あなたたちの前で復活する青年。
黄金の髪に、青い瞳の冷たい美貌の青年だ。
「やれやれ、突如として暴力に訴えて来るとはな。この迷宮に秘された秘宝、『
などと冷笑的な視線を向けて来る青年。
『叡王の碑文』と言うのは、名前や流れ的に『無尽の呪文書』のことだろうか。
その価値はもちろんわかっている。
嘘偽りのない、この大陸に存在した文明の隆興と衰退の軌跡が記されているのだ。
その価値の絶大なことをわからないのはよほどのアホだろう。
しかし、それはそれとして。
怪しいところにいたら、敵だと思うだろう、そりゃ。
そう言うわけで、あなたたちは悪くない。
まぎらわしいところにいたおまえが悪い。
あなたはそのように断言した。
だいたい、秘宝の価値と暴力の行使はべつだろうに。
「まぁ、いい。『叡王の碑文』を手にするだけの資格はある……神々の永遠の盟約に基づき、これよりこの秘宝はおまえのものだ」
そう言って、青年が指差した先にあったもの。
それはいつの間にか出現していた台座であり、そこには絢爛な装飾の本が存在していた。
皮革による装丁の為された、この迷宮に立ち入った時にも見た本。
『無尽の呪文書』。この人造迷宮に安置された秘宝である。
やはり『叡王の碑文』とはこれのことを指しているようだ。
「無限の叡智を秘めたる『叡王の碑文』よ。新たな主はおまえの価値を知らぬやもしれんな? だが、愚かにも地下深くに封印し、くだらぬ
べつにいらない。
あなたはエルグランドの『真実の眼』を持ってるので。
まぁ、機能停止しちゃってるけど。
「ほう。その様子では『叡王の碑文』のなんたるかを知らぬようだな。だが、元より秘宝を破壊するような輩だ。やがては真実に辿り着くことだろうよ」
そう言うのいいから……。
ほんと、そう言うのいいから……。
ごちゃごちゃ言ってないで、ふつうに教えてほしい。
「ふむ、拙速を好むのだな。だが、まぁ、いいだろう」
青年はうっそりと笑うと、静かに語り出した。
神々の永遠の盟約、その真実を。
「神々の永遠の盟約。それはこの天球の創造の後、大陸創造の時代にまで遡る。彼方より来る、暴走する生命たる『アルメガ』。その行いに由来するのだ」
「『アルメガ』は遥かな彼方より来た。それがいずこであるかは私にもわからない」
「それが途方もない強大な存在であること……それだけはどれほどの蒙昧であろうが知り得るだろう」
「エルグランドの創造神たる
「しかし、その代償はきわめて大きかった。エルグランドは常世でも幽世でもない、ゆえに生死すらもなき混沌の大地と化したのだ」
「神々の永遠の盟約は、混沌の大地に生命の循環をもたらし、法の根幹を作ることにあった。そのために『嵐を齎す者』が創造された」
「魂を収奪し喰らう『アルメガ』に対抗するべく、別次元より魂を持ち込み。また、別次元より法を持ち込んだ」
「神とは法である。ゆえに、法によって作られた混沌の刃。それこそが『嵐を齎す者』。法を制定する規範だ」
「それゆえに、手にすれば法を覆す力を持つ剣。ルス・マクナの時代に鋳造されし、始まりにして永遠の神剣」
そこまで言い切って、青年はあなたを見据えた。
「おまえはどうやら、神々の永遠の盟約の究極目標は
知っている。
『アルメガ』を倒すためだ。
「あれを倒すには尋常の手段ではままならん。ゆえに、それを成せる英雄を求め、その英雄が手にするべき剣が創られた。それが、『嵐を齎す者』だ」
へぇ~、そうなんだ。
じゃあ、ちょうだい。
あなたはくれるならもらうつもりだった。
「ならば、手にすることだ。『叡王の碑文』を手にし、その在り処を探し求めろ。すべての『叡王の碑文』を手にした時、その道は開かれるだろう」
なるほど。
じゃあ、『叡王の碑文』こと『無尽の呪文書』はもらっていこう。
話の流れ的に、アルトスレアとファートゥム、そしてボルボレスアスにもあるのだろう。
それがどこまで本当かはわからないが……。
ひとまず、真実だと考えて動くのはアリだ。
すべての大陸の、すべての真実をつまびらかとすることができる。
それは知的好奇心の塊たるあなたには最高の誘い文句だった。
「いかにも。そのすべてを手にするのだ。さすれば、すべてがおまえの思うがままだ。世界を救う英雄には相応しい褒美やもしれんな? クックック……」
青年は冷笑する。
世界を救う秘宝を、くだらぬ欲望で使うことを冷笑でもしているのだろうか。
だが、あなたはそんな冷笑をされても痛くもかゆくもない。
『嵐を齎す者』とやらで、名前通りに現世に嵐をもたらしてやろうではないか。
全世界の女はあなたとえっちなことしなきゃいけない法律とか制定しよう。
毎秒女の子とえっちしたとしても、何年かかるんだろう! 楽しみだ!
そのために『叡王の碑文』とやらを集めなきゃいけないなら喜んで集める。
『嵐を齎す者』とやらも、流れ的に間違いなくイモータル・レリックだ。
収集家としては絶対に手にしておきたいものだろう。
「おい、おい、待て。トイネの秘宝だぞ。持ち出すつもりか」
そこでクローナがあなたのことを止めに来た。
ごめんけど、欲しいからもらってくね。
本当に申し訳ないのだが、欲しいので許して欲しい。
国宝に値するだろう品を持ち出すのも。
そして、持ち出した結果として壊れるのも。
本当に申し訳ないとは思うのだが……。
でも、欲しいからしょうがない。
あなたはそんな理屈で『無尽の呪文書』を手にする気だった。
申し訳ないとは思うが、止まる理由にはならない。
「ぐっ、くっ、くく……!」
クローナが必死で考え込む。
考え込むが、答えは出ないだろう。
かわいそうだが、この状況を打開できる策などありはしない。
普段なら女をエサにすればあなたは言うことを聞く。
実際、トイネの女すべてを好きにしていい許可であなたはトイネのために戦った。
だが、『叡王の碑文』を手にすれば、あなたにそんなエサは不要だ。
なぜなら、あなたが新たな法を制定し、好き勝手できるようになるのだ。
その法で全世界の女の子とえっちなことをしよう!
ついでに世界も救うので許してほしい。
『アルメガ』を倒すためにがんばるから。
「『アルメガ』とやらがなんだかは知らんが……なにか、恐るべき敵なのだな?」
まぁ、なんかすごい敵だ。
あなたにもいまいち規模がよく分かっていないのだが。
事の次第では、大陸そのものが滅びかねない敵である。
「……手放すことは、ひどく惜しいが……おまえを止める手立てがない。ならば、せめて世のためになったと思わねばやってられんな……分かった、持っていけ……」
クローナは消沈したような雰囲気で『無尽の呪文書』を持ち出す許可をくれた。
本当に嫌々ながらも、その許可を出せるあたりにクローナの度量が伺えた。
そして、許可をもらえたことであなたもほっとした。
どうしても欲しいから無理やりにでももらうつもりではあった。
だが、円満でこそなくとも、穏便にもらえたほうがいいのは当然だ。
そうして、あなたは『無尽の呪文書』を手にした。
そして同時に、トイネの秘宝たる『無尽の呪文書』は破壊された。
「おめでとう、救世主よ。これでおまえはまた1歩、世界を救う使命の達成に近づいた。せいぜい、おまえの奮闘を見守っているぞ」
青年が冷たい氷の瞳でそんなことを囁く。
あなたはそこで、気になっていたことを尋ねることにした。
エルグランドの『真実の眼』とリリコーシャの『無尽の呪文書』。
これらを再起動する手立てはあるのだろうか。
「ほう、使い終わった後のことも考えているのか。そうだな、後始末こそ抜かりなく行うのが知者と言うもの。ならば答えるとしよう。手はある」
やはりあるらしい。
あなたは続けて、それはどうやるのかと尋ねた。
「なに、たやすいことだ。『叡王の碑文』は本来は1つのレリック。5つに別たれて配されたことにより迷宮による補助を必要としたのだ。それゆえ、再度1つにまとめ直して『アーカーシャ年代記』へと戻し、再度5つに別けて配すのだ。それによって再起動は叶うことだろう」
元々1つのレリックだったとは。
もしや、その1つのレリックで惑星の情報すべてを記していたのだろうか?
考えただけでワクワクしてくるような情報だ。
それに、アルトスレアにも、ボルボレスアスにも、ファートゥムにも『叡王の碑文』がある。
それはおそらく現地でそれぞれに別の名で呼ばれているのだろう。
それらを探し求め、全世界を旅する……そんな日を想像すると、それだけで胸が躍る。
あなたの冒険心は無限に燃えていた。
「……絶対に手にしてはいけない宝物を手にしようとしているんだけど、どうしたらいいのかしら」
「どうしようもないんじゃないですか?」
「あっさりと諦めないでちょうだい……」
「でも、ご主人様のことだから最悪のことにはならないと思うんですよ」
「全世界の女を抱くつもり満々なのに?」
「全世界の人間を奴隷にしたり、自分が世界の頂点に立とうとしたり、万物を思うがままにしようとはしなさそうじゃないですか」
「……そう言われると、それはたしかに」
「たしかに、ご主人様はろくでもない最悪の使い方はすると思います。事実、領地でしょうもない悪法をしれっと敷いてますし。初夜権の利用なんて今どき聞きませんよ」
「そうね……」
「でも、その悪法以外は、正しいことに使ってくれるんじゃないかなぁ……とは思えるんです。言葉通り、世界を救うために使ってくれるような……」
「そう、そうね。たしかに、そう言われてみると……頭のイカれた女好きを除けば、善良なのよね……」
「はい、ですので、そう心配はいらないかなと」
「そうね、私もそう思うことにするわ……」
「トイネの秘宝たる『無尽の呪文書』が……はぁ……」
「陛下、お気をたしかに」
「お兄様、そう落ち込まれないでください。本が1冊無くなったくらいでそんなに落ち込んでは大変ですよ」
「おまえはな……あの書にどれだけの価値があったか分かっているのか?」
「わかりません」
「真っ直ぐな瞳で、真っ直ぐに情けないことを言うな。おまえ王族だろうが……いや、いい……」
「はい」
「いいか、あの書はこの大陸での行いのすべてが記される……つまり、この大陸……周りの国のこととかも、なんでもわかるのだ」
「はい」
「隣国のマフルージャも、ランネイも、すべての動向が筒抜けなのだ。ええと、つまりだ、どっちの国も、なにをしようとしているか簡単にわかるわけだ」
「はい」
「では、その状態で戦いになれば、どうなるかわかるか?」
「戦いになると……何をしようとしているか分かるのですから……軍をどこに連れて来るかわかるのですね!」
「そう、そうだ。その通りだ、ダイア。よく分かったな、えらいぞ」
「ありがとうございます、お兄様」
「そして、この国のこともわかるので、貴族どもが内乱でも企てれば瞬く間に露見するわけだ……」
「はい」
「……つまり、悪いことを考えているやつがいたら、すぐわかってしまうのだ。悪いやつがいたら、どうするかわかるな?」
「はい。王族の責務として、捕まえて秩序をもたらさなくてはなりません」
「そうだ、その通り。しかし、普通は悪いやつがいたとしても、悪いことをしてからわかる。そうだな?」
「はい、そうですね……事前に見つけるのは、とてもむずかしいことです」
「だが、あの『無尽の呪文書』があれば、考えただけでもすぐに分かってしまうのだ。あれのおかげで、悪いことをしようとした貴族を捕まえることもできたのだぞ」
「なるほど! とても大事な道具だったのですね!」
「分かって来たようだな。とても大事なものだったのだ。いいな」
「はい」
「だから失ったのはとても惜しいのだ……はぁ」
「ですが、お兄様。それが普通なのではありませんか?」
「……ん?」
「私はいつもわからないことばかりです。ですが、それを恥だとは思いません。分からないことを知り、学ぶことができます。お兄様のように、丁寧に教えてくださる方もいます」
「僕も同じように、学べと言うことか?」
「はい。事前に知ることはできなくても、お兄様は私よりもずっと賢いのですから。きっと、どうにかできるのでしょう?」
「……やれやれ。おまえに学ばされるとはな。明日は雨かもしれん」
「まぁ、雨が降るのはいいことですね。土地がうるおいます」
「皮肉だ、皮肉……むかしから僕はそうやって、おまえの無垢な尊敬の目線に動かされて来た。おまえの眼だけは、どうしても裏切れんのだよな……はぁ。やれるだけのことは、やるか」
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