魔法のオーラは召喚術の系統である。
なにかが、この物質界に顕現しようとしている。
恐るべき魔法のオーラの強度はすさまじく、よほどの存在であろうとも召喚できるだろう。
「何かヤバい……ヤバいわ!」
「なんだこれは、何が起きている!」
「うっ……耳鳴りが……」
あなたの仲間たちが高まる魔法のオーラに狼狽する。
そして、いままさに顕現しようとしているナニカの影響にサシャが呻く。
「……俺は……げる……捧げる……すべてを、捧げる……」
ノグリアがうわごとのように呟き。
そして、あなたたちはどこか遥か遠くから響く哄笑を聞いた。
死に満ちた戦場を風が撫ぜた。
それはいっそのこと優しいほどの風で。
しかし、おぞましい現象が大地を冒す。
吹き付ける風が死体を地から浚う。
肉片を、骨を、血をより分けていく。
それは剥がれ、ちぎられ、切り裂かれる。
そして、それをむしゃむしゃと何かが咀嚼していた。
それは雷であり、風であり、雨だった。
非実体のエネルギー、その権化とも言えるもの。
それが戦場を舐め尽くし、命だったものを貪り喰らっている。
顕現するエネルギーが際限なく高まっていく。
もはやそれは、
それを呼ぶとするならば、こう呼ぶ以外に相応しい呼称はないだろう。
神。
そう呼ぶしかない存在が、この戦場に顕現しはじめていた。
雷と風と雨、それが連なり、固まり、ひとつとなったもの。
嵐。そう呼ぶべき現象そのものが形を成そうとしている。
「おお……おお……! 来たのか、嵐よ……我らが父なる嵐よ……! 俺に戦士たちの仇を取る力をくれ! おまえが喰らった戦士たちを慰める死を与えてくれ! 俺のすべてを捧げる!」
ノグリアがそう叫び。
そして、嵐は吹いた。
「う……おおぉぉぉぉおおおオオオオオォォォ――――――!!」
壮絶な絶叫が響き渡った。
嵐がノグリアを呑み込み、その肉体を作り替えていく。
いや、いっそのことそれは破壊していると言ってもいいだろう。
神の権能の域。
それは定命の存在にはあまりにも遠い……。
人は人の分を弁えなければならない。
並の神を超える力を持つあなたでも。
神々の権能を手にしようとは思わない。
それは定命の存在の分を超えている。
ノグリアはその分を超えようとした。
その代償をいま払っているのだ。
そして、それが終わった時、ノグリアがどうなっているか……。
ひとつ言えるとすれば、仮に生き延びても永くはあるまい。
未来を
ノグリアの雄叫びは、長かったのか、短かったのか。
圧倒されるエネルギーに満ちた空間では時間の感覚すらも狂った。
空間を席巻する偉大な圧力が、あなたたちの魂を圧迫していた。
そして、1分とも1時間ともつかない時間が過ぎ。
そこには、あなたたちの理解を超える超常の存在がいた。
「小人どもよ。俺の名はノグリア。しかし、もはやその名はいらぬ」
目からちろちろと燃える炎をこぼす黒い犬を従え。
その頭髪から雷撃のエネルギーを散じ、身に暴風を纏う真なる嵐の王。
「俺は嵐。絶叫するもの。木々を打ち付けるもの。おまえたちを狩るもの。おまえたちを殺すもの。それ以外のなにものでもない」
恐るべき嵐のエネルギー、絶大なパワー。
筆舌のいずれを用いても形容し難い絶望的な力。
それはまさに神がかり的なパワーであり。
疲弊しきったあなたたちを屠るには、必要十分を超えた力だった。
「嵐の王の名の下に、貴様らを断罪する。
ごうごうと風が吹いている。
いや、違う。これは風ではない。
周囲に凄まじい属性エネルギーが満ちている。
風の精霊、エア・エレメンタル。
それが大気にとって代わるように満ちだしている。
うなりを上げる風は、気象現象などではなくエレメンタルの声。
遠くから哄笑が聞こえる。
げたげたと笑い転げる下品な声。
あなたは遥か遠方、空のかなたにその声の主を見た。
雲に映し出される、絶望的な大きさの巨人。
ノグリアの行った召喚の儀式はすさまじいパワーで次元と次元を繋げた。
あなたたちを殺し尽くした300の戦士たちの魂と血肉を捧げ。
自らの運命、未来さえも差し出したノグリアが実現した奇跡。
嵐の巨人たちが信仰する神、それが住まう次元界すらも呼びよせているのだ。
次元と次元が接近したことにより、彼方の次元の光景が狭間の存在に投影されている。
水辺に、雲に、地平線に、その姿は見え、哄笑が響いて来る。
嵐の巨人と言う、おそらくはその次元で生まれたか、縁深い存在たちの血。
その生命を散らした痕跡が、この草原の境目を曖昧としている。
この草原に、神の本体が顕現しようとしているのだ!
おそらく、現代においては名すらも喪われた古き強壮なる神。
しかし、古代のいま、その神は絶大な力を残し、その食指をこの次元へと向けようとしている。
ノグリアを利用したのか、ノグリアに利用されたのか。
それは分かりかねるが、その利害は一致しているのだろう。
「この
ノグリアがその手に弓を握り。
ジャベリンのように巨大な矢を番える。
その矢に膨大な風と雷のエネルギーが満ちる。
あなたとフィリアが咄嗟に前へと飛び出す。
さがれ、とあなたともフィリアともつかぬ声が響き。
そして、放たれた強弓の矢が駆け、あなたたちを襲った。
それは例えるなら100万の蟲の羽音が集ったような。
雷撃のエネルギーは丸で生木を裂くような轟音と共に奔る。
あなたにもフィリアにも矢は命中することはなく。
しかし、地面に突き刺さった矢から放出されたエネルギーがあなたとフィリアを焼いた。
「あう、うぅう……なんて、威力……」
その余波だけで、フィリアの生命力がごっそりと削られていた。
剣に縋るようにして、ようやく立っていられるほどの重傷。
あなたの脳裏で激しく警鐘が響いている。
どうする? どうすればいい? どうする?
この状況を、どうやって切り抜ける?
これほどの凄まじい敵が出て来るなんて想像していなかった。
想像の限界を超えていた。まさか、神を召喚できるなんて。
なにもかもが定命の存在の限界を超えている。
だが、ここで諦めるわけにはいかない。
「とにかく、攻めるしかありません! 血が出る限りは殺せるはずです!」
「援護します!」
サシャが駆け出し、クロモリが弓を手に前へと。
あなたはサシャと歩調を合わせ、ノグリアへ向けて走る。
ノグリアがさらに矢を番え、それを放つ。
轟雷を纏う
あなたが前へと出て、同質のエネルギーをエンチャントした愛剣で迎え撃つ。
紫電が炸裂し、弾ける。
あなたの手の中で強烈な電撃のエネルギーが迸る。
肉体の強靱さ云々ではなく、肉体の当然の反応として体が強張る。
サシャが突出、襲い掛かって来た黒犬を真っ向から迎え撃つ。
その剛撃が黒犬の頭部を一撃で爆砕。黒く燃える血が飛び散り、草原を焦がす。
その隙間を縫うように、クロモリの矢がノグリアを襲う。
ノグリアが、にやりと厭らしく笑ったのが見えた。
「……え?」
そして、クロモリの放った矢はノグリアを突き抜けて行った。
その肉を穿ち、貫いたのではない。その身に影響を与えられなかったのだ。
矢の突き抜けて行った穴に、パチパチと電撃のエネルギーが弾けていた。
「『上級魔法武器化』をエンチャントして……魔法の矢になっているはず、なのに……!」
非実体の特性を持つモンスターであれ、魔法的影響は受ける。
そのため、純然たる物理攻撃は無効化できても、『上級魔法武器化』の影響は受けるはずだ。
にもかかわらず、ノグリアは明らかに魔法的攻撃すらも非実体であるかのようにすり抜けてみせた。
「俺は嵐。形なきもの。貴様らは風を射抜けると思うか? 雷を切れるなどとうぬぼれていたか? 雨を躱せると思い上がっていたか?」
その肉体であるはずのものが、弾ける紫電となり、逆巻く風となり、叩きつける雨となる。
その輪郭がぼやけ、弾け、ノグリアの肉体が非実体の特性を露わとする。
魔法的攻撃すらも無力化する非実体化……!?
ありえるはずのない異常な特性にあなたは瞠目する。
物理攻撃も魔法攻撃も通らないなんて、それはほとんど無敵のようなものだ。
なにか攻略の糸口を探さなくては……!
あなたは手にした剣に氷結のエネルギーをエンチャントする。
同種の属性はまず通らないだろう。持てる各種の攻撃を用いる。
あなたは前方へと突出。新たに湧き出して来た黒犬を切り捨てながらノグリアへと肉薄する。
「ふははっ、魔法の剣を持った英雄が暴君を倒すというわけか? そのようなことは起きぬ!」
ノグリアが抜き放ったグレートソードとあなたの剣が激突――――しない。
グレートソードはあなたの剣をすり抜け、あなたの胴体に深々と突き刺さる。
それはあなたの防具すらもすり抜け、その下の肉までもを突き抜ける。
あなたは肉体内部に奔った痛みに血を吐く。
防具どころか肉体をすり抜けて内臓を直接攻撃された……!
さすがのあなたも内臓の強度は鍛えていない。
肺を切り裂かれたせいで、体内で勢いよく出血している。
あなたは止まらない吐血を感じながら勢いよく退く。
背後からはいくつかの魔法攻撃がノグリアへと向かって飛ぶ。
レインやリフラが魔法を試しているのだろう。
『魔法の矢』も『音波の矢』も『酸の飛沫』も、どれもが無意味に突き抜けていく。
あなたの見ている前で、無数のエネルギー、特性が試される。
そして、そのすべてをノグリアは鷹揚に受け入れ……無力化していた。
倒せない。
物理攻撃も魔法攻撃も通じない。
あなたたちの知る各種の属性、エネルギーすらも通じない。
サシャの先ほどの言葉が思い起こされる。
そう、血が出るなら殺せるだろう。
なら、血の出ない存在はどう殺せばいいのか。
ノグリアは無敵の存在になってしまったのか?
いや、そんなことがあるはずがない。
不滅の存在がありえるはずがないのだ。
まして、如何なる攻撃も通じない存在が、いるはずが……。
「ふふはははは……どうした、手管は品切れか? ならば、くだらん作戦もそれまでだな、小人どもよ。身の程知らずのうぬぼれはどこへいった?」
ノグリアがグレートソードを振るう。
その軌跡に雷が放射され、あなたたちを襲う。
広域に放射された雷を避ける術はなく、EBTG全体が雷に飲まれた。
このままでは、全滅してしまう。
あなたが本気を出しても不滅の存在は殺せない。
いったい、どうやって殺せばいい?
あなたが本気を出せばノグリアより強いだろう。
だが、ノグリアを倒すこともできなければ、止めることもできない。
干渉できない存在の暴虐をどう止めればいいのだ?
仲間たち全員を担いで逃げればいいのか?
だが、次元界が接続されようとしているこの瞬間、走ってこの場から逃げられるのか?
この戦場から脱することもできないまま。
なすすべもなく仲間たちが殺されるのを目の前で見ていなくてはいけないのか?
あなたは絶体絶命の窮地に陥っていた。
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