あなたに突如として言い渡された最終決戦の予定。
同時に教えられた、虚空神の神使の悲惨な現状。
もうちょっとこう……手心と言うか、優しさと言うか……。
「まぁ、しかたないですよ。エルグランドの主神、虚空神は、なんと言うか、原始的過ぎるので」
原始的過ぎる?
エルグランドの虚空神は謎が多い神だ。
存在すること、そして凄まじく強大な力を持つこと。
その2点のみが分かっていることである。
それを指して原始的過ぎるとは。
もしや、カル=ロスは虚空神について何か知っているのだろうか?
「まぁ、何も知らないことを知っているというか。あれは分類で言うと藻類に近い生物ですし」
よくわからないが。
虚空神の思惑はいったいどのようなものなのだろうか。
「何も考えていない……いえ、何も考えられないと言うか……あの、スポンジって使ったことありますよね」
もちろんある。入浴用の道具として珍重されるものだ。
海生生物である海綿を捕まえて、これを腐らせて残ったものがスポンジとして使われる。
ふわふわしていて、ぷるんとなめらかなシルクのような肌触り。
あれで身体を洗うと、なんとも言えない心地よさがあるのだ。
「虚空神はアレくらい単純な生物です」
アレくらい単純な生物って。
海底にくっついてて、なんで生きてるのかもよく分からないような、アレ?
「はい。水を体内に吸い込んで、そこに含まれる有機物や微生物を捕食する、
それがエルグランドの虚空神?
「はい。古代の海に生きていたとても単純な生物です。知能すらありません。なので、本能的に生存と繁栄のための道筋を探しています」
その結果として、あの神使が作られ、放置されていると。
「人間みたいな知能がないので、放置したら可哀想とかそう言う考えすらないんです。蚊の方が知能あります」
そんなに。
「原始生物ですからね……現代じゃ絶滅してますし。『アルメガ』の飛来で惑星環境が激変しちゃったんでしょうがないですが」
まぁ、それならしょうがない……のだろうか。
その割に緻密な計画とか立ててるのはすごい気がするが。
どうやって知能無しで複雑な計画とか立てたのだろう。
「神使ががんばってるんですよ。原初にして
なるほど、そう言うことなら。
まぁ、そのあたりのことは、とりあえずよいとして……。
『アルメガ』との最終決戦が近々あるって……どういうこと?
「話によると『アルメガ』との戦いはイミテルさんの出産前に起きたらしいので」
それなら、たしかにここ1~2か月の間に起きるのは間違いない。
だが、そんな急に起きるなんて……想像もしていなかった……。
『嵐を齎す者』のこともあって、起きるにしても数年単位で余裕があると思っていた。
いっそのこと、あなたが寿命を迎えるまで起きないのかと……。
「と言うか、『アルメガ』自体は既に覚醒してると思いますよ。ただ、体勢を整えて、必勝の状態にまで持って来てから戦いを挑んで来るはずです」
必勝の状態にまで持って来られたら勝てないのでは?
「まぁ、そこらへんは必勝の策など覆して見せるという気概でどうぞよろしくおねがいします」
できるかぎりは頑張るが……。
しかし、あなたにだって限界はある。
それを超えるとどうにもしようがないのだが。
本当の本当に、あなたは『アルメガ』に勝てるのだろうか?
「はい。勝てます。お母様単騎でも十分な勝機があります。いえ、勝ってもらわないと困ります」
まぁ、それはそうだ。なんせ世界の命運がかかっている。
だからできる限りのことはするつもりだ。
あなた単騎でも勝てると言うならできる限りのことはする。
「それに、最悪の場合はこちらのバックアップもあります。ありますが……できれば使うべきではない手ですので……」
カル=ロスが遠い目をする。
それはいったいどのような……?
「神々の永遠の盟約で、各次元界と魂を融通し合う契約をしているのは以前にお話ししましたよね」
聞いた。それによって、この次元界に転生して来ている者がいるとも。
そうした者が、各次元界の神格の思惑により、強大な力を持っているとも。
しかし、そうした転生者たちでも『アルメガ』の撃破は難しかったとも……。
「はい。しかし、『アルメガ』との戦いに大いなる助力が出来る人物がいるのもたしかです。ですが……」
ですが?
「こちらから持ち出せる手立てを使うには、超大質量転移が必要で……それをやると、理が混ざります」
理が混ざる。
通常、次元界同士には距離があり、それぞれの次元を接続する連結地帯が存在する。
その連結地帯は双方に混ざらないよう、反発する性質を持つ。
それを踏み越えてしまうほどの異常事態が起きると言うことだろうか?
「はい。連結地帯をぶっ壊すようなことしなきゃいけなくなるので。理が混ざります」
混ざると……どうなる?
「こちらの次元にはたぶん影響はないです。こっちの方が重みの点では強いので。しかし、あちらの次元には相当な影響が出ると思います」
具体的には。
「たぶんですけど、あっちの世界に、この大陸のような迷宮が出現します。超困ります」
カル=ロスが困ったような顔をするが、それって何か問題なのだろうか。
「あちらこちらの地面から金銀財宝、あれこれの武具が手に入るとか大問題なんですが。刀剣はまだしも、迷宮で銃火器なんか大量に調達されたら……まして、ドラグーンなんか大量に集められたら……! うっ、胃が……!」
カル=ロスがおなかを抑えて呻く。
でも、そこは胃じゃなくて腸だと思う。
「そんなことにならないためには、お母様だけでなんとかしてもらいたいです。私たちも全力でお手伝いします」
あなたは頷く。
その、向こうの次元に迷宮ができることのなにが問題かは……。
正直よくわからないというのが本音ではあるのだが。
カル=ロスが困ると言うなら、できる限りそうならないよう努力はする。
と言うか、もしや。
『アルバトロス』チームってそのために来たのだろうか?
「はい。『アルメガ』との戦いに備え、こちらで出来る限りのことをするために来ました。お母様の護衛は建前です」
なるほど、納得。
何のためにそんなことしてるのかと思ったら。
もっと大きな、世界の治安を維持する大義のためだったと。
「私たちも全力を尽くしますから、ほんとに、ほんとにおねがいしますね、お母様」
まぁ、がんばる。がんばるけども。
無理な時は無理なので、その時は潔くバックアップとやらを使って欲しい。
「……はい。その時はためらわずに使うことをお約束します」
カル=ロスが神妙な顔で頷く。
そこだけは覚悟しておいてもらわないと困る。
完全勝利に拘泥して完全敗北したら意味がない。
「はい、それはもちろん。この次元が壊滅したら、向こうの次元も滅びかねないですからね……そのラインだけは、守ります」
ならば、それでいい。
あなたは頷いた。
まぁ、有意義な情報ではあった。
あなたを助けてくれる人がいる。
自分が孤独なだけの戦いに赴く必要がないとわかった。
それがたとえ、ささやかな助力であろうと。
1人ではない。それがいちばん重要なことだった……。
さて、『アルメガ』との戦いまであと少ししか時間がないことがわかった。
わかったのだが、これからどうしたものだろうか?
やっぱり冒険とかいったらまずいのだろうか?
「まぁ、いいか悪いかで言ったら、よくはないですね」
じゃあ、しかたがない。
この領地で大人しくしているか。
なーに、3カ月にも満たない期間だ。
そのくらいだったら、我慢はできる。
訓練期間と思って、じっくり仲間たちを鍛えるとしようか。
レインがエルグランドの魔法を主軸に戦術を考え始めているし。
サシャやフィリアの近接戦闘技術はまだまだ磨く余地があるし。
クロモリに至っては鍛える余地だらけ。鍛えまくってなにも悪いことがない。
『アルメガ』との戦いにどこまで役立つかは謎だが。
まぁ、鍛えといて損はないんじゃないだろうか。
一応はあなた自身も鍛えるつもりではある。どこまで効果があるかは謎だが。
いまさら鍛えても誤差レベルにしか強くなれない気がする。
「そうですか。私たちも、最後の追い込みでもしますか……」
『アルバトロス』チームも訓練に精を出すらしい。
頑張ってほしい。肩を並べて戦う仲間はどれだけ強くても悪いことはない。
「うーん、責任重大……頑張りますか」
「私はやるぜ、私はやるぜ」
「そうかやるのか」
「やるならやらねば」
みんな意気軒高なようでなにより。
無事に戦いが終わったら、あなたからも出せる限りの報酬は出そう。
戦いが終わったら、お別れなのだろうし……。
「……はい。そうですね」
カル=ロスが少しばかり寂し気に言う。
あなたも寂しくて悲しい。
『アルバトロス』チームは『アルメガ』との戦いのために来た。
その戦いが終われば、この次元に……この時間軸にいる意味はない。
彼女たちは、彼女たちがいるべき次元と時間に戻るのだ。
それはきっと、喜ばしいことなのだろうけれど。
あなたにとって、それはとても寂しいことだ。
可愛い女の子12人が一気にいなくなるなんて考えたくない……!
「さらに言うと、時間転移は封鎖する方向になると思いますので、私たちの時代にお母様が転移してくるのは無理になるでしょうね」
それはつまり……克己や大和、鮮香にラルカと言った、『アルバトロス』チームの親とも?
「ええ、長いお別れ、と言うことになるでしょうね。少なくとも、20数年は会えないでしょう」
あなたはあまりの悲しさに胃がねじ切れそうになった。
落ち着いたら、あちらに療養ではなく観光目的でゆっくり滞在しようと思っていたのに。
まだ知り合えていない『アルバトロス』チームの親だっているのだ。
アダルトコンテンツを山ほど買い漁りたいし、ナンパだってしてみたい。
あの次元の女の子たちはみんな垢ぬけてて可愛かった。
そしてなにより、栄養状態がいいのかみんな豊満で……。
こう……むちっとしていて、それでいつつすらっとしていて。
きっと抱き心地抜群のマシュマロボディな女の子がいるに違いないと思っていたのに。
体重100キロを超える女の子の激レア高級ボディに包まれたかったのに……。
こっちの次元ではそのレベルで恵体な女の子には出会えない。
仮に出会えても、ほとんどは貴族なので手は出せないし……。
「……クライアントってデブもいけるんですか」
「100キロ超はマシュマロ超えてチャーシューなんですよね……」
「いえ、まぁ、激レア高級ボディなのは認めますが……」
「100キロ超はたしかにレアだし、その体型にするための食費は高額でしょうけども……」
なぜかちょっと引かれた。
「ま、まぁ、そのあたりの性癖の手広さはともかくですね……」
「あくまでも、あちらの時間軸にいけないだけですから。現代の日本にはいけるはずですよ」
「20数年前なので、ちょっと戸惑うかもですが。聚楽氏や鮮香さんなんかはいらっしゃるはずですし、仲良くもなれるはずですよ」
「タイムパラドックスの心配もないので、存分に遊んでもいいですよ」
なるほど、そいつはすてきだ。おもしろくなってきた。
ラルカとシャロンの間に挟まるとかはできるだろうか?
男手1つで瑞穂を育てた大和と共に、女2人で瑞穂を育てるとかもしてみたい。
恋人が2人に下僕が1人の克己のベッドにお邪魔もしてみたい。
それに、どうしてもあの続きを味わいたいのであれば。
20数年ほど待ってから地球にいけばいいではないか。
それならばあの時代にもいける……はず、。
「ああ、いける……んじゃないでしょうか」
「まぁ、正直なところは分かりかねますが……」
「行ける可能性自体は十分あると思いますよ。並行世界転移ができるか次第な気もしますが」
「できるんじゃないですか。11次元軸指定ができるなら……」
いまからどうするか悩む。どちらも取れれば最高なのだが……。
あの次元であなたと面識のある者が誰もいなかったあたり。
現代の地球で接触したら矛盾が生じるだろうから無理なのだろうけども。
あなたは幸せな悩みに頭を悩ませた。
こんな楽しい悩みならば、いくらでも頭を悩ませたいくらいだった……。
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