17-001
「うう~ん、どうしよう……」
サシャはベッドの中で頭を悩ませていた。
朝、目が覚めていちばんに悩ませるのは冒険にあたっての懸念点。
あと1人誰かが欲しい……それもできるなら超腕利きの魔法剣士が。
アノール子爵こと金髪の女たらし。
この集団のリーダーの離脱は、EBTGにとって手痛い打撃だ。
あれはまったくもって冒険者チームの頭目として最高の人物なのだ。
普段の言行こそ色狂いでしかないが、冒険となればその姿勢はまったく真摯なもの。
自信に満ちた言動と目も覚めるような美貌、そして絶大な実力。
すべての要素が合わさって、この人の言うことなら……と思わせて来るカリスマ性。
浮気しまくってもうまくやってのけるコミュニケーション能力もある。
まったく、冒険者チームのリーダーとして最高と言うほかない。
そして、それが抜けた時、チームの屋台骨は容易に揺らぐのだ。
と言うよりも女たらしがその屋台骨そのものであるといってもいい。
「私、レインさん、フィリアさん、薬師様、そしてレウナさん……ううん……」
「……ん、呼びましたか?」
残ったメンバーについて思案を巡らせていると、隣から声。
「あ、ごめんなさい、フィリアさん。ただの独り言で……」
「そうですか。おはようございます、サシャちゃん」
隣で眠っていたフィリアが目を覚まし、朝のあいさつを交わす。
金髪の女たらし主導で最近は娼館巡りと言う頭の悪い遊びをしていたのだが。
冒険に出るにあたっては娼館で遊んでもいられず、屋敷にて大人しくしていたわけだが。
突然そんなことをして大人しく眠れるわけもなく。
サシャとフィリアはどちらともなく部屋を訪ね、お愉しみをしたわけだ。
娼婦と遊んでいたこともあって、昨晩はついに本番まで……。
あの女たらしが知ったら、寝取られに興奮して2人まとめて寝取り返して来るだろう。
むしろその時が楽しみなので昨晩お愉しみをしたまである。
サシャとフィリアもだいぶ性癖は手遅れの方に向かっていた。
「フィリアさん、私たちのチーム……ご主人様抜きの現状で補うとしたら、誰が必要でしょうか?」
「チームの話ですか? うーん、そうですね……」
ベッドの上に身を起こし、考え込むフィリアの姿にサシャは見惚れる。
最近のフィリアはとみに美しくなったように感じる。
顔かたちが変わったわけでもないし、その体躯が変わったわけでもない。
だが、なんとなく目を惹く、ハッとさせられるような凛々しさがあると言うか。
神からの召命を受け、聖騎士に任じられてからだろうか。
神より授かったきよらかなる聖務に身を投じるあり方がそう思わせるのか……。
「私たちのチームはお姉様の方針もあって、レインさん以外は全員、前衛後衛どちらもこなせるように技術を修めていますよね」
「はい。私はフィリアさんほどではないですけど、戦士としてもやれますし」
「そして、お姉様は基本的に集団での戦闘では剣士として振る舞っていました」
「そうですね、たしかに」
あの女たらしが魔法を使えば、だいたいそれで全部終わってしまう。
だからこそ実力を制限して、それなりの強さで戦っていた。
実力を制限して、それなりの強さで戦う。
それで神々に戦いを挑めるほどの強さに達したEBTGと遜色ない戦闘力。
なかなか頭のおかしいインフレ度合が伺えて来る。
「ですから、私たちのチームに必要なのは、剣士、と言うよりかは前衛の戦士ですね」
「なるほど、たしかに……」
個々人の戦闘力の高さを数字で表現するとして。
レインの魔法使いとしての実力を10だとしよう。
そして、レインの持つ戦士としての実力はせいぜい3くらいか。
肉体的にそんなに強くないし、戦士としての技能も積んでいない。
冒険で身に着けた勝負勘や度胸でそれがなんとかこなせるくらい。
冒険を始めた当初のサシャにならギリ勝てるかも……? くらいだ。
そしてフィリアの神官としての実力もまた10だ。
そして、神官は魔法使いよりも前衛としての適性に優れる。
その上で聖騎士に召命され、ザイン神のしもべとして優れた戦闘技術も身に着けている。
そのため、戦士としての実力もかなり高く、8くらいはある。
サシャは剣士としての実力は7くらいだ。
そして、魔法使いとしての実力は5くらい。
どちらもハンパなので、集団の中では見劣りするのだが。
増強された身体能力が桁外れなこともあって、そこまで見劣りはしない。
総合力の高さと言う意味ではなかなか強いし。
その流れで説明していくと、クロモリの弓使いとしての実力は8くらい、魔法使いとしては2くらいか。
レウナの神官としての実力は文句なしで10だが、戦士としての実力、弓使いとしてはいいとこ6くらい。
つまり、現在のEBTGには集団の壁となれる戦士がいない。
戦力評価として、戦士としての実力で8か9くらいはある戦士が最低でももう1人は欲しい。
いちおうクロモリとフィリアがそれは満たしてはいるのだが。
クロモリは弓使いなので、攻撃力はともかく前衛としての役割は果たせない。
「お姉様はたしかに攻撃力的なものはかなり自重されていたんですが……防御力とか生命力的なものはぜんぜん妥協していませんでした」
「ですね……不落の要塞かなってくらい頑丈でしたからね……」
「ですから、それと同じとは言いませんが……敵を後ろに通さない、優れた前衛が必要です」
「うーん、なるほど……戦士……戦士、かぁ……」
サシャは頭を悩ませる。
あの金髪の女たらしの代役をできるほどの超凄腕の戦士……。
一応心当たりはなくはない。
ボルボレスアスで知己を得たハウロ・G・ヒータ。
そして、学園対抗演習で知己を得たセリアン。
この2人ならば、あの金髪の女たらしの代役をできるだろう。
「交渉するだけ、して見ますか……」
「なにかいい案が浮かびましたか?」
「まぁ、いちおうは……レインさんと相談して、心当たりを当たってみることにします」
サシャはそのように結論づけ、朝の支度をはじめた。
今日も1日がんばるために、まずは朝ご飯を食べなくては。
同時刻、モモロウは朝の支度をしていた。
起床したらすぐに日課をこなし、それから髪を洗うのがモモロウの朝の支度だ。
夏だろうが冬だろうが、丁寧に髪の毛を洗って乾かす。
それから、髪の毛をボアブラシで丁寧にとかす。
非常に面倒くさくてやりたくはないのが本音だが。
恋人のトモがモモロウの髪を好んでいるのでしょうがない。
髪を触りたがるので、ちゃんと手入れしておかないといけない気がするし。
なにより、トモはモモロウの髪を自分の出したもので汚すのが大好きなのだ。
「うし、こんなもんかな」
つややかで、背の半ばまで伸びた桃色の髪。
その美しさはほかの誰にも負けないのがモモロウのひそかな自慢だ。
「愛しいモモくん、おはよー。チュッ」
その髪にキスをするのはモモロウの恋人であるトモ。
鏡台の鑑でもちろん接近には気づいていたモモだが。
そのやや気持ち悪いあいさつに、思わず手が出た。
「うぎっ! な、なんで殴るの……!」
「キショいあいさつすっからだよ!」
「うう、ひどい……」
殴られたトモは頬を抑えて涙目になる。
まぁ、恋人に朝のあいさつをして思いっ切り殴られたらそうもなる。
狩人同士だからいいが、常人だったら下あごが吹き飛んでいる威力だったし。
「そう言えばさ、モモくん」
「あん?」
「今日から遺跡の探索に挑戦するわけだけど……どうにかなりそ?」
「あ~……ならねぇんじゃねえかぁ?」
「だよねぇ」
2人の共通認識はそれだった。
たしかに『ハンターズ』は2年間の学校生活で魔法を身に着けた。
2年かけて1階梯がようやく使えるとか才能のゴミっぷりを知らしめたようなものだが。
剣士で言ったら2年間修行したのに基本のキしか身につかなかったようなものだ。
それでも1階梯呪文が使えるだけで、冒険の快適度は大いに変わる。
しかし、それだけで冒険がどうにかなるわけもなく。
回復手段はポーションでなんとか補えるかもしれないが。
秘術魔法の使い手無しに冒険を成功させるのは無理だろう。
「やっぱ、魔法使いいるよな……キヨのカスだけじゃ足らねぇもんよ」
「うん……魔法の恩恵そのものは本当にすばらしいんだけどね……」
魔法による恩恵。それは特にトモにとって顕著だった。
彼は重槌を使う前衛の戦士として振る舞っていたが。
本来の彼が得意とする武器は、ボルボレスアスに特有の武具たるウォー・インストルメントなのだ。
ボルボレスアスには魔法の息吹がごく少ないが。
それでも、世界に満ちる魔力は流れているし、それを利用する技術も存在する。
ただ、人々にその力が宿ることがなかっただけなのだ。
それゆえに、技術によって励起される魂と力はたしかにあり。
殊に、原初の律動たる音楽の力、
トモはそうした
それ専用の武具たる、ウォー・インストルメントは戦闘用の楽器だ。
構造が特殊過ぎて、別大陸では修理できない。
だから使用を控えていたのだが、魔法による修理ができるようになった。
修理できなくなるという懸念が消えたために、なんの遠慮もなく使えるようになったのだ。
「腕利きの魔法使い、欲しいよね」
「ああ。しかも、俺たち『ハンターズ』の超人振りについて来られる身体能力のある魔法使いがな……」
「な、難易度が高い……!」
ボルボレスアスの民、その上澄みたる狩人。
それに追随できる身体能力のある魔法使いなど、まずいない。
金髪の女たらしなら楽々ついて来るだろうが、ついて来てはくれないだろうし。
「だが、1人だけ心当たりがある」
「うん。コリントちゃんでしょ」
「ああ、あいつならなんとか……だから、あいつを呼ぼう。レリックあるかもっつったらパツ一よ」
「だね……で、どうやってアポ取るの?」
「ジルんとこ行くわ」
「通行券代わりみたいな使い方だなぁ……」
などと呆れるトモ。
だが、それしか手がないならそうするしかあるまい。
「うし、今日はまずジルんとこ行くぞ」
「それでコリントちゃんを呼ぶ……今日中に終わるといいんだけど」
「まぁ、急いては事を仕損じるからしょうがない。よーし、朝飯食っていくか!」
「うん、朝ご飯なに食べさせてくれるのかな~?」
2人は意気揚々と冒険に向かうための準備を整える。
以前にアルトスレアを救う冒険を成し遂げた彼らに取り、冒険はもはやお手の物だった。
他のチームが着々と準備を整えている中、『
彼女たちの多くは冒険者学園の卒業生で、冒険者としての年季は深くない。
冒険の中で多少なりの実績は作ったからこそ迷宮に挑めてはいたのだが。
フリーの凄腕の神官と言う、どこのチームからも引っ張りだこの人材とのコネなんてあるわけもなかった。
朝方に出発し、威力偵察をした『世界樹の王』は人員の補充が必須と結論付けた。
入るなり大型のアイアンゴーレムがお出迎えしてくれたからだ。
普通にブチのめして離脱はして来たが、手傷は多少なり負った。
傷が積み重なれば、いずれは倒れて動けなくなる。
回復役のいないチームが脆いことは言うまでもないだろう。
「うう、どうしよう……! まさか私たちだけで遺跡の探索なんてできるわけないし……!」
「まだソーラスしか探索したことのない、実績の浅いチームなのが災いしたな……」
「そうよね、私たちって、冒険者歴5年もない集団なのよね」
「まぁ、冒険者歴10年のベテランにも負けない実力はあるつもりだけどね~」
「だが、年季のなさは実力だけじゃ補えんからな……」
『世界樹の王』は新進気鋭のチームだ。
結成から5年と経っていないチームでありながら、その実績は絶大。
全員が選ばれし天才である恵まれたチームだからこそだ。
だが、年季が深いからこそ得られるものが彼女たちにはない。
その最たるものこそが、コネである。
彼女たちには他の腕利きへのコネがなかった。
「この近辺の町の腕利きはあたったが、私たちが求める水準の神官はいなかった……どうしたものかな」
「どうにもならないわね。ここは大人しく、カイラの復帰を待つしかないわ」
「はぁ……少なくとも1か月か……」
なんて悩む彼女たちに近づく影。
それは全体的に白くて、それでいて、正体不明な感じだった。
って言うか、それはすごくイロモノだった。
「腕利きの神官をお探しですか」
それは頭の上に丸い獣の耳がついていて。
それでいて背中には翼があって。
金属光沢をもつ髪は美しかった。
声をかけられたリーゼが振り返って。
あまりにもすごいイロモノの登場に硬直した。
「あ、あなたはいったい……」
なんかよくわからんやつがいる……!
そうとしか表現できない状況にリーゼが思わず問いを投げかける。
それに、白い髪に白い瞳を持った人物は頷いて答えを返した。
「私はジル・ボレンハイム。通行券です」
なんだかよくわからない自己紹介だった。
存在もよくわからなかったので、相応しいと言えばそう。
「通行券扱いされたのがムカつきました。私が皆さんを勝利に導きます。勝ちましょう」
そして、彼、あるいは彼女はちょっとキレていた。
突然押しかけて来た挙句、コリントのところに連れていけと頼まれ。
しょうがないので連れて行ってやれば、用済みじゃ失せろと言わんばかりの扱い。
べつに見返りを期待してやったわけではないが。
大好きな冒険を前にしてのけものにされれば腹も立つ。
そこで見かけたメンバーの不足で悩むチーム。
そして、ジルは多種多様の技能を修めた凄腕の冒険者。
神官の代役など朝飯前だ。参加を決意するのは当然の流れだった。
文字数はどの程度が好ましいですか?
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2000文字前後
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