あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 EBTGがバビェーダ・スヴィエとの激闘を制していた頃。

 『世界樹の王(エトラガーモ・タルリス・マギ)』も同様に迷宮へと突入していた。

 

 現状、誰も気付いてはいない事実だが。

 この迷宮は大規模隔離玄室型と言うべき形態を取っている。

 

 玄室型の迷宮は少なくない。

 以前EBTGと『世界樹の王』が踏破したソーラス迷宮は8層がそれだ。

 1つ1つの部屋が区切られ、その内部にモンスターがいる。そう言う形態を玄室型と言う。

 そして、その玄室が、ひとつの集団に対して隔離されているものを隔離玄室型と言う。

 

 玄室内部でべつのチームと遭遇することがない迷宮。

 どういう原理、理屈でそうなるかは不明なのだが。

 玄室に入る前に一団として行動していないと、どうやっても合流できない。

 そう言う形態の迷宮が存在する。それを隔離玄室型と言う。

 

 そして、この大規模な密林が、ひとつの玄室として扱われている。

 こんだけでかかったらもう玄室じゃないだろうとは当然の感想だが。

 階層突入時に一団になっていなければ合流できないのは隔離玄室型の特徴だ。

 この空間ひとつが部屋として扱われていると考えるのが自然になる。

 

 さて、ここまで述べてなにが言いたいかと言うと。

 

 たとえEBTGがバビェーダ・スヴィエを倒したとしても。

 『世界樹の王』の前にも、『ハンターズ』の前にも等しく立ちふさがる。

 ここは神がその手ずから創り出した迷宮。

 ひとつひとつの集団、その力を試すために工夫が凝らされている。

 他の一団が倒した隙を狙って階層を素通りするなど許されることではないのだ。

 

 

 

 『世界樹の王』が迷宮1層に突入して、そう間もなく。

 バビェーダ・スヴィエが上空から強襲をかけて来た。

 

 飛来の方向を工夫し、影に気付かせない。

 その程度の小細工をしてのけるだけの知能がバビェーダ・スヴィエにはある。

 EBTGの背後から襲い掛かって来た、その巨翼。

 

 その巨大な脚部がリゼラを一瞬で踏み潰す。

 数十トンを軽々と超える超重量に押し潰されたリゼラが即死。

 五臓六腑をぶちまけて、血肉の塊となって地面に転がる。

 

 そして繰り出される噛撃。それはトキの頭部を容易く噛み千切る。

 最後のダメ押しに光熱エネルギーを宿した尾の薙ぎ払い。

 それはスアラとチーの肉を抉り取って致命傷を負わせる。

 

 無傷で残ったのは、リーゼとジルのみ。

 リーゼは半ば反射的に武器を抜き放ち。

 敗北必至であろう戦いにもひるむことなく立ち向かう。

 

 仲間たちの遺体を回収すれば、蘇生の眼はある。

 そう言った決意を宿した眼だった。

 

 一方、ジルはサクッと対処をした。

 

「なんだ、ただの夢か」

 

 ジルがそのように言って頷く。

 

「どうした、突然。夢って、なにが?」

 

 リゼラの不思議そうで恐ろしくブサイクな顔。

 それを見返し、同様にリーゼ、スアラ、チー、トキの4人を見渡す。

 『世界樹の王』のメンバーたちが、そこには過不足なく揃っていた。

 

「30秒後に上空からとんでもなく強力なドラゴンが襲い掛かって来て、一瞬でチームが半壊する夢を見ました」

 

「おいおい、縁起でもないことを言うなよ」

 

「はい。実際は『時間回帰/タイム・リグレッション』で5ラウンド巻き戻しただけなので、3ラウンド後に襲われます」

 

「うん? どういうことだ?」

 

「つまり、襲われる未来を予知したと考えていただいて結構です。あのドラゴンが襲ってきます」

 

 ジルが振り返って、上空を指差す。

 そこには蒼銀の飛竜、バビェーダ・スヴィエの姿があり。

 リゼラへと向けて、その凶悪な鉤爪の生えた脚部を向けて急降下をしていた。

 

「うおおおおおおおおおおおお!?」

 

「警戒態勢! 散会して!」

 

 リゼラが慌てて盾を構え、リーゼが号令を発する。

 醜い巨躯の化け物が散開し、バビェーダ・スヴィエを迎え撃つ。

 

 結局、『世界樹の王』の面々はジルにかけられた魔法を解呪できていなかった。

 チーが解呪を試みたが、恐ろしい強度のせいでとてもじゃないが破れなかった。

 結局、強いことはたしかだし……と諦めて戦っているのが現実だった。

 

 その『世界樹の王』へと舞い降りる巨翼。

 それはリゼラへと蹴撃を叩き込む。

 

 鈍く重苦しい轟音が響き渡り、リゼラが呻く。

 だが、手にしたタワーシールドとあまりにも屈強な巨躯。

 そして、変身によって得た莫大な体重も相まって、バビェーダ・スヴィエの蹴撃をその場に踏み止まって耐えることに成功した。

 

「す、すごい……これが、ウォー・トロルの力……」

 

 思わず手ごたえを確かめてしまうほどの強さ。

 いまこの時、リゼラは「トロルの姿も悪くない」とか思い出していた。

 強さのためなら外見を捨てる、パワー系冒険者の仲間入りだった。

 

「はっ!」

 

 リゼラが押しとどめるバビェーダ・スヴィエの頭部へとジルが拳を叩き込む。

 それはさして重くもない一撃で、バビェーダ・スヴィエはうっとうしそうに頭を振るってそれをはねのけた。

 ジルは気にした様子もなくリゼラをひっつかんで後ろに跳ぶ。

 

「グォォォオオオ……!」

 

 バビェーダ・スヴィエは奇襲の失敗を理解すると、再度舞い上がる。

 バビェーダ・スヴィエの基本戦術は上空からの奇襲だ。

 そして、光熱エネルギーの放出による攻撃。

 それを基本戦術として、有効打とならなければ肉弾戦に移行する。

 

 その基本に従って、上空への飛翔。

 宙高く舞い上がるバビェーダ・スヴィエへと飛ぶ矢。

 トキの行った強弓の連射を見て、さらに高くへと。

 その高度上昇を見て、ジルは静かに呟いた。

 

「おまえはもう死んでいる……」

 

 ジルがそのように呟いた直後のことだ。

 空中で突如としてバビェーダ・スヴィエの身体が脱力した。

 飛翔することをやめたバビェーダ・スヴィエが勢いよく落下をはじめる。

 突然の事態に『世界樹の王』のメンバーが困惑する中、ジルは常通りの調子で地面を指差す。

 

「『底なしの落とし穴/ボトムレス・ピット』」

 

 ジルが起動したのは5階梯呪文『底なしの落とし穴/ボトムレス・ピット』

 術者の力量に応じ、際限なしにその深さを増す落とし穴を作成する魔法だ。

 

「私の魔力数値は120。落とし穴の深さは魔力値×2で、240メートル。ドラゴンの飛翔高度はおよそ150メートル。合計400メートルほどですか。落下ダメージは落下距離×3点ですので、1200ダメージですね」

 

 それは年経た飛竜でも楽勝で即死するほどのダメージだった。

 落とし穴の中へと吸い込まれていったバビェーダ・スヴィエ。

 そして、数秒後にズズン……と鈍い音が響き渡った。

 

「先ほど看破したこのドラゴンのヒットポイントは1000を超えているという驚異的な強さでしたが……最強武器たる地面に勝てるわけもありません」

 

 ジルは情け容赦のないマンチ戦法を使用していた。

 

「…………なにが起きたんだ?」

 

 そして、事態にさっぱりついていけていない『世界樹の王』の面々。

 それを見て、ジルはこくりと頷いて事態の推移について説明した。

 

「説明しましょう。私は先ほどのドラゴンへの打撃の際、『呪文遅延』の特技を用いて『眠りの接触/スリープ・タッチ』を3ラウンド遅延させて発動しました」

 

「なんの意味があるんだそれ?」

 

「後のコンボのためです。私は次のラウンドでドラゴンに『重力反転/リヴァース・グラビティ』を発動して空へと落とすつもりだったのですが、ドラゴンは自発的に空を飛びました」

 

「ああ」

 

「そして、『眠りの接触/スリープ・タッチ』が効果を表したことで、ドラゴンは強制的に睡眠状態に移行。無防備に落下します」

 

「なるほど、それで落っこちたのか……」

 

「私はそこで、落下ダメージを増させるために地面を遠ざけました。落とし穴を作ったのです」

 

「地面を遠ざける……」

 

「これによってドラゴンは死にました。実のところ、落下ダメージはエラッタで最大でも10d10になったのですが、初期版では無制限だったので問題ありません」

 

「よくわからんが……勝った……と言うことか?」

 

「はい」

 

 リゼラの言葉にジルはあっさりと頷き。

 その背後では、落とし穴の効果時間が切れてずももも……と地面がせり上がり出していた。

 そこには見るも無残な状態のバビェーダ・スヴィエの死体……。

 

「まったく、空を飛ぶなんてバカなやつでしたね」

 

 そんな、無理筋なことを言って、ジルはこの事態を締めくくった。

 

 

 

 『ハンターズ』は気楽な調子で密林の中を進んでいた。

 

「仕事場に来たみたいだぜ、テンション下がるなぁ」

 

 ただし、気分はわりと落ち込んでいた。

 だって、ボルボレスアスでめっちゃ慣れ親しんだ密林だし……。

 こんなとこ来るの狩人の仕事の時くらいだし……。

 べつに好き好んで仕事してなかったし……。

 

「うーん。この森の感じ、飛竜が居そうだね……」

 

「十中八九、いるでござろうなー」

 

 トモの言葉にキヨが頷く。

 その確信を持った様子にコリントが首を傾げた。

 

「いるって、それはまたどうして?」

 

「おや、いい質問でござるな。目元が見えてないくせに目の付け所がシャープでござる」

 

「あら、そう? よくない質問にした方がよかったかしら? 昼間からお酒をたしなんでいらっしゃるようだけど、お仕事は?」

 

「マジでよくない質問はやめろでござる。で、えーと、飛竜がいるって根拠でござるが。あそこでござる」

 

 キヨが指差したのは、周囲に林立する木々たち。

 その、およそ高さ5メートルほどの地点だ。

 

「えっと……」

 

 目元の布をずらし、キヨの指差す先を見やる。

 そこには明白な擦過痕が存在していた。

 硬いものを、強い力で擦った痕跡。

 

「あんな位置に擦過痕が出来るのなんか飛竜くらいしかいねーでござるよ」

 

「それも、なわばりの主張とか、体のクリーニングとかの目的じゃない。ただの偶然で出来たような痕跡だからね」

 

「そして、擦過痕の形状と位置から見るに、おそらくスヴィエ種だな」

 

「スヴィエ種? アトリちゃん、それって飛竜の種別かなにか?」

 

「ん、ああ、そうか、すまない。スヴィエ種と言うのは……別大陸で言うワイバーンのことだ。有毒種のゼンビエタ・スヴィエとか、小型種のシルドネト・スヴィエとかがいる」

 

「なるほどね」

 

 アトリの補足にコリントが深く頷く。

 

「ワイバーンと言うことはそこそこ強い生物なんでしょうけど……」

 

「ピンキリですね。シルドネト・スヴィエは雑魚です。逆にバビェーダ・スヴィエとアヌエルタ・スヴィエは飛竜種全体で見ても上位に位置しますが……」

 

「サイズから見て、シルドネトってことはねーだろうな。むしろかなり大型の個体ってことを考えると、かなり強力な個体だろうと……」

 

 そこでふと、モモロウが空を見上げる。

 それは狩人としての本能か。

 あるいはボルボレスアスの密林に慣れ親しむがゆえか。

 モモロウは遥か上空から迫りくるバビェーダ・スヴィエの強襲を察知してのけた。

 

「スヴィエだ!」

 

「マジでござるか!」

 

「くそっ! これだからスヴィエ種は嫌いなんだ!」

 

 全員ががむしゃらに回避行動に移る。

 上空から奇襲してくる飛竜を迎撃するのは無謀だ。

 やってできないことはないが、リスクが大き過ぎてリターンが少ない。

 

 それゆえに、全員が思い思いの方法で退避。

 バビェーダ・スヴィエの強烈な爪撃が地面を深く抉り、岩盤すら削り飛ばした。

 

「輝煌竜バビェーダ。鋭蝕竜アヌエルタと並んで、空の王者として知られる飛竜だが……」

 

「まぁ、苦戦するほどの相手ではないですね」

 

「この人数だからね。よーし、やろうか」

 

「やるとするか」

 

 モモロウが剣を、メアリが銃を、トモが笛を、リンが刀を。

 ボルボレスアスでも上位に位置する飛竜、だが、それがどうした?

 

 ここにいるのは特例級狩人、その徒党である。

 

 たとえだれか1人であっても倒せるだろう。

 それが4人いれば。まして、今はコリントの援護すらある。

 苦戦などするわけがない。この程度の敵、鎧袖一触も同然だ。

 

「戦いのビート! 『剛撃の輪舞曲(ロンド)』! 『閃転の遁走曲(フーガ)!』」

 

 トモが手にした巨大な気鳴楽器、バトル・ホルン。

 ウォー・インストルメントのひとつである、基本の戦楽器。

 

 そこに吹きこまれた息吹が音楽へと命を宿らせる。

 鳴り響く勇壮なリズムに『ハンターズ』の精神が高揚、肉体が活性化する。

 

「来た来た来たァ! これだよこれ!」

 

「やっぱり、『呪歌(まがうた)』はいいですね!」

 

「たまらんなこいつは!」

 

 懐かしい調べ、そして久しくなかった高揚。

 ボルボレスアスでは気軽に修理を頼める相手もいたが。

 こちらの大陸では早々に頼むこともできなかった。

 当初は伝手がなかったし、頼む金もなかった。

 それゆえに控えていた『呪歌』の響きは『ハンターズ』にある種の感動すら呼び起こした。

 

 鋼の擦れる音、火薬の弾ける香り、呪歌のビート。

 生命力に満ち溢れたボルボレスアスに響く生命の律動。

 それはいまこの時に現れ、また響き、消えていく。

 

「さぁ、ひと狩りいこうぜ!」

 

 モモロウの号令の下、狩人たちは走り。

 相対する蒼銀の飛竜の咆哮が響き渡る。

 

 戦いの協奏曲がはじまる……。

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