「くふははは……はは、はははは! これでは歯ごたえがない! 我らが父よ、あなたの授けてくださった力で俺は復讐を成すだろう!」
ノグリアが叫び、嗤う。
ひどく耳障りな声にいら立ちが募る。
ない。なにも打てる手がない。
なにも策が思い浮かんでこない。
ノグリアは自身の肉身すらも贄として捧げた。
古き神の力に、その魂が一時的に憑依しているような状態なのか。
つまり、いまあなたたちは中級、あるいは上級神格と対峙しているのか。
その本体そのものではなく、分体……アヴァターラの類ではあるだろうが。
中級神格以上が持ち出す無法に過ぎる能力の一端が顕現している。
いかなる手段をもってしても攻撃の通らない無敵の特性。
本来ならば物質界にあってはならない力だ。
いま、この場所が別次元に接続されようとしている。
それにより、自らの領域としてこの場を扱い、あり得ざる状態を実現している。
つまり、接続された次元から供給されるパワーがノグリアを無敵にしている。
ならば、次元の接続そのものを絶てばどうだろうか。
次元間の距離を作れば、力の交信は困難となり弱体化するだろう。
だが、次元を遠ざけるって、いったいどうやって?
次元を絶ち、遠ざける手段があなたにはない。
次元に干渉する類の道具そのものがまず滅多にない。
『かなたよりこなたまで』はその例外だが、あれはつなげるもの。
いまの状況で使えば、敵を強化してしまう。
あなたにはなにも打てる手がなかった。
もう、なにもできないのか?
戦うこともできず、逃げることもできず。
なすすべもなく蹂躙されるしかないのか。
自問する言葉にすら答えはでない。
どうすればいいのか、何も分からなかった。
「とてつもない存在のようだな」
そんなあなたの傍に並び立つ者が1人。
レウナが剣と杖を手にして、あなたの傍に立つ。
「どうやら、神の顕現とか言う厄介な事態になったようだな」
あなたは頷いた。
もはやどうにもならない。
次元をどうこうする手段があなたにはない。
レウナになにか手は?
「神の顕現により次元が接近する……対抗する手立てはひとつだ」
それはいったい?
「次元には次元をぶつけるのだ。他の次元を持ってこい」
無茶言うな。
その次元をどうやって持ってくるのだ。
あなたの返しに、レウナがにやりと笑った。
「ここにある。私の剣『ソード・オブ・ラードス』が、な!」
言って、レウナが地面へと剣を突き刺した。
瞬間、草原が瞬く間に砂丘へと変じていく!
まさか、周辺を侵食していた次元の変貌も止まっている!?
「ほう。『神の鞭』か。喪われた
ノグリアがその砂丘を見て、そのように溢した。
砂丘が広がり、ノグリアとレウナ、その中間地点で砂丘と風がせめぎ合った。
次元と次元が激突し、浸食がそこで止まっている。
物質界が固定され、安定しているのを感じる。
2つの次元に挟まれたことによって安定したのだ。
「我が神の約束する死後の楽園、喜びの園『ラードス』を象徴する剣は
「忘れられた神の下僕め。もはや同胞すらもおるまい。俺が貴様を縊り殺してやろう」
「忘れられた? おまえたちが必死で忘れようとしているのだろう? 定命なる者、そのいずれもがやがて死ぬ。その事実から目を背けているだけだろう?」
「減らず口を!」
ノグリアが叫び、轟雷が奔り、暴風が吹き荒れた。
しかし、次元と次元の衝突点でその現象は弾け、消える。
そして、雷と風のように揺らぎ弾けていたノグリアの肉体が、突如として安定した。
「なに!? 馬鹿な! 父なる嵐よ! これはいかなることだ!」
ノグリアが
今の今まで無敵に見えたその肉体が、突如として肉持つ体となっている。
「見えたか。死の領域においてはいかなるものも死ぬ。我が神の権能たるに『不滅の存在』の討滅がある。この領域において、『不滅の存在』はあり得んのだ」
つまり、いまのノグリアは実体……?
いまならば、殺せると言うことか?
「そうだ。我が神はルールの根底側の神。そのルールを強制的に再適用できるのだ」
まだ、諦めるには早いらしい。
なるほど、ならば精々気張るとしよう。
「ああ、そうだ。休むなら死んでからにするんだな。なに、力及ばず死ねば、我が神が暖かく迎えてくれよう。安心して死ぬがいいぞ」
などとレウナが笑い、あなたもまた笑う。
とりあえずだ、回復魔法をもらっても?
「よかろう。『復元/レストレーション』」
あなたの肉体が一瞬で回復する。
生命力を一発で完全に復調させる『復元』の魔法はやはりすさまじい。
アルトスレアの回復魔法はこの世のあらゆる魔法に優越していると言える。
「さぁ、おまえたちも、戦う時だ。戦う前から諦めているやつはいるか? もう楽になりたいなどとほざくやつはいるか?」
そんなレウナの挑発するような声に皆が応じる。
フィリアが自分の傷を癒し終えて立ち上がり、剣と盾を手に前へ。
「すみません、思ったより傷が深く……お待たせしました。戦わぬ者に未来はありません。共に戦いましょう!」
「その意気込みやよし。他の連中も覚悟を決めたらしいぞ」
下がっていたサシャがポーション瓶をいくつも投げ捨てる。
回復魔法のポーションをがぶ飲みしてなんとか復帰したらしい。
あれは低位の魔法しか込められないので、あなたたちくらいになると回復量が不足しているのだ。
まぁ、大量に飲めば補えるわけだが。
「すみません、ちょっと息を整えるのに時間がかかっちゃいました」
なに、あなたたちもようやく息が整ったところだ。
それに、他のメンバーたちもようやくと言った様子。
「へぇっへっへっへ……ションベンちびりそうだ。でもよ、あたしのはじめたこったから、逃げらんねぇんですよ、こいつがね」
「うわぁぁ、死にたくないなぁ……! でも、あなた様のために戦わなきゃ……!」
「あの宝冠、あれが力の集結点ね。実体化したら見えて来たわ」
レインの言葉にあなたも宝冠を見やる。
実体化したノグリアの宝冠は、明白に力の結節点だった。
あの宝冠はおそらく、レリックの類だったのだ。
膨大な贄を捧げることで、彼らの信仰する神を召喚するレリック。
代償を捧げることで強大な存在を召喚する類の道具はありふれている。
神を召喚できる道具と言うのは初耳だが、存在するとしても不思議ではなかった。
つまり、あの宝冠こそが、現世に神を繋ぎとめるための楔。
それを破壊すれば、勝機はある。
まだ、諦めるには早い。仲間たちもいる。
やってやるとしようではないか。
「魔力は残り少ないけど、まぁなんとかして見せるわ」
レインが呪文回路を構築、それを起動。
複数の補助魔法があなたたちへと向けて飛び交う。
それを感じながら、あなたとサシャが飛び出す。
「ご主人様、離れて! 『魔法排除空間』!」
サシャが腰に下げているスクロールケースから素早くスクロールを取り出し、それを起動する。
それによってサシャの周囲に展開される『魔法排除空間』のフィールド。
それは名の通り魔法による力を排除し、それのみならず種々の超常能力すらも封じこめる。
実質的に、この空間に囚われた対象は肉弾戦以外ができなくなる。
並の魔法では解呪すらも不可能であり、魔法使い殺しと言ってもいい。
それでありながらこれは魔法であり、魔法使いでなくば使えない。
魔法使いが使う。にもかかわらず、魔法使い殺し。
その矛盾した特性には多くの魔法使いが頭を悩ませたことだろう。
だが、サシャのような超人的な肉体を持つ魔法剣士が使えばどうか。
純然たる肉弾戦を強要すれば、サシャに勝てる存在はそう多くはない。
サシャ自身も魔法による補助を得られずやや弱体化するが……。
その身体能力はハーブで増強されたものとは言え、自前なのだ。
「下がれ下郎ども!」
ノグリアの振るう剣から放射される雷撃のエネルギー。
あなたがそれに飲まれるも、そのダメージは先ほどとは比較にならない。
と言うよりも、先ほどは装備の属性耐性をないもののように貫通された。
しかし、今回は問題なく作用し、そのダメージは無力化された。
サシャを見れば、サシャもまた平気な様子。
さきほどまでの電撃は、魔法でも超常能力でもない不可思議な力だった。
だが、いまは通常の法則内の超常能力として作用している。
ならばサシャの『魔法排除空間』で封じ込めることができる。
「ぬるい! そして、邪魔!」
ノグリアの従える、目から炎を垂らす黒犬。
それはサシャの手によって砕かれ、今度は再生しない。
さきほどまでは瞬く間に再生していたそれは権能か何かで構成されていたらしい。
あなたたちはノグリアの下に殺到する。
あなたとサシャ、同時の突撃。
それをノグリアは瞬時に見て取り、サシャの剣戟を迎撃。
あなたの剣を、防具の厚い箇所で受け止めるように足掻く。
『魔法排除空間』により魔法的防御を無力化された状態で攻撃を受けたくなかったのだろう。
実際、期待値的にはサシャの方がダメージが大きかったはずだ。
ノグリアの防具が持つ種々の防御効果。
それを力づくで突破し、あなたの剣がその下のノグリアの肉を抉った。
赤銅色の肌が切り裂かれ、赤い血潮が噴き出した。
「血が出る……殺せる!」
サシャは確信を持ち、剣を手に遮二無二攻め込む。
その援護に後方から矢が幾本も飛来してくる。
クロモリとレウナが弓で援護をしてくれているのだ。
ノグリアの体表に展開された矢避けの防護を貫き、その体に矢が突き立つ。
「小賢しいぞ小人どもめが!」
だが、ノグリアとて並みの英傑ではない。
その身に宿した超常のパワーは大きく損なわれたが。
しかし、彼が戦士として培った技量、その実力は損なわれてはいない。
手にしたグレートソードを振るう技術に陰りはなく。
あなたとサシャを同時に相手取って不足なく剣戟が舞い踊る。
10分の1以下の小型の相手に、ここまでとは。
人間相手の戦闘経験も十分に積んでいることが分かる。
体格のよさを活かした薙ぎ払いの強力なこと。
あなたとサシャでは押し切れない。
だが、まだもう1人、あなたたちには頼れる戦士がいる。
「『砕けぬ盾』は、ザイン様の堅き意思のあらわれ。守り切って見せます!」
あなたとサシャの前にフィリアが割り込み、ノグリアの剣戟を受け止める。
圧倒的な矮躯であるにもかかわらず、その守りはゆるぎなく。
その堅固なる姿はまさに『砕けぬ盾』のようであった。
「小賢しいわ!」
ノグリアが手にした剣を振るう。
フィリアの盾が迎え撃ち、あなたの剣が受け止める。
その隙間を狙い撃って、サシャの剣がノグリアの腕を抉る。
ノグリアの顔に焦燥の色。敗北の予感を感じ取ったのだろう。
「俺が負ける……!? 馬鹿な……兵どもの仇を取れずに、死ぬと言うのか……!」
その声に絶望の色をにじませながら。
ノグリアは剣を振るい、足掻く。
だが、先ほどあなたたちを散々に打ち据えた神なる雷の力はもはやなく。
ただ、そこには強力なだけの巨人族の王がいた。
EBTGのメンバー、その1人1人の力は上回っているだろう。
だが、あなたたちはチームだ。1人で戦う理由はない。
1人では受けきれない剣も、3人で力を合わせれば受け止められる。
「この状況でしか使えん取っておきだ。遠慮なく持っていけ」
「狙い撃ちます!」
そして、あなたたちの後ろには頼れる弓使いたちもいる。
レウナとクロモリが愛用の弓を引き絞り、狙いを定める。
その矢には恐るべき破壊のオーラが宿っている。
レウナがなにかしらの方法で付与したのだろう。
見たことがない種類のエネルギーだ。
おそらく、ノグリアが先ほどまで振るっていたものと同質のもの……。
レウナは今ここに自身の信奉する神の領域を引き寄せている。
その影響で、高位の神官たる彼女は神の力の導管として作用している。
本来ならば、神の権能とされるべき力の一端を矢に施したのだろう。
「矢避けの加護よ!」
ノグリアが叫び、その体から溢れ出す暴風。
濃密な大気の
攻撃の雷、そして防御の風と言うわけか。
その濃密な大気の盾は、飛来する矢を反らし、防ぐことだろう。
あくまでエンチャントされたエネルギーが神の権能の一端なのだ。
矢そのものに超常のパワーはなく、反らすことは容易だ。
「おあいにく様! なんのために私がこれを展開していると思ってるの!」
サシャが目配せをし、あなたは頷く。
あなたへと向かって走り込んで来るサシャ。
あなたは手を重ね合わせてしゃがみ込む。
「いきます!」
あなたの手にサシャが脚を乗せ。
あなたはそれを勢いよく跳ね上げる。
同時、サシャがあなたの手のひらを蹴って跳んだ。
高々と20メートル以上もの跳躍。
そして、サシャがノグリアの肩に取りついた。
瞬間、サシャの展開する『魔法排除空間』の力により、暴風の壁が解除された。
フィールドの効果範囲はおよそ3メートル程度。
それを十全に作用させるには、ぴったりと肉薄する必要がある。
20メートルもの巨躯を持つノグリアの弱所、上半身に作用させるならば、尚更に。
「貴様っ!」
ノグリアが叫び、その肩のサシャを払い落そうとする。
だが、サシャは渾身の力でしがみ付いて離れない。
そして、ノグリアの上半身に恐るべき剛射が殺到した。
「ぐわあぁぁっ!」
直撃した箇所の肉をゴッソリと抉り取り、まるで抵抗などないように矢が突き抜けていく。
魔術的な防御すらも容易に破壊し、サシャの『魔法排除空間』すらも意に介さない。
やはりそれは、定命の存在の魔法などでは影響を及ぼせない神格の権能、その一端なのだろう。
ノグリアの生命力が瞬く間に目減りしていく。
上半身を穴だらけにされ、ノグリアが膝をつく。
「いざ!」
フィリアが駆けだす。
あなたは決めてしまえ! と叫ぶ。
「俺は……! 嵐の王だ……!」
ノグリアの瞳が妖しく光る。
そして、その瞳から涙が零れ、それは瞬く間に波濤となって渦巻く。
フィリアを呑み込んで押し流そうと迫る水流。
その水流を前に、フィリアの姿が突然掻き消える。
そして、代わりに姿を現したのは、胡散臭い金髪の美女、リフラだった。
「ドンピシャだ! 『完全解呪/パーフェクト・キャンセル』!」
リフラの手から放たれる魔法の波動。
それはノグリアの瞳から放たれた水流を消し去る。
アルトスレアにおける最高位の秘術、『完全解呪』。
あらゆる魔法効果、超常効果を消去する最強の解呪だ。
その呪文の効果発揮を見届け、リフラの姿が再度掻き消える。
そして、姿を現したのはフィリアだった。
背後を見やれば、勢いよく倒れ込むレインの姿。
あれはおそらく、以前にジルが使っていた『位置交換』の呪文だ。
それでリフラとフィリアを入れ替え、リフラの魔法で解呪。
それを見届けて『迅速』で再度『位置交換』を起動し、フィリアを戻すという荒業だ。
「馬鹿な……! 俺は、俺が、俺こそが……!」
「終わりです! 『誉れ高き加護』を受けた『一撃』を受けなさい!」
フィリアの手にする『砕けぬ盾』が輝き。
膝をつくノグリアの足を蹴って、フィリアが跳躍。
そして、渾身の力で振るわれる打撃。
それは膝をつくノグリアの脳天を的確に打ち据え。
その額の宝冠を砕いた。
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