あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 『世界樹の王(エトラガーモ・タルリス・マギ)』の悲喜交々(ひきこもごも)

 そして『ハンターズ』の呑気な和気藹々の一方。

 

 一足先に遺跡へと到達していたEBTGはさっそく迷宮へと挑んでいた。

 ぽっかりと空いた真っ暗い入り口へと進み、その中へ。

 すると、そこに広がっていたのは、濃い緑の香りに満ちた大地。

 

 熱気と湿気に満ちた原始林。

 どこか遠く、どこか近くに生命の息吹があり。

 そこには数多の生物たちが思うがままに繁栄し。

 そして、またある生物がそれらを糧に繁栄している。

 

 生命の連鎖反応に満ち溢れた世界。

 そこはまさに生命の箱庭とでも言うべき空間だった。

 

「おいおい、密林みてぇなとこ出てきたな。迷宮ってのはなんでもありか」

 

「ああ、なんでもありだぞ。巨大ロボットも出てくるぞ」

 

「はっはっはっは! バカこくぜコイツ!」

 

「これが本当なのだな。ドラグーンというのだが」

 

 レウナの言葉をウソと断定して笑うハウロ。

 レウナが一応といった調子で補足するが、真面目に聞いた様子はない。

 

「ドラグーンというと、『アルバトロス』チームの人たちが修理していたアレですか」

 

「そうそう、あれ。以前に戦った時はずいぶんな強敵だと思ったものだけども……」

 

「今はそう苦戦はしない……と思いたいですね」

 

 あっさりとEBTGのメンバーらが言葉を続け、ハウロが目を白黒させる。

 レウナのジョークに乗っているだけとも思うのだが。

 それにしてはあっさりと言葉を続け過ぎているというか。

 

「あの、その、マジで? こう、巨大ロボットがいるのか? 変形合体して気持ちよくなったりするのか?」

 

「変形はするとは聞いたが、合体するとは聞いたことがないような気がするな」

 

「うそだろ……迷宮ってマジでなんでもありかよ……」

 

 ハウロがあぜんとして呟く。

 この大陸に生まれ育ったものとしては、迷宮ならなんでもありと知っている。

 そもそも、巨大ロボットの存在がまずありえる事でないという理解がない。

 アイアンゴーレムの亜種とか、その程度にしか認識していない。

 

「この調子で行くと、激エロサキュバスの姉ちゃんが出てきたりするのか?」

 

「サキュバスというと、淫夢を見せる醜悪な怪物か。まぁ、エロスの怪物であることはたしかか。出るかもわからんな」

 

「……醜悪なのか?」

 

「ふつう、サキュバスというのは醜い怪物だが。まぁ、淫夢に現れる時は美女だが、本体は化け物だ」

 

「くっそぉ……パネマジ標準搭載モンスターってことかよ……許せねぇ……!」

 

 ハウロが見当違いな怒りを燃やしている。

 EBTGのメンバーはそれを特に気にもしなかった。

 ハウロを金髪の女たらしの亜種くらいに思っているのかもしれない。酷い侮辱だ。

 

「さて、熱気林の攻略となると、装備を少し整え直した方がいいですね」

 

「そうですね。靴と、靴下を変えましょう。蛇よけもしたほうがいいですね」

 

「日焼け止めも必要そうな感じね……かなり日差しが強いわ」

 

「日焼け止めは私の方に手持ちがありますので、そちらを使いましょう」

 

 薬師らしく、自前で調合した日焼け止めを取り出すクロモリ。

 各々が手早く細々とした道具を用いて熱気林探索の支度を行う。

 ハウロも狩人として、こうした熱気林……熱帯雨林で活動することがある。

 そうした場所での準備に不足はなく、適宜装備を整えていく。

 

 その一方で、特になんの準備もしていないのはレウナだ。

 腕組みをしてその場に立って周囲を警戒している。

 

「レウナの姉ちゃんは準備しなくていいのかよ?」

 

「私にはいらん」

 

「蛇に噛まれたら毒でやられるかもだぜ?」

 

「私に毒は効かん」

 

「おっほ、すっげ。ガキの頃から毒に慣らしてたとか?」

 

「いくら毒に慣らしても致死量は変わらんので意味ないぞ。単に種族特性だな」

 

「ほーん。日焼け止めはいいのか?」

 

「日焼けもしない」

 

「日焼け止めすると、日光を浴びたのが原因の体力の消耗も防げるぜ。やっといたほうがいいぞ。俺の日焼け止め塗ってやるよ。乳出しな」

 

「私は疲れない。丸1年走り続けられる」

 

「まじぃ? ナニもんだよおめー」

 

「……まぁ、いいか。私はアンデッドなのだ。生物ではない」

 

「ほう、アンデッド……アンデッドね……」

 

 ハウロは訳知り顔で頷く。

 それを見てレウナは納得してもらえたかと同じく頷く。

 その仕草を見てハウロはそのまま口を閉じた。

 

 ハウロはボルボレスアスの民なのでアンデッドというものを知らない。

 アンデッドというのが、ゾンビとかそういうあれだろうくらいの知識はあるが。

 それだとどんな特性があるのかとか、そのあたりはさっぱりだった。

 

 つまり、ハウロは特に意味もなく知ったかぶりをしていた。

 

 

 

 アホのハウロのことはさておいて。

 EBTGは衣類を少し整え直したり。

 肌に日焼け止めを塗ったり。

 蛇よけの薬を装備につけるなどした。

 

 いくら強くなっても、不意を打たれて猛毒を流し込まれれば厄介だ。

 魔法による解毒を行えばそれで済む話ではあるが。

 結局は傷を負わないに越したことはないのだ。

 

「よし、準備はいいわね。森の中は視界が効かないわ、クロモリ、頼むわよ」

 

「はい、おまかせください」

 

「狩人たる俺様も頼りにしてくれていいぞ。森の中の生き物を察知するのも得意なんだよ」

 

「頼りにしております、ハウロ殿」

 

「おう、クロモリの姉ちゃんだったな。おっ! おお……よろしくな。えーと、ああ、よろしくな。俺はハウロって言うんだ」

 

「……はい」

 

 明らかにクロモリの胸に話しかけているハウロ。

 クロモリはそれに気付いて、なんとも言えない気持ちになっていた。

 元は40すぎのオッサンの胸になんか夢中になって悲しいやつ……と半ば憐んでいるまであった。

 

 そう言う意味ではモモロウのことも憐れんでいなくもない。

 年若い美少女に傅き、物理的に虐められるのが趣味な中年男性。

 クロモリの自認はそういう救いようのない変態中年マゾヒストだ。

 モモロウはそんなのと夜を共にして愉しんでいるのだ。

 

 かなり女顔だし、メスな少年だが。

 疑いようもなく美形だし、実力も、金も、名声もある

 女なんてよりどりみどりだろうに。

 そのモモロウが選んでしまったのが、よりにもよって……。

 

「ハウロ殿はモモロウさんよりも腕利きの狩人と聞き及んでおります。遭遇戦の際には頼ることもあるかと思います」

 

「おー、そうそう。腕利き腕利き、あー、腕利きだから、まぁ、依頼は組合通してもろて、あ、組合じゃねえ、村長通すよう頼むな、うん」

 

 まともに話を聞いちゃいない。

 金髪の女たらしの趣味で、クロモリの胸元はガバガバだ。

 それによってあらわになっている深い谷間にハウロは夢中だ。

 

 クロモリは腕をちょっと前に出して。

 その腕で自分の体をぐっと押し込む。

 すると、クロモリの大変豊かな胸が潰れて強調される。

 

「おおっ!」

 

 ハウロはついに身を乗り出して覗き込んでいる。

 クロモリも自分が同じ状況だったら覗き込んでいたとは思うが。

 しかし、人間とはここまで愚かだったのか……。

 そんなことを思いつつ、クロモリは頭を下げる。

 

「もしものときは、守っていただけるとありがたく思います」

 

 礼をするために姿勢を整えた。

 そのように見せるための懇願の言葉だ。

 口にした言葉は純然たる本音ではあるが。

 

 野伏せりとして索敵は最も得意とする技術だが。

 それは当然ながら、敵との遭遇戦において最も危険な立ち位置ということ。

 そこで隣に立つ腕利きがいれば、守ってもらいたいのは自然な発想だろう。

 

「おう、もちろんな、任せとけっちゅーの。俺様を誰だと思ってんだ、史上最年少で特急狩人になりやがり腐ったハウロ・G・ヒータ様だってぇの」

 

 やっぱりクロモリの胸を覗き込みながらだが、ハウロは快く頷いた。

 話の内容をどこまで聞いているかは謎だったが。

 そのように宣言した以上は、無理矢理にでも頼らせてもらおう。

 

 まぁ、腕利きなのは間違い無いのだ。

 ちょっとばっかり囮にしたりしても。

 そうそう死にはしないだろう。たぶん。

 

 

 準備を整え、隊列について相談し。

 クロモリとハウロを先頭にして熱帯雨林の中を進む。

 クロモリもハウロも手に山刀を持ち、ツタやヤブを切り払いながらの移動だ。

 

 野歩きに慣れ親しんだ2人ならともかく。

 EBTGのメンバーはそうまで森歩きに慣れていない。

 進路を啓開しながら進むのは純然たる親切心だ。

 

「濃い森ですね。こうまで深く濃い森ははじめてです」

 

「ボルボレスアスでもなかなかは見ねぇレベルの森だな」

 

「危険な生物の痕跡もそこそこ見受けられますが……それよりも、見慣れない生物の痕跡の方が多いですね……」

 

「そうかい。クロモリの姉ちゃんにはそう見えるかい。俺には見慣れたもんが多いな」

 

 そう口にしながら、ハウロは地面をじろりと睨め付ける。

 地面に残る、数多の野生動物たちの痕跡。

 

 ボルボレスアス全域に渡って生息する大猪の足跡、体毛。

 それら大猪を捕食した痕跡。その痕跡の跡を探った痕跡。

 そして食べ残しの腐肉を漁り尽くした痕跡もある。

 さらに砕けた骨片すらも残っていないところから見て、骨髄食のモンスターが持ち去ったと思わしき形跡すらある。

 

「つい昨日できたばっかの迷宮だろうに、ここじゃ食物連鎖が起きてんのかい。どうなってやがるんだ、迷宮ってぇのは」

 

「そこはさすがに私にも分かりかねますが……」

 

「そうかい。俺にわかるのはな、この森には、ボルボレスアスのモンスターがごろごろ居てやがる」

 

 ボルボレスアス。

 この世界で最も生命力に満ち溢れた大陸とも言われる。

 そのモンスターたちがゴロゴロといるのは、あまり面白い状況ではない。

 

 初見のモンスターにはやはり手間取るものだ。

 EBTGとしては、ボルボレスアスのモンスターがゴロゴロいるのは面白くない。

 ハウロがいてくれるのが救いか。

 

「カハハ、ボルボレスアスのモンスターは一筋縄じゃいかねぇぞ? 飛竜ってのが、空を席巻する圧倒する巨翼だってのを、肝に命じとくんだな」

 

 ハウロはそんな調子で笑って、EBTGを脅しつけた。

 アルトスレアにも強大なモンスターはいたし。

 リリコーシャにだってもちろん強大なモンスターはいる。

 そして、それは当然ながら、ボルボレスアスもそう。

 

 神が人に向けて突きつけた挑戦状。

 そこに、強大なモンスターがいないわけもなく。

 

 ハウロは狩人の直感として、その難敵の登場を予見していた。

 

 

 

 それは種別で言うなら、ワイバーンと言われるものだ。

 前足が翼となっていて、後ろ足のみで歩くか、前足は補助として使うだけのもの。

 だが、アルトスレアにいるワイバーンと、それは明白に違っていた。

 

 まず、信じ難いほどの巨躯。

 

 それは頭部から尾まで、20メートル以上にも及び。

 翼の端から端までの長さもまた、同様に20メートルを超える。

 

 そして、その全身は頑健な甲殻と鱗に覆われていた。

 飛翔のために徹底的に軽量化された肉体などではない。

 飛翔能力など、偶然手に入れたと言わんばかりの屈強な肉体。

 

 別大陸のワイバーンたちが飛翔のために捨てたものは多い。

 頑健な外殻を捨て、肉体を支える骨すらも軽量化して脆くした。

 そうまでして得た軽量さに、自分の骨を砕きかねないほどの筋肉を乗せ

 助走をつけて、風の力を味方につけてようやく飛び立つようなもの。

 

 だが、それは何一つとして捨てていない。

 頑健な甲殻も、強靭な骨も、弾けそうなほどの筋肉も。

 どれもこれもすべてを欲して、そのすべてを手にして。

 それでいて、その巨翼は空を我が物顔で飛翔していた。

 

 甲殻に、その体内に満ち満ちる莫大な属性エネルギー。

 燃ゆる立つ焔と、弾け溢れ出す紫電の力。

 それはかつて、EBTGが相見えた強敵たるドゥレムフィロアのように。

 複合する属性を宿す個体は、ただそれだけで強力だ。

 それが成せるだけの凄まじい肉体強度があり

 それを成せるがゆえに強大なエネルギーを振るえる。

 

 それはまさに天空の覇者であり。

 空から地べたを這う生物たちを見下ろす超越者。

 悠々と空を舞いながら、その飛竜は眼下を睥睨する。

 

 そして、それは卓越した視力によって侵入者を捉える。

 自身の縄張りたる、この密林全域に立ち入った慮外者。

 それを捨て置くわけもなく、飛竜は舞い降りる。

 

 ボルボレスアスの圧倒する巨翼。

 天空の覇者と謳われる飛竜は、今まさに君臨しようとしていた。

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