仲間たちが豪遊する中、あなたはふとトイネに戻った。
岩塩鉱山近傍の町の娼館の下見というわけではない。いや、娼館にはいくけど。
タイムスパン的には、フィリアの要望に応じてトイネを旅立ってからまだ1週間も経っていないのだが。
あなたの体感的にはもっと経過しているので。
イミテルたちがどうしているか気になったのだ。
「お早いお帰りだな、我が鼓動よ」
イミテルには驚かれてしまった。
なんかよくわかんないけど早く帰れてしまった。
いや、べつにあなた的には早く帰れていないのだけど。
イミテル側から見てみると早いと言うか……。
「よくわからないが……もう冒険はいいのか?」
まぁ、すぐにまた出立すると言うことはないだろう。
別大陸にまで行くような大冒険になるのだ。準備は入念にやりたいものだ。
「そうか。まぁ、とやかくは言わんが……さすがに産前には帰って来い」
それはもちろん。
さすがにそれに帰らなかったら殺されても文句は言えない。
と言うよりも腹を切ってお詫びしなくてはいけなくなる。
とは言え、イミテルはもう臨月も間近である。
もう出産して、一通り落ち着いてから冒険に旅立つべきだろうか。
結局のところそれが一番無難だろうと思われる。
あなたはそのあたりを取り決めると、出産までは冒険に出ない予定だよ、と答えた。
「そうか。ふふ、この子が産まれたら、私もまた共に往きたいものだな」
もちろん歓迎だ。
とは言え、すぐさま行くのも危険なので、次の冒険への同行はちょっと許容しかねる。
まぁ、あなたは年がら年中冒険に出ているような冒険バカだ。
冒険に同行する機会なんていくらでもある。焦ることはないだろう。
「そうだな。この子が大きくなったら、この子も共にな」
我が子との冒険。なるほど、それはなかなか……。
エルフの若年期は大変に長いので、それはアリなのかもしれない。
領地を継ぐとしても、軽く100年はあと……それまでは冒険にも連れていける。
と言うことは、あと100年はあなたが領主をしないといけないのか。
気が遠くなってきた。いろんな意味で。
「どうした、遠い目をして」
イミテルの問いに、あと100年は領主をしないといけないことに気が遠くなったと答える。
「? そうか」
イミテルはいまいちよくわかっていないような顔をする。
そんなイミテルに、あなたは諭すように教える。
あなたはこう見えてもイミテルよりも年下なのだ。
あなたは見た目よりも遥かに長く生きてはいるのだが。
それでも100年は生きていない……ハズだ。
エルグランドの暦はあてにはできないが。別大陸の暦はあてにしていい。
そして、あなたは速度を鍛える以前に別大陸に冒険に出向いたことがある。
その時、ボルボレスアスは『誉れある竜大戦』に由来する暦を使用していた。
アフター・ドラゴンウォー、AD700年から703年あたりがあなたの生まれた年である。
そして、いまボルボレスアスはAD790年くらいのはずだ。
「ほう。するとウィチヘンとそんなに変わらない歳だったのか」
ウィチヘンってそのくらいだったのか。むしろそっちが驚きだ。
いや、そのあたりはともかくとして。
あなたは今まで生きて来た年数の倍以上の年月を領主として過ごすのだ。
それはもう考えるだけで気が萎えて来るような事態なのだが。
「ならば、中継ぎの当主でも迎えればよかろう。私の実家経由で代官を用立ててもいいしな」
なるほど、それがアリならそうしよう。
まぁ、べつにあなたは領主の地位に執着などないし。
領地を乗っ取られても、まぁ、そんなに気にしないし。
いや、初夜権使い放題の権利は惜しいが……。
元々あなたは
べつに領主じゃなくても処女を食べ放題だし。
自分から探す手間は増えるけど、そこはしょうがない。
すると、なるほど、中継ぎはアリか。
イミテルの子供が領主になりたくなければそのままあげちゃえばいいか。
「軽いな……」
まぁ、自分のものを奪われるのは業腹なところはあるが。
貴族としての籍さえあればイミテルとの婚姻関係は維持できるし。
なにがなんでも領地は維持したいほどのものではない。
「そう言うものか。領主としては異端も異端だな」
もしかしたら、将来気が向いたら領地拡大に積極的になるかもだが。
こう、陣取りゲーム的な感覚で、周辺領地を吸収とかするかもだし。
こっそりお隣の領地に疫病ばら撒くとか、極悪な犯罪者集団を流入させるとか。
そんな感じの手を打った上で、正義面で攻め込んでみるとかはやってみたい。
「……なんのために?」
やってみたいだけだ。
「やってみたかっただけで攻め滅ぼされるのか……我が鼓動の動機がろくでもなさ過ぎる」
元々あなたはそんなものだ。
「そう言われるとそうか。まぁ、ほどほどにな」
あなたは頷いた。
気が向かなければやるつもりはない。
気が向いたらやるけど。
イミテルの下に顔を出したあと、あなたはふらりと救児院に出向いた。
今日もみんな元気に訓練しているだろうか。
そう思いながら運動場の方へと顔を出すと、そこには鋼の人型が屹立していた。
「ふはははースゴイぞーカッコいいぞー!!」
「いけー! 鉄人!」
「がんばれまけるな下駄ロボー!」
「ドラグーン! ショウタイム!」
それを応援しているのは、いつもの調子の『アルバトロス』チーム。
この集団を見るのもずいぶんと久し振りのような気がする。
あなたはそっと『アルバトロス』チームに近寄る。
『アルバトロス』チームは、なぜか黒い水兵服を着ている。
その上で膝上5センチくらいのスカートを履いている。
スカートと、ソックスの間にある露出したふとももとふくらはぎ。
これがまったく眩しいことこの上なくてたまらないと言うか。
あなたは思わず間近で食い入るように見つめてしまう。
このすべすべとしてむちっとした足でヘッドロックとかして欲しい。
きっときもちいいぞ。天国がみえるにちがいない。
「……なにやってるんですか、お母様」
真剣に足を眺めていたら、義娘たるカル=ロスに突っ込まれた。
あなたはカル=ロスに、気にするな、と答えた。ただ足を眺めていただけだ。
こんなに引き締まったえっちなふともも、見ないと失礼だろうに。
「スカートに頭を突っ込んでおいてそれを言いますか」
あなたはいつだって前に進んでいる。
その前にカル=ロスがいたのならば、それは不可抗力ではないだろうか。
いわば、スカートに頭を突っ込んだのではない。
スカートに頭を突っ込まれるまで待っていたのだろう。
そして、あなたがカル=ロスの黒の下着に目が釘付けになっても、やむを得ないことなのだ。
「はぁー……」
深々と溜息を吐かれた。
まるで頭のおかしい破綻した論理で反論を試みるバカを見たような態度ではないか。
「あ、クライアント。帰ってくるなりスカート覗きですか。相変わらず未来に生きてますね」
「もうちょっとこう、落ち着きとかお持ちになられませんか?」
「見たければ見せてあげますよ」
あいかわらずの手厳しい酷評。
あなたはそんな彼女たちに、なにをしていたの? と尋ねる。
このドでかいやつは、以前にカイラのところで買い取って来たドラグーンとか言うやつでは。
「ええ、そうですよ。いろいろと整備したり、調整したりした上で、完動状態まで持ってきました」
「なかなか苦労しましたよ。パーツの調達が困難だったので、こちらの金属類で作り直して」
「強度も重量バランスも違うのでキャリブレーションを取り直したりもしましたし」
「強度差の都合で、各パーツの寿命も目減りしちゃいましたが……まぁ、動かせるようにしたのが重要なんです」
なんだかよくわからないが、戦力として使えるようにしたと。
あのドラグーンとか言うゴーレムはなかなか強力な存在だった。
人間が乗り込んで操縦すれば、なかなか手ごわい相手になるのかも。
以前にハウロが、このドラグーンよりも大きいドラグーンを殴り壊していたが。
あれはまず間違いなく中に人が乗り込んでいない、自動操縦とやらのやつだろう。
あれほど容易には倒せないかもしれない。なかなか楽しみだ。
「……ドラグーンを殴り壊したって言いました?」
「ドラグーンには1万2000枚の特殊装甲と謎フィールドがあるのに!」
「ないない。そんなにないない。積層装甲だけど4層しかないですから。数字を3000倍も盛るな。バリアーはライデンには装備されてないですし」
「そうだとしても殴り壊すのは尋常じゃないんですが」
そんなこと言われても、壊したのはたしかだし……。
まぁ、ハウロが超人だからしょうがないのではないだろうか。
たとえば、聚楽氏だってそのくらいはできるのではないだろうか。
彼ならドラグーンくらいはらくらく叩き切ってしまえる凄腕の剣士なのでは。
むしろ彼ならサクッと3枚におろしても不思議ではない。
「たしかにそれ言われると納得するしかないのですが」
「たしかに、聚楽氏ならできますね」
「言われてみると、ドラグーンの正面装甲ごとき、私たちでもがんばれば壊せるのでは」
「まぁ、対物ライフルでも装甲にダメージは入りますから……殴り壊せてもおかしくない……のかな?」
納得してもらえたならば何よりだ。
で、これはなにに使うのだろうか。
「何に使うって、そりゃ、乗って動かすんですよ」
「するとですね、かっこいいのですよ」
「そして、魂が燃えるのですよ」
「イラつくぜ……! 巨大ロボットに、憧れたんだ……!」
なるほど、よくわからん。
以前にもそんなことを言っていたが。
もしや、本当にカッコいいから……?
「それ以外に理由がなくはないですが、基本的にはまぁ、そうですね」
「ドラグーンなんかなくてもいいのは間違いないです。それは認めます」
「ですが、巨大ロボットを動かしてみたかったんですよ! 私たちも!」
「ニューラルリンクして動かす巨大ロボット最高!」
あなたには理解のできない趣向だった。
『アルバトロス』チームのように、日本での生活が長いと理解できるようになるのだろうか。
「まぁ、惜しむらくはライデンソードしかないことですかね」
「アパム、ステークアウトショットガン持ってこい」
「銃と剣で武装したロボットはいい……」
「ですが、銃がすべて弾切れになって剣だけで戦うロボットもいい……」
ロボットいいよね……いい……。
『アルバトロス』チームはそんな調子で分かり合っていた。
あなたは置いてけぼりである。
まぁ、なんだかよくわからないが。
『アルバトロス』チームが楽しそうでなによりだ。
「実戦投入の機会も近いうちにありますから、楽しみにしておいてくださいね」
「私はやるぜ、私はやるぜ」
「そうですか、やるのですか」
「やるならやらねば」
実戦投入の機会って、いつのことだろうか。
こんなのを使って戦う予定が……?
「ここ1~2カ月の間にあるはずです」
「史上最大の激戦になる……はずです」
「私はやるぜ、私はやるぜ」
「私もやるぜ、私もやるぜ」
なんだかよくわからないが。
意気軒高なようでなにより。
その実戦投入の機会とやらを楽しみにしている。
「まぁ、その時にいちばん頑張るのお母様ですけどね」
え、そうなの?
あなたは突然の謎の予定に首を傾げる。
そんな戦いの予定とかってあっただろうか?
いや、『アルバトロス』チームは未来から来てるわけなので。
その未来に由来する知識だろうか?
それで、その戦いと言うのは?
「『アルメガ』との決戦ですけど。イミテルさんの出産前にあるので、気を引き締めておいてください」
あまりにもあっさりと言い渡された激戦の予定。
あなたは目を白黒させる。『アルメガ』との決戦って。
それも、イミテルの出産前にあるって。
いや、待ってほしい。
『嵐を齎す者』とか言うレリックが必要なのでは?
「ああ、それ」
「要らないらしいです」
「厳密に言うと、本来の予定だと必要だったらしいのですが」
「お母様に限っては要らないらしいので」
と言うことはつまり、『叡王の碑文』も必要ないと。
「はい」
『叡王の碑文』の守り人だった虚空神の
「あー、彼はですね、えー、なんと言いましょうか」
「僻地に飛ばされて新事業所の立ち上げに尽力していた若手のやり手社員みたいな感じで……」
「その地方で始めるはずだった新事業がポシャったので事業所が不要になったのですが、もともと新事業の計画は内々の話だったのでその社員に話はいかず」
「しかし、できちゃった事業所を放置するわけにはいかないので、そのやり手社員がそのまま置かれていて、新事業の開始を待ってるみたいな……」
つまり、虚空神の思惑を認知しておらず、放置されてるだけと。
「まぁ、はい」
あまりにも悲しい事態にあなたは思わず目元を覆う。
『アルメガ』との決戦が間近と言う情報よりも、そっちの方に意識が行ってしまうほど悲惨な状態だった。
もうちょっとこう……自分の神使を大事にしてやれよ……。
文字数はどの程度が好ましいですか?
-
2000文字前後
-
3000文字前後
-
4000文字前後
-
5000文字前後
-
6000文字前後
-
7000文字前後
-
8000文字前後
-
9000文字前後
-
1万字前後