あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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「しゃオラッ!」

 

 ハウロの旋棍打突。バビェーダ・スヴィエの甲殻と激突し、鈍い音を立てる。

 飛竜特有の強靱な身体構造、溢れかえるほどの生命力がそれを弾き返す。

 ハウロが身を翻し、旋棍を振るって反撃を受け流しながらくるくるとステップを刻む。

 

 気功技術を会得しても、体重ばかりはどうしても増やせない。

 打撃の衝撃を受け流すために回転運動は非常に重要な役割を果たす。

 

「クソッ、禁域級は頑丈過ぎるぜ! タフって言葉は禁域級のためにあるってか!」

 

 ハウロが思わずと言った調子で吐き捨てる。

 この調子で戦い続けて、勝てる勝てないで言えば、まぁ、勝てる。

 

 事前に身体能力を最大限に引き出す狩人の秘伝料理を食べていないし。

 ボルボレスアスに残して来た頼れる相棒たち、パートニャーやパートワンも当然いない。

 

 ボルボレスアス特有の喋る犬と猫たちは狩人の相棒としても有名だ。

 そして、狩人組合の支援も当然ながらないわけだが。

 この程度のことで負けるならば、ハウロは特級狩人になっていない。

 

 だが、どうしても時間がかかり過ぎてしまう。

 回避と防御を優先すれば、当然ながら攻撃のチャンスは減る。

 狩人として、それは当然の選択ではあるのだが。

 

「モモロウとトモちん、それにメアリもいるんだよな……!」

 

 以前の自分でもある、モモロウとメアリ。そして、かつての相棒トモ。

 ハウロはモモロウとメアリのポテンシャルをよく理解している。

 

 メアリに対して身体能力的にハウロの方が勝るが。

 モモロウは性差のこともあって、ほぼ互角程度。

 ハウロとモモロウたちの差は、培った技量と気功技術の差だ。

 

 『ハンターズ』が刻んだこの大陸における5年間の冒険。

 それはハウロとモモロウたちの間にあった技量の差を埋めた。

 気功技術と、強大な飛竜との戦闘経験の分だけハウロがまだ強いが……。

 

 それは、集団戦による連携で容易に覆る程度の差だ。

 

 トモによる呪歌(まがうた)の補助と強化。

 モモロウのインファイト技術。

 メアリの運動射撃技術。

 近・中・遠の3距離がそろった連携。

 

 この3人の連携だけで、ハウロを易々と上回る。

 おそらく、このバビェーダ・スヴィエを3分とかからず撃破してのけるだろう。

 それはつまり、この迷宮探索勝負で負けることを意味している。

 

「狩人同士の早さ勝負なんてばかばかしいと思ってたがよ……自分にだけは負けたくねぇよなぁ!?」

 

 ハウロはそんな理屈で勝負を焦っていた。

 

 手にしていた旋棍を連結・合体させる。

 そして、背負っていたヘッド部を接続。

 

 ハウロの気を伝達し、激化させる機能が組み込まれた気斬槌(きざんつい)

 戦槌形態と円月剣形態の2つ、斬打双方に対応可能な特殊武器。

 気功技術を会得したハウロに密やかに伝えられて手にしたものだ。

 

 その名をオーラバッシャー。

 ボルボレスアスの狩人のための超重武器であり。

 斬撃、打撃、双方を過不足なく使いこなせる技術が必須。

 さらに、気功激化機能があることから、気功技術ありきの構造でもある。

 気功技術無しでは、接合部が弱過ぎてまともに扱えない。

 

 使用者を選ぶと言う意味でハウロはこれをクソ武器だと思っているが。

 他の追随を許さない気功激化能力は凄まじい。

 これを用いた打撃はほかの武器と比べて格段に強力だった。

 

「往くぜオイ!」

 

 ずっしりと腕にのしかかる重量。

 それを感じながらハウロは疾駆する。

 

 バビェーダ・スヴィエの咆哮。

 それを身のこなしだけで躱す。

 

 肉薄し、戦槌形態のオーラバッシャを振り上げる。

 仰け反って、人体で最も強力な筋肉、背筋を用いての打撃。

 それは一撃でバビェーダ・スヴィエの甲殻を砕き、脳天をブチ抜く衝撃を与える。

 

 バビェーダ・スヴィエがよろめく。

 それを見て取った瞬間、ハウロは半ば反射的に追撃を選択した。

 打撃の反動で跳ね返ったオーラバッシャーを両腕で制御。

 腰の動きで振るう、横薙ぎの打撃を更に捻じ込んでいく。

 

「グオォォォッ……!」

 

 バビェーダ・スヴィエの苦悶の声。

 ハウロは歯を噛み締め、強引に更なる追撃を振るう。

 

「うおおッ……!」

 

 ボルボレスアスの超重武器は、やはり重い。

 狩人だからこそ使えるが、軽いと思っているわけではない。

 超重武器を振るう苦しみの声を発しながら、ハウロはさらなる打撃を振るう。

 バビェーダ・スヴィエの頭部を3度捉えるオーラバッシャーの打撃。

 

 そして、ハウロは全身の力を振り絞って、トドメの追撃を行う。

 回転運動を加え、3度の打撃で練り上がった闘気を発する闘気発勁。

 クリーンヒットすれば、バビェーダ・スヴィエにも十分な痛打となる。

 

 だからこそハウロはその追撃を選択し。

 だからこそバビェーダ・スヴィエは力を振り絞った。

 

 喰らえば自分の命にまで届き得る可能性のある一撃。

 それを理解するだけの知能が飛竜にはあり。

 そして、それを防ぐことが出来るだけの能力がある。

 

「あっ、しまっ」

 

 バビェーダ・スヴィエが口を開ける。

 その内部に光る、光熱のエネルギー。

 十分なエネルギーを練り込んだわけではない。

 だが、ハウロもまた防御に回すだけの気がない。

 渾身の力を振り絞っての闘気発勁だからこそ強力なのだ。

 

 動き出してしまった体はもう止められない。

 超重武器の産み出す慣性とはそれだけ大きい。

 ハウロは無理やり体をよじりながら、なんとか気を引っ込める。

 完全な防御はできずとも、ダメージを可能な限り減らすために。

 

「『溺水』!」

 

 そこに割り込む声。

 

 放たれる魔法のエネルギー。

 それにバビェーダ・スヴィエがよろめく。

 口から吐き出されるのは光熱のエネルギーではなかった。

 いつの間にか溢れ出していた大量の水を吐き出していたのだ。

 

「あっ、くそっ!」

 

 そのバビェーダ・スヴィエの横っ面を掠めるハウロのオーラバッシャー。

 ダメージを減らすために体をよじったのが悪かった。

 そして、武器に流し込んでいた気も多くを戻してしまい、闘気発勁は見るも無残な威力に。

 

「援護が遅れてごめんなさいね! 妨害くらいはなんとかして見せるわ!」

 

 ハウロの頭上からかかる声。

 そこには魔法使いらしいローブを纏った翠髪の美女、レインの姿があった。

 その身に纏う暴風の鎧が、その衣服を激しくばたつかせていた。

 

「おお! サンキュー! 赤の姉ちゃん!」

 

「赤……? あまり直接的な援護は出来ないけれど、隙くらいは作れるわ!」

 

 自分はどっちかと言うと緑だと思うが。

 そんなことを考えつつも、レインは些事とそれを気に留めなかった。

 まさかハウロがはためくローブの隙間から覗く下着の色のことを言っているなんて気づきもしなかった。

 

 体勢を立て直すハウロ。

 よろめいていたバビェーダ・スヴィエも体勢を立て直す。

 

 そして、ハウロの横に並ぶサシャとフィリア。

 

「あまりお力にはなれないかもしれませんが」

 

「隙を作るくらいはできるはずですから」

 

「助かる。1人じゃないだけで負担がダンチだ」

 

 ハウロが笑って頷く。

 自分にもまた仲間がいることを、今この時までハウロは忘れていた。

 

 ただ1人戦い続けて来たがゆえに。

 ハウロの今生のループでは、いつもの相棒トモはいなかった。

 それ以外の相棒を作ろうとも思わなかった。

 それに、メアリの時だってトモは相棒ではなかった。

 

 それほど困惑もせず、自分1人でやっていくことを決め。

 いまに至るまで、ただ1人で戦い抜いてきた。

 

 だが、ハウロは1人ではない。

 頼れる仲間がいる。頼ってもいいのだ。

 そんなことを、今になって思い出した。

 

「っしゃ、やったるか」

 

 オーラバッシャを円月剣形態に変形させ、それを構える。

 戦槌形態と違って重心が手元にある分だけ小回りが利くのだ。

 逆を言うと、小回り優先の形態なので威力に劣るのだが。

 

「往くぜ!」

 

 そして、ハウロが駆け出した。

 バビェーダ・スヴィエが咆哮を上げる。

 第2ラウンドの開幕だ。

 

 

 

 目の前に大量に集った人間の姿を見て、バビェーダ・スヴィエは先ほど有効だった行動を選んだ。

 つまり、その場で跳躍し、その脚力を地面へと全力で叩きつける。

 

 その強靱極まりない脚力による地面への打撃。

 それは恐るべき超震動を生み出し、それぞれの足を取る。

 

 それぞれがその瞬間を見極めて跳躍する。

 ごく単純な動作だ。引っかかるようなマヌケはいない。

 それを視認した瞬間にバビェーダ・スヴィエは次の行動を取る。

 

 震動と違い、回避不能の妨害行動。

 つまり、暴風による吹き飛ばしだ。

 

 翼から放たれる強烈な颶風。

 ハウロは風圧のエネルギーへと正拳突き。

 さきほどと違い、闘気発勁ができない。

 そのため、風の影響を軽減するに留まり、その場で暴風を受け止めた。

 

「『風の壁』!」

 

 フィリアが自身の前方へと風による防壁を展開する。

 それそのものは3階梯とさして高度な魔法ではないのだが。

 この魔法は風による壁のために、ほぼすべての気体をシャットアウトする。

 それは当然、人を吹き飛ばすほどの強烈な暴風ですら例外ではない。

 フィリアの展開した壁にフィリアとサシャが身を隠す。

 

 上空のレインには元より暴風の鎧がある。

 レインは風を一顧だにせず、バビェーダ・スヴィエの足元を指示した。

 

「『脂』!」

 

 それは初歩の初歩の魔法だ。

 1階梯呪文、魔法使いを名乗るならば、使えて当然のもの。

 そこらの駆け出し冒険者ですらも当然使えるようなそれ。

 多くの者は長じるにつれて見向きもしなくなる、しょうもないような効果。

 

 だが、だからこそ。

 使われることがないような魔法だからこそ、その対策がおろそかなことがあり。

 まして、魔法による守りのない者には、時として驚くほど効くことがある。

 

 バビェーダ・スヴィエの足元に生み出されたぬるぬるとした脂の層。

 それはバビェーダ・スヴィエの超重量も相まって、恐るべき脅威となった。

 

 バビェーダ・スヴィエはその場でスッ転んだ。

 

「いまよ!」

 

「えっうそっ、もう!?」

 

 そんなすぐチャンス巡ってくるなんてことある?

 そう思いつつも、ハウロは慌てて駆け出し、跳躍。

 高く飛び上がったハウロが飛燕の如き鋭さで放つ踵落とし。

 

 その反動でさらに飛び上がると、空中で旋棍を連結・接続。

 戦槌形態のオーラバッシャーを全身の動きでもって叩きつける。

 

「グォォォオオオオ――――!」

 

 地面との間に頭部を叩き挟まれ、バビェーダ・スヴィエが苦悶の声を発する。

 その最中に勢いよく殺到してくる強弓の連射。

 少々の遠間に位置取ったクロモリとレウナの援護射撃だ。

 

 ハウロが後方宙返りをしながらその場を離脱。

 バビェーダ・スヴィエが勢いよく飛び起き、空中へと身を舞い上がらせる。

 

 空中でその翼に光熱のエネルギーを迸らせる。

 集った多数の敵を一気に掃討するつもりなのだろう。

 

「落ちろってのよ! 『重力』!」

 

 レインはエルグランドの魔法を使うことに抵抗を覚えなくなった。

 それはある意味で頭のタガとかネジが外れたとも言うが。

 それだけ、選択肢が増え、対応できる状況が増えた。

 

 エルグランドに存在する、飛行生物を地面へと叩き落す魔法。

 以前にドラゴンを墜落させた『重力』の魔法を、レインはもちろん会得していた。

 

 突如として全身にかかった異様な重みにバビェーダ・スヴィエが体をバタつかせる。

 一気に墜落するほどの重さではない、だが飛行を続けていられないほどに重い。

 自分の重さがそのまま増えればいくらなんでも耐えるのはむずかしい。

 体が重ければ重いほどに、その魔法は効果を強烈に増していくのだ。

 

 バビェーダ・スヴィエがよろめきながらなんとか着陸する。

 そこへと勢いよく殺到するのは3人の戦士たち。

 

「『誉れ高き加護』を受けた『一撃』を受けなさい!」

 

「いきます!」

 

「うっだらぁぁぁ!」

 

 それぞれの持つ高威力の一撃を全力でぶつけに行く。

 バビェーダ・スヴィエが身を翻し、光熱のエネルギーを放射。

 甲殻の隙間から放たれたエネルギーが戦士たちを襲う。

 

 だが、フィリアもサシャもハウロも。

 その程度の雑多な抵抗に怯むことはない。

 

 身を焼くほどの熱があるのはたしかだ。

 だが、体を吹き飛ばすほどの威力はなく。

 その肉を焼き焦がしてしまうほどの熱もない。

 

 ならば、がんばってがまんすれば問題ない!

 

 あまりにも脳みそ筋肉な解決方法。

 だが、それだけにむずかしい事のない方法。

 それぞれの攻撃が緩むことなくバビェーダ・スヴィエへと捻じ込まれる。

 

「『石化の接触』!」

 

 剣による斬撃と同時、サシャがバビェーダ・スヴィエの甲殻を掴む。

 そして、石化の魔法を強引に捻じ込んだ。

 

 直接接触が必須なだけあり、その魔法は効果が高い。

 抵抗不能の部分石化攻撃。触れた部位、その内部まで肉体が石化する。

 ごくわずかの部位とは言え、そこにつらなる筋肉の連結までも断たれる。

 バビェーダ・スヴィエの動作が目に見えて衰えた。

 

「いいねぇ、そのアシスト! いけえぇっ!」

 

 その瞬間をハウロは見逃さない。

 仰け反っての全力の打撃。

 それがバビェーダ・スヴィエの頭部を打ち据える。

 

 そして、その一撃はバビェーダ・スヴィエの精神を肉体から引き剥がした。

 

 頭部への打撃による脳のダメージの蓄積。

 それはごく短時間の気絶状態であるが。

 

「いまだ! よってたかってボコれ! ぶっ殺せェ!」

 

 ハウロが叫ぶ。

 だれも戸惑いはしなかった。

 自分の持てる最大の攻撃を全力で捻じ込んでいく。

 

 EBTGが勝利の栄光を掴むまで、そう時間はかからなかった。

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