あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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17-012

 『世界樹の王(エトラガーモ・タルリス・マギ)』はあっさりと次の階層へと移動した。

 バビェーダ・スヴィエとの交戦時間は1分に満たない。

 これで次の階層への移動に苦労するわけもないだろう。

 そして、次の階層の探索もジルはなんら苦労していなかった。

 

「『集団飛行/マス・フライ』」

 

 全員に飛行魔法をかけ、目的地まで一直線に向かう。

 

「おおー、快適だな」

 

「しかしこれ、落ちたら危ないのではないのか?」

 

 トキの疑問にジルはあっさりと答える。

 

「問題ありません。落ちても最大ダメージは10d10なので、よほどひどい落ち方をしても死にませんよ。死ななければ回復するだけで済みます」

 

「うへぇ……そーゆー問題なのかなぁ……」

 

「と言うか、さっき落下のダメージは上限ないって言ってなかったかしら……?」

 

「そうですね。初期版ではそうでした。ですので、敵との戦闘に際しては初期版を、われわれの移動に際しては後期版を適用しています。ご安心ください」

 

「理屈がよくわからない……!」

 

 ジルの意味不明な理屈に全員が首を傾げる。

 ジルはそんなの一顧だにせずに飛んでいく。

 

 途中、空を飛ぶ巨大なクジラのような生物に遭遇した。

 全員に緊張が走り、ブサイクな顔が余計にブサイクに。

 そんな『世界樹の王』の反応を後目に、ジルはその生物を静かに眺める。

 

「大丈夫です。敵ではありません」

 

 そのように断言し、奏楽竜グォリンドンに対し警戒を解いた。

 

「敵じゃないって……大丈夫なの?」

 

「私はレンジャーでもあるので『野生への共感』があります。このクラス特徴は交渉技能を用いて野生生物の態度を向上させるのですが、逆を言うと現在の態度を探知することも可能です。この生物は、われわれに対して『中立的』です」

 

「……根拠は?」

 

「システムがそう言っています」

 

「誰だよ、システムって」

 

「さぁ?」

 

「さぁって……」

 

 しかし、奏楽竜が襲ってこないのも事実だ。

 少なくとも『世界樹の王』たちには気付いている。

 だがそれ以上に気を払うこともないような状態だ。

 

 小さな小さな生き物に対し、興味すらないのだろう。

 人間だって、ハエの正確な種別名なんて気にもしない。

 ブンブンうるさく飛び回っているならばともかく。

 騒音を発するでもなく、静かに近くにいるなら気を払うこともない。

 

「では、そのまま行きましょう」

 

「え、いいの? えと、この大きい……この……なんだこれ?」

 

「ザトウクジラに似ていますが、体に謎の器官が複数あるのでなんとも。まぁ、仮称『グレートシング(でかぶつ)』と言うことで」

 

「安直だなぁ……まぁ、ともかく、中立的って言うか、あんまりこっちに興味ないみたいだし……不意打ちで仕留めたりとかできないか?」

 

「出来る出来ないで言えば出来るかもしれませんが。何か得でもありますか」

 

「見たことない生物だぞ? すごい戦利品があるかもしれないだろうが!」

 

「まぁ、その可能性は否めませんが」

 

 ジルとしても、奏楽竜と言う生物はまったくの初見だ。

 ジルは『知識判定』を行うことで、対象が何者かを看破することができる。

 だが、まったくもって初見の存在を看破することはできない。

 少なくとも、どこかで知識として得ておかなくてはならないからだ。

 そのため、ボルボレスアスの生物の知識がほぼ無いジルには奏楽竜の正体が看破できなかった。

 

 逆にわずかでも奏楽竜の知識があれば看破できたのだが。

 たとえば、奏楽竜と言う生物がいる、程度の知識さえあればジルはその正体を看破できただろう。

 奏楽竜の正体、使う技、弱点と言ったものを看破できただろう。

 あまりにも意味不明だが、ジルはそう言うことができるのだ。

 

「しかし、不意打ちで仕留められなかったらコトですよ。反撃で壊滅するかも」

 

「ぐ……それはたしかにその通りなんだが……」

 

 『世界樹の王』が奏楽竜に勝てるかどうかで言えば、勝てはする。

 だが、なんせ奏楽竜は空をテリトリーとした生物だ。

 高度な飛行能力を持たない『世界樹の王』たちでは無謀な戦いになる。

 ジルのように完璧な機動性を持った飛行能力があればまだわからないが……。

 

「さっきみたいに、空から叩き落すとか……」

 

「飛行能力にも種類がありますから……グレートシングの飛行は能力と言うより特性と見受けられます。睡眠状態にしても、落下はしないでしょうね」

 

「……なにか手は?」

 

「まぁ、マンチ技にはまだまだ引き出しがあるし、なんならふつうに全力攻撃をブチ込むだけでも倒せるとは思うんですが。私はやりたくないです」

 

 ジルはリスクを軽視しないタイプだ。

 ほんのわずかな油断、不足が死を招く世界で長く生きて来たのだ。

 ジルは5歳で家出をして冒険者になると言うあまりにもアナーキーな生き方をして来た。

 そんなジルは、背負う必要のないリスクをわざわざ背負うことはしないと言うリスク管理が骨身に沁みていた。

 

「うー……できれば倒したいけど、でも、ジルさんが協力してくれない以上はやめた方がいいのかな……」

 

「まぁ、背負うべきでないリスクなのはたしかではあるわね……私たちの目的は、あくまでも迷宮の探索なのだから」

 

「うへぇー……ま、このまま進もうよー」

 

 『世界樹の王』はリスクを回避した。

 奏楽竜を無視しての進行。

 現状の進行速度は、EBTGを若干ながら上回っていた。

 

 

 

 

 

「うおおおお! 回転切り! 回転切り! 回転切り! 回転切りィ――――!」

 

「うわあああ! 連射! 連射! 連射! 連射! 連射ァ――――!」

 

「はああああ! 剛射! 剛射! 剛射! 剛射! 剛射ァ――――!」

 

「僕たち戦法がワンパターン過ぎない……?」

 

 『ハンターズ』はバビェーダ・スヴィエと激戦を繰り広げていた。

 他のチームにくらべて、1歩も2歩も出遅れている状態だ。

 

 モモロウがすごい剣幕で回転切りを連打し。

 メアリが飛竜の牙を用いた弾丸『穿牙鋼竜弾(せんがこうりゅうだん)』を連射。

 キヨはスタミナ増強用の薬物を使って全力で弓を乱射していた。

 トモが思わずぼやいてしまうくらいに、行動がワンパターンだった。

 

「だがなぁ、これが結局一番強いのだよな……」

 

「そもそも、本来はむやみやたらに連打していい種類の技でもないしな」

 

「あら、そうなの?」

 

 遠距離攻撃の雨の中に踏み込むのは非常に危険だ。

 そのため、アトリとリン、そしてコリントは後方に控えての待機状態だ。

 

 メアリもキヨも射撃技術は非常に高く、仲間の動きを読んで当てないようには出来るのだが。

 それが1人ならともかく、2人や3人になるとさすがにキツい……。

 そのため、いちばん強いモモだけがインファイトをしているのだ。

 

「隙が大きく、反撃をもらいやすいような技だからな」

 

「それはたしかにね」

 

 モモロウの回転切りは全身を用いた剣戟だ。

 体を1回転させるのでスピードと重さがよく乗る。

 さすがに跳躍しての大上段からの一撃には劣るが。

 連打できる技としてはこれ以上に強い技もないだろう。

 

 だが、回転するので当然視界は一瞬効かなくなるし。

 回転にわずかながら時間がかかるので隙は大きいし。

 背中を晒すことになるので最悪は一撃で死ぬし。

 

 非常にリスクが大きい。

 だからこそ非常に強い。

 ここぞという時の決め技だ。

 

 モモロウはその決め技をやたらに連打している。

 

 威力が高い上に、同じ動作で連打できる。

 そして連打するリスクは高いが、連打できる。

 なら、なんとか工夫して連打すれば超強い。

 そんなあまりにも単純な発想の回転ループだ。

 

「実際には、モモの剣は1回ごとに違うものだったりするしな」

 

「あら、そうなの?」

 

「ああ。いまのが決め技の回転切り、いまのが調節の回転切り、いまのが決め技……」

 

「右から左に切りつける時が決め技で、左から右に切りつけるのが調節なのね」

 

「左手で剣持っとるからな。体に腕を巻きつけるような形から放つのがいちばん威力が出る」

 

「で、体に腕を引き戻す動作に合わせてステップを踏んで位置調節をしつつ、ついでに切りつけている」

 

「あくまで調節のためだからな、威力は抑え気味だ。あとまぁ、裏刃を使うためでもあるな。その方が刃が長持ちする」

 

「意外と考えて居るのね」

 

 その、位置調節のステップに合わせ、気合で攻撃も避けている。

 位置調節がてら、攻撃が当たらないように身躱しをしているのだ。

 威力を振り絞る必要がないため、体の柔軟性にある程度自由が利くおかげだ。

 つまり、バビェーダ・スヴィエの光熱エネルギーの乱射を身のこなしだけで躱している。

 

 この超絶の回避技能はコリントをして驚愕に値するものだった。

 と言うか、どう考えても攻撃がすり抜けている。

 モモロウの使う回避とはそう言う強烈な技なのだ。ある意味これが最強の技でもある。

 

「メアリちゃんの方は……まあ、特筆することはないのかしら」

 

「ないな。叶う限り連射しているだけだ。それが難しいんだがな」

 

「最適な位置取りをして、最適な距離で撃つ。それがいちばん強いのは確かだ」

 

 メアリの戦法はひたすらワンパターンだ。

 強力な銃弾を、いちばん効果的な角度と距離で撃つ。

 クリーンヒットすれば、それだけで痛打になる。

 って言うか銃でそれ以外にどう戦えと言うのだ。

 

「モモロウが前衛で惹き付けてるお陰でもあるが、純粋にガンスリンガーとしての技能が高い。ソロでもあれはできるしな」

 

「1人でもできるの?」

 

「モモロウのやってる回避は私たち全員できるぞ」

 

「ボルボレスアスすごい……」

 

 コリントが思わずつぶやく。

 トモが聞いていたら、僕にはできないけど!? と全力で否定されていただろう。

 

「そして、キヨのやってることも同じだな。まぁ、特筆するようなことは何もない」

 

「そうだな」

 

 それがいちばん強いので、それをひたすら使い倒す。

 あまりにもワンパターンで、あまりにも華がない。

 玄人好みしそうなタイプの戦いだった。

 

「トモちんが時折、隙を見て殴りに行ってるが……まぁ、あれはおまけみたいなものだな」

 

「戦場に立ち続けて、援護の呪歌(まがうた)を使ってくれるだけありがたい。遠距離2人組のせいで踏み込みにくいから、あれ以外の立ち回りようもないしな……」

 

 モモロウほど身軽に動けないのでしょうがないのだが。

 トモの攻撃に対する姿勢はかなり低調なものだった。

 メアリとキヨの射撃を邪魔するわけにもいかないのでしょうがない。

 メアリかキヨが、リンあたりと交代すればトモも積極的に出れるのだが……。

 火力的にはこっちの方が強いのでしょうがないだろう。

 

「それにしても、本当にすごいわ……生まれ持った素質と、鍛え抜いた肉体能力だけで、あそこまでできるのね……」

 

 コリントは『ハンターズ』の戦いをみて感嘆のため息を漏らす。

 『ハンターズ』の戦いぶりはあまりにも超人的だが。

 そこには魔法の効果はほとんどと言っていいほど絡んでいない。

 

 魔法のポーチによる荷物の運搬であるとか。

 魔法的作用として呪歌を用いてはいるが。

 モモロウ、メアリ、キヨ自身には魔法的作用がほとんどない。

 魔法の武具ですらもほとんど使っていないのだ。

 

 それで存分に魔法を使い倒している連中より遥かに強い……。

 

 ボルボレスアスと言う大陸の特質ゆえではあるが。

 人間の研鑽には限界がないと言うのを思い知らされるかのようだ。

 

「戦士系ピュアビルドの爆発力と言うか、思っていた以上の破壊力と言うか……すごいわね……」

 

 そんな風にコリントがぼやいたあたりで、バビェーダ・スヴィエが断末魔の咆哮をあげた。

 ついに『ハンターズ』の刃がその命に届いたのだ。

 モモロウたちが勝鬨を上げ、手にした武具を掲げて勝利の余韻に酔う。

 

「いよっしゃあぁー! サイコーだぜ!」

 

「いやぁ、久し振りのハントだったね! やっぱり、勝つって気持ちいいや!」

 

「まー、狩人的には生物を殺したことの重みを受け止めるとかはあるんですけどぉ……でも、勝利って気持ちいいんですよねー!」

 

「どうだ! どうだ! 拙者がいちばん強ぇ! でござる!」

 

 そんな勝利の歓喜を爆発させ、『ハンターズ』が戦利品の回収に移る。

 ボルボレスアスのみならず、アルトスレアも冒険していた彼らだ。

 そもそも、彼らのボルボレスアスにおける狩人生活はそんなに長くない。

 

 訓練所での訓練期間を含めても3~5年程度でしかないのだ。

 対して、アルトスレアを2年ほど、そして現大陸を5年ほど冒険している。

 戦利品の回収に戸惑いもよどみもないのは自然なことだろう。

 

「いやぁ、疲れた疲れた。今日はこのまま野営して休もうぜ」

 

「だね。幸い、バビェーダのせいか、敵の気配は希薄だし……」

 

「ベースキャンプはないでござるから、自分たちで設営からでござるかー。まぁ、しょうがないでござるかなー」

 

「たしか、魔法で野営ができたような……?」

 

 なんてメアリの期待の声に、コリントが頷く。

 

「ええ、野営のための魔法はいくつもあるわ。快適な野営を約束してあげるわ」

 

 なんてコリントの言葉に『ハンターズ』が喜びの声。

 快適で、安全な野営ができるのならば最高だ。

 なぜなら、そこに酒を持ち込むことができるのだから。

 

 酒はいつだってうまいが、いまはもっとうまい。

 なんせいまなら無料で勝利をトッピングできる。

 勝利の美酒よりもうまい酒なんてあるわけがない。

 

「とっておきのおビール様開けちゃうぜー!」

 

「お嬢様からもらった大吟醸飲んじゃお~!」

 

「あー! 拙者にも大吟醸分けてくれでござる~! なんでもするでござるから~!」

 

「あ、待て! 大吟醸なら私も飲みたい!」

 

 なんて、にぎにぎしい野営がはじまって。

 『ハンターズ』は大いに飲み、食べ、騒ぎ、歌った。

 存分に飲み倒し、さて寝るかと言うところで、モモがふと呟く。

 

「んん……? なんか、忘れてるような……?」

 

 モモロウたちは依頼のことを忘れていた……。

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