あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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17-003

 EBTGはハウロを連れて、アノール子爵領へと戻って来た。

 転移先を自分たちで決め、自分たちで転移し、自分たちで戻って来れる。

 そのような即応性の高さで、EBTGはメンバーの用意を最速で完了。

 これによって素早く本腰を入れて冒険に挑むことが可能だった。

 

「食料は『四次元ポケット』のなかにどっさりとありますし、いざとなればフィリアさんの魔法で補える」

 

「装備品類に道具類も準備万端……よし、いけるわ」

 

「気を引き締めていきましょう」

 

 元々、前衛の戦士が1人欠けていただけの集団だ。

 準備に滞りはなく、EBTGは攻略の目標を定めて遺跡への攻略を開始する。

 

「ひとまず、遺跡の性質を見極めて、必要に応じて撤退するわ。非生物系のモンスターが多い遺跡の場合、それ用の装備を整えたいもの」

 

「そうですね。非生物だと剣はあんまり通じなかったりしますもんね」

 

 無理やり押し通ることもできなくはないだろうが。

 そんなことをして無意味に苦労をするのもばかばかしいし。

 無理やり通って無意味に時間を浪費したらもっと馬鹿らしい。

 ほかのチームとの競争なのだから、最短で済む道筋の方がよい。

 

 

 

 EBTGは岩塩鉱山を通り、目標の遺跡へと向かう。

 岩盤が崩落したこともあって、遺跡のある周辺の坑道は立ち入り禁止となっている。

 おかげで鉱夫の間を通り抜けて遺跡へ……なんて苦労をすることもなく。

 EBTGはスムーズに遺跡に突入することに成功した。

 

 岩塩で出来た白い坑道の中を進み、開けた空間にそれはあった。

 赤い石材を緻密に組み上げて作られた荘厳な建築物。

 丸い屋根を持った遺跡の四方には、同様の石材で作られた尖塔が1本ずつ立っていた。

 それは地中の中にあるには異様にも思える遺跡だった。

 

「この遺跡の様式は……クヌース帝国中期のものね。500年から700年くらい前のものだわ。おそらく、墓所。まだトイネが人間の国だった頃のものだわ」

 

 レインが遺跡の尖塔を眺め、そのように結論付ける。

 この手の知識は文化教養として貴族ならば当然身に着けていて然るべきものとされる。

 その時代時代の流行りの様式を抑えないと、古い時代の物に目利きができない。

 

「墓所、ですか。岩塩鉱山のすぐ近くに?」

 

「変だとは思うわ。でも、地中にある時点でおかしいのよ。この墓所、明らかに天井があるわ」

 

「言われてみるとたしかに天井がありますけど」

 

「地中に作った建造物に、わざわざ屋根作るかしら?」

 

「……言われてみると、たしかに変ですね?」

 

 墓所だから無理やり作ったと言うならそうかもとは思うが。

 それよりは、地表で作られたものが地下に没したと考える方がまだしも考えやすい。

 岩塩鉱山周辺は地盤が安定しているので、長きに渡って残す建築物を建てるのに向くとされるし。

 

「地表に建てた建築物を地下に封じ込めるなんて、出来るんですか?」

 

「できると思うわよ。少なくとも人間を永遠に地中に封印するような魔法があるわけだし」

 

 『砕けぬ盾』にまつわる戦いの中、嵐の巨人王ノグリアを地中に封印した魔法『尚早な埋葬』。

 あれは効果が永続な上に、対象を魔法的な静止状態に陥らせる。

 地中に封じ込めるだけならば、『尚早な埋葬』よりもずっと低位で済むだろう。

 

「魔法ってそんなことできんのか、すげぇな。で、なんだってまた地中に封印したんだ?」

 

 ハウロの疑問にフィリアが悲し気な顔で応える。

 

「盗掘防止だと思います……これほどの規模の墓所となると、副葬品もすばらしいものになりますから……財宝に眼が眩んだ盗人が墓所を破壊するのは珍しいことではありません……」

 

「あ~……」

 

 人間の限りない欲望が産み出す損失、その防止のための措置。

 そう言われてしまえば納得するほかになかった。

 

「待てよ。そうすると、俺らも盗掘に入るのと同じなんじゃねえか?」

 

 そして、ハウロがあまりにも鋭い見解を口にする。

 その言葉にはフィリアもレインもウッとなって固まった。

 

「りょ、領主からの正式な依頼だもの……これは盗掘じゃなくて、公式な発掘作業よ……」

 

「む、む、むむ、無理に墓所を破壊するようなことはせず、埋葬されていらっしゃる死者の方に正しい敬意を持って、改葬なども含めた措置を行うことを前提とすれば、これは決して野蛮な盗掘などではなく……」

 

 と、それぞれに一応の自己弁護はするが。

 やはり、遺跡側から見れば、それは盗掘以外の何物でもなかった。

 でなけりゃ戦闘準備なんか必要ないもの。

 

「あ、あー、ウン、なんと言うか、そう……死者への敬意を忘れないようにだけ……ね?」

 

 と、レインが仲間たちにそんな配慮を求めた。

 死者を騒がすのはもちろん本意ではないので、みんなが素直に頷いた。

 

 

 

 墓所の入り口へと向かう。

 墓所へと入るための階段を上る中で、ふとクロモリが地面を見つめる。

 その仕草に他の面々が動きを止めてクロモリの様子を見守る。

 

「誰かが上った痕跡がありますね。つい最近です……ふむ。『世界樹の王(エトラガーモ・タルリス・マギ)』の皆さんの足跡のようですね」

 

「そんなこと分かんの?」

 

「はい。私は常に周辺の人の靴底の形状を観察していますので。『世界樹の王』の皆さんは靴底にスパイクを打ち込んでいるので余計に分かりやすいです」

 

「ほほう……」

 

「どうやら、朝方に訪れて、すぐに帰ったようですね。足取りに不安の見られない往路の足跡も見えます」

 

 クロモリが見つめる先には階段があるばかり。

 ほかのメンバーには、クロモリのいう足跡は見つけられなかった。

 本職の追跡、観察技術はケタが違うと、そう言うことだろう。

 

「威力偵察をして、すぐに引き上げたと言ったところですか。すると、敵の存在が示唆されますね。敵がいなければ引き返す必要がありませんので」

 

「有益な情報ね。敵がいることがほぼ確定的なら、警戒を怠らないようにしましょう」

 

「はい。特に今は、われわれEBTGの要たるあの方がいませんから……」

 

 クロモリの言葉に他のEBTGメンバーがほんのりと暗い顔色で頷く。

 EBTGには常にかの金髪の女たらしが居た。それがいまはいない。

 今までになかった異常事態に戸惑っていないと言えば嘘になる。

 

 全員がいつにない緊張感を持って、墓所へと上がっていく。

 そして、出入口となる入口の前に立ち、レインが周囲を見渡す。

 

「変ね。この墓所、小部屋がないわ」

 

「小部屋ですか?」

 

「この手の墓所は一族で所有するものだから、歴代当主とはべつに、一族や縁者を葬るための小部屋があるものよ。でも、それらしいものがないわ」

 

 現代のマフルージャでは集合墓地が一般的であるが。

 トイネのように、一族ごとに墓所を保有することも珍しくはない。

 そうした墓所は一族にただ1つであり、一族のすべてがそこに葬られる。

 そのため、一族の中で重要な地位のものがメインの墓廟に葬られ、それ以外のものを葬る小部屋がある。

 

「たしかに変な形式ですね。墓所自体の形式は闘神イスタウーフ様のそれと見ますが……なぜ、シェバオ様のシンボルが同じ扱いに?」

 

 フィリアが首を傾げる対象は、入り口に刻まれた神のシンボル。

 この墓所に葬られた者たちが信奉する神のそれなのだろうが。

 闘神イスタウーフと、その従属神たる戦神シェバオ。

 その2つのシンボルが並立して、同じ大きさで刻まれているのがおかしい。

 

 イスタウーフはシェバオの主なる神だ。

 そのため、シンボルを並べて置く場合、イスタウーフこそが最上位に置かれる。

 シェバオ以外にも存在する神々のシンボルが周囲に放射状に置かれるか。

 イスタウーフの下に、神の序列順に大きさの違うシンボルが刻まれるか。

 

 シェバオをより強く信奉しているなら、シェバオのシンボルを大きく刻むのは分かるのだが。

 それならそれで、イスタウーフのシンボルは刻まないのが普通だ。

 

「ずいぶんと昔の形式だから分からないことも多いけど、一応は右側にイスタウーフ神のシンボルが刻まれているから、格上とはされてるわね」

 

「ですが、シンボルのサイズが……ほぼ一緒ですね。一応、シェバオ様のシンボルが気持ち小さいようですが……パッと見でわかるほどの差では……」

 

「うーん……このシンボルの配置、なにか秘密がありそうね……出入口にわざわざ刻んでいるあたり、なにかのリドルのヒントだったり……?」

 

「ですが、ただの墓所の可能性も高いですよ。リドルを内部に仕掛けるにしても、墓所にヒントは置かないと思います」

 

「たしかにね。一族内に口伝で伝えるとか、一族伝統の屋敷にタペストリーがあるとか、そう言う感じよね」

 

 口々に意見を交わし合うレインらEBTGの初期メンバーたち。

 この大陸の出身である彼女たちには、このあたりの文化背景への理解がある。

 

 その一方で、この大陸の出身でないレウナとハウロはさっぱりだ。

 レウナは信仰の取り扱いに関しての理解はある方だが、別大陸の信仰の形式はさっぱりだ。

 

 ハウロに至ってはさらにさっぱりだ。ボルボレスアスは神の息吹さえも薄い。

 さすがに墓で変な事をしてはいけないというくらいの理解はあるが。

 それは神々への畏敬の念ではなく、死者を悼む文化を持つが故でしかない。

 

「ここは、大人しく話合わせといた方がいいのか?」

 

「まぁ、おそらくは。知恵者のシンキングタイムを邪魔してはいかんだろう」

 

「そんなもんか。まぁ、大人しく待つかぁ」

 

 2人はEBTGのメンバーが侃々諤々(かんかんがくがく)に意見を交わし合うのをしばらく眺めた……。

 

 

 

 やがて、EBTGの議論は一定の結論を見た。

 この墓所の主の信仰の在り方まではわからないものの。

 刻まれたシンボルそのものに深い意味はないであろう、と言うものだ。

 特別な刻み方をしていたり、特別な道具を使っていたりもしない。

 そして、出入口に信仰する神のサインを刻むことは珍しいことではない。

 つまり、なにもわからなかったということだ。

 

「ま、結局は中に入って見ないとわからないってことね」

 

「深い意味がないと分かっただけでも収穫だと思いますよ。考慮に入れておかなくていいと言うことですからね」

 

「まぁ、わからないことがわかったということになりますけどね……」

 

 なんて結論付けられ、あっさりとEBTGは歩みを再開する。

 EBTGは全員が学者肌と言うか、考え事や推察を好んで行う。

 まぁ、要するに理屈っぽいチームと言うことだ。

 そのため、重要でない議論さえもよしとする風潮があった。

 

「…………」

 

「…………」

 

 自分たちは何のために議論を待ったんだ。

 ハウロとレウナはそんな気持ちで顔を見合わせたが。

 すぐに気を取り直して、EBTGの後をついて歩いた。

 

 墓所の入り口を開き、中へと足を進める。

 内部にはひんやりとした空気が満ちていたが、淀んだような感覚はない。

 鉱山内部に配されていた『持続光』のランタンの明かりは届かない。

 レインが『ポケット』からサッと『光棒』を取り出すと、これを点灯した。

 

「はい、1人1本ね。銀貨1枚よ」

 

「金取るってか」

 

「口答えしたから罰金銀貨5枚ね。さらに追徴課税として銀貨3枚もらうわ」

 

「この姉ちゃんせこいな」

 

 ハウロが呆れたように言い、レインがくすくすと笑った。

 金の要求は7割くらい本気だったが、レインは冗談と言うことにして笑っておいた。

 

 各々が手に『光棒』を持ち、墓所内部を照らす。

 内部もまた赤い石材によって作られた墓所には絢爛な武具の数々が葬られていた。

 壁に作られた副葬品の置き場には武具が非常に目立ち、美術品の類はほとんど見受けられない。

 

「こりゃすげぇな。持ち出せたらひと財産だ」

 

「これだけの副葬品があるなら守護者を置くのも納得ね……みんな、気を付けて」

 

「うむ。しかし、副葬品に武具が多いな……なにより、種類が偏っているな」

 

「言われてみるとたしかに……ファルシオンが多いですね」

 

 レウナの言葉通り、サシャも愛用しているファルシオンタイプの剣が数多く転がっている。

 それは剛健な作りの実用品に装飾を施したものもあれば、装飾品そのものである作りの華奢なものもあった。

 だが、ファルシオンと言うのは実用本位の剣であり、品位としてはかなり低い。

 

 ロングソードを持てない、徒歩の戦士が持つ剣として発展して来た歴史があるのだ。

 というより、格式という意味ではファルシオンは剣ではない。超大型のナイフだ。

 そのため、ファルシオンは副葬品としてはあまり相応しいものではない。

 それをあえて使っていると言うことは、おそらくこの墓所の主がファルシオンを愛好していたのだ。

 

「もしやだが、この墓所は個人を葬るために作られたのか?」

 

「この規模の墓所を? よっぽどのものよ、これは。それこそ王族、それも王その人に相当するような人物でもないと……」

 

「だが、そうと考えた方が自然なくらいに副葬品が偏っている。鎧も獅子の頭を模した鎧ばかりだ」

 

「シェバオ様も獅子の頭を持つ男神(おがみ)なので、それになぞらえた鎧は珍しくないですよ」

 

 そうサシャがレウナにやんわりと答える。

 

「そう言うものか? まぁ、そう言うものか……」

 

 レウナはひとまず納得した。

 その一方で、ある事実には言及しなかった。

 もしもその事実に言及していれば、仲間たちの反応も違ったろう。

 

 レウナにはアンデッドとしての高度な暗視能力がある。

 そのため、光が十分でないこの空間でもほぼ完全な視界を確保している。

 それゆえに見えていた光景。

 

 シェバオ神の頭部を模した鎧に、イスタウーフ神のシンボルが刻印されている。

 そんな異常な事態について、この大陸の常識を持たないレウナは疑問を抱けなかったのだ。

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