あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 『砕けぬ盾』と巨人族の宝冠。

 その2つが激突し、宝冠が砕け散った。

 

 種々の宝石と黄金の糸が飛散し、宿っていたパワーが霧散する。

 それと同時、ノグリアの身体がしゅうしゅうと風と共に削れていく。

 

「あ、ああっ、ま、待て! 俺の身体を持っていくな! 嵐よ! 父なる嵐よ! 慈悲を!」

 

 風が吹いている。いや、それは風のエレメンタルだ。

 風のエレメンタルがノグリアの体表を浚い、その構成要素が少しずつ削り取られていく。

 神格に己の身すべてを捧げた、その代償を払っているのだ。

 

 エレメンタルは妖精に例えられることがある。

 雲とも煙ともつかない風のエレメンタルは特にだ。

 そして、あなたたちの目の前で繰り広げられている光景は、まさに妖精のいたずらのそれに似ていた。

 

 くすくすと笑っているかのような風のざわめき。

 それと共にノグリアの身体が悲痛な叫び声と共に削り取られていく。

 そこに慈悲も許容もなく、ただ粛々と徴集が行われていく。

 

「待ってくれ! 頼む! 国に帰れば贄にできる奴隷どもがいくらでもいるのだ! 契約を変更させてくれ!」

 

 必死の懇願をするノグリア。エレメンタルたちは聞く耳を持たない。

 それは比喩などではなく、本当の意味で聞くための耳など持ってはいなかったのだろう。

 契約の代価を徴収するために生み出されたエレメンタルたちなのだ。

 聞く耳を持つ意味も、徴収をためらう慈悲も、不要なのだ。

 

「おねがいだ! 俺はまだ! 頼む! 消えたくない! 俺の身体を持っていくなぁぁぁ…………」

 

 その身体が削り取られてなくなり。

 ノグリアは頭部だけになり、悲鳴すら上げることはできなくなり。

 やがて、その残響すらも消えてなくなった。

 

 巨人の諸王、その1人はこの世に細胞の一片すら残すことなく消滅した。

 

 

 

「勝った……んですか……?」

 

 呆然と間近でノグリアの身体が削り取られていく様を見ていたフィリアがつぶやく。

 あまりにも凄絶な光景に、誰もが思考を奪われていた。

 

 あなたは足元に転がっていた宝石を拾い上げる。

 さきほどまでノグリアの宝冠を形成していた宝石だ。

 強力なパワーこそ感じるものの、特別なパワーは感じない。

 

 レリックにもいろいろと種類はあるが。

 おそらく、ノグリアのこれはふつうのレリックだろう。

 人の手では作れないものをレリックと呼ぶわけだが。

 人を超えた超常の存在、不死者(イモータル)の手によるレリックをイモータル・レリックと呼ぶ。

 

 それに対し、遺失技術で作られたとか、偶然の産物であるとかもレリックと呼ぶ。

 まぁ、なにか特別なパワーがあるとは感じていなかったし。

 ただのレリックであることに疑問はない。

 

 でなければ破壊して解決しようだなんて思わなかったし。

 イモータル・レリックは特別な破壊方法が必要だったりするのだ。

 あなたの持っている『ゲヘナベルテ』もイモータル・レリックだが。

 あれを破壊するには天界などの上方次元の太陽光に24時間晒す必要がある。

 そう言う面倒くさい破壊方法が必要なのだ。

 

 まぁ、いちおう力づくで壊す方法がなくはないが……。

 定命の存在にはあまりにも過ぎたやり口だ。

 やった人間の無事は保障出来ない。あなたですらなにが起こるか分からない。

 

 ともあれ、壊せた以上はやはりふつうのレリックだったのだろう。

 おそらく、力の種別としては交信のための道具。

 無制限に『神託』が使えるとか、いざとなれば『ミラクルウィッシュ』に類似した力を使えるとか……。

 そう言った信仰系の強力なパワーを秘めたレリックだったのだ。

 

 このレリックの破壊を代償にするとか。

 使用者の命を代償にするとか。

 その手の大きな代償を支払い、ただ1度限りの最強を実現する……。

 そのようなアイテムだった……のだと思う。

 

 いまとなっては残された力は残滓に過ぎない。

 高価な宝石としての価値しかないだろう。

 

「終わったんですかい……復活してくる様子は……ありやせんね」

 

「まったくだな……復活して来たら、どうしようもないからな……ほっとした」

 

「ですねぇ。復活したら、もうあたしに出来ることなんざ「何回も出て来て恥ずかしくねぇのか?」って言ってやるくらいですぜ」

 

「地味に効きそうだな……」

 

 リフラとレウナがそんな言葉を交わしながら、その場にへなへなと崩れ落ちた。

 2人ともその顔に色濃い疲労と憔悴の色が浮かんでいた。

 あなたは慌てて2人に駆け寄って介抱してやった。

 

「ああ、私は心配いらん……いくら削ったとて無くならん命だからな。リフラの方を見てやってくれ」

 

「あたしも心配いりやせんぜ。あたしゃはケチな女ですが、その分だけ生き汚ぇ。しぶとさにかけちゃあゴキブリ並みだって評判ですぜ」

 

 などと2人して譲り合っている。

 あなたはこんなときまで仲良ししている場合かと言いつつ2人を地面に寝かせようとする。

 

「それよりは神殿に下がりましょう。死体はないけれど、あまりいい環境じゃないもの」

 

 『迅速』の後遺症か、やや顔色の悪いレイン。

 レインも屋根のあるところで休みたいような雰囲気だ。

 

「2人を運ぶのは……『浮遊板』」

 

 レインが発動したのは力場の板を作る呪文だった。

 その呪文によって形成された1メートルほどの円盤。

 そこにリフラとレウナを乗せて、あなたたちは神殿の中へと撤収した。

 

 

 リフラとレウナを寝床まで運び、寝かせる。

 そこまでやって、他のみんなもへなへなと地面に崩れ落ちた。

 あなたは慌てて他の面々も介抱してやった。

 

「す、すみません、ご主人様……終わったと思ったら、気が抜けちゃって……」

 

「割と無理して立ってたから……うぅ、もう立てない……このまま寝たい……」

 

「わ、私も、走り回りながら弓を扱っていたもので、すみません……もうへとへとで……」

 

「私も、もう、すごい、疲れちゃって……もう、動けそうにないです……すみません、お姉様……」

 

 まぁ、無理もない。

 それほどの激戦だったのだ。

 

 むしろ、余裕の残っているあなたの方がおかしいのだ。

 元気な自分が他の皆を介抱してやるのも当然だろう。

 あなたは急いで水や食物の用意をし、それぞれに飲ませたり食べさせたりした。

 

 激しい戦闘の直後だ。乾いてもいるし、飢えてもいるだろう。

 べつにそのまま寝ても死にはしないが。

 起きた時のコンディションは最悪だろう。

 できるだけ補給してから寝るべきだ。

 

「無理……なにも入らないわ……今は寝かせて……」

 

 あなたはあなた風アイスクリームを『四次元ポケット』から取り出す。

 そして、以前に療養した際に日本で買って来たウイスキーを取り出す。

 それをアイスクリームにかけ、レインにそっと差し出す。

 

「わぁい、お酒。あ、なにこれおいしい。へぇ、香りがいいわ……うん、スモーキー過ぎない、甘い香りのウイスキーなのね。おいしいわ」

 

 レインは酒カスだが、なんだかんだと酒の味はわかっている。

 日本で知ったウイスキーの面白い()り方だが、レインはすぐに理屈を理解した。

 

「私もお腹空いてないんですが、アイスクリームなら食べます……」

 

「あ、アイス……アイス欲しいですお姉様……アイスなら無限に食べれます……」

 

 サシャもフィリアもアイスクリームをご所望のようだ。

 あなたは2人のためにたっぷりとアイスクリームを用意した。

 

「冷たい……あまい……おいしい……」

 

「あまま、あまうまおいしいです。アイスクリームおいしいですお姉様」

 

 フィリアはそれはそれはおいしそうにアイスクリームを食べている。

 あなたはクロモリは何なら食べれそうだと尋ねる。

 

「大丈夫です……『オールドマン・クウォート』に掲載されていた、政府のエージェントが愛用したという特別な食品を調合してあるのです」

 

 『ポケット』からクロモリが取り出したのは、得体の知れない丸薬。

 それをクロモリが齧って食べる……おいしいんだろうか。

 まぁ、食べれている以上はとやかく言うことはない。

 あなたは次にレウナとリフラに問いを投げる。

 

「私は心配いらん。精神的に疲れている気がするだけだ。ひと眠りして気分を変えれば、体力も精神も回復する。心配いらん」

 

 まぁ、レウナはアンデッドだ。

 その精神的疲労も、肉体的疲労も、端的に言ってしまうと「気のせい」である。

 人間だった頃の名残で、疲れているような気がしているだけ。

 なので寝れば回復するのも本当だろうが……何か欲しいものがあれば遠慮なく言って欲しい。

 

「そうか……私にもアイスをもらえるか」

 

 とのことなので、あなたはアイスをレウナに渡してやった。

 

「うむ、冷たくてうまい」

 

「あたしは……トリュフをたっぷりと振りかけたキャビアの握り飯が食いてぇ」

 

「気色の悪いものを頼むな」

 

 キャビアはわかる。

 チョウザメのタマゴの塩漬けだ。

 だが、トリュフってなんだろう……?

 

「気にするな。こいつには冷や飯でも出してやれ」

 

「ひでぇ。けど、あたしはそれよか風呂に入りてぇや……飯よか風呂が恋しいですぜ」

 

 であれば、沐浴場まで連れていこうか。

 

「お、頼めるんなら頼みてぇや。こないだ沐浴した時は、報告も必要だったからカラスの行水だったもんで……」

 

 とのことなので、あなたはリフラを背負って沐浴場まで連れて行った。

 そうやって背負うと、リフラのじつに豊満なものが背中に当たって最高だった。

 そして沐浴場に到着したら、リフラの服を脱がしてやり、あなたも同様に脱ぐ。

 それからいっしょに水に浸かって沐浴する。

 

「あー……火照った体に水が堪えられねぇ気持ちよさだ。こン時のために生きてるって言っても過言じゃありやせん」

 

 などと言って笑うリフラ。

 そうしていると、じつにでかいものが水に浮いている。

 うおおおお、たまらん、最高、気が狂いそう。

 

「おや、なんですかい。あたしの使い道もねぇ駄肉になんぞ用事ですかい?」

 

 などと笑いながら、リフラが自分のモノを持ち上げる。

 そうすると、実に重量感のあるリフラの胸がゆさっと揺れる。

 

 うおおおおおお!! 最高! これはたまらん!

 

 あなたは大興奮。リフラに最高にえっちだねと笑顔で誉め言葉を贈る。

 エッチなの最高、たまらん、でかいのはいいことだ。

 

「……あんたも大概難儀な性格してやすね」

 

 言いつつ、胸を降ろすリフラ。残念。

 

「まぁ、なんです。今回はなかなかご苦労おかけしやした。銅貨1枚でこんだけ働かせちまって申し訳ねぇやらなんやら」

 

 まぁ、請けたのはあなただ。気に病む必要はない。

 あなたはリフラにそのような慰めの言葉をかける。

 

「あ、そうですかい。じゃあ気にしやせん。ご苦労さん。また機会があったら頼みやす」

 

 あっさりとリフラは納得した。

 たしかにそう言ったのはあなただが。

 そこであっさり納得されると納得いかないものがある……!

 

 あなたはそう思ったものの、とりあえず深呼吸して落ち着く。

 それから、あなたはリフラに疑問を投げかけた。

 つまり、この冒険が終わった後は、どうする予定なの? と。

 

「何にも予定はありやせんぜ。まァ、あたしは旅から旅への根無し草。この星があたしの居場所だ。どこにだっていくし、どこからもいなくなりやすぜ」

 

 などと太い笑みを浮かべるリフラ。

 あなたはそんなリフラに、うちの屋敷に遊びにおいでよ、と誘いをかけた。

 まぁ、そう大したもてなしはできないかもだが。

 食事と酒の用意くらいはするし、毎晩風呂に入れるくらいの生活は約束する。

 と言うより、衛生環境の維持のためにも風呂には入ってもらわないと困る。

 

「へぇ、なんでまた?」

 

 友人を家に誘うのに理由なんか必要だろうか?

 あなたはそんなことを言いつつ真意を隠す。

 家に誘っておいて、いざとなったらキモチイイコトたくさんしよう……!

 

 そのためには誘う先は、トイネではまずい。

 身重の妻がいる屋敷に情婦呼ぶとか正気じゃないだろう。

 となると、やはり、マフルージャはベランサの屋敷だろう。

 こっちもこっちで出産から日の経っていない情婦がいるが……。

 まぁ、問題ない……と思いたい……!

 

「ふゥん……まぁ、タダ飯とタダ酒、タダ風呂まで浴びれるってェんなら行くのも悪かねェかもしれませんねェ」

 

 さらに言えばだが、戦いの前に言っていた小遣いが欲しいという話。

 いま、屋敷には出産から間もない使用人がいる。

 まずないとは思うが、赤子の身に危険が迫ったら手助けしてやって欲しい。

 こう、強盗が家に入ってきたら、魔法で仕留めるとか。

 

「へぇっへっへっへ、あたしみてェな教育に悪ィ輩を置かない方がいいと思いますがねェ。へぇっへっへっへ。まァ、小遣いがいただけるんなら、せいぜい警備員の真似事くれェはしますぜ」

 

 なんて、リフラは苦笑気味に笑いつつ、そう約束してくれた。

 よし、家に招いて長期滞在させる予定は完璧だ。

 

「しっかし、まァ……まさかこんな事態になるたァ思いもしやせんでしたが、なかなか楽しかったですぜ」

 

 さきほどの壮絶な戦いを思い出してか、リフラがそう笑う。

 あの戦いをして楽しかったと言えるのはなかなかの胆力だ。

 

「あんたとはまたやりてぇ。まァ、末永くお付き合いしてくだせぇ」

 

 リフラはそう笑って、あなたの肩を拳で叩いた。

 あなたはリフラの言葉にえっちな意味を見出しつつ、同様に拳で肩を叩いた。

 友人とは何人いてもいいものだ。

 特にえっちなこともする友人だと最高。

 あなたはリフラともそうなりたいと、心底からそう思った……。

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