あなたたちはゆっくりと身を休めた。
どろりと横になって、体の求めるままに眠る。
やがて腹を空かした者が目を覚ます。
腹が満たされるまで、体の求めるままに食べる。
そうやってゆっくりと体を休め、翌日には回復した。
まぁ、べつにケガしたり病気をしたわけでもない。
一過性の深い疲労でへとへとになっただけ。
たっぷりと眠れば回復するのは当然だ。
「うーん……壮観な景色だわ……いや、壮絶と言うべきかしら」
「そうですね。本当だったら死屍累々と言うべき光景が広がっていたわけですからね」
「これ、もともとはいったいどれだけ死体が転がってたんでしょうね……」
なんてぼやくのは、あなたたちの目の前に広がった光景がゆえ。
そこには踏み荒らされた草原と、無数に散らばる武具たち。
死体どころか、血痕ひとつすらないにもかかわらず、戦場跡のように武具が散らばっている。
異様な光景は、ノグリアが配下たちの死体を贄にしたがゆえ。
その肉体のすべてが贄となったため、残っているのは武具だけだ。
死体を贄にする、と言うのはやや直感に反するところがあるが。
低位の蘇生魔法には肉体が必須という前提があれば不思議でもない。
そして肉体だけではなく、魂までも贄として捧げられている可能性が高い。
それがどのレベルなのかはちょっとわからないが。
捧げられた先で魂を貪られているのか。
死後の世界で労働者として酷使されているのか。
どこぞに幽閉でもされているのか。
まぁ、どうにせよ、安楽な状態ではあるまい。
尋常の手段では蘇生が叶わないような状態ではあるだろう。
巨人帝国にとってはすさまじい痛手ではないだろうか。
なんせ、諸王の1人が死亡して蘇生不能。旗下の兵団もだ。
その状況では領地を狙うもので内乱でも始まるのかも……。
もしかして巨人帝国衰退の発端って、その内乱が原因なんじゃ。
あくまでも想像だが、当たらずとも遠からずなのでは。
いや、これが本当に過去の時代なのかはちょっとわからないが……。
実際の歴史がどうだったのかは不明だ。
「さて、装備の回収ね……魔法の武具もあるわけだし、相当なお金になりそうね」
「そうですね。装備品に種々の魔法をエンチャントした上で、新しい武具類を購入して……」
「いざと言う時のために、ダイアモンドを触媒として買い溜めておきたいですね。いくら強くなって、いくら稼げるようになっても、お金って足りないものなんですね……」
考え事をしているうちに、みんなが装備の回収に移っていた。
あなたも装備の回収をするとしよう。
とりあえず、装備品類を一か所に掻き集めるところからか。
集めたら、状態が悪くならないよう最低限の整備をして。
種類別にひとつにまとめて『四次元ポケット』に保管か。
しかし、売り捌きに相当苦労しそうだ……。
なんせ兵団ひとつからの戦利品なのだ。
新規兵団の立ち上げでもないと全部捌けない。
って言うか、よほどの金満集団でないと一気に兵団の装備なんか揃えないだろう。
装備は自弁なんて兵団もめずらしくないのに……。
各国の各町を行脚して捌けばなんとかなるか。
まぁ、それをやるのが相当に苦労するわけだが。
考えただけでも憂鬱になってくる作業だ。
これが人間用の装備なら救児院の備品にでもするのだが。
巨人用の、それも超巨大サイズの装備なので、無理だろう。
やっぱり、素材として売り捌くしかないのだろうか……。
そんなことをレインにぼやくと、レインもむずかしい顔をした。
「うーん……たしかに素材として売り捌くと言う手しかなさそうな……需要が一切ないとは言わないけれど、少なそうではあるし……いえ、古代巨人兵団の武具と言うことなら好事家が買いそうではある……のかしら?」
ものとしての価値は絶大なのだが。
需要としての価値が少なすぎる。
残念ながら、見た目通りの収入にはならなさそうだ。
あなたは溜息を吐きつつも、無収入よりはマシだから……と自分を慰めた。
それから、あなたたちはそれはそれは苦労して戦利品を回収した。
武具にはじまって、スクロールやポーションなども大量に回収できた。
しかし、巨人族用のスクロールやポーションはとにかくばかでかい。
ポーションはどう考えても3リットルくらいあってようやく1回分だ。
「人間なら100回分はある量だけど、魔法が1回分なのよね……」
ポーションは薬液に効能があるわけではない。
薬液に魔法が付与してあって効能が存在するのだ。
錬金術で作った薬品ならともかく、ポーションはそうなっている。
巨人用のポーションを人間が使うのは厳しいだろう。
胃に入って効能が発揮されたら消滅するので、飲めさえすれば効果は出るのだが。
3リットル一気飲みは相当な豪傑でないと厳しいし。
ポーションはたまにうまく効能が発揮されず、胃にもたれることがある。
それが起きてしまったら、相当しんどいのではないだろうか。
「まぁ、ポーションの薬液から魔法効果を抽出して、再付与し直すのはそう難しくないし。再加工してくれる魔法使い相手に捌く手はありそうね」
「スクロールは……まぁ、込められた魔法の効果は一緒ですから、ちょっと使い難いですが、私たちで使ってもいいですし」
大判の聖典用の紙かよと言うほどに大きいスクロール。
ばかでかい呪文回路が記されており、やはりこれも1回分。
こちらは使い難いが、飲むわけではないので使えはするだろう。
呪文回路を再転写する手間をかければ小さく作り直しもできるし。
「まぁ、でも、凄まじいお宝になったわね。捌いた時が楽しみだわ」
「触媒として使用していただろう高価な品々なんかもありますし、ありがたいですね」
「ただの宝飾品も結構ありましたし、相当なお金になりそうですね!」
「いやぁ、こいつァごつい稼ぎだ。しばらくはプー太郎ができそうですねェ」
「おまえは働け」
今回はリフラと言う臨時メンバーがいる。
なので配分に関しては全部捌けてからになるだろうか。
まぁ、それまではあなたの屋敷にでも滞在していればいい。
先日も言った通り、食事と酒、それからちょっとの小遣いは用意しよう。
なに、稼ぎの配分のためだ、気に病む必要はない。
「まぁ、切羽詰まってるわけでもないし、それでいいんじゃない」
一番金にうるさいレインが言うなら問題ないだろう。
魔法使いは金がかかるからしょうがないが。
レインは普通に守銭奴気質があるので……。
戦利品を回収し、それからしばらく神殿に滞在した。
やがて、セマリア神官が援軍を引き連れて来た。
あなたたちは彼らを出迎え、言葉を尽くして説明をした。
嵐の巨人王ノグリアを撃砕し、兵団も全滅させたこと。
戦利品の回収などもすべて済んでいることを。
なんせ巨人王の撃破だ。
しかも、状況から見るに蘇生も不能だろう。
肉体どころか魂までも神に捧げて力を求めたのだ。
これはすさまじい戦果だと言える。
そして、それだけに巨人側の報復も激しいだろう。
ノグリアを殺した者を討ち果たした者は大きな発言権を得られる。
後継者の立場の表明とか、そのあたりには必要な行為だ。
殺されたならば報復をし。病死とかなら葬式を主催し。
そう言った、後継者としての責任を果たすために、この神殿は襲われるだろう。
それに伴って巨人側でも争いは起きるだろう。
ノグリアの領地を掠めとるためとか、財宝の所有権を主張するためとか。
種々様々な争いが起きることだろう。
つまり、今が好機だ。
あなたはそのようにセマリア神官を筆頭とした人類側の戦士たちに説明をした。
巨人族たちは争い、その余力で人間と戦うことになるだろう。
ここに来るまでに、敵兵団は種々の妨害を受けている。
そうでなければ本拠側の妨害をはねのけるために、全力出撃はできない。
それでも人間相手には勝てると踏んで来る可能性が高い。
それくらい巨人族側は人間を舐めているところがある。
その余裕、慢心につけこむチャンスだ。
あなたはそのような演説をぶって神官たちを焚きつけた。
その際に、巨人族の装備品を買い取らないかと交渉も持ちかけた。
人間側に巨人族の装備品を使う者がいるかは分からないが。
ノグリアの武具を確保しておいて、巨人側に見せびらかす行為には十分意味がある。
挑発としての意味もあるし、戦略目標を強制させる効果もある。
やはり、王の遺品を奪還することには大きな意味がある。
見せられた以上は、奪い返さないわけにはいかなくなる。
あなたはそんなことを言って巨人族の装備を高値で捌いた。
すべては捌けなかったが、結構な数を捌くことはできた。
そして、あなたたちは神殿を後にした。
「よかったの? 神官たち、残って欲しそうな顔してたじゃない」
「そうですね。でも、私たちだけで戦うわけにはいきませんから……人々が聖戦成すをザイン様は望んでおられます。私たちが助け過ぎてはいけないのです」
「けっこう、厳しいのね」
「そうかもしれません。ですが、神官様方もそれを理解しておられました。だから、残って欲しいとは言われませんでした」
「たしかに、それもそうね……」
あなたたちは帰路に就いていた。
と言っても、向かう先はそう離れてはいないのだが。
こちらに来る時に通った、あの奇妙なドア。
あそこを目指しているだけだ。
あのドアが消えていたら割と大事だ。
この過去の世界でどうやって生きていこう?
そんなことを考えながらあなたは歩いていた。
過去の世界の女の子と仲良くできると思うとありがたいところはあるが。
やっぱり、ブレウとイミテルのところには帰らないとだし。
エルグランドではあなたの最愛のペットが待っているわけだし。
まぁ、何百年か我慢すれば、自動的に時代がそこに辿り着くだろうが……。
その間『アルメガ』の息がかかっていない女の子を探すのはしんどい。
無事に帰れるといいんだけど……。
不安に思いながら、あなたは草原を歩く。
そうしていると、突然目の前が真っ白になった。
うおっ、まぶしっ。
あなたは思わず目元を抑え、仲間たちに警戒を呼び掛ける。
ほかのみんなも慌てた声で周囲を探る様子を見せる。
そして、その眩しい光が収まった時。
あなたは先ほどと様相が様変わりした草原に立っていることに気付いた。
仲間たちもみんな無事のようだ。
「ここって……神殿の前?」
「ずいぶん……朽ちてますね……まさか、戻って来たんでしょうか?」
「そのよう……ですね」
だれともなく、示し合わせるように。
あなたたちは神殿の中を確認した。
ほんの数時間前まで見慣れていた構造。
しかし、長い年月を経て朽ちた様相。
地下部分にあった、謎の扉の姿はなく。
過去の世界もまた、そこにはなかった。
あなたたちの不可解な過去への冒険はこうして終わった。
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