あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 ひたすらページをめくる。

 めくりにめくりまくり、やがて、あなたたちは1000年前の記述に到達した。

 クヌース帝国の誕生、その黎明期頃の記述である。

 

「ようやく、ようやく到達したのね……!」

 

「これで私たちの苦闘が報われます……!」

 

 レインとサシャが感極まったような表情をする。

 そんな2人に、あなたは残酷なことを言うようだが真実を告げた。

 ノグリアの記述があるか調べるのはこれからだ。

 到着したのはゴールではなく、スタートラインだ。

 

「ぬえへぇ」

 

「うわへへ」

 

 2人とも奇声をあげて崩れ落ちてしまった。

 なんてことだ。残酷な真実に2人は耐え切れなかった。

 と言うより、気付いてはいても目を反らしていたのだろう。

 

「これから……これから精読していくって言うの……!?」

 

「あ、ちょうちょがとんでる」

 

「ほんとだぁ、ちょうちょがとんでるぅ」

 

 サシャが現実逃避をし、レインがすかさず追随。

 あなたはそんな2人を現実に連れ戻すべく発言する。

 自分は屋敷に帰るから2人はそのまま頑張ってね、と。

 

「待ちなさいよ! あなたも現実逃避に付き合いなさいよ!」

 

「私たちを置いて行かないでください! 王宮に置き去りにするなんて、どうしてそんな残酷なことができるんですか!」

 

 2人がすごい剣幕で怒り散らして来た。

 まぁ、そうなるな。

 

 なんせ、2人はあなたの友人とか従者としてここにいる。

 2人はトイネの王宮とはまったく縁遠いし、縁のある人間もいない。

 ここにはあなたの従者や同行者として入って来た。

 そして、あなたの従者だから丁重に扱われているのだ。

 

 そこであなただけ帰ったら、それはもういたたまれないだろう。

 あなたの従者なのでだれも粗略には扱えないだろうが。

 なんでまだいるんだこいつら、みたいな眼で見られるに違いない。

 その状態で日々を過ごすのは針のむしろだろう。

 

「でも、無理よ! 私の心はポキッと折れたわ! 私の心が折れた音が聞こえなかった!?」

 

 聞こえるわけがない。心が折れる音なんてないのだから。

 そう言いたくもなったが、言わんとするところはわかる。

 自分でハッキリわかるくらいの勢いで心が折れたということだ。

 

「聞こえなかったの?」

 

 レインが再度問うてくる。

 あなたは言わんとするところは分かるとだけ返した。

 

「聞こえなかったのね?」

 

 しつこく聞き返して来るので、あなたは正直に聞こえなかったと答えた。

 

「そう、じゃあ聞かせてあげるわ」

 

 よもやレインは心の折れる音を聞かせられる……?

 まさかの技術にあなたはにわかに興味がひかれた。

 しかし、そんなあなたの思惑を超越するようなことをレインがはじめる。

 

 ローブの前を開いたかと思うと、なんとその下に着ていたチューブトップの服を押し下げて谷間を露出させるではないか!

 レインのほどよい大きさの美しい曲線が露わとなっていく。

 あなたはその姿に目が釘付けになる中、レインがそっと囁く。

 

「ほら、聞いていいわよ?」

 

 わぁい、聞く聞く。

 あなたはレインの胸に包まれに行った。

 最高の感触にあなたの口元がにやける。

 

「ね? 私の心の折れる音が聞こえるでしょう?」

 

 聞こえる聞こえる。めちゃくちゃ聞こえる。

 バッキンボッキンと折れる音が聞こえてくる。

 まるで激戦の末にへし折れた名剣のような轟音だ。

 

「だからもう頑張れない。そうね?」

 

 うんうん、そうだね。

 

「じゃあ、帰りましょうか」

 

 よし、帰ろう。

 あなたはウキウキでレインの提案を肯定した。

 

 

 あなたは王宮の方に諸々の連絡をした後、屋敷に帰って来た。

 トイネのアノール子爵領ではなく、マフルージャの王都屋敷だ。

 もちろん、レインの手には『無尽の呪文書』がある。

 3人でがんばって時間をかけて解読していくのだ。

 

「まぁ、ここまで来たら、考古学者とか言語学者あたりを招聘して解読させるって手もあるんだけどね」

 

「そうですね。1度めくってさえしまえば、後は誰でも読めるみたいですし」

 

 そう、読むのに制限はない。

 逆を言えば、めくるのには制限がある。

 だからこそ、あなたたちがひぃひぃ言いながらめくっていたのだ。

 

 〇階梯が使えたら〇ページくらいハッキリしたものではないが。

 それでも明白に制限があり、誰でもめくれるものではない。

 サシャは800年ほど遡った段階でめくれなくなってしまった。

 レインとあなたはまだまだ余裕でめくれるのだが。

 

 クローナがあなたたちなら相当過去にめくって読めると言っていたが。

 そう言う、純粋に力量を測定して制限を付けるような機能があるらしい。

 『真実の眼』にはない機能だ……もしかしたらあったのかもしれないけど、気付けなかったのでないと同じだ。

 

「でも、さすがに……トイネの秘宝だものね……」

 

「ですね……」

 

 しかし、今度は歴史的価値があなたたちの前に立ちふさがる。

 トイネの秘宝をみだりに人の眼に触れさせるのはまずいと。

 あなたにすれば気にすることではないと思うのだが……。

 

 まぁ、クローナもできればやめてほしいと言っていたし。

 そのあたりには従ってやるのも貴族としての責務か……。

 従って置いた方が、のちのちにクローナに恩を着せられるし。

 こういうところで卑劣ポイントを稼いでおくのが貴族の嗜みだ。

 

「まぁ、べつに急ぎってわけではないし。時間をかけてやりましょう」

 

「はい。フィリアさんや、薬師様も手伝ってくださるでしょうし、がんばりましょう」

 

「そうね。でも、今日は英気を養う必要がある……そう思わない?」

 

「思います」

 

 レインとサシャがあなたに目線を送って来る。

 あなたは2人に苦笑しながら頷く。

 レインは好きなだけ飲めばいい。

 サシャはクロモリを好きなだけ虐めればいい。

 

 ただ、度が過ぎるようなことは禁止だ。

 レインは吐くほど飲まないように自制して欲しいし。

 サシャはクロモリを死に至らしめないように。

 

 どうしても吐くほど飲むならあなたにお持ち帰りされるつもりでいて欲しいし。

 クロモリを死なせるくらいなら、あなたを鞭で打ったり万力で挟めばいい。

 

「わかりました! いってきます! 逃げれないように足をポキッといってやりますよ!」

 

「そろそろ、あのクズの買い集めてたワインのコレクションを飲み干せるのよ! いってくるわ!」

 

 2人とも水を得た魚のようにイキイキとロクでもない宣言をする。

 昔は2人とも、もう少し落ち着いてたり、淑やかだったと思うのだが。

 いったい誰の影響だろう。やっぱり、あなただろうか。あなただろうな。

 身から出た錆だが、仲間がロクでなしになったのはちょっと悲しかった。

 

 ……いや、レインはあなたに出会う前から酒を飲み歩いてたっぽいけど。

 じゃあ、あなた悪くないじゃん。よし、あなたは悪くなかった。

 サシャ? 性癖は生まれ持ったものなので、やっぱりあなたは悪くない。よし。

 あなたは清廉潔白だった。

 

 

 

 さて、ろくでもないことをしにいった2人はさておき。

 あなたは屋敷の主として、屋敷をゆったりと見て回った。

 

 以前に増やした使用人たちが馴染めているかを確認し。

 雇い入れた使用人たちが無事に仕事をこなせているか。

 また、使用人1人1人の様子を見て問題がないかを確認し。

 

 あなたは屋敷の主としての責務を果たし終える。

 そして、あなたは地下室へと出向いた。

 

「あら、おかえり。あなたも一杯どう?」

 

 地下室……ただの食料保管庫とワインセラーなのだが。

 その保管庫の方は、べつにそこまで寒くはない。

 なので、レインはそこで酒をガバガバと飲んでいた。

 そして、あなたは最近拡張された地下室の方へと目線を向ける。

 

「ああ、そっちね。サシャが使ってるわよ」

 

 なにも聞こえないのだが。

 あなたはとても嫌な想像が脳裏を過ぎる。

 サシャもクロモリも、もう声を挙げれない状態とか……。

 

「ああ……静かなのは、魔法よ。『静寂』をかけてあるわ。ちょっと特別な方法でね」

 

 『静寂』。かけた空間に完璧な静寂をもたらす魔法。

 音声要素が必須な魔法の発動を妨害する作用もある。

 だが、それはこちらのくくりで言うと、信仰魔法なのでは。

 たしかレインにその魔法は使えなかったはず……。

 

「ええ、そうね。でも、最近思うようになったのよね」

 

 なにを?

 

「秘術と信仰、その2つの魔法って、本当に境界や区分けが必要なものなのかしら、って」

 

 そのあたりは、あなたからすると最初から結論が出ている話だ。

 そんなものはない。少なくともエルグランドではそうだ。

 

 だが、レインやフィリア、そしてサシャのような、この大陸生まれの魔法使いは違う。

 明白に信仰と秘術の魔法は違うものであり、それは並立するものではない。

 魔法能力には明白な境界がある。それは疑いようのない事だろう。

 

「でも、あなたは違う。あなたは信仰魔法でも秘術でも平気で使えるでしょう?」

 

 たしかにそのとおりだが。

 

「信仰魔法であってもスクロールは作れる。つまり、呪文回路は明白に存在していて、その作用も読み解ける。なら、使えないのはなぜ?」

 

 信仰魔法だから、としか言いようがないと思うが。

 

「ええ、そうね。でも、その前提そのものが間違いだったんじゃないかって、最近思うようになったわ。ただ、それを使えるようにする訓練を受けていないだけなのよ」

 

 まぁ、それはそうではあるのだが。

 だが、信仰魔法と言うのは神が授けてくれるものなのでは。

 

「私だってウカノ様の信徒よ。魔法を授けられてもいいはず。そもそも神秘のパワーがどこからくるのか……どうあれ、私は出来るのではないかと思った。そして、訓練をして、結論が出た」

 

 それが、あの部屋を覆っている『静寂』の魔法と。

 

「人間の魔法の力に、限界はあるかもしれない。でも、境界なんてなかった。それは、人間が勝手に定めたラインに過ぎなかったことに、ようやく私は気付いた。秘術と信仰の力は、両立できる。あらゆる神秘のパワーは私の中に宿り、この運命ですらも操れると私は信じているわ。そして、その通りになるのよ」

 

 酒に酔った顔で、だが、酩酊による妄言ではないのだろう。

 レインの精神のステージは、想いが限界を超える領域に達したのだ。

 精神が肉体を超越しているために、常人の持つ限界や制限を超えられる。

 本当はどうなのか不明だが、あなたにはそのように感じた。

 レインの精神面は超人の域に達し、常人では並立し得ない2系統の魔法の習得を実現したのだ。

 

「まぁ、さすがにまだ信仰魔法は2階梯までしか使えないんだけどね。でも、そのうちさらに上達するわ。いずれは、9階梯にすらも手が届くでしょうね」

 

 レインのそれは、願望や願掛けの類ではなかった。

 もはや確信の域に達していた。レインは自分の力に絶対的な自信を持ち始めた。

 極めた神秘のパワーが、世界の見え方を変革させたのだろう。

 いいことだ。この調子で強くなってもらいたい。

 

「ま、そう言うワケで、私が『静寂』を壁に丁寧にかけてあげたのよ。『永続化』もかけたから、部屋を壊さない限りは持続するわ。おかげで、あの部屋で大暴れしても何も聞こえないわ」

 

 わざわざそんな施工をしてくれてありがたい限りだ。

 よっぽどの手間暇がかかっただろうに。

 

「隣でギャーヒィーグワーとか叫ばれちゃ酒がまずくなるのよ」

 

 なるほど、そう言う。

 まぁ、あとで代金は払おう。

 

 さて、そう言うわけであれば、部屋の中は心配いらないと言うことだろう。

 悲鳴がさっぱり聞こえてこないので不安に思ったのだが。

 『静寂』のおかげであれば聞こえてこないのも当然。

 

 あなたは安心して地下室の扉を開いた。

 ノックしても『静寂』のせいで聞こえないからしょうがない。

 

 扉を開いたあなたは、内部の光景を目撃する。

 そこには三角形の木材に座らされ。背中を鞭でビシバシ叩かれているクロモリの姿。

 この間の拷問用のやつではなく、乗馬鞭のようだ。

 あれはあれで痛いが、拷問用より格段にマシだ。

 

 サシャも最低限の手加減はするようになったらしい。

 クロモリも恍惚とした表情で虐められているので心配はいらなさそうだ。

 

 あなたはそっと扉を閉じた。

 2人が楽しそうでなによりだ。

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