16-001
過去の時代で巨人族の諸王と戦った、あの不思議な体験。
それは唐突に終わりを告げ、あなたたちは元の時代に戻って来た。
あなたたちは唐突な終わり方に首を傾げたまま『トラッパーズ』の前哨基地にとりあえず戻った。
そして、そこで出迎えてくれた『トラッパーズ』のメンバーと話し。
あなたたちは出立してから半日と経っていないことを知った。
あちらには軽く1週間は滞在していたはずなのにだ。
時間経過が一切なしとなると、いよいよ神格の介入を感じさせた。
しかし、フィリアが『神託』を乞うてもはっきりした返事はなかった。
ザイン神がなんらかの意図であなたたちにその体験をさせたのか?
その問いに対する答えは「我が意図でなし」と言うものだった。
一見するとはっきりとした否定の物言いと聞こえるが。
しかし、前提条件として、あの神殿に向かったのはザイン神の神託がゆえだ。
そこから考えると、この言葉は本当にそのままの意味なのだろう。
向かわせたのはザイン神だが、それはザイン神の意図ではない。
他の神格の介入を想起させるような情報だ。
このように、はっきりした返事ではないのも、ひとつの答えだ。
ともあれ、やはり神格の介入であるのに違いはない。
そうなると、本当に過去の世界に行った可能性は高い。
そのような考えのもと、あなたたちは調査に乗り出していた。
あなたたちが戦ったあの場所が、本当に過去の時代だったのか。
あの時に得た、種々の情報と、歴史書の情報を照らし合わせる作業だ。
「だめね。クヌース帝国黎明期となると、もうほとんど神話やら伝承、おとぎ話の類ばかりだわ。史実と言えるような資料自体が……」
「カルバレイス年代記と言うものがいちばん正確なようなんですが、これもほとんどおとぎ話みたいなものですね……」
「あとは、神殿の図書ですね。あちらには高位神官の名簿があるはずなので、セマリア神官の名前くらいは見つけられるかもしれません」
クヌース帝国黎明期、巨人帝国からの独立当初のこと。
その頃の文献を漁っての作業なのだが、それがもう捗らない。
まずそもそも資料がロクに残っていない。
残っていても、脚色やらなんやらでおとぎばなし同然になっている。
あなたの屋敷……元ザーラン伯爵家の蔵書をすべて読み漁り。
有益な答えがなかったので、次に王室図書館に出向いて本を読み漁っている。
「はぁ……どれだけ読んでも果てがないわ……疲れる……」
「読書は好きだったんですけど……目的がある読書って、きついですね……素直に楽しめない……」
「肩が……肩がバキバキ言います……うう、頭も痛いです……」
あなたも眼が疲れて来た。
そこらへんの本なら魔法で内容を理解してしまうと言う手が使える。
だが、その魔法は文字の理解を助けるような効果はない。
何百年も前の歴史書となると、もはや言語は別物に近い。
そのため、魔法では内容を理解し切れず、ちゃんと読む必要がある。
レインやサシャはそらで読めるほど熟達しているのだが。
こちらはこちらで、あなたほど無法な魔法行使能力を持っていない。
魔法を使っては、数分の効果時間で本を読み漁る……。
その連続で精神的疲労が積み重なっていくわけだ。
読書魔法である『学識者の接触』は低位魔法だが。
魔法の行使自体に高度な精神集中が必要なのだ。
集中を繰り返していれば、そりゃ疲れもする。
それに、内容を理解するのにはやはり頭を使う。
何百冊も本を連続で理解していけば、やはり疲れる。
知的活動とはまことに頭脳労働そのものである。
「やっぱり、王室図書館では限界があります。それもこれもエルフが悪いと思うんですけど」
突然サシャが据わった眼で種族批判をはじめた。
あなたはサシャに人種差別はよくないと諭した。
「え? いや、でも……あ、そうか。ご主人様は歴史にはあまり詳しくないんでしたね」
詳しくないが……それがなにか関係が?
「隣国のトイネは元々は人間の国でした……と言っても、それこそ500年も前のことなので、今となっては完全にエルフの国なわけですが」
それは聞いた覚えがある。
あれはたしか、ダイア女王が溢していた言葉だったか。
400年だか前にエルフたちが人間の国を簒奪したことで興った国だとか。
厳密に言えば既に存在していた国をわが物としたのだろうが……。
異民族による国家制圧劇と言うのも凄まじい話だが。
それをそのまま成功させたというのも凄まじい話だ。
話を聞けば、元々のエルフたちは野蛮な騎馬民族だったという。
それが見事に国家を制圧した挙句に、そのまま400年に渡って存続する国家を築くとは。
元々存在したという人間の国家が土台にあったとはいえ……。
いや、むしろ人間国家が土台にあるからこそ失敗する可能性が高いような。
まぁ、どうにせよ、奇跡的な幸運の末になった
「その、500年ほど前のトイネには、今から900年ほど前に建立されたと伝わる図書館『
ほほう。そんな図書館があったとは。
しかし、口ぶりからして、今は存在しないらしい。
そして、400年ほど前に発生したエルフたちの簒奪劇。
うん、もう、なんと言うか。
聞くまでもなくなにが起きたか分かると言うか。
現在もエルフには反知性的な言動があるし。
どうも聞くに、前王クラウ2世は反知性主義者だったっぽいし……。
それが400年前となると、もっとひどかったのでは?
これが人間なら、時を経て、世代を経た影響の可能性もある。
長い年月をかけて反知性的なお国柄が醸成されたという。
だが、なんせトイネはエルフの国だ。
あなたが雑にぶっ殺した以前の第1戦団長ファロスなんたらは600歳くらいだったはず。
つまり、500年前時点で既に成人済みのエルフだ。
やっぱり当時から反知性的なヒトが多かったのだろう。
「ええ、はい、察してるようですが……はい、当時のエルフたちが、『蔵知の館』に火を放って
あまりにもひど過ぎる行いにあなたは目を覆う。
なんでわざわざそんなことするんだよ……。
反知性なら反知性で、本なんて無価値と無視すればいいものを。
そこで焚書してしまうあたりが反知性主義と言えばそうか……。
「もともと『蔵知の館』はクヌース帝国の初期頃……まぁ、巨人帝国との戦役が小康状態に入ったあたりで建立された図書館ですから。仮にいまも現存していれば、クヌース帝国黎明期の記録も克明に残っていた……のではないかと思われます」
「ひどすぎるわよね……なんでそんなことするのよ本当に……人類の英知が、あれのせいでどれだけ喪われたか……」
「400万篇以上もの貴重な文物が喪われたと言われますから、その文化的喪失は計り知れません……本当にひどすぎます……」
サシャとレインがどろどろとした怨念を吐いている。
たしかにひどすぎるが、それを悔やんでもしょうがないだろう。
なくなってしまったものは帰って来ないのだから。
目の前の本に悪戦苦闘している方がまだマシだ。
「まぁ、そうなんですがね……はぁ」
「ここで普通の国なら王宮には本が残ってるんじゃ、なんてことも思うんだけど……なんせ、トイネでしょ」
「ええ、トイネですからね……本なんて1冊たりとて残ってなさそうですよね」
「仮にあったところで、読書のためには使ってないでしょ。エルフよ?」
「ですね。枕にするのが関の山ですよ」
エルフは本なんて読まない。そのあたりは共通認識っぽい。
まぁ、種族固有の悪口みたいなものだろうが……。
……でも、本当のダイアの方の言動を見ているとあながち間違いじゃなさそう。
あなたはでかでかと溜息を吐く。
エルグランドのエルフは理性的で理知的な種族だったはずなのだが。
なんでこの大陸のエルフはこんなに野蛮な連中なんだろうか。
ところ違えば人柄も違うのは当たり前ではあるのだが。
だからと言って、こうまで両極端に違うのはおかしいだろう。
エルグランドのエルフと、この大陸のエルフでは起源が違うとかだろうか?
考えてみると、アルトスレアのエルフはエルグランド由来と知ったが。
この大陸のエルフがアルトスレアのそれ由来とは限らない。
そうすると、この大陸で生まれた固有種……だったりするのだろうか?
そうだとすると、こうまで野蛮なのも説明がつく気がする。
種族が違うのだとすれば、やはりダイアの肉感のよさもそれが理由だろうか。
こう、ダイアは、ばいんっ! ぼいんっ! ゆさっ! たぷんっ! って感じで……。
あれがもうほんとうに重たくて、でもサイコーに柔らかくて、ウハウハ! って感じで。
頭を挟んでもらったり、膝に抱かれて顔に乗せられるともういろんな意味で天国が見える。窒息的な意味で。
まぁ、ダイアは割と例外的なところにいる気はするが。いろんな意味で。
しかし、イミテルも長身だが割と豊満な体型なので、この大陸のエルフは全体的に豊満なのかも。
いずれ、『アルメガ』をぶちのめした暁にはトイネでエルフの女の子を漁りたいものだ……。
ダイア女王にもらった
トイネの女の子たちの、豊満でゆさっ! たぷんっ! なのを堪能したい……!
「ご主人様。想像の中で重たげなものを持ち上げるのをやめてくださいね、本当に。図書館ですよ、ここ」
サシャにジト目で見られ、あなたは手を下げる。
それをごまかすように、あなたはごほんっ! と咳ばらいをした。
煮詰まって来たので、1度帰宅しよう。休んでごはん食べようではないか。
そして、あなたは先ほど得た情報から、ちょっとトイネに行って来ようかと思う。
「トイネにですか? でも、さっき言ったように、図書館は現存してないですよ?」
まぁ、それは間違いないだろうが。
あなたには権力者の伝手があるのだ。
その伝手を使って、トイネの貴重な蔵書を探すのも悪くない。
たしかに粗方の本は焼き払ってしまったのだろうが。
しかし、それでもすべてを焼き払ったわけではないだろう。
トイネにはエルフ貴族ばかりだったが。
以前の戦争の折に顔を合わせたランドビアス伯と言った人間の貴族もいる。
まぁ、彼は元を辿ればマフルージャの貴族だったらしいが……。
だが、彼以外にも人間の貴族家も存在するだろう。
それこそ、エルフ王国になる以前から存続する家もだ。
と言うか、存在していないとちょっとおかしいと思う。
そうじゃなければ国家運営なんてしていられないだろう。
以前の運営ノウハウを残している家くらいは残していたはず……。
そうした家なら『蔵知の館』由来の写本とかを蔵している可能性がある。
「なるほど、その可能性は否めないわね……でも、女王陛下に頼み事するなんて大丈夫?」
レインが心配そうに言う。
あなたもできることならそんなことしたくない。
ダイア女王こと元クローナ王子は大変に聡明な王だ。
クッソめんどくさい貴族仕草もバッチリとこなして来る。
頼み事なんかしたら、いったいなにを代価にされるか……。
想像もしたくないのが正直なところではある。
「そこまでして調べなきゃいけないことでもないし、無理しなくてもいいのよ」
「そうですよ。あくまでもあれが本当だったか気になってるだけですから」
「それに、まだ探る術もあるかもしれませんよ。大神殿の蔵書はまだあたっていませんし、そちらを探してからでもいいのでは?」
みんながそのように引き留めてくれた。
しかし、あなたもあなたでこの探索に疲れて来ているのが本音。
ここらでひとつ、気分転換に過去に存在した図書館の痕跡を辿るとかやってみたい。
「た、楽しそう……!」
「たしかに……」
サシャは目を輝かせ、レインも興味深げな顔をしている。
2人も興味があるなら連れて行ってもいいが。
「そうね、私も疲れたし……行こうかしら」
「私はぜひ行きます! ごはんを食べたらいきましょう!」
「私は大神殿の図書館の利用許可がいただけないか、方々に聞いて回ってみることにしますね。御三方でいってらしてください」
フィリアはそんな風にあなたたちを送り出してくれた。
ここ3日ほど本とにらめっこばかりだったのだ。
冒険とはちょっと違うが、こうした歴史ロマンを追うのもなかなか楽しい。
では、腹ごしらえをしたら、トイネに飛ぶとしよう。
普通は一朝一夕で女王陛下にアポなんて取れないが……。
なんせあなたはトイネ救国の英雄だ。
ちょっとくらい無理を通すことはできる。
代価になにを要求されるか怖くはあるが。
まぁ、時には美女に振り回されるのも一興か。
あなたはそんな風に自分をごまかした。
文字数はどの程度が好ましいですか?
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