あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 それぞれのチームが、それぞれで欠員を補うべく動いている。

 EBTGはレインの助力を得て、まずボルボレスアスからハウロを連れて来ることにした。

 レインの転移魔法ならば大陸を超えることも可能だった。

 

「狩人の仕事があっからな、あんまり長居はできねーんだが……」

 

「そんなに長くはかからないと思いますよ。かかってもせいぜい1か月程度じゃないでしょうか」

 

「なら、たまにゃいいか」

 

 あの姉ちゃんとイイコトもしてーしな、とは内心でこぼす。

 

 ボルボレスアスの開拓村で活動しているハウロは欲求不満が溜まっていた。

 ハウロは『ハンターズ』の例に漏れず、品性が底辺を這い回っている。

 女を抱くなんて朝飯前で、強引なナンパに強引なベッドインは平然とやる。

 だが、そんなことをして問題にならないのは都会だからだ。

 

 人数が少なく、ウワサがあっと言う間に出回る開拓村でそれは危険すぎる。

 すぐさま情報が出回り、ハウロは性犯罪者として村を追われる羽目になる。

 ひとり寂しく右手を恋人にしているのしかないのが現実だ。

 

 そこに来てヤらせてくれる女のいる都会……。

 行きたくないわけがなかった。

 

 開拓村を放置できないので長居はできないが。

 まぁ、1か月くらいならなんとかなるだろうし。

 その間に存分にヤりまくっておきたいところだった。

 

「だが、俺は人間とは戦えねーぜ。そこんとこは大丈夫か?」

 

「はい。人間はまずいない場所でしょうから」

 

「そうか。ただ、別大陸には詳しくねーんだが……こう、ゾンビとか、人間そっくりの人形とか、そう言うのとも戦えねーぞ?」

 

「えっ? 人間と戦えないだけじゃないんですか?」

 

「おまえらはアンデッドとかなんかそう言う感じのアレだから人間じゃないって考えるんだろうが……俺には人間にしか思えんからな……」

 

 ボルボレスアスの狩人に施される催眠暗示。

 その基準は狩人当人のそれに左右されるため、人間にしか思えないものとは戦えない。

 そのため、ヴァンパイアやゾンビ、人間に変身した変身種族とも戦うことはできない。

 

「そ、そうだったんですか……え、どうしよう、困ったな……ゾンビやヴァンパイアはいないとは思いますが……」

 

「そうね、人間そっくりに作られたオートマタとかはいてもおかしくないんじゃないかしら。副葬品の人形がオートマタと言うのは珍しくないわ」

 

 遺跡が具体的に何の遺跡なのかはいまだ不明ではあるが。

 それがたとえば墓所であるなら、副葬品としてオートマタがいてもおかしくないし。

 守護者としてリビングアーマーやら人型ゴーレムがいてもおかしくはなかった。

 そうした存在とも戦えないのでは困る。

 

「まぁ、戦えないっつっても、殺せないだけだ。無力化するくらいは、なんとか……」

 

「それなら、なんとかなる、のかなぁ……? いえ、オートマタをちょっと破壊して、明白に人間でないと分かる状態にしたらどうでしょう?」

 

「どうだろうな。たとえば腕をへし折って、断面が陶器だったら人間じゃないって実感できるだろうから、イケるんじゃねえかとは思うが」

 

「なるほど……では、まずはハウロさんと共にひと当てしてみて、感触を確認してみると言うことで……」

 

「いいんじゃねえか」

 

 それで戦えなかったら無駄足を踏むことにはなるが。

 ハウロの主目的は、あちらの大陸で女たらしとヤること、そして娼館に行くことだ。

 以前の報酬でもらった金は使い切っていないし、娼館巡りをするくらいの金はあった。

 

 

 

 

「よう、コリント。遊びに来たぜ」

 

「こんにちは、コリントちゃん。元気そうだね」

 

「まぁまぁまぁ、遊びに来てくれたの? うれしいわ」

 

 『ハンターズ』は異次元に存在するアマ・デトワール城を訪ねていた。

 そこの主、ブライド・オブ・コリントは快く『ハンターズ』を歓迎していた。

 いつ何時もヒマを持て余している彼女は来客はオールウェイズ・ウェルカムだった。

 

「客人に酒の一杯くらい出してもらっても罰は当たらんと思うんだがな」

 

「拙者はなんか食べたいでござる。朝飯ちょっと足らんかったでござる。飯くれでござる」

 

「私も酒が飲みたい。ツマミは魚を頼む、新鮮なやつを刺身でな。酒も清酒だぞ」

 

「冒険に備えて銃の手入れがしたいんですけど、作業スペース貸してもらえます? お嬢様のお屋敷では頼みにくくて」

 

 『ハンターズ』は恐ろしいほどに厚かましかった。

 そんな厚かましい要求を突き付けられたコリントはしかし、笑って頷いた。

 

「あらあら、気の利かないホスト役でごめんなさいね。ロザリア、すべてお客様のいいようにしてちょうだい」

 

「はい、コリント様」

 

 コリントの執事であるロザリアが恭しく応じる。

 コリントとは別種のヴァンパイアである薔薇色の髪の美女ロザリア。

 彼女は客人の求めに応じ、酒もツマミも作業スペースも、すべて用立てるために動き出した。

 

「ふふふ、こんなにたくさんお客様が来てくれて嬉しいわ」

 

 コリントはあまりにもヒマなので、このカスの客人も歓迎していた。

 もうちょっと客人に品性を期待してもバチは当たらないだろうに。

 

「それでなんだが、コリントさんよ」

 

「あら、なぁに?」

 

「あの、俺らのいる次元の、女たらしがよ」

 

「あら、彼女がどうかしたの?」

 

「貴族になって領地もらったろ? ンで、その領地で古代の遺跡が発掘されたんだよ」

 

「なかなか心躍る情報ね。それで、いったいどんな遺跡なの?」

 

「まだ見つかったばかりでな。調査はこれからだ」

 

「あら、そうなの……」

 

「で、その調査。俺たち『ハンターズ』が請け負ったんだが……どうだ、臨時で参加しないか? レリックもあるかもしれんぞ?」

 

「いくわ」

 

 コリントは即断即決だった。

 コリントがレリックを集める理由はロマン以外の何物でもない。

 収集家気質と言うのもあるが、ヒマだからでもある。

 彼女は生きるに飽くほど長生きはしていないが、アンデッド特有の情動のなさに倦んでいるところはあった。

 

「ふふ、彼女のところに行くのも楽しみね。彼女の屋敷には何度か滞在させてもらったことがあるけれど、あの子はもてなし上手だから。いずれ、この城にも招いて差し上げたいわ」

 

「うーん。とりあえず、メイドたちが全員処女じゃなくなるのは覚悟した方がいいぞ」

 

「そうね。まぁ、そのあたりは自由恋愛だと思うから。私は出立の準備をしてくるわ。くつろいでいてちょうだいね」

 

 コリントが出立の準備をするべく部屋を出ていく。

 それを見送り、モモはふと横に座っているジルを見やる。

 

「あ、おまえはもう帰っていいぞ」

 

「……そうですか」

 

「ご苦労さん」

 

「ええ」

 

 こめかみを少し引き攣らせながら、ジルが魔法で姿を消す。

 

 

 

 

 

 ジル・ボレンハイムは激怒した。

 かならず、かのメス臭い男よりも先に遺跡を攻略しなければならぬと決意した。

 ジルには恋愛がわからぬ。ジルは、アルトスレアの冒険者である。

 剣を手に、蛮族を無暗に殺して暮らして来た。

 けれども、冒険に対しては、人1倍に敏感であった。

 

 そんな冒険を前に、のけものにするような発言。

 許しておけるものかよと彼、あるいは彼女は激怒した。

 まずは準備をするために、1度自宅へと戻った。

 

 新大陸のくちばし、オベルビクーン。

 アルトスレア大陸北方に存在する、新大陸の入り口だ。

 まぁ、本当に新大陸なのかは謎なのだが、新大陸と言うことになっている。

 実際は新大陸ではなくでかい島なのだろうが。

 

 彼はその地を治める領主の屋敷へと戻ると、キッチンへと飛び込んだ。

 

「あれ、ジル。どうしたん、おかえり」

 

「ただいま戻りました、ケイさん。ケイさん、少しお手伝いをお願いしたいのですが」

 

「うん? いいけど、なにかな?」

 

 オベルビクーン伯爵家の厨房を預かる雇われコック長、ケイ。

 そんな彼に、ジルはそっと銃を渡した。

 

「私を撃ち殺していただけますか」

 

「落ち着け、話せばわかる」

 

 ケイはジルを止めにかかった。

 

「止めないでください。私は転生して新しい種族になるのです。その時にテンプレートも付与するのです。邪魔をしないでください。私は最強の生命体になるのです」

 

「あ、ああ、うん、それか……それならそうと最初に言ってほしい……」

 

「では、撃ち殺していただけますか」

 

「とりあえず、厨房でやるのは嫌なんだけど……外でやろうぜ」

 

「はい」

 

 そう言うわけで、ジルはケイと共に練兵場へと。

 練兵場ではいつも通りに訓練中の兵士たちでにぎわっている。

 訓練への熱意は強く、誰もが真剣に訓練に打ち込んでいた。

 

 オベルビクーンの地は、元来は蛮族の領域である。

 それをジルが蛮族から奪い取って平定、オベルビクーン伯爵領としたのだ。

 

 なお、アルトスレア大陸では蛮族は人類に敵対的な種族の総称だ。

 別大陸で言う、野蛮な文化に生きる人間のことではない。

 

 その蛮族の圧力に抗うため、オベルビクーンの地には絶大な戦力が集っている。

 ジルが鍛えに鍛えまくった配下の兵団は人類の限界点に達している。

 ジルが言うところの15レベル。人類が到達できる限界点だった。

 

 つまり、神官としての技能で言うならレウナ並の神官がゴロゴロいるし。

 戦士としての技能で言うなら、フィリアくらいの戦士がゴロゴロいる。

 そこらへんの一般兵がよその国では騎士団長を瞬殺できる強さだ。

 そんな頭のおかしい強さの兵団を横目に、ジルとケイは転生の準備をする。

 

「では、転生の術を展開しますので、サクッと撃ち殺してください」

 

「その前に周辺に周知してもらえるか。反乱を起こしたとか勘違いされて攻撃されたくない」

 

「しょうがないですね」

 

 ジルは周辺の兵士たちに行う儀式について説明した。

 兵士たちは困惑したが、領主様のやることだからな……と引き気味に肯定した。

 

「それじゃ、やるぞ……」

 

「はい、おねがいします」

 

 そして、ケイはジルを射殺した。

 脳天に銃弾一発の容赦ない攻撃だった。

 

 ジルは弾丸くらいしれっと避けるし、防ぐ手段もあるが。

 無防備に直撃を受ければ、強靱な外皮を持たない人間である以上は死ぬ。

 ジルは脳髄を掻きまわされて即死した……。

 

 そして、ジルは転生の秘術によって蘇生した。

 ジルはエルフになっていた。

 

「ハズレです。さぁ、もういっちょバキュンとお願いします」

 

「うう、この転生の儀式嫌なんだよな……ジルのこと殺すのキツイ……」

 

「自分に向かって銃弾を撃ち込むのって結構難しいんですよ。すみませんね」

 

「それはわかるけどさぁ……」

 

 アルトスレア大陸の銃火器はエルグランドのそれと違って、あまり発達していない。

 そのため、大型で長いものが多く、自分の脳天に撃ち込むには向いていないものだった。

 

「今回は本気で種族変更しようと思います。高レベルセッション御用達のハーフ・エンジェルかつヘレラニアンになろうかと。長丁場になると思います」

 

「ヘレラニアンって……伝説上の種族じゃないのか」

 

「実在種族です。生誕の花園で生まれますよ。花園がもうこの大陸に1つしかないので、きわめて希少な種族になってますけど」

 

 ジルの言う通り、ヘレラニアンとは生誕の花園で生まれる奇跡の種族だ。

 かつて、金髪の女たらしがアルトスレアで最も神秘に満ちた光景と絶賛したもの。

 

 満月の夜に、花から生命が生まれるのだ。

 アルトスレア固有の獣人種族、ヘレラニアンが。

 アルトスレアの女神ヘレラの奉仕種族として生まれる種族だ。

 あの女たらしも仲間に迎え入れるのを断念したほど稀少な種族だ。

 

「へー……で、それって強いの」

 

「ハーフ・エンジェルの時点で冷気、酸、電気、疫病に完全耐性、飛行能力、擬似呪文能力とマンチパワーが高いのですが、さらにハーフ・エンジェルはもう一方の親の能力を完全に引き継ぎます」

 

「ほーん?」

 

「つまり、ヘレラニアンとして火炎、睡眠、麻痺に完全耐性があります。つよい」

 

「つよい」

 

「まぁ、ハーフ・エンジェルとヘレラニアンのレベル調整値が合計されて、調整値6とかおぞましいことになってるんで、あんまり長く続けたくはないですが」

 

「なんだ、レベル調整値って」

 

「現在レベルにその数値をプラスし、その合計値に必要な値分だけ経験点が増えるシステムです。つまり、レベル調整値6の場合、1レベルから2レベルになるのに、7レベルから8レベルになるのに必要な経験点と同値の経験点が要求されます」

 

「はーん? つまり、成長が遅くなるんだな」

 

「はい。なので、いずれまた人間に戻ります。ですが、今この時、少しでも高い能力が欲しいのです。あと、生得的飛行能力もなんだかんだ便利ですね。機動性完璧ですし」

 

「よく分からんが強いんだな」

 

「はい」

 

「なんのためにそこまで強さを……? なにか、重大な戦いが……?」

 

「モモロウさんをキャン言わせようと思いまして」

 

「…………それだけ?」

 

「はい」

 

「……俺、ときどきジルがわかんないよ……」

 

「そうですか。では、バキュンとおねがいします」

 

「わかったよぉ……」

 

 それからしばらく、練兵場には銃声が響き渡っていた……。

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