あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

530 / 614
16-008

 コボルトを撃破したあなたたちは次の階層へと進む。

 守護者以外にモンスターの姿はなく、倒せさえすれば他に苦労はない。

 そう言う意味では、とても進みやすい迷宮だった。

 

 そして、次の階層にもまた守護者がいて。

 あなたたちは無音の高速世界で激突した。

 

 

 風が迫ってくる。

 それはまさに死の旋風であり、命を刈り取る刃の嵐。

 あなたはそれに対し剣を突き出し、白銀の閃きを受け止める。

 甲高い金属音が響き渡り、紅い火花が散った。

 

 一瞬の拮抗ののち、白銀の輝きが退く。

 不利と見ての理性的な撤退。それはまさに理知的な戦士の振る舞いそのものだった。

 あなたはその動きに舌打ちをし、同時に迫り来る剣戟の群れにあなたは呼応する。

 すなわち、あなたもまた剣を振りかぶって『剣群(スウォーム)』を放った。

 剣の嵐と嵐の激突。響き渡る刃鳴(はな)

 暗闇の中に咲いた銀閃の徒花は微かな残光を残して消える。

 

 その最中に一瞬浮かび上がった影は、金の髪に青い瞳の少女。

 迷宮によって生み出されたのだろうハイランダーの守護者。

 俊敏なるハイランダーの戦士、その典型と言える剣士だ。

 

 白と青のワンピース。パフスリーブはお洒落であると同時、肩の動きを見切らせない。

 手にした両手剣、クレイモアをまるで生き物のように縦横無尽に操ってのける。

 その膂力、速度、どれもが超一流のレベル。その技量もまたハンパなものではない。

 

 あなたとハイランダーの剣戟が激突する中、ひゅるりとサシャが割り込む。

 大上段に構えたファルシオンを、渾身の力で打ち下ろしに行く。

 サシャの超人的な膂力であれば、それを防げる者はまずいない。

 

「はぁぁぁっ!」

 

 だが、それはあくまでも常識的な範疇内であればこそ……。

 あなたであれば、サシャの剣戟を防ぐには指2本あれば事足りる。

 あなたと対峙しているハイランダーもまたそれは同じこと。

 

 ハイランダーがクレイモアを構え、サシャの剣を受け止める。

 だが、サシャの剣はまるで霞のごとくクレイモアをすり抜け、ハイランダーのふところへと入り込んでいった。

 

 『幽鬼の一撃』。かつて、ジル・ボレンハイムより習い覚えた魔法。

 瞬間的に起動させることが可能であり、それを起動させることにより近接攻撃の特性が変わる。

 ありていに言えば、ガードも防具もすり抜け、その生命に直接的に打撃を与えることが叶うのだ。

 

 まさに近接戦闘において鬼札と言うほかにない強力な魔法。

 それによってサシャの剣戟はハイランダーのガードを抜いて、その内部へと迫る。

 

「くっ……!」

 

 ハイランダーが驚き、咄嗟に首を反らしてサシャの剣を可能な限り躱す。

 だが、あなたたちは速度を常人の限界点にまで引き上げている。

 サシャのスイングスピードを躱し切るのは至難の業だった。

 

 サシャの剣がハイランダーの肩口へと切り込む。

 ハイランダーの纏っているワンピースの魔術的防護すらも貫通。

 その肉体へと剣戟が切り込み、それはすぐさま止まった。

 ほんの1センチ切り込んだかどうかと言うほどの傷だった。

 

「硬っ……!」

 

 サシャの驚愕の声。あなたはサシャの首根っこを掴んで背後へと放り投げる。

 その一瞬後、サシャのいた位置をクレイモアが豪速で駆け抜けていった。

 

 空ぶったことを気にも留めず、ハイランダーは再度あなたとへ躍りかかってくる。

 サシャの剣戟では致命傷どころか、行動を阻害するにも至らなかったらしい。

 超人級冒険者の肉体強度はまさに次元が違う。

 本気で力を込めて体を締めれば、剣戟ですらも受け止められる筋力がある。

 サシャの狙いは悪くなかったが、純粋に攻撃力が不足していた。

 

「真っ向勝負じゃ話にならないってことね……! 搦め手ならどうよ! 『魔法解体』!」

 

 レインがハイランダーの剣を指差し、最高位の魔法を放つ。

 それはいい選択だ。あなたはレインの選択を内心で称賛する。

 

 『魔法解体』。それは魔法効果そのものを解体する呪文。

 その人物にかけられている呪文のみならず、装備品の魔法効果すらも解体する呪文だ。

 しかし、格上の相手にかける場合はまず通じることがない。

 

 そのため、レインは対象をハイランダーの剣そのものに絞った。

 対象をただ1つに絞ることによって、効果を飛躍的に高めることができるのだ。

 レインの放った『魔法解体』がクレイモアへと浸透、その魔法的組成を分解する。

 

「ああっ!」

 

 手にするクレイモアがバラバラと砕け、ハイランダーが悲痛な叫びをあげる。

 あなたはそれを見て好機を悟ると、愛剣を放り投げてハイランダーに掴み掛った。

 スピードが互角な場合、あなたたちの身体能力は攻撃を見切り切ることが可能だ。

 そのため、線の攻撃ではない、回避不能な取っ組み合いの方が有効打になりやすい。

 

 あなたはハイランダーの肩を掴み、そのまま勢いよく壁にまで激突していった。

 壁にヒビが入り、バラバラと岩塊が崩れ落ちて来る。

 あなたは歯を噛み締め、渾身の力でハイランダーを壁へと押し込んでいく。

 

「ぐっ、うあぁっ……!」

 

 ハイランダーの骨が軋み、あなたの足が地面を割り砕く。

 そして、ある一定の力が入った瞬間、壁がぐしゃりと潰れた。

 あなたはその勢いのまま、一気にハイランダーを壁の中へと押し込んだ。

 そして、回避不能、脱出不能の状態へと押し込み、あなたは内部へと『魔力の破砲』を叩き込んだ。

 

「きゃぁぁ――――! だめぇっ!」

 

 悲鳴を上げて弾け飛ぶ少女。

 あなたはそれを見送り、溜息を吐いた。

 めっちゃくちゃしんどい……!

 

 

 

 壁の中で肉片と血のシチューになった少女から離れ、あなたは愛剣を拾い上げる。

 メチャクチャ疲れた。あと、肩を掴んだハイランダーの女の子からすごくいい匂いがした。

 なんで迷宮の守護者なのにいい匂いがするんだろう。興奮してしまう。

 あなたは愛剣を鞘に収めつつ、大きく溜息を吐いた。

 

「うまく効いてよかったわ。魔法の装備は高性能ではあっても、耐性はこちらのとそうは変わらないのね」

 

 レインの言葉にあなたはうなずく。

 エルグランドでも『魔法解体』のような魔法の武具を破壊する魔法は有効だ。

 あれらは魔法の武具であれば、なんだかんだと破壊できる可能性がある。

 そのために、あなたを含めて腕利きの冒険者は魔法効果のない武具をわざわざ用立てたりもする。

 

 エルグランドだと、これが地味にむずかしいのだ。

 エンチャントされた武具がゴロゴロ転がっているので。

 わざわざ鍛冶師に、エンチャントされてないただの高品質の剣と注文しないといけない。

 もしくは自作するとか。あなたが持っている何のエンチャントもない剣は自作品だ。

 

「なんともはや……悔しいが、僕ごときでは力になれないのか……」

 

「申し訳ありません、義兄上……私では力不足です……」

 

 まぁ、そこらへんは気にしなくてもいい。

 残念ながら、どれだけ気合があろうが、負けられない想いがあろうが。

 力不足の状態で無理すると犬死する。

 必死の想いが実を結ぶのは、残念ながら物語の中だけだ。

 

「くぅ、正論だけど身もふたもない……!」

 

 たとえ直接戦闘できなくても、力になれることはある。

 たとえばほら、クローナはその場でジャンプするとか。

 

「ジャンプ? ジャンプするとなにかあるのか……?」

 

 言いながら、クローナがその場でジャンプする。

 すると、ぶるんっ! と揺れる大迫力のお胸!

 うおおおおお! 最高! でかすぎる!

 

「馬鹿か貴様は」

 

 クローナのグーがあなたに炸裂。ちょっぴり痛い。

 しかし、あなたの心理的疲労を癒すとか、そう言う意味で力にはなっている。

 やはりでっかいことはいいことなので……!

 

「そのあたりの感覚には僕も頷けるところはあるのだが、自分自身のものが大きくてもさほど嬉しくはないのだよな……」

 

 などとため息を吐きながら、自分のものを持ち上げるクローナ。

 あなたもそのあたりの感覚はよく分かる。

 

 あなたはすらりとした体形の少女だが、これは肉体年齢が15歳前後のため。

 あなたは体質的に晩成型なのだ。その肉体的最盛期は20歳前後で訪れる。

 その際には、クローナやダイアにも負けないほどのスタイルなのだが……。

 

 他人のお胸が大きいとすごく嬉しいのだが。

 自分のお胸が大きくてもあんまり嬉しくない。

 胸が大きいと剣を振る時ジャマだし……。

 

「はぁ……まぁいい。おまえが僕たちの生命線らしいことは理解しているつもりだ。おまえに報いてやるべきなのか……」

 

 クローナはじつにものわかりがいい。

 あなたは満足げに頷いた。

 

「そう言うわけなので、外に出れたら触らせてやろう。この国でもっとも高貴な乳房だぞ。存分に堪能しろ」

 

 おあずけかよチクショー!

 あなたは思わず愚痴った。

 

「まぁまぁ。でしたら、私の胸を触らせてあげましょう。どうぞ」

 

 そこで、ダイアがなんとさらりと胸を触らせてくれることになった。

 ダイアがあなたの手を掴み、その胸に手を導く。

 うおおおおおおお! でっけぇぇぇぇ! やわらかぁぁぁい!

 

「はぁ……」

 

「お兄様もよろしければどうぞ?」

 

「あのな……いくらなんでも妹の胸を触って喜ぶほど、人の道を踏み外した覚えはないぞ」

 

「そう言うものですか?」

 

「そう言うものだ。だいたい、そうやって軽々に他人に体を触れさせるのもどうかと思うぞ」

 

「ですが、メイドやお付き武官だったイミテルにはよく触れられていましたし、それも問題だと言うのですか?」

 

「そう言われてみると、たしかに同性だったらさしたる問題ではないのだが……いや、しかし……はぁ……なんでもない。僕が間違っていたのだろう、たぶん」

 

 クローナが諦めたように溜息を吐く。

 わりと頭の暖かいところのあるダイアには相当苦労させられてきたのだろう。

 まぁ、王族なのに、妹の教育に苦労していたというところから。

 この兄妹の関係性のよさが伺えるところもあるのだが。

 

「と言うよりかだな、アノール子爵」

 

 なんだろうか。

 あなたは真剣な顔でクローナに答える。

 

「……妹の胸を揉みしだきながら真面目な顔をしても締まっとらんぞ」

 

 あなたはニヘニヘと笑いながらダイアの胸を堪能した。

 

「…………もういい。僕が言いたいのはだな……あー……その、キリムの、獣人の娘だが……」

 

 後半は息をひそめるように、ひっそりとクローナは口にする。

 まるで、名前を呼んではいけないあの人であるかのような口ぶりだ。

 

 クローナが指しているのは、サシャのことだ。

 サシャ……と言うより、サシャの両親を含めた系譜はキリムと言う獣人の氏族だ。

 具体的に獣人の氏族がどういう枠組みなのかは知らないのだが……。

 まぁ、広義の意味のファミリーネームみたいなものだろう、たぶん。

 

 それで、そのサシャの様子だが……。

 

「…………す……殺……殺す……殺す……殺す……絶対に…………殺す……殺す…………す……殺…………す…………」

 

 壁際でブツブツと囁きながら、壁にガスガスと頭をぶつけていた。

 メチャクチャ怖い。なんと言うか、そう、お近づきになりたくない。

 

 さきほど、ハイランダーの少女に負けてからあの調子だ。

 自分の剣が通じなかったのが、よっぽど堪えたらしい。

 まあ、気持ちは分からないではないのだが。

 

 必死になって鍛え抜いてきた剣腕だ。

 魔法も同時に学んでいたりと、専門の剣士でこそないが。

 剣こそが自らを立てる術と信じ、全力で磨いてきた。

 それが、まったく通じなかったのは、サシャの人生の否定に等しい。

 

 剣を手にして、およそ5年間の修身が無意味だったならば。

 それを思えば心穏やかでいられないのは当然だろう。

 

 そして、サシャは常軌を逸した攻撃性の持ち主だ。

 その心理的負荷が、敵に向けての殺意に転じるのも不思議ではない。

 それを仲間に向けないために、壁に向かって自己暗示をするのもわかる。

 

 わかるけど。わかるけどさぁ……。

 

 もう、見た目が怖過ぎるので近付きたくない……。

 サシャの状態から目を反らしたくてバカやってるまである。

 

「……なんとかしろ。おまえの奴隷だろうが」

 

 やだ、こわいもん。

 あなたは直球で断った。

 いまのサシャに触れるのは嫌だ。

 そっとしておこう!

 

「そっとしておいて好転するのか?」

 

 サシャは理性的な少女だ。

 そして、自分の内面への折り合いをつけるのが上手いと言うか。

 内面への没入感、自分の意思への感受性が高く、他者の言葉を聞き入れないところがある。

 根本的に、精神の自由度が高いと言うか……まぁ、我が道を往くタイプなのだ、割と。

 理性的なので、知らないことや間違っていることを受け入れることもできるので、意外とそうは見えないが……。

 

 そもそも根本的に、サシャは自分のことが好きと言うか、自信がある。

 サシャは自分を認められるだけの努力をして来た自負があるし。

 実際に誇ってもよいだけの高度な技能をいくつも持っている。

 周囲の人間に恵まれて育ったおかげで、自己肯定感が高いのもある。

 

 なので、変に声をかけるよりは。

 サシャが自分を答えを出すのを待った方がいい。

 ダメならダメで、あなたがケアをするが。

 いまはとりあえず、待ってみようではないか。

 

「そう言うものか……信じるぞ」

 

 出来ることなら、あなたのケアが必要ないといい。

 いまの荒れたサシャをケアするのは骨が折れそうだ……。

文字数はどの程度が好ましいですか?

  • 2000文字前後
  • 3000文字前後
  • 4000文字前後
  • 5000文字前後
  • 6000文字前後
  • 7000文字前後
  • 8000文字前後
  • 9000文字前後
  • 1万字前後
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。