あなたたちは昼食を手早く済ませた後、トイネへと転移魔法で出向いた。
あなたは最近、転移魔法の使用をためらわなくなってきた。
サシャもフィリアも、いずれエルグランドへと連れ帰る。
そのエルグランドでもやっていけるよう、転移魔法を控えて徒歩移動をしていたのだが。
こちらの大陸に種々存在する移動用魔法を考えると。
いざ徒歩移動をする、と言う時でもそこまで苦労はないのではないか。
そのような考えから、省ける手間は省く方針に転換した。
まぁ、早晩エルグランドに行くこともないので。
エルグランドでの冒険はエルグランドで慣れるのでもいいのでは……と言う考えになったのもある。
この大陸の迷宮はなかなか探索し尽くせない。
かなりの長丁場になりそうな気配があるのだ。
そう言うわけで、あなたたちは転移魔法でトイネへ。
一応マーキングしてあった王都アラナマンオストに飛び。
そこから王宮エゼル・オストに直接訪ねて行った。
「やり口が無茶苦茶」
レインに嘆かれてしまったが、これが速いからしょうがない。
それに、王宮を尋ねて行ってなにか悪いというわけでもなし。
マフルージャの王宮は外部に開かれていないが、トイネはそうでもない。
さすがに好き勝手入り込めるわけでもないらしいが。
外向きの部分にあたる庭園部分等には割と入れるんだとか。
エルフたちの大雑把かつ荒い宴会とかを見るに。
そもそも警備をまともにやろうという考えが薄いのだと思われる。
そう言うわけで勝手に中に入り込み、練兵場の方へと向かう。
「待って、練兵場? 練兵場って言った?」
言った。
「なんで王宮に練兵場があるのよ」
なんでって言われても。
あるものはあるとしか言いようがない。
たしかになんで練兵場があるのかは謎だが。
王宮と言うのは王の住居であると同時、政治の中心である。
宮殿と城砦をひとつにまとめたものと言ってもいいだろう。
そう言う意味ではたしかに練兵場があるのはおかしくないのだが。
しかし、ここは王都に存在する王宮だ。
そこは政治の中心であると同時、社交の中心でもある。
そこに練兵場まで置くのはおかしいだろう。
でも、あるのだ。
あるものはあるんだからしょうがない。
「いえ、まぁ、古くからある王宮なら練兵場があるのも変ではないのよね。以前にベランサにあった王宮も城砦としての機能が強かったと言うし、今も城壁を備えるくらいにはちゃんと防備を考慮してるし……」
「そうなんですか。たしか、エゼル・オスト王宮はエルフ王国になってから建立されたと言いますけど、それでも300年はザラに経ってることになりますか」
「そうね。たしかにそれなら練兵場があってもおかしくはない……のね」
などとレインが納得する。
「でも、練兵場なんかでなにするのよ? なにかあるの?」
「練兵場が王宮の内部にあるってことは、スペースとして取りやすい中庭部分……とかでしょうか。もしかして、そこなら高位の貴族の人とかに会い易い……とか?」
「なるほど、中庭ならたしかに。仕事で疲れた人が休憩とかに出て来そうだし」
などと推測を元に納得するレイン。
そんなレインとサシャと引き連れ、あなたは練兵場にあたる中庭に入る。
そして、そこにはレインのそんな納得を帳消しにする光景が広がる。
「ウーッ! ハーッ! 参りまするぞ女王陛下!」
「来なさい。相手をいたしましょう」
そこには武器を手にしたエルフの豪傑と。
この国の女王たるダイアその人が剣を手に対峙していた。
「ククク……さすがは我らが女王陛下……! 有象無象の戦士ごとき、いともたやすく捻じ伏せてみせるとはな……!」
「我らが女王陛下は超一流の戦士でもあらせられる。それをみな承知しておくのだな」
「うおおおお! 女王陛下万歳! 女王陛下万歳!」
周囲にはエルフの戦団たち。
エルフ特有の民族衣装か、くまなく肌を覆う衣服を纏っている。
そして、この国独特の習慣として顔にフェイスベールをつけている。
大半のエルフ戦士は男だが、それなりの数の女性も混じっている。
まぁ、ただ、見覚えのある顔ばかりなので、元は男だ。
かつて、トイネ王宮第1戦闘団は第7戦隊をあなたは弟子にした挙句、全員性転換して食った経緯がある。
彼女たちは以前の反乱軍征伐に際し、ダイア女王の親征に参陣した者でもある。
いまとなっては戦士団の中でも相当な発言力の集団になっているのだろう。
元々、近衛兵団として十分な地位にあった集団なので順当な権威とも言える。
「…………ここ王宮なのよね?」
レインが唖然とした顔で尋ねて来る。
間違いなくここは王宮だ。
諸国に明媚さで謳われたトイネ王国は王都アラナマンオスト。
その中心に坐するトイネの宝石と称えられたエゼル・オスト王宮である。
「……あの人、女王陛下ですよね?」
サシャが信じられぬものを見た……と言う顔で尋ねて来る。
間違いなくあれはこの国の女王、ダイアその人だろう。
……まぁ、真実女王陛下かと言うと、実際は違うと言うのが本当のところだが。
「ぶ、文化が違う……なんで、なんで女王陛下が旗下の兵団と殴り合いしてるのよ……!?」
「女王に向かって、本物の剣抜くんですね……それを、本気で振るんですね……頭おかしいんじゃないですか……?」
あなたも普通に理解不能な風習だが。
まぁ、トイネのお国柄と言うしかないのでは。
あなたはそんなことを話しながら、ダイアが戦士たちをボコにするのをしばらく眺めた……。
しばらく戦いを眺め、ダイアが10人ほど戦士をボコったところで戦いが終わる。
女王たるダイアが真っ先に退場しなくば、戦士たちも退場できない。
トイネはだいたいそう言う、偉いやつが先、の習慣が強い。
そして、ダイアが練兵場の入り口近くで戦いを眺めていたあなたに気付く。
「まぁ! 遊びに来られていたのですか? それとも、
ほにゃほにゃと笑みを浮かべて喜色を露わにするダイア。
そんなダイアに、この王宮絡みで女王陛下に用事があって、と答えた。
「そうなのですか? それでしたらお兄様に
ダイアが間違えちゃった! と言う顔をする。
そして、振り向くと背後に立っていたお付き武官に困ったような顔をする。
「ウィチヘン、どうしましょう……?」
「……陛下、
お付き武官のエルフが苦笑気味に答える。
あなたはそのお付き武官に気さくにあいさつをした。
久し振り、元気? と言ったなんと言うことのない挨拶だ。
「はい、元気でやっております。姉上はいかがですか? 懐妊したとのことですが」
イミテルはもちろん元気だ。
留守にした後に帰ると、ナックルダスターでぶん殴ってくるくらい元気だ。
「妊婦にしては元気が過ぎる……」
彼はウィチヘン・ハーン・ウルディア。
あなたの妻であるイミテル・ハーン・ウルディアの弟。
そして、ウルディア子爵家の次期当主でもある。
「ともあれ、陛下、アノール子爵、まずは下がりましょう。兵たちを休ませてやらねば」
「ああ、そうでしたね。では、参りましょう」
とのことで、あなたはダイアとウィチヘンの後に続く。
無事にコンタクトが取れてラッキーだった。
それもまさか、ダイア女王ではなく、ダイア本人に会えるとは。
ダイアはこんなところでなにをやっているのだろう?
ダイアは冒険者としての本拠を、あなたの領地たるアノール子爵領に置いている。
と言うよりかは、アノール子爵領にいる時はあなたの屋敷の食客として滞在している。
そこから方々に冒険に出かけたりしているわけだが。
まさか王都に、それも王宮の中にいるとは思わなかった。
王宮の上層部分。
王族の居住スペースであり、信頼の厚いものしか入れない部分へと誘われる。
そこではダイア女王その人が大量の本に囲まれながら読書をしていた。
「戻ったか。僕の影武者ご苦労……うん? どうした? 僕はおまえを呼んだ覚えはないが……」
「何かご用事があるそうですよ。私は湯浴みに行ってまいりますね」
「ああ、行け」
ダイアが汗を流しに出て行き、ダイア女王……元クローナ王子があなたへと向き直る。
「アノール子爵に、マフルージャのザーラン伯爵家のレイン・フェル・ステレット。そして、奴隷であるサシャ・キリムだったか。まぁ、遠慮なく全員座れ」
「では、失礼します」
「し、しつれいします!」
レインは緊張気味ながらもそつなく対応し。
サシャはガチゴチになりつつも座る。
あなたもダイア女王の対面に座る。
お付き武官であるウィチヘンは壁際の方へと移動する。
お付き武官は使用人ではないが、主と客の会話に口を挟んでいい立場ではない。
「それで? 突然訪ねて来てどうした。この王宮はおまえには常に開かれているが、突然来られても要求に応えられるというものでもないのだぞ」
用事があるならアポイントメントを取ってから来い。
そのような苦言をオブラートに包みながら言われた。
あなたはそのあたりをきれいに無視し、この王宮にある本が読みたいんだけど、と直球で要求を投げかけた。
「ふん? 本? それは、この王宮にある本ならなんでもいいから読みたいのか? それとも、この王宮にあるであろう特定の本が読みたいのか?」
後者だ。
トイネがエルフ王国になる以前。
『
もっと言えば、クヌース帝国黎明期の歴史を記した本があるならそれを。
「またずいぶんとむずかしい要求をしてくるな……その時代の本はさすがに数が少ない。ないとは言わんがな」
やはりあるらしい。
あなたは期待できるなと頷いて、できれば読ませてほしいと頼んだ。
「この王宮にある本を読ませるだけならたやすいことだが……しかし、クヌース帝国黎明期の書籍となると、われわれ人類の言葉ではない。巨人族文明の言語で記されている。読めるのか?」
問題ない。あなたは読めないが、サシャとレインが読める。
それにあなたも『言語理解』の魔法を使えば読めなくはない。
「ああ、それもそうか。まぁ、それならば見せること自体は構わんが……本物の歴史書かどうか、そこまでは僕も保障出来んぞ? 偽書の可能性も否定できん」
それはしょうがないだろう。
さすがに1000年も前のこととなると、偽書だとしても検証不能だ。
あなたたちが知りたいのは、おとぎ話同然でもいいからいくつかのことを知りたいだけだ。
「その話の流れからすると……どうもクヌース帝国の時代の出来事について調べているらしいな。何を調べている?」
クヌース帝国黎明期に存在した巨人族諸王のことを。
そのうち特に、嵐の巨人王のことを調べたい。
「嵐の巨人、その王か……巨人族諸王の伝説はいくつも聞くが、歴代の王の業績が混じっているのか矛盾した内容も多いのだよな」
あなたたちが知りたいのは、その中にノグリアと言う王が居たかどうかだ。
あなたがそんなことを話すと、ダイア女王が眉間を揉みながら考え出した。
「ノグリア? 嵐の巨人王ノグリア……ううむ……僕は覚えがないな。僕はこの王宮の本はすべて読んだ。おそらく、おまえの求めるような内容の本はないぞ」
そのような保障をされ、あなたは困ってしまう。
まさか、この王宮の本を全部読んだやつにかち合うとは。
レインとサシャも、エルフにそんなに理知的な人がいたなんて……! とでも言いたげな顔をしている。
「僕は自分を賢者だとまでは思わないが、過去の歴史に学ぼうという意思くらいはある。そのために本をひも解くのは当然のことだろう?」
なんて、実に知性的な発言をするダイア女王。
なんと言うか本当にエルフに生まれて損をした人だ……。
知性的だからエルフたちには評価されず、魔法の才能に秀でていたせいで軽んじられ。
本当になんと言うか、人間にでも生まれていればよかったのに。
しかし、この王宮でもクヌース帝国黎明期の情報が手に入りそうにないとは。
やはり、フィリアのツテを使って、大神殿図書館に入れることを祈るしかないのか。
いざとなれば献金を積み上げる所存だが、それで入れるだろうか……。
「いや、待てよ……僕もすべて読破していない本が1つある……あれにならば、あるいは……」
そこで、ダイア女王がなにかを思い出したようにそんなことを言い出した。
しかし、ダイア女王が読んでいない本? 周囲に積み上げている本からして、かなり読書家なのだろうことが分かる。
そんな彼女が読み終えていない本と言うのは逆に不思議なような……。
「文字が読めるだけでは読めない本もあるのだ。僕が魔法使いになった理由でもある……このトイネ王宮最大の秘宝たる『無尽の呪文書』はな」
文字数はどの程度が好ましいですか?
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2000文字前後
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3000文字前後
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4000文字前後
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5000文字前後
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6000文字前後
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7000文字前後
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8000文字前後
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9000文字前後
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1万字前後