レウナたちと話し合い、次の冒険の目標を確認し。
それからなにと言うこともなく雑談を交わし合っていた。
「そう言えば、性犯罪者のカスどもがいるが、おまえは遭ったか」
「誰ですかい、性犯罪者のカスどもってェのは」
「『トンネルワーカーズ』のだ」
「モモロウさんですかい」
「そうだ」
レウナとリフラの共通認識として、モモロウは性犯罪者であるらしい。
「モモロウさんは前に、レウナさんが作ったチンコマシーンとやらでチンチンがもげて女の子になったと思ってたんですがね」
「辛うじて無事だったらしいぞ。しぶといやつだ」
「そいつァ残念。なんたってモモロウさんのモモロウですからねェ。ご祝儀、もとい香典くらい出してやってもよかったと思ってたんですがね。いやァ、残念残念」
なんだろう、その、チン……下品な名前のマシーンは。
「クジラのヒゲを使ったバネで、ムチを人間の股間に叩きつけるお仕置き道具だ。木工細工で作った」
なるほど、モモロウを懲らしめるために。
「いや、トモを懲らしめるために作ったんだがな」
なんでまた?
「あなたは知っていると思うが、モモロウがトモに殺されかけたことは知っているな?」
あなたは頷く。
たしか、モモロウにそれはそれはハードなプレイをしたら心臓が止まったとか言う話だ。
どう考えてもやり過ぎであるが、まぁ、若さとは止まれないこともある。
「その際に、隣の部屋にいた私とリフラが救護してモモを蘇生したわけだが」
「あんときはたまげやしたね。髪に白いのがデコレーションされたモモロウさんの前後から白いのが……」
「汚いからやめろ。で、その後に救護した私と、『ハンターズ』のメンバーで協議した結果、トモにはお仕置きが必要と言うことになってな」
なるほど、それでお仕置きのために下品な名前のマシンを作ったと。
クジラのヒゲを使ったバネで、股間を痛打する道具……いや、理屈はわかるけど。
なんでわざわざ機械にしたのだろうか。ふつうに手動で殴るのではだめなのだろうか。
「いま考えてみると、なぜなんだろうな……」
「たしかに、なんでだったんですかね……」
「たしか、発端は尻をハンマーで殴られるか、サクラに尻を蹴られるか、コリントにビンタされるか選ぶという話だったと思うんだが」
「ああ、そんでたしか、その流れならチンコマシーンかキンタマシーンの方がいいとかって話になったような……」
「たしかそうだ……いや、なんでそうなる……?」
「さぁ……?」
レウナもリフラも不思議そうにしている。
あなたも不思議だ。なんだその下品な名前のマシーンは……。
「まぁ、ともあれ、木工細工が得意だった私がチンコマシーンを作ったんだが」
「なかなか手間がかかってやしたねェ」
「しかし、さすがにぶっつけ本番で投入とはいかんだろ。まずは実験が必要だ。それで、人体を破壊しない程度の威力に調節するのは容易だったんだが……」
「適当に革袋でもなんでも当ててみて、破れねぇ程度にしたら大丈夫でしょうからねェ」
「しかし、そこで逆に、威力が弱過ぎないかと言う疑問が出てきてな。そうなると人体実験が必要だろ」
「そこはほら、作成者が身を挺するもんじゃねえんですかい?」
「私にはチンもタマもないのだが」
「でも、股間ぶん殴られりゃあ痛ェでしょうよ」
「そりゃ痛いが。だが、男のそれではないから、男の被験者が必要だろ」
もしや、その流れで行くと。
モモロウにやらせたのだろうか?
「さすがにモモロウにやらせようと思ったわけではないんだが。男の実験台が必要となった時に、モモロウが立候補してくれたから……」
くれたから?
「具体的な実験内容を言わずに、チンコマシーンに固定して股間を強打した」
「ひっでェ」
どうして、そんなことするの?
あなたはあまりにもむごい仕打ちに白目になる。
お仕置きをする側が実験台になるってどういうことだ。
「トモとモモは体格が似てるだろ。そして、同じボルボレスアスの民だから、実験対象としてはモモロウがいちばんちょうどよくて……」
それだけの理屈で実験台にするのはあまりにもひどすぎるような。
レウナのあまりにも酷薄な扱いにあなたは半目になった。
「しかし、モモロウには散々セクハラされていたからな……私もちょっと腹に据えかねてるところがあったというか……」
なるほど、自業自得だったらしい。
たしかに、レウナとモモロウが再開した時のセクハラの嵐は……。
あれが日常茶飯事だったら、過酷なお仕置きを目論むのもしかたないか。
まぁ、それで留飲を下げて。
チンコマシーンの性能を確認し、次にトモに使ったと。
「いや、それを見ていた男衆からの抗議が出てな……あまりにも非人道的過ぎるとのことで。それで、お蔵入りになった」
「結局、チンコマシーンでチンコ殴られたのはモモロウさんだけでしたねェ」
最悪の幕切れにあなたは笑うしかなかった。
それ、ひどい目に遭ったのモモロウだけじゃん。
当人からすると笑えない話なのだろうが。
話を聞く分には最高に笑える話だった。
レウナたちと話し込んでいるうちに、やがて夜が来た。
コックの心づくしの夕食を食べ、それから酒盛りに移行する。
この屋敷ではもはや毎度のことと言うか、毎日のことである。
ただ、今日はいつもと違って、顔ぶれが少ない。
レインは昼前から地下でさんざんに飲みまくっていた。
そのため、夕食時にはもはや完全にダウン。私室ですやすや眠っていた。
なので、今日はあなたとリフラだけが酒盛りの参加者だった。
その時々で、サシャやフィリア、レウナもいたりするのだが。
今日は完全にあなたとリフラだけだった。
「へっへっへっへ、静かなサシ飲みってェのも乙なもんでさァ。なにより、あたしゃの前にいるのは特上の
そう言うあなたの前にいるのも豊満な金髪の美女だ。
あなたは笑って、2人の顔面に乾杯とおどけて言った。
「へっへっへ、乾杯! 乾杯なんざァ何度やったっていいんでさ。くぅ~! 今日も酒がうンめェなァ!」
リフラは本当にうまそうに酒を飲む。
お気に入りのラガーをガブガブ飲んで、満面の笑み。
いつもの皮肉気な笑みと違う、愛らしい笑みだ。
そして、ツマミにするのは塩漬けの魚。
王都にまで運ばれて来た塩漬けの魚は新鮮な魚のそれとは違うが。
塩漬けは塩漬けでなかなかうまいのだ。
バキバキに塩を効かせたサーモンを蒸し焼きにしたもので。
これを一口齧ると、口の中にだらだらと唾液が湧いて来る。
これをラガーで一気にガーッと流し込むと、堪えられないうまさだ。
「効くゥ……! たまんねぇ……最高……」
リフラが恍惚とした表情を浮かべる。
あなたもたぶん、同じような表情だろう。
このラガーをガバガバ飲むのがじつにうまい。
「ああ、うめぇ……うめぇなぁ……」
しみじみと語るリフラ。
そんなリフラに、あなたは酒はいい、となんとなくささやいた。
「ええ、ええ、まったくそのとおりで。へへへ、酒はいくら飲んでも飽きねェや」
そんな風に笑うリフラに、あなたはふとした調子で問いかける。
昔のレウナってどんな感じだったの? と。
「レウナさんですかい。そりゃもう胡散臭ェガキでしたぜ」
それは知ってる。
では、質問を変えよう。
むかしのレウナとはどんなことをしたの? と。
「へへへ……まァ、なんです。あたしもレウナさんも、恵まれた生まれ育ちじゃあねェ」
それはなんとなく分かっている。
レウナはごく幼い頃に捨てられたと言うし。
リフラも、もらい飯で育った、とあっけらかんと語るが。
それはやはり、乞食同然の生活をしていたということだろう。
「あたしの過去は曖昧でしてね。どことも知れねぇ道端をぶらぶら歩いてたのが最初の記憶……あたしゃを拾ってくれたのァ、ルイのエルフでした」
ルイ。アルトスレアにおけるエルフの氏族のひとつだったか。
アルトスレアのエルフは血統による氏を重視する風潮がある。
かつて、あなたたちが世話になったエルフ、ノーラの氏、グレイラインもそのひとつ。
あなたは詳しい話は知らないが、ルイと言う氏族が存在するのは知っている。
「まァ、相当に世話ンなったもんでしてね……独り立ちできるまで育ててくれたどころか、魔法まで教えてくれたし、餞別に金までもらっちまった……世話ンなり過ぎた」
世話になり過ぎた?
「御恩にゃ奉公しなきゃあなンねェ。もらい飯に眼はねぇが、御恩を忘れたつもりもねぇ。遠慮なンざ持っちゃいねえが、恥まで捨てた覚えはねえ。だぁら、あたしは恩を返さなきゃなんねぇ」
リフラの信条だろうか。
それはたぶん、リフラが自分に課した誇りとか、ルールとか、規範とか……。
そのような類の、彼女の人生を縛る取り決めだ。
このどこまで自由そうな彼女が、自らに課した縛り。
だからこそ、それはきわめて重いものなのだろう。
「『トンネルワーカーズ』を立ち上げたのァ、そう言う理由でしてね。名士として名をあげりゃあ、育ての親に顔向けもできらぁ」
まさか、それだけのことで?
「まァ……そうですね。なんつーか、まァ、そう。なんか流れです」
それはまた……なんと言うか、ものすごい話だ。
リフラはなかなかとんでもないやつだと思っていたが。
まったく本当にとんでもないやつである。
あなたの抱いた感想はそればかりだった。
「だが、1度はじめちまったもんだ。投げ出すわけにゃあいかねェ。あたしは精一杯やった。そしたら、なんだか世界を救っちまってた。なんです、そいつァ?」
それはあなたのセリフである。
なんで流れで世界を救ってるんだコイツ……。
いや、あなたもなんか流れで世界の趨勢を賭けた戦いに挑もうとしてるけども。
でも、世の中の英雄って大体そんなものなのかも。
実際になってみると、べつに世界を救う使命に目覚めたりとかしてないし。
「まぁ、なんだかよくわかんねェ。けど、あたしはできる限りのことをした。そんで、世界を救ってやった。そンなら、それでいいでしょうよ。細けェこたァどうでもいいンでさァ」
あなたもそう思う。細かいことはどうでもいいや。
あなたにとって、そこらへんはどうでもいいことだ。
「そうして世界を救って、あたしは悠々自適の根無し草ンなった。まァ、アルトスレアじゃあメンドクセェことも多い。だもんで、こっちに渡って来たわけですが」
たしかに前もそんなことを聞いた。
アルトスレアは大戦の影響で乱れている。
なので、結構な数の冒険者が別大陸に流れたと。
あれはたしかソーラスで聞いた話だったか……。
「そこで、あたしはダチをまた見つけちまった。レウナさんのことです」
さぞかし驚いただろう。
「ええ、ええ。レウナさんとあたし、そんでもってキャロラインさん。あたしたちは、この3人でなにもかもをはじめたんですぜ」
『トンネルワーカーズ』の創立メンバーだったと聞いている。
その3人で下水道掃除の互助組織を作り、そこからすべてがはじまった。
まさか、それが世界の救世主になるとはだれも思うまい。
「いろんな苦労がありやした。けど、3人でがんばってきた。苦しいこともつらいこともありやしたが、他の何にも代えられねェ、あたしのいっちゃんの宝物だ」
昔を懐かしむように、リフラがささやく。
いつもとは違う、しっとりとした情感に満ちた相貌。
飄々とした態度に隠された、情緒豊かな側面。
リフラと言う美女の複雑な内面が一瞬垣間見えた。
なるほど。リフラとレウナの間にある友情。
それはきっと、死を超克するほどに尊く強いものなのだろう。
「そのレウナさんは、あたしのはじめた戦いのために命を落とした。なら、あたしも命を懸けるのは当たり前だと思いやせんか?」
あなたは静かに頷く。
見返りを求めない友情。
だが、お互いが身を挺するほどの強い絆。
それはきっと、どんなものよりも尊い宝物だった。
「また、『アルメガ』とやらとの戦いがあるなら、あたしも精一杯やろうと思ってますぜ。まぁ、そん時はどうぞよろしくお頼みしやすぜ」
それはもちろん。
レウナに依頼されたのはあなたなわけだし。
「まぁ、ただ、ちょいと心残りがひとつあるとしたら……」
心残りがあるとしたら?
「なんせ、色恋なんぞにうつつを抜かしてるヒマもなかったもんで。そりゃ男だろうが女だろうが、一発抜いてやろうとそんな気概も持てなかったもんで」
ほう?
「まァ、今に至るまで清い身でしてね。ここらでひとつ、1発気持ちよく捨てちまおうかと。幸い、ぜひとも欲しいなんて奇特なお人もいるわけで」
なるほど、それはいい。とてもイエスだね。
あなたは支離滅裂な返事をした。
「やっぱ、最初はプロにお任せするのがいちばんですからねェ。それに、話によると
あなたは頷いた。
そして、そのまま直球でお誘いをした。
このあと、部屋に来ない? と。
「ええ、お邪魔しますぜ」
なんて、リフラはウインクをして来た。
なるほど、今夜は眠れそうにないな!
文字数はどの程度が好ましいですか?
-
2000文字前後
-
3000文字前後
-
4000文字前後
-
5000文字前後
-
6000文字前後
-
7000文字前後
-
8000文字前後
-
9000文字前後
-
1万字前後