あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 あなたはトイネの秘宝を手にし、その内容をパラパラとめくっていた。

 最初の頃の方を見ても、ロクな記述がない。

 これで本当に『嵐を齎す者』とやらに辿り着けるのだろうか。

 

「『嵐を齎す者』は秘されている。『アーカーシャ年代記』にしなければ、その記述すらも見つけられんだろう」

 

 なるほど、断片的にすら情報は手に入らないわけだ。

 となると、『嵐を齎す者』は完成させない限りは手に入らないと。

 ならば、なんとしても『アーカーシャ年代記』を完成させたい。

 全世界の情報を、過去に渡って見れるというのも魅力的だし。

 

「探すことだ。そこにすべてが記されている」

 

 ちなみにヒントだけでも貰えたりしないかな?

 

「ない。せいぜい努力することだ」

 

 くっ、残念……だが、それもまた冒険か。

 上古の時代から存在する古代遺跡とかを探すところから始めるとしよう。

 なかなか苦労させられそうだが、なんとかなると思いたい。

 

 まずは、見つけやすそうなアルトスレアからか。

 あちらにはそれなりのコネがあるので、まだしも探しやすいだろうし。

 ボルボレスアスも、まぁ、ハウロくらいはコネがあるし。

 

 問題はファートゥムか……。

 あなたも行ったことのない大陸だ。

 まずはあそこになんとかして到達しなくては。

 その上で冒険し、古代遺跡を探し出す。

 なかなか骨が折れそうだ……。

 

 まぁ、そのあたりは追々と言うことで。

 いまはとりあえず、『無尽の呪文書』の扱いか。

 備忘録のまとめ先は『真実の眼』がひとつあれば十分。

 かと言って、せっかくのレリックだ。死蔵するのも惜しい。

 そこで、あなたはそれをレインへと渡すことにした。

 

「へ? なんで?」

 

 あなたが持っていてもいいのだが。

 そこに記載された過去の情報から、呪文を読み出すのはレインの方が有益に使えるだろう。

 あなたはエルグランドの魔法で十分だ。

 

「そ、そう? でも、トイネの秘宝なのに」

 

 元々はそうだが、いまはあなたの所有物だ。

 気にすることはない。遠慮なく使って欲しい。

 そのように言うと、レインが気まずそうにクローナを視線で窺う。

 

「僕に気を遣わなくともいい。その秘宝はもう子爵にくれてやった。まぁ、再度使えるようになったら、返してほしくはあるがな……それまでは好きに使え」

 

 だ、そうなので、遠慮なく使って欲しい。

 なんたって、トイネの女王のお墨付きだ。大手を振って使えるだろう。

 

「それじゃあ、せっかくだから……有益な魔法を覚えて、あなたの力になるわ」

 

 よろしく頼む。あ、あと、えっちな使い方ができる魔法は覚えたい。

 そう言う魔法が見つかったら、ぜひともこっそり教えて欲しい。

 

「はいはい……まったく、あなたの頭の中はそればっかりね。ま、それがあなたなんだけども」

 

 なんて、苦笑されてしまった。

 

 

 

 さて、迷宮を踏破し、その最奥から秘宝を手にしたわけだが。

 この迷宮は、やっぱり大人しく徒歩で上に上がっていくしかないのだろうか?

 

「不要だ。上に上がればそのまま出れる。これは『叡王の碑文』を手にしたものを試すための試練だ。去る者を逃がさぬような性格のものではない」

 

 とのことで、あなたたちはそのまま外に出ることにした。

 

「待て。『呻きの刃』を返せ」

 

 が、その前にあなたは引き留められ、レリックの返却を求められた。

 このやかましい剣を返してもらいたがるなんて、特殊なマゾだろうか。

 あなたはそんなことを疑いつつも、クローナに目線をやった。

 

「返してやれ。ザルクセンのカスどもに渡るよりはマシだ」

 

 とのことなので、あなたは大人しく『呻きの刃』を返した。

 2本あってもしょうがないので、べつに惜しくもない。

 

「よろしい。ああ、そうだ。ついでに教えておいてやる。この剣は『嵐を齎す者』の兄弟剣だ。この剣には、武具としての性質しかないがな。武具としての性能、外見はまったくの同等だ」

 

 有益な情報かはわからないが、それなりにタメになる情報だ。

 あなたは礼を言うと。最後に青年が何者なのかを尋ねた。

 エルグランドの迷宮にもいたが、同一人物なのだろうか。

 そして、なぜこの迷宮にいて、『アーカーシャ年代記』なるものを知っているのか。

 その上、おそらく他に誰も知ることのない、はじまりにして永遠の神剣を知っていたのか。

 

「ふむ。問われるなど、はじめてのことだな。よかろう、応えてやる。私は人造迷宮の管理を行うべく創り出された生命だ。虚空神の神使(しんし)と思えばいい」

 

 ということは。

 この人造迷宮を拡張して、あなたたちに戦いを課したのも?

 

「いかにも。あの程度を乗り越えられぬ者に、『叡王の碑文』を手にする資格などない」

 

 エルグランドの『叡王の碑文』こと『真実の眼』はあっさり手に入ったのに。

 

「だろうとも。次の『叡王の碑文』を手にする時に課される試練はさらに重かろうよ。覚悟しておくのだな」

 

 なるほど、試練を乗り越える都度に厳しくなっていくと。

 わかりやすいやり口だ。なんとしても乗り越えてやろうではないか。

 ただ、次はさすがにあなた1人で挑みたいところだった……。

 

 

 

 

 迷宮の階段を上ると、そこはあなたたちが最初に足を踏みいれた礼拝所のような空間だった。

 さきほどまで『無尽の呪文書』が乗っていたはずの台座もある。

 そこにはもちろんのこと『無尽の呪文書』の姿はなかった。

 

「……やれやれ」

 

 クローナはその台座に口惜しそうな視線を送った後、振り払うように溜息を吐いた。

 あなたはそんなクローナの背に、ごめんね、と思わず謝った。

 欲しくてしょうがないから手にしたが、申し訳ないと思う気持ち自体はある。

 

「謝罪などいらん。謝罪されたところで何の得もない」

 

 それもそのとおりだ。誠意とは言葉ではない。

 あなたは自分にできることならするから、と告げた。

 そして、それを口にしたと同時に最悪の過ちを起こしたことに気付いた。

 絶対に言っちゃいけないことを、絶対に言っちゃいけない相手に言ってしまった。

 

 あなたは恐る恐るクローナの顔を見る。

 そこには満面の笑みが浮かんでいた。

 今まで見たことないくらい最高の笑顔だった。

 

 いや、この笑顔をあなたは見たことがある。

 ダイアが浮かべていた、おひさまのような笑顔だ。

 それをクローナが浮かべているのは、とても違和感がある。

 だが、そんな笑顔を浮かべてしまうほどに、それは最高の言葉だったのだろう。

 

「おい、おまえたちは今の言葉は聞こえたか?」

 

 クローナの問い。

 

「聞こえてなかったです」

 

「何か言ったかしら?」

 

 あなたの顔色の悪さを察してか、サシャとレインがすばやくフォローをしてくれた。

 あなたもあなたで、震える手で備忘録を開き、そこに目線を走らせる。

 そして、私のログにはなにもないな、と告げた。

 そりゃそうだ。今言ったばかりのことなんだから。記入してるわけがない。

 動転するあまり、あなたはへったくそなごまかしをしていた。

 

 クローナがあなたたちの発言を聞いた後、残る2人……。

 つまり、自分の配下たるウィチヘンと、妹たるダイアに目線を向けた。

 

「えー、あー……その、私はあまりしっかりとは聞いておりません」

 

 ウィチヘンはギリギリのところであなたの味方らしい。

 王家への忠誠よりも、家への帰属心が勝ったのだろう。

 自領を持つ領主としては正しい方向性だ。

 

「ええ、お兄様。たしかに、出来ることならしてくれると言っておりましたね」

 

 そしてダイアは見事にあなたを裏切った。

 いや、裏切ったつもりすらないのだろう。

 単純に聞かれたことを答えただけであって。

 

「なるほど。アノール子爵よ。そう言うわけで、おまえはできる限りのことをしてくれるわけだな?」

 

 あなたは必死で反論を試みる。

 聞いていたのはクローナとダイアだけ。

 身内を助けようと言うのは自然な発想だろう。

 そう言う意味で、ダイアの証言は信憑性が薄いのでは?

 

「アノール子爵よ。その言葉、神に誓って言えるか? 絶対に言っていないと、おまえの信ずる神に言えるか?」

 

 あなたはクローナの問いに泣いた。

 それを引き合いに出されちゃなにも言えない。

 わかった、認めよう。あなたは失言をした。

 そして、失言であっても口にした言葉は消えない。

 あなたはクローナのためにできることをなんでもしようではないか。

 

「なに、そう無茶を言うつもりはない。フフフ……なんでも言うことを聞いてもらえる権利が手に入るとはな。秘宝にも匹敵するやもしれん価値だな?」

 

 何でも言うこと聞く権利だったら、あなたはもちろんそう言うことをするわけだが。

 しかし、クローナのことだから、国益になるような使い方をするのだろう。

 乱暴されたかった。えっちな本みたいに。えっちな本みたいに。

 

「まぁ、書状をしたためろとまでは言わん。あくまで口約束だ。法的な拘束力を持つものではない」

 

 口約束であっても権力者相手にした約束とは重いものだ。

 だが、たしかに書状にまでしろとは言われないだけありがたいか。

 そこまで行くと完全に法的な拘束力を持ってしまう。

 

 ただの失言から、法的拘束力を持つ書状の作成までさせるのはやり過ぎだ。

 そう言うところのさじ加減がしっかりしてるので、まだ安心できるか……。

 

「なにをしてもらうとしようか……いや、夢が広がるな」

 

 クローナはそんなことを言いながらほくそ笑んでいる。

 あなたは溜息が出るばかりだった……。

 

 

 

 迷宮を出て、王宮に昇る。

 そして当然だが、王宮は騒然としていた。

 

 そりゃそうだ。突然王がいなくなったらそうもなる。

 あなたたちはざっくりと半日は留守にしていたのだから。

 クローナはその事態の収拾に出張り、クローナと同じ姿のダイアは外に出れず。

 

 そして、あなたたちは王宮に滞在していた。

 ダイアをひとりで置いて行ったらかわいそうだし。

 元々の目的を忘れていなかったからでもある。

 

「そうよね……私たちは、歴史を調べるために来たんだったものね……」

 

「そうでしたね……すっかり忘れてました……」

 

 あなたたちの本来の目的は、この王宮の蔵書を読むこと。

 クヌース帝国黎明期に存在したと考えられる、嵐の巨人王ノグリア。

 それが実在したことを知りたいがために来たのだ。

 

 幸いと言うべきか、あなたたちの手元には最高の歴史書がある。

 いまはレインに貸し出されている『無尽の呪文書』である。

 この大陸の歴史が、有史以来すべて記されているという。

 ここに記されていなかったならば、存在しなかったということだ。

 

 だが、あなたは『叡王の碑文』の使い方が大変なことをよく知っている。

 あなたがかつて、真の歴史を調べるために2年近くの歳月を費やしたように。

 あまりにも膨大な記述ゆえに、それを辿るだけでも大変な時間がかかるのだ。

 

「めくってもめくっても終わらない……! まだ10年しか遡れてない……!」

 

「こ、これを、さらに100倍捲らなきゃいけないんですか……」

 

 なんせ大陸の歴史すべてなわけで。

 トイネの歴史じゃなく、大陸の歴史だ。

 マフルージャもランネイも、それ以外の国々も。

 

 そのすべてが例外なく記されているのだ。

 それも、どこそこの村の誰それが結婚したとか。

 さる寒村で生まれた幼児が1歳にもならずに死んだとか。

 いくらなんでも事細かに記し過ぎだろってくらいに克明にすべてが記録されているのだ。

 

 何千ページとめくって、ようやく10年。

 これは記録を探るのにプロジェクトチームが必要なレベルの大仕事だ。

 検索機能でもあればいいのだが……生憎とそんなものはなかった。

 

「検索魔法とか作る方が速いかもしれないわね……1ページ捲るのに魔力が必要なのもキツイわ」

 

「ご主人様って、同質のレリックの記述を浚ったんですよね? いったいどうやったんですか?」

 

 100倍速に加速すれば100倍速で本が読める。

 もちろん、100倍の速さで疲れるし、100倍の精神疲労が積み重なる。

 外の時間では2年間だったが、あなたは当時すでに20倍速くらいにはなれた。

 じゃあ、実際のあなたが体感した時間は……。

 

「ひえ」

 

「想像したくない……」

 

 だが、ここは幸いと言うべきか、王宮だ。

 あなたたちは客人用の部屋に通されているし。

 最上の客人として遇するようにとクローナの命も出されている。

 

 なので、本を捲る助力こそ望めないが。

 食事や寝床、リラックスの世話などはいくらでもしてくれる。

 あなたの屋敷でもそのあたりはおなじだが。

 屋敷だとあなたにはなにくれとなく仕事がある。

 この王宮ならばその心配はいらない。

 3人がかりでページをめくるのに専念することが可能だ。

 

「ページをめくるのに専念するって言うのがね……まぁ、やるしかないんだけど」

 

「大量に魔力を注いだら一気にガバッと捲れればいいのに……」

 

 1枚1枚大人しく捲るしかないのだ。

 地道にやろうではないか。

 あなたたちは地味な調べもの作業に専念することとした。

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