あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 EBTGはバビェーダ・スヴィエの討伐に成功した。

 地面に横たわるバビェーダ・スヴィエの蒼銀の肢体。

 それはある種の芸術作品のような美しさすらあった。

 

「……これ、どうするの?」

 

「うーん……戦利品として回収……うーん……」

 

「戦利品になる部分って……いったい……」

 

 EBTGはそこで困っていた。

 まぁ、内容はなんのことはない。

 こんなでかいもの持ち帰れるわけがないのだ。

 

 あの女たらしがいるときはよかった。

 無法な魔法能力のおかげで、どんな戦利品でも無理やり持ち帰れた。

 いまはそうはいかない。持てる能力の範囲内で対応するしかない。

 

「ねぇ、ハウロ。このドラゴン……飛竜だっけ? どこが貴重なの?」

 

「あー……? あー……ぜんぶ?」

 

「全部て」

 

「いや、飛竜ってのはそう言うもんだ。甲殻も鱗も翼膜も結石も爪も牙も、なんでも価値があって、利用方法があるんだ」

 

「1つだけとても貴重とは思われぬものが出て来たが」

 

「結石だろォ? でもな、そいつがいちばん貴重で価値があるんだぜ?」

 

「……冗談だろ?」

 

「マジなんだな。バビェーダに限らず、スヴィエ種は体内に属性エネルギーが宿ってるからな。結石にはその属性エネルギーが凝集される。すさまじく強力な武具の素材になるんだぜ」

 

「そう言うものなのか……」

 

「じゃあ、逆に……ある程度価値が少ないものって?」

 

 レインの言葉にハウロが考え込む。

 飛竜の素材は基本的に無駄がないものだ。

 利用方法はいくらでもあり、捨てることなどありえない。

 だが、考え方次第で比較的利用価値の低いものもある。

 

「そうだな……スヴィエ種は、爪と牙は比較的価値が低いからな……あとはまぁ、砕けた鱗はやっぱり使い道が少ないな……」

 

「なるほど……それでも、回収すべき部位は多いわね……」

 

「うーん。あっちじゃあ、ブチ殺したらあとは組合におまかせだったからな……戦利品の回収ってのは考えたことがなかったな……」

 

 命懸けの戦いを制した狩人に、飛竜の死体の処理までさせるのは酷だろう。

 というか、仮にできる元気があるにせよ、なんせ飛竜は大きいのだ。

 いくら狩人が超人であっても飛竜1体を丸ごと処理するなんて不可能だ。

 

 組合からの応援があって、ようやく飛竜とは処理できるもの。

 そうなったら狩人1人の力は逆に重要ではなくなってしまうものだ。

 

「解体して、回収して、そんでもって……どうすんだ?」

 

 狩人なら仕事はここで終わりなわけだが。

 冒険者の仕事はここからも続くわけで。

 ハウロにはその辺りの心得は一切ない。

 

「問題は、そこよね……回収するとして、いったいどこをどれだけ、そしてどれだけかけて持っていくの?」

 

 やろうと思えばではあるが。

 レインたちだけでも、このバビェーダ・スヴィエをすべて回収することは可能だ。

 細かく切り分けて、『四次元ポケット』に詰め込んでしまえばいい。

 

 『四次元ポケット』にとって重要なのは、体積でも形状でもない。

 収納に当たって重要なのは、重さ。ただそれだけが問題になる。

 レインでもなんとか押し込めるギリギリのサイズまで切り分ければ……。

 

 だが、それをやるとなると相当な時間がかかるだろう。

 そのロスは許容していいレベルのものなのだろうか。

 それに魔力の消耗も相当なものになるだろう。

 消耗の程度によってはここでの野営も視野に入れる必要がある。

 

「本当に重要な部分だけ……一番大きい背中部分の甲殻と、切り取りやすい翼膜。それから尾。あとは結石を摘出するってのはどうだ?」

 

「それがいちばん価値ある部位なのね?」

 

「たぶん、な。喉の奥にある属性袋や、エネルギー導管である脊椎、他にも各種内臓も価値はあるが、いちばん価値があるのはそのあたり……のはずだ」

 

「わかったわ。なら、そこだけでも回収しましょう」

 

 結局はそのような結論に達し、EBTGが総出で解体に取り掛かる。

 

 動き回り、その漲る生命力で身を引き締めていた時とは違う。

 もはや物言わぬ死体となった飛竜を切り裂くのはそう難しいことではなかった。

 それでもそれなりの苦労をしてバビェーダ・スヴィエを切り分ける。

 切り分けた部位は、レインが『四次元ポケット』を用いて保管する。

 

「よし。ハウロ、体調はどう?」

 

「あ? 体調? なんとも悪くねぇけど」

 

「つまり、このまま探索続行でいいのね?」

 

「ああ、そういう。オーケーだ」

 

「わかったわ。じゃあ、行きましょうか」

 

 コンディションに不調無し。

 ハウロの超人的身体能力は持久力方面でも優れていた。

 

 

 バビェーダ・スヴィエの死体から離れ、次へ。

 フィリアの『経路探知』によって次の階層への導線を探知。

 さっさかと移動し、次の階層へと続く洞窟を発見。

 

「私が少し見て来ます」

 

 ハウロに続いて体の頑丈なサシャが立候補し、先行偵察。

 ハウロと違って魔法も使えるので、不測の事態への対応能力も高い。

 そう言った理屈でサシャが剣を片手に次の階層へと突入する。

 そして、数十秒ほどしてサシャが戻って来た。

 

「ここよりも開けた、こう、おだやかな感じの森でした。気温もここよりずいぶんと涼しい感じですね」

 

 とのことで、全員で次の階層へと進む。

 

 暗い通路を抜けて、わずかに歩く。

 すると、開けた視界に飛び込んで来た光景は、穏やかな空気に満ちた森だった。

 

 さきほどまで居た、むっとするような熱気はそこにはなく。

 水気を帯びた空気に満ちた涼やかな林。

 遠方には滝が見え、豊富な水源が伺える。

 緑の濃さが、先ほどと比べて随分と薄いように見えると言うか。

 どことなく穏やかと言うか、生命力の薄さを感じると言うか。

 

 遠方に見える、ひどく険しい山岳が霧に包まれている。

 その様子から見て、それなりの高さの山なのだろう。

 そう考えてみると、この澄んだ空気は高山特有のそれだろう。

 

秘境林(ひきょうりん)……環境が激変し過ぎだろ……」

 

 ハウロが周囲を眺めまわし、あぜんとした調子でそう呟く。

 

「知ってる感じの場所なの?」

 

「ああ、まぁ、それそのものというわけではねぇが……さっきまで居た森は南方の熱帯雨林なんだが、ここは大陸中部地方の高山地帯らへんの環境に近いな……」

 

「高山病とか、大丈夫でしょうか?」

 

「そこまで高くはない……と思うぞ。あっても1000メートルそこらだろ。重症化するほどの山じゃない」

 

「そうですか。でも一応『水中呼吸』は使っておきましょう」

 

「そうね。それほど消耗の激しい魔法でもなし……」

 

 サシャとレインがそれぞれ手分けして『水中呼吸』をかける。

 この魔法は効果時間が長く、レインが使えば丸2日は保つ。サシャでも半日以上は保つ。

 さして消耗の多い魔法でもないし、他者にかけるのに苦労もない。

 魔法をかける際、手を繋いでいると自動的に効果時間が折半されるのだ。

 

 レウナを除いて、適当に効果時間を折半。

 それから再度出発だ。

 

 

 

「この秘境林はあんまり探索したことがないんだよな……あまり、秘境林だからこそみたいな印象のある飛竜もいないし……」

 

「強い飛竜はいないってことかしら?」

 

「いや、この環境に固有の飛竜がいないってだけだ。低地にも住んでるんだが、バンビュロスって言う剛獣種のモンスターとかがいるかな……ありゃ強ぇーぞ。植物を操るからな」

 

「植物を操る……ほとんど魔法じゃない」

 

「ほとんどっつーか……あれは魔法なんじゃねーか? ボルボレスアスの民は魔法使えねーが、モンスターのほうは使ってる気がするんだよな……」

 

「ええ……よくぞまぁ戦い抜いてきたわね……」

 

 なんてレインとハウロが会話をする中、クロモリとレウナは四苦八苦しながら周辺を警戒していた。

 なんせ、2人ともまったく未経験の地形なのだ。

 生息する生物も当然ながら見慣れないものばかり。

 

 この状況ではいつも通りの冴えた索敵などできるわけもなく。

 周辺地形を見極め、移動を迅速にするのがせいぜいなものだった。

 それでも、この急峻な山間を移動するのに得難い助力なのはたしかだ。

 

「しかし、これほど険しい地形ですと、戦闘ですら厳しいですが……」

 

「だろうな……この環境で戦いになれば、だれかが滑落するぞ」

 

「そうですね……」

 

 レウナとクロモリが暗い顔でそんなことを話し合う。

 自分ならまず落ちるようなマヌケなことはしない自信が2人にはある。

 だが、それを他のメンバーにまで求めるのは無茶だろう。

 

 ハウロは意外となんとかしてのけるかもしれないが。

 少なくともレインは無理だろうし、フィリアも怪しい……。

 

「滑落したとして、魔法でなんとかしてくれるといいが……最悪はそのまま下まで落ちてお陀仏だな」

 

「うう、想像したくもない……回収はやはり、私かレウナさんがやることになるのでしょうか……」

 

「だろうな……はぁ……」

 

 2人とも、この状況での戦闘は想像もしたくなかった。

 滑落したくないし、滑落したら救助にいかないといけないし。

 

 下で死ねば、最高位の蘇生魔法を使えばその場で蘇生もできるのだが。

 いずれにせよ装備品の回収のために誰かが降りなくてはいけない。

 その時、降りるのはまず間違いなくレウナかクロモリの役目だろう。

 

 やってできないことはない。

 だが、慣れない地形で、この峻険な山を上り下りなんて……。

 考えるだけでも嫌になるほど難易度が高かった。

 

「頼むからなにもいないでほしい……」

 

「まったくだ……」

 

 そんな2人のぼやき。

 それを、意味を理解しないまま聞いているものが1匹。

 

 

 それは体内に膨大な量の浮揚ガスを蓄えることで宙を悠々と漂っていた。

 体をくねらせる都度に、その身体に備わった音響器官が震える。

 その音色は周辺に満ちた澄んだ魔力を励起し、強力な魔法作用を多重に発動させる。

 

 呪芸(じゅげい)呪歌(まがうた)。そのように言われる技術。

 それを飛竜種であるそれが使う。それも、人間以上の規模と数で。

 奏楽竜(そうがくりゅう)グォリンドン。そんな名前で呼ばれる、ボルボレスアスに固有のモンスター。

 

 ボルボレスアスに魔法の息吹は存在しない。

 それゆえに、魔法作用を引き起こすことのできる技術。

 呪歌の技術は遥かないにしえの時代から研鑽されて来た。

 

 それを、飛竜が目にして。

 それを模倣してみようとするのは。

 知的生物として自然な発想ではないだろうか。

 

 それを生態として獲得するにまで至ったのは特異的だろうが。

 それは間違いなくボルボレスアスの生態に適合した飛竜だった。

 

 音響作用を用いるがゆえに、それはきわめて高度な聴覚を持ち。

 それは自身の縄張りに侵入した人型生物の声音もたしかに聞いていた。

 

「クォロロロロ……」

 

 静かに奏楽竜が鳴き声を響かせる。

 それは風琴(ふうきん)のように優し気な声で。

 その飛竜の温厚な性質を如実に示している。

 

 奏楽竜グォリンドンは飛竜にはめずらしく、非常に温厚な種だ。

 目の前に人間がいても、積極的に襲うようなことはしない。

 敵対的行動をとられて、はじめて自衛のために戦うようなモンスターだ。

 

 だからそれは、遥か遠方でEBTGの声を聴いても。

 聞き慣れない声音で鳴く生き物がいるね……と穏やかに考え。

 声が小さいから、小型の生物かな。敵ではなさそうだ。なんて考え。

 それはゆらゆらと穏やかに宙を舞って、それを流した。

 

 秘境林は今日も平和だった。

 

 もしも奏楽竜を激怒させることがあるとしたら。

 それは自身の響かせる音色を妨害するような行為だ。

 奏楽竜は、その生態の根幹にまで呪芸が絡みついている。

 

 それを妨害するような行動。

 つまり、大音響での攻撃。

 あるいは、同種の呪歌の演奏。

 それこそが奏楽竜を激怒させる。

 

 呪歌と呪歌の作用が激突し合うと、効果は対消滅する。

 奏楽竜にとっては死活問題とすら言えるような現象だ。

 そして、ボルボレスアスではあまり知られていない作用でもある。

 人間同士で争うことが稀なので、呪歌を使う存在が双方にいることがまずない。

 そして、奏楽竜を除けば呪歌を使うモンスターは極稀なのだ。

 

 奏楽竜の前で呪歌を使ってはいけない。

 自身の生態作用を脅かされた奏楽竜が激怒するからだ。

 まぁ、EBTGにはもともと呪歌を使うようなメンバーはいない。

 だからそれは、無用な心配だろう。

 

 他のチームがどうだかは、知らないけれど。

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