あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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17-021

 EBTGは帰路につき、さほどの苦労も無しに離脱に成功した。

 シェバオ神の道筋を逆順に辿る迷宮攻略の道程。

 それへの帰路は、リリコーシャへの到達の順路。

 

 夢と希望を抱いて向かったのだろうか。

 それとも、不安と猜疑が胸に凝っていたのだろうか。

 ……今のEBTGたちが、『アルメガ』に抱く不安のように。

 

「ねぇ、レウナ。『アルメガ』のこと……知ってたの?」

 

「アルトスレアで勃発した『星屑戦争』は、『アルメガ』との戦いだった。知っていた」

 

「知っている人は知っていたのね」

 

「そうだな。だが、アルトスレアでも知らない人間の方が多い。知らん方が自然だ」

 

「そう……」

 

 レインが難しい顔をして頷く。

 そして、不安げな顔で尋ねる。

 

「……あの人も知ってたの?」

 

「私が話を持ち掛けた」

 

「レウナが?」

 

「もしも『アルメガ』が復活したら戦ってくれると……今にして思えば、どこまでが神の思惑で、どこからが人の意思なのだろうな……」

 

 『アルメガ』を討たねばならないのは人類と神に共通の事項だ。

 そのために神々も人も、なりふり構わずに戦う手立てを探っていた。

 そして、それがどこからどこまで神の手によるものかは不明だ。

 

 神と人間では時間の尺度が違うし、物事に対する考え方も違う。

 下手をすれば1000年前から画策していてもなんらおかしくはないし。

 尋ねたところで、果てのない話になることだろう。

 シェバオ神とてすべてを知っているわけではないのだろうし。

 

「私たちに話さなかった理由については……」

 

「それは大した理由ではない。そもそもの話、『アルメガ』がいつ復活するかは厳密にはわからんのだ」

 

「そうなの?」

 

「ああ……」

 

 そして、『アルメガ』の復活時期については、女たらしはほかの誰にも話していなかった。

 以前、『アルバトロス』チームから得た情報では近々の問題なのだが。

 これに関しては話すタイミングを逸していただけではある。

 

 以前、レウナに『アルメガ』がまだ生存していると伝えた時。

 レウナは半狂乱になって聞くのを拒んだほどそれを拒絶した。

 そのことを思うと、単刀直入に伝えたらヤバいな……と言う思考が働くのは自然なことだろう。

 

 然るべき場で、然るべき時に伝える。

 そのように場を整えることに思考が向いたのだ。

 そして、場を整える前にこのような状況になった。

 

「明日もしかすれば津波が起きるかもとか、嵐が起きるかもとか、そんな話を無暗にするのはあまり賢いことではあるまい」

 

「まぁ、それはそうね。喫緊の問題ではない……と言うことでいいのかしら?」

 

「おそらくはな」

 

 レウナはそのように比較的気楽に構えていた。

 実際のところ、ぜんぜん気楽に構えていていい状況ではないのだが。

 レウナがそれを知る由はない。知ったら頭を振って転げ回って泣くだろう。

 

 

 

 

 屋敷へと帰り着くと、そこには醜い化け物が5体いた。

 思わずEBTGが臨戦態勢を取るが、すぐに醜い化け物が武装を解除して両手を挙げた。

 

「ま、待て! 私たちは敵ではない!」

 

 野太く重苦しい声だ。それは幻想的なまでに醜い怪物、トロル。

 それもきわめて屈強な個体だ。それが敵でないと言い出すとは?

 

「あなたたちはいったい? 傭兵……ですか?」

 

 サシャがいぶかしげに問う。

 トロルの傭兵と言うのはそこそこ数がいる。

 トロルはそこまで賢い種族ではないが、救いがたいほどの低脳ではない。

 どれくらいの知能かと言うと、だいたいだがトイネの王女だったダイアと同等くらいだ。

 つまり、ちゃんとした教育を施せば王女としてもそこそこやっていける程度。

 

 飽くなき食欲と暴力衝動、それにうまいこと折り合いを付けられれば。

 または、通常のトロルよりも賢い亜種のトロルならば。

 人間の町で傭兵としてうまいことやっていくことは可能だ。

 

 まぁ、大抵のトロルは野の獣よろしく利己的かつ冷酷な生物だ。

 社会性と言うものに乏しい存在が人間社会でやっていくのは難しい。

 それなりの社会性を発揮できる、珍しい個体がたまに人間の町で傭兵をやっているのだ。

 

 悪党であってもいいが、混沌な性質を持っていては町でやっていけない。

 悪党であっても、秩序に迎合できる程度の知性や社会性が必要だ。

 性質で言うと、サシャみたいな秩序に隷属する悪党がそうだ。

 

「ち、違う……私は……魔法で変身させられているが……『世界樹の王(エトラガーモ・タルリス・マギ)』のリゼラだ……」

 

「ええ……」

 

 サシャがドン引きする。

 レウナも、フィリアも、ハウロも、全員ドン引きしていた。

 

「リゼラっつーと……あの、ちょいと小柄目の猫っ毛の姉ちゃんだよな……?」

 

「あなたはたしか、ハウロだったか……」

 

「リーゼとか言う、いい乳してる姉ちゃんとか、もっといい乳してるスアラの姉ちゃんもか?」

 

「おまえ判断基準胸しかないのか……?」

 

「ああ」

 

 すなおに頷かれ、リゼラがなんとも言えない顔をした。

 あまりにも醜い顔なので分かり難かったが、やや引き気味の顔だった。

 

「生憎、全員がそうだ。ウォー・トロルなる強力なトロルに変身すれば身体能力が高くなるという理由でな……」

 

「ひでぇな……」

 

 ハウロが思わずと言った調子でこぼす。

 その一方で、レインは感心したように頷いていた。

 

「なるほど。ドラゴンみたいな特殊能力を持った生物に変身するのは考えてたけど、トロルみたいな強力な大型生物に変身するのは考えたことなかったわ。でも、強そうね……」

 

「えっ、まさか真似するつもりですか!?」

 

「あまりやりたくはないけどね」

 

 フィリアが思わずと言った調子で問い詰めるが、レインはあっさりと頷いた。

 人間が大型化するのと、大型生物に変身するのでは話が違ってくる。

 トロルならば強靱な外皮があるし、呪文への抵抗力や強大な筋力も手に入る。

 レインを大型化してもトロルのような外皮や筋力は手に入らないのだ。

 

 自分の脆さを大きく補えると思えば、悪くない手立てと言えるだろう。

 醜い化け物になるのは乙女心としては複雑だが、強さを得られるなら悪くない選択肢ではある。

 

「……大方ジルにやられたのだろう。アイツはそう言うことをする」

 

「……レウナだったか。もしやあなたも……?」

 

「ああ、昔やられた」

 

 レウナもかつて、「これが一番強いと思います」と言う理由でウォー・トロルに変身させられた。

 ちなみに腹いせか何かは不明だが、リフラもアレコレ変身させられていた。

 だいたいの場合、馬とかそれに類似の生物に変身させられ、文字通り馬車馬のごとく酷使されていた。

 

「しかし、なんでまた外に屯している?」

 

「家が小さくて入れない……」

 

「ああ……」

 

 トロルは大型生物だ。猫背なので分かり難いが、身長は4メートル以上ある。

 3メートルなら身をかがめればまだなんとかならないでもないが。

 さすがに4メートルともなると、這い蹲らないと屋内に入れない。

 なら外で待っているようになるのは自然な話だろう。

 

「と言うことは、おまえたちは冒険を終えて、中でジルだけが報告しているというところか」

 

「ああ、そう言うことだ。報告が終わったら戻してくれる予定になっている……」

 

 悲し気にリゼラが言う。

 チーの持つ魔法の腕では解呪ができなかったし。

 腕前の関係ない解呪魔法もあるにはあるが……。

 残念ながら、呪術師であるチーはそれが使えなかった。

 

「しょうがないわね……解呪してあげるわ。いくわよ? 『魔法解体』」

 

 そこでレインが解呪を名乗り出た。

 9階梯魔法たる『魔法解体』は名の通りに魔法を解体する。

 いかなる呪文であろうとも、問答無用で強制的に解体するのだ。

 『解呪』の魔法を使っていたら、レインでは逆立ちしても解呪不能だが。

 問答無用の『魔法解体』ならばレインでもなんとかできた。

 

 魔法効果によって『世界樹の王』たちの姿が元通りになる。

 全員が見目麗しい女性の姿に戻り、だれもが安堵してうれし涙を流した。

 

「あ、ありがとう……! ありがとう……!」

 

「ありがとうレイン……本当に…………本当に……「ありがとう」……それしか言う言葉が見つからない……」

 

「これが、これが私の本当の身体……ああ、私の身体……」

 

 『世界樹の王』たちは涙を流して喜んだ。

 そりゃ喜ぶだろう。醜い化け物にされたのが戻ったのだ。

 そして、彼女たちに漆黒の殺意が宿った。

 

「やろうぶっころしてやる!」

 

 めざすはジル・ボレンハイム。

 自分たちを醜い化け物にした下手人……。

 

 

 

 

 

「と言ったところです。私たちの勝利でしょうか」

 

「そうだね。やり口がひどすぎると思うけど、効率的だと思うよ」

 

「そうでしょう」

 

 執務室で女たらしはジルからの報告を受けていた。

 迷宮はさっさか踏破し、最奥に待ち受けていた神は雑に処理。

 特に戦利品はなかったので離脱し、勝利のポーズと言ったところ。

 女たらしの出した依頼は見事に完遂していると言えるだろう。

 

「ところで、『世界樹の王』の子たちはどうしたの?」

 

「外で待ってますよ」

 

「ふうん。まぁ、トロルになってたら家入れないもんね」

 

「そう言うことです」

 

 なんて話をしているところで、執務室のドアに打ち込まれる刃。

 それは斧の刃であり、リーゼが主たる武器のひとつとして用いる片手斧だった。

 冒険者らしい膂力で、ただの2撃で重厚なドアが破壊され、そこからリーゼの顔が覗く。

 

「はははぁ……『世界樹の王』のおでましだよ……!」

 

 バキメキと木を裂く音を立ててリーゼが部屋の中に入ってくる。

 

「カギ開いてるのに……」

 

「問題そこですかね」

 

 のんきな感想を漏らす女たらしとジル。

 そんな姿を気にも留めず、リーゼが腰の剣を抜いて襲い掛かる!

 

「くたばれ!」

 

「『迎え討ち』」

 

「おひょっ」

 

 しかし、その前にジルの神速の拳がリーゼの顎を打ち抜いていた。

 リーゼがぐんにょりと崩れ落ちる中、続けて突入してくるリゼラ。

 

「はああぁぁっ!」

 

「『幽閉/プリズン・ロック』」

 

「うわぁぁああ!」

 

 ジルの『幽閉』の呪文によって封印されるリゼラ。

 この呪文は外部からの助力がない限り脱出不能な呪文だ。

 

「死ねっ!」

 

「『矢返し』」

 

「あはらっ!」

 

 トキの強力な射撃。

 ジルがその矢をひっ掴んで投げ返し、トキの胸に突き刺さった。

 

「『死の呪言』!」

 

「少し痛い」

 

「えっ、なんでぜんぜん効いて……うへぇ~!」

 

 チーが扉の外から『死の呪言』を放つ。

 弱い者を問答無用で死に誘い、強者であろうとも生命力を大幅に削り取る呪い。

 そして、喪った生命力次第ではそのまま死に誘う。

 

 きわめて恐ろしい呪文で、並大抵の人間ならば即死だ。

 しかしジルは並大抵の人間ではない。なので少し痛いだけ。

 ジルが適当に投げた金属弾がチーのみぞおちを直撃。チーが崩れ落ちる。

 

「もらった!」

 

「あげません」

 

「ぎゃああぁァァァ――――ッ!」

 

 そして、忍んでいたスアラが天井から飛び降り、ジルに奇襲。

 しっかり気付いていたジルが適当に殴り倒した。

 『世界樹の王』は全滅した……。

 

「あれ、タンポポの綿毛。まだ残ってたんだね」

 

 女たらしは目の前で行われる惨劇を気にも留めていなかった。

 窓から舞い込んで来たタンポポの綿毛を拾ってそれに感心している。

 

 もう、暦では夏だ。すでに7月に入り、タンポポの綿毛もすっかり散っているはず。

 それが舞い込んで来たのはなにかの偶然だろうか。

 どこかの木陰にでも時季外れのタンポポがあったのかもしれない。

 

「ところで、この人たちどうします」

 

「ん? ああ、治療してあげて」

 

「拘束は?」

 

「なんで?」

 

「一応、貴族であるあなたを襲った以上、重大な罪に問えるのですが」

 

「へぇ? べつに問う必要も……いや、ケジメは必要だね! うん! 地下牢にブチ込んでおこう!」

 

「そうですか」

 

 女たらしは気を取り直し、『世界樹の王』を拘束することにした。

 

 それから1分と経たずEBTGが部屋に飛び込んで来た。

 そして、部屋に広がる惨劇に目を覆う。

 

「ああ、なんてこと……」

 

 レインが重大な罪を犯してしまった『世界樹の王』たちを見て嘆く。

 そりゃ、自分が解呪したせいでこんなことになったら嘆きもするだろう。

 

「あ、ああ、あの、ご主人様。彼女たちはべつに決して悪くは……」

 

「うんうん。でも、ケジメは必要だからね……」

 

「それはそうですよね……!」

 

 しかたのないことなんだよと言われると、そりゃそうだよなとしか思わないし。

 『世界樹の王』たちを擁護するには、あまりにも材料が足りなかった。

 

「それより、みんなの報告を聞きたいかな? どうだったの? いや、それよりも……サシャ、何を持ってるの?」

 

 女たらしの眼には、凄まじい力を発する指輪が映っている。

 それは尋常の存在ではない。まず間違いなくレリックの類であるとわかる。

 

「これは……なんと言いましょう。シェバオ様が託してくださった品で、『アルメガ』との戦いの切り札のひとつと……」

 

「へぇ……? 効果は?」

 

「……使い捨てなので、聞いても使わないとお約束できますか?」

 

「うぐ……神から託された使い捨ての品……わかった、聞かない」

 

 面白そうなものは使いたくなるのが当然だ。

 それを思えば、聞かない方がまだしも自制が効く。

 そのような理屈で女たらしは聞くのを取りやめた。

 

「……よし、じゃあ、報告を聞こうか」

 

 そして、意識を本題に。

 EBTGの報告を聞くことにした。

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