あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 『世界樹の王(エトラガーモ・タルリス・マギ)』は次の階層へと移動した。

 EBTGと同等レベル、あるいはそれを上回るほどのハイペースでの移動だ。

 ジルが魔法の使用を一切自重していないところが速さの理由でもある。

 

「しかし、こんなにバンバン魔法を使い倒していいのか? いくら私たちよりも腕利きとは言え、魔力の量には限界があるだろう?」

 

 トキの不安げな声に、いくつも占術を連打しているジルが頷く。

 

「はい。もちろん魔力量には限界があります。魔力を魔力で回復することはできない。これは当然のことですから」

 

「ああ、それは当然の法則だ。魔力を補うための装備とか、魔力を回復する道具とか……そう言う便利なものこそ存在するとは聞いているが……」

 

 トキの視線にチーが答え、へらりと笑いつつ手を振る。

 

「そんなの使い倒してたら、いくらお金があっても足りないよね~。なにか、もっとすごい秘密があるんでしょ~?」

 

 そのように言うチーの眼には、占術の光が宿っている。

 対象の魔力の量を知覚する類の魔法であり、それなりに高度なものだ。

 彼女の眼には、ジルの魔力量が一切上下していない様子が映っている。

 それは本来ならばありえないような事態である。

 

「ええ。その秘密とは、これです」

 

 ジルが手にしている杖を掲げ、『世界樹の王』のメンバーに見えるようにする。

 それは異様な魔力の宿った両手杖であり、どこか禍々しい気配を発している。

 その杖をジルはくるりと回転させたかと思うと、また新たな占術をひとつ発動させた。

 その杖が一瞬異様な輝きを放ったかと思うと、魔法は結実。

 しかし、ジルの魔力はひとかけたりとも減ってはいなかった。

 

「うへぇ……その杖を使うと、魔力消費がなくなる? まさかね。事前に魔力をチャージしておける杖かな? キャパシティがすごく多いんだ。それこそ何十も魔法を発動できるくらい。違う?」

 

 なんてチーが冴えた推理をする。

 そして、ジルがそれを否定した。

 

「答えは前者、魔力消費がなくなります」

 

「うへ!? 性能無法過ぎない!? 魔力消費無くなるとかありえないでしょ!?」

 

「ですが、事実です」

 

 言いながら、ジルがそれをチーへと差し向けた。

 チーが思わずと言った調子でそれを受け取る。

 そして、ジルが顎をしゃくった。試してみろと、そう言う意図だ。

 

「ああ、低位の魔法を使うのをおすすめします」

 

「うへ~。『美味し糧』」

 

 チーが杖で地面を示し、低位の魔法を発動する。

 それによって、ぽとぽとといくつかの小さなベリーが現れた。

 その小さなクランベリーのようなベリーをチーが拾い上げる。

 

「おお~……本当に魔力消費がない……」

 

「はい」

 

 ジルが返すようにと促すように杖へと手を伸ばす。

 が、その前にチーが再度杖を振り上げた。

 

「うへへ、せっかくだからもう1回だけ使わせて~。『友の招来レベル9』」

 

「あっ」

 

 チーが新たに魔法を発動。ジルが思わずと言った調子で焦った顔をする。

 魔法の効果が結実し、現れるのは自然の化身たる生物、ピクシー。

 特殊な矢と魔法で術者を援護してくれる、頼れる友だ。魔法で召喚した場合に限っては、だが。

 

 現れたピクシーの姿を認め、魔力消費がないことに感動するチー。

 その直後、胸を突き刺すような凄まじい激痛にチーが蹲った。

 そして、込み上げる耐え難い嘔吐感が、そのまま突き抜けていった。

 

「うへ……!? げふっ、げえっ……!」

 

 勢いよく吐き出される血の塊。

 それは地面をしとどに濡らす。

 

「お、おい!? チー!?」

 

「どうしたの!?」

 

 リーゼとリゼラが慌ててチーに駆け寄る。

 そんな2人を後目に、ジルが杖を拾い上げる。

 

「『大治癒/ヒール』」

 

「うへ……た、助かったぁ」

 

「よ、よかったぁ。変な病気とかじゃないんだね?」

 

「ただの怪我と言うか、生命力の減少ですよ」

 

「…………え~と。ジルくん? ジルくん? もしかしてさぁ~、この杖の効果ってさ~……?」

 

 チーの疑わしい目線。

 それにジルが頷く。

 

「はい。この杖は魔力の代わりに、生命力を消費する杖です」

 

「呪われた装備みたいなもんしれっと使わないでよ!?」

 

「呪われてません。これはアルトスレアでも希少なSSランクの魔杖、『ウィザード』ですよ」

 

 それはおそらく、アルトスレアで最も有名な杖のひとつだろう。

 ここ10年ほどで劇的に認知度が上昇した杖でもあり、また善なる者たちの武具みたいな見方もされている。

 と言うのも、ジルはこの杖をあまりにも便利に使い倒しまくった。

 

 ジルは5歳で家出をして冒険者になったが。

 さすがに5歳で冒険なんかしていたら世の人に止められる。

 そのため、ジルは最初、身分を偽って冒険していた。

 

 化粧で大人っぽく演出して、ドワーフの神官戦士ジーラ・オルフェンシュタインを名乗ったり。

 やはり化粧と変装の応用で、ハーフリングの妖術師ライノス・グッドフェリウを名乗ったり。

 転生の秘術でガチで種族を変更し、ドラゴンキンのイーオを名乗ったり。

 

 その多くで、ジルは身分と技能はともかく、装備は遠慮をしなかった。

 ジルが最初に手にした強力な魔道具『ウィザード』はその多くで主力武器を担ったのだ。

 そしてジルは、大いなる活躍をすると、知名度上昇を嫌って身分をべつに偽った。

 知名度が上昇し過ぎると身元の調査とか入ってヤバいからしょうがない。

 そのため、アルトスレア各地では『ウィザード』を手にした凄腕冒険者の活躍が多々残ったのだ。

 

「この杖の凄まじいところは、生命力を削り倒したところで、その生命力で生命力を回復できることです。お分かりですか。この杖で回復魔法を使えばいいのですよ」

 

 『ウィザード』の効能は非常にシンプルだ。

 魔力を消費する際、代わりに生命力を消費してよい。ただこれだけ。

 それはエルグランドの魔法に基本原則として組み込まれている作用にも似ているが。

 あれは変換の反動がドンドンでかくなるので連発は出来ない。

 

 一方で、これは生命力を魔力に変換する杖だ。

 そのため、どれほど便利に使い倒しても生命力が枯渇しない限りは無限に使える。

 そして、生命力を消費して回復魔法を使えば、生命力を回復できる。

 この永久ループによって、ジルは無尽蔵の魔力を手にしたも同然だった。

 

「まぁ、エラッタで現在HPではなく最大HPをMPに変換、杖にチャージすると言う効果に変わったのですが。これは版上げ前のものなので問題ありません」

 

「すさまじい杖だな……実質的に、それがあれば魔力が無限も同然か。いや、一応生命力が激減する瞬間があるからノーリスクとはいかんのだろうが」

 

 トキが『ウィザード』のすさまじい効能に瞠目する。

 実際、この杖はあまりにも強力なものだ。

 ジルの言うように、お上の怒りを買って力を弱められたほどに。

 

「世にもめずらしい秘宝のひとつだろうに……こんな冒険に持ち込んでもいいのか?」

 

 リゼラの言葉にジルが首を振った。

 

「べつにめずらしくないですよ。いえ、10年くらい前までは珍しかったですけど。私が量産したんで、いっぱいあります」

 

「量産した!? 作れるのこれ!?」

 

「市価が設定されてる限りは問題なく作れますね。公式リプレイで金貨を投入すると、それに相応のアイテムが作れる『錬金窯』とか言うもん出したのがいけないんですよ」

 

「つ、作れるのか、これが……いくらなんだ?」

 

「金貨10万枚です」

 

「高っ……いけど、効能を考えると安いくらいね」

 

「胡散臭いやつに屁理屈みたいな理論で巻き上げられたりもしたので、まぁ、20本くらいは出回ってますね」

 

 ちなみに、以前に嵐の巨人王ノグリアとの戦いに際し、リフラとレウナが使っていた杖。

 それも出元はジルだ。もちろん、どちらもリフラがかっぱらったものである。

 

「まぁ、そう言うわけですので。魔力消費に関して心配はないと理解していただけると幸いです」

 

 そのようにジルは話を締めくくった。

 『ウィザード』も完全無欠の道具と言うわけではないが。

 それでもきわめて強力な道具であるのに違いはない。

 ジルの強さの秘密、その一端を担っている道具だった。

 

 

 

 一方で『ハンターズ』だが。

 EBTGと『世界樹の王』たちが北方平原に到達していた時間では、未だにバビェーダ・スヴィエとの戦闘中だ。

 そして、その後は速めの野営に入り、酒をかっ喰らって寝ていた。

 彼らについて語るほどのことはなかった。

 

 そんなアホの狩人どもはさておいて、地上では。

 アノール子爵領の支配者、アノール子爵が地味な政務をこなしていた。

 とはいえ、領主の仕事なんてそう多くはないのが普通のこと。

 仕事をしているフリをしてエロ本を読んでいるのが真実だ。

 

「ふぅ……やっぱりエロ本はいい。私には必要なものだ」

 

 読了し終えた本を『ポケット』に放り込みつつ、女たらしはそのように述懐する。

 執務室のラタン細工の椅子に背を預け、ふと窓に目をやる。

 外では燦々と日が照っており、心地よい陽気が地上を満たしている。

 

 春がやって来て、もうそろそろ夏が来ようとしている。女たらしの感覚ではそうだ。

 この大陸の人間にとっては、まだまだ暖かな春でしかないのだろうが。

 

 あともう少しで、『アルメガ』との戦いが始まる。

 そう言われても、イマイチぴんと来ないと言うか。

 本当にそうなってしまうのだろうかと思うほどに、世界は平和だ。

 

 『アルメガ』はいったい、どこから自分たちを見ているのだろう。

 そして、『アルメガ』はいったいなにを目的に存在しているのだろう。

 

「なんか、『アルメガ』を作った人たちが意図的に暴走させたとか言ってたけど……『アルメガ』自身の目的って、なんなんだろう?」

 

 作られたものでも、それには意思がある。

 少なくとも、あの悪夢の世界で戦った『インメタル』には自己意思があった。

 それを思えば『アルメガ』にもたしかな自己意思があるのだろう。

 その自己意思は、一体何を思ってこの世界を食い物にしているのだろう?

 

「そこんとこ、知りたいと言えば知りたいかな……」

 

 それは限りなく細い、クモの糸のような可能性だが。

 もしかしたら分かり合えて、平和的に事態を収束させられるかもしれない。

 その可能性を思うと、女たらしはその可能性を求めずにはいられない。

 

 他の誰もが戦うことを当然と考えていて。

 『アルメガ』は殺さなくてはいけないと考えているけれど。

 この女たらしは、叶うことなら融和したいと考えていた。

 

「だってさ……『インメタル』は、こう、こういう感じだったよね」

 

 手近にあった羊皮紙を手に取り、そこに鉛筆で書きつける。

 備忘録に挿絵を描くことも多いため、女たらしの絵はかなり堪能だった。

 描かれていくのは、写実的な女性の絵。

 

 青い髪に、金色の瞳。ぎゅっと締まった戦士らしい肢体。

 その身を包むのは、見慣れないが動きやすさを重視したのだろう衣服。

 感情表現は薄いが、感情自体が薄いのではなく、単に顔に出にくいだけの性質らしい仕草。

 

「じゃあ、『アルメガ』って……こんな感じかな?」

 

 『インメタル』と『アルメガ』は対を成すものだという。

 そのように作られ、双方が双方を殺しうる、相克する存在。

 ならば、その容姿も逆方向に作られているのではないだろうか。

 

 なので、とりあえず髪の色と目の色を反転させる。

 よって髪は金で、目の色は青と言うことで。

 『アルメガ』はアーモンド形のシャープな瞳だった。

 なので、こちらは落ち着いた感じの垂れ目でいこう。

 

 『アルメガ』も戦うための存在なので、戦士らしさはあるだろう。

 しかし、『インメタル』は体格がそれなりによかった。

 その上で活発そうな衣服だったので、印象としては軽戦士っぽかった。

 ならばその対を成す存在として、重戦士か、あるいは弓とか銃使いとかか……。

 

「弓使いなら厳つくないとダメだけど、銃使いならある程度華奢でもいいよね。じゃ、銃使いと言うことで……」

 

 なので『インメタル』よりも小柄で、華奢目に描く。

 小柄な分だけ、体の各パーツも小さくなるのは当然だろう。

 すると、『インメタル』の女性らしい肉感的な肢体とは真逆のちんちくりんか……。

 

「でっかいことはいいことだからね」

 

 なので、女たらしは盛った。

 体格比で許される範囲内で盛った。

 結果、トランジスタグラマーな体型になった。

 

「推定『アルメガ』……エッチだ……ヤりたい……!」

 

 ここに限りなくどうしようもないバカの女たらしがいた。

 自分が空想した女に懸想する底なしの大馬鹿。

 

「殺したらヤれない……だから、和解してエッチしたい……仲直りックス、和解ックス! 出来ないかな!?」

 

 それは融和と平和を求める崇高な意志のようでありながら。

 どこまでも欲望に負けまくったバカの希望だった。

 どこに出しても恥ずかしい立派な領主だった。

 

 ここはアノール子爵領。バカの領地……。

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