あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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17-023

 『ハンターズ』はコリントの手で創造された異次元空間の中で目を覚ました。

 存分に食べ、飲み、心地よい酩酊の眠りについた後の目覚めだ。

 起床時間も気にせず、いいだけ眠ってからの起床ほど心地よいものもそうはない。

 

「ふわぁぁ~……あ~、朝かァ~」

 

 モモが目覚め、その美しい桃色の髪を掻きまわすようにして頭を掻く。

 ゆったりとした動きで身体を起こし、周囲を見渡す。

 

 そこは食事をしていた食堂に相当する空間で。

 アトリ、リン、キヨ、メアリと『ハンターズ』のメンバーの大半が転がっていた。

 べろべろに酔っ払い、気持ちよくなってそのままそこで寝たのだ。

 狩人らしい頑健な肉体のおかげで風邪を引く心配もない。

 なんとやらは風邪を引かないとかそう言うアレかも。

 

「あ゛ー……今日も1日がんばるぞい……っと」

 

 モモロウが起き上がり、すぐ近くのテーブルの上を眺める。

 そして、昨晩の食べ残しのピザを見つけると、それをひょいと口に運んだ。

 

 冷めて固まったチーズとカピカピに乾いたペパロニの食感。

 それに眉を顰めつつ、同様にテーブルに残っていた飲みかけのドリンクを口に運ぶ。

 妙に甘ったるくて健康に悪そうなドリンクでまずいピザを流し込む。

 

「ぐへぇ……」

 

 モモロウの朝はすばらしく不健康に始まった。

 

 

 

 いつものモモの朝はわりと健康的だ。

 ちゃんと朝早くに目を覚まし、朝の支度を済ませる。

 それこそ、トモよりもずっと早くに目覚めるのが基本だ。

 トモが寝てる間にお口で搾り取っておかないと夜がつらいのだ。

 

 それを済ませたら、しっかり歯磨きをし、髪を洗う。

 トモの出した液体で大抵べたべた、あるいはカピカピな状態なのだ。

 それをしっかりと洗い流し、乾かし、きれいにセットする。

 

 しかし、冒険中、狩り中はそうではない。

 

 トモもさすがにそう言う時は自重する。

 彼はそう言うところまで女たらしに似ているのだ。

 すると、モモの方は搾り取らなくてもいいし、髪の手入れも必要ない。

 なので、酒を存分に飲んで、朝寝坊をしてもなんら問題ない。

 そして、目覚めたら昨晩の残りでとりあえず腹を満たす。

 情事がない時のモモのルーティンはそんな感じだった。

 

「うぐぐ……朝か……?」

 

「うへぇ……腹減ったでござる……」

 

「食い物くれ……」

 

 そうしているうちに、モモよりも多少なり体が丈夫でない女衆が目覚める。

 そして、同様に昨晩の残りもので素早く腹を満たし始める。

 

 狩人の身体は燃費が悪い。そう言う風に鍛え上がっている。

 朝目覚めたら、すぐに目覚めの一食が必要なくらいに燃費が悪い。

 酒盛りをしたら、翌朝の朝食の準備がおろそかなことは少なくない。

 そうなると、酒盛りの残り物で腹を満たすのは自然なことだった。

 

 いつだって狩人の食卓は残り物が出る。

 残り物が出るくらい目いっぱい食べないと体が保たないからだ。

 足りないよりは余る方がずっといいし。

 余ったとしても翌朝に食べればそれでいい。

 

「げふぅー。冷めたピザ最悪でござる」

 

「なんですかこの甘ったるいだけの飲み物。エナドリめいた味しますけど」

 

「足らんわ。もっと肉くれ」

 

「はらへった」

 

 ガツガツと食べても、それでも足りない。

 狩人の燃費の悪さは想像を絶する領域にある。

 しかし、今回の冒険では頼れる仲間の魔法がある。

 ここではコリントの魔法で創造された不可視の従者が料理を出してくれるのだ。

 

 『ハンターズ』は朝からバクバクと食事を平らげていく。

 そうするうちに、ちゃんと寝室で眠っていたトモが起き出してきた。

 彼も同様に狩人らしく、朝からガツガツと食べる。

 

「魔法で食料が作れるってすごいよね。味も悪くないし。僕たちも使えたらいいんだけど」

 

「食料作る魔法は信仰系っつって、神様信じてないと使えないらしいぜ」

 

「でも、この空間作る魔法自体は秘術系でござるよ……まぁ、拙者にはとても使えないくらい高位の魔法でござるが」

 

 コリントが創り出した空間は『魔法使いの豪邸』とはまた別の魔法だ。

 ただ、ほぼ同種の魔法ではあり、階梯も8階梯と高位のものだ。

 どうにせよ、『ハンターズ』にはとても手が届かないものだが。

 なんせ、モモの言う『食料作成』の呪文ですら3階梯なので『ハンターズ』には使えない。

 

「はぁ、魔法の才能が欲しい。どうして私たちはこんなに才能がない」

 

「ボルボレスアスの民だからでござろうな」

 

「私はもうちょっと魔法の才能があってもいいではないか。蛇目だぞ、蛇目」

 

「べつに蛇目だからって才能あるわけじゃないと思いますけど……」

 

「だが、そこなオッドアイのクソ忍者は魔法の才能があるだろうが」

 

「拙者は忍者じゃなくて、どっちかって言うと侍でござる」

 

「私たちだってもっとバリバリ魔法が使いたいのだがな……こう、剣に雷とか氷とかつけたい」

 

「やはり、『火炎属性付与(エンチャント・ファイア)』とかやるのはロマンだからな」

 

「剣に炎を纏わせて宣言するでござるよ。拙者、金髪サイドテール美少女大好き侍。義によって助太刀いたす!」

 

「性癖の開示、本気ですね……!」

 

 相変わらずの馬鹿話をしながら次々と食卓の料理を平らげる。

 不可視の従者たちは次々と料理を追加するが、それに劣らぬ速度で料理が消えていく。

 そうしているうちに、コリントが姿を現した。

 

「おはよう。みんな、もう朝ご飯にしていたのね」

 

「おう、おはようさん。先にいただいてるぞ。全部食っちまうかも」

 

「どうせ魔法を解除したら消える食料だもの。存分に食べてちょうだい」

 

 コリントも適当に開いている席に着く。

 そして、取り出したのは丸底フラスコだった。

 中にはどろりとした黒っぽい液体。

 コルクの蓋を取り払い、コリントがそれを一気に飲み干す!

 

「うぐっ、ぐっ、うっ……!」

 

 うめき声をあげながらも飲み干していくのは偽血。

 錬金術によって製作された血液の代替品だ。

 コリントの種族、ヴァンパイアは他生物の血液摂取が必要な種族だ。

 摂取しなければ、血の飢えによって狂い出し、やがては滅ぶ。

 ヴァンパイアとは生命維持のために他者の血液が必須の種族なのだ。

 

 しかし、いちいち生き血を啜ってたらキリがない。

 その代替品のために偽血が創り出されたのだが……。

 

「あ゛ぁ゛~……! まずいぃ~……!」

 

 ごらんのように、それは壮絶なほどにまずかった。

 ガマンすれば飲めなくもないけど、飲みたくはない。

 しかし、生命維持のためには飲まなくてはならない。

 この苦しみから逃れるためにヴァンパイアは生き血を啜るのだ。

 

「そんなまずいの」

 

「ええ……こう、生命の根幹が揺らいでるんじゃあ……ってくらいにまずいわ」

 

「そんなにか。私のでよければ、飲んでもいいぞ」

 

「遠慮しておくわ……」

 

「どうせ血の気に溢れてるでござるから、好きなだけ飲んでいいでござるよ」

 

「でも、生活の質を上げちゃうと、戻せなくなってしまうでしょう?」

 

「あー、そう言う……」

 

 ヴァンパイアになり、生命の限界から逃れても世知辛いことばかりだ。

 『ハンターズ』はしょっぱい気持ちになった……。

 

 

 

 食事をしっかり取り、それから食休みをし。

 おなかがこなれて来たら、コリントの創造した異次元空間から出る。

 そして、『ハンターズ』は戻って来た密林を眺めて思い出す。

 

「そういや、俺たち依頼で来たんだったっけな……」

 

「そう言えば……」

 

「忘れてたでござる」

 

「あらまぁ。うっかりさんね」

 

 なんて気楽な調子で全員が笑い合い、それから出発した。

 依頼で一番乗りはもはや無理だろうが。

 べつに依頼一番乗りの報酬は必要ではない。

 『ハンターズ』は訓練がてら宝探しに来ているのだ。

 

「じゃ、キビキビいくでござるよ~」

 

「ええ、まかせておいてちょうだい。『導きの月光/ガイディング・ムーンライト』」

 

 コリントが魔法を発動させると、その傍に白く輝く球体が現れた。

 それは淡い光を発したかと思うと、光の筋が伸びて進むべき先を示した。

 

「カッチョイイ呪文でござるな。どんな呪文でござるこれ?」

 

「進むべき経路を探知する魔法ね。罠や敵も発見してくれると、これ1つで迷宮を攻略できるわ」

 

「はえー、すごい魔法でござるな! 何階梯でござる?」

 

「9階梯よ」

 

「拙者にはとてもじゃないが使えんでござるな……解散」

 

 効果がすさまじいだけあり、その難易度もすさまじい。

 並大抵の魔法使いではとてもではないが手が届かない魔法だ。

 

「その魔法を使う限り、敵に遭遇する心配はないのか?」

 

「いいえ。残念ながら、あくまでも経路にいる敵を探知して教えてくれる効果でしかないわ。経路上にいない敵に探知されれば襲われることはあるわね」

 

「なるほど。そうまでうまくはいかんか」

 

 アトリが難しい顔をして頷く。

 さすがになんでもかんでも都合がよくはできていないらしい。

 

「まあ、進路上の敵が分かるだけでずいぶんと違うか。進むとしよう」

 

「ええ、そうしましょうか」

 

 コリントを先頭に『ハンターズ』が密林を進む。

 『ハンターズ』にはあまりにも慣れ親しんだ空間だ。そこを進む足取りに不安はない。

 一方で慣れていないコリントだが、こちらは装備の魔法効果で移動に不安がない。

 コリントは多種の魔法で移動制限から完全に開放されているのだ。

 

 そうして進んで、次の階層への入り口を発見。

 『ハンターズ』はそこへと進み、次なる階層……秘境林(ひきょうりん)へと到達した。

 

「うわ、密林から突然秘境林でござるか」

 

「迷宮ってなんでもありだなマジでよ」

 

「秘境林の著名なモンスターはなにかあったかな……」

 

「秘境林はあんまり行くことないですからね」

 

 なんて『ハンターズ』が話し合う中、コリントが提案をする。

 

「なにかしらの補助魔法をかけましょうか。なにが出るかわからないのでしょう?」

 

「うーん。そこまで心配はいらんと思うでござるが……」

 

「コリントの魔力が多いとは言え、消費するリソースだかんな、節約するに越したことねーだろ」

 

「じゃあ、リソース不要のトモちん。出番だぞ」

 

 アトリに促され、トモが苦笑しつつその背に負っていた武器を握る。

 トモが手にした巨大な気鳴楽器、バトル・ホルンを勢いよく吹き鳴らす。

 

「よーし、いくよ! 『猛進(もうしん)前奏曲(プレリュード)』! 『纏雷(てんらい)舞曲(メヌエット)』! そして『巧流(こうりゅう)即興曲(トッカータ)』!」

 

 トモがバトル・ホルンを吹き鳴らし、励起される魔力。

 それは大気を震わせ、『ハンターズ』たちの魂を鼓舞する。

 湧き上がる力に『ハンターズ』は打ち震え、歓喜の声を発する。

 

「いいね! ビリビリ来るぜ!」

 

「サイコーですね!」

 

「これこれ、これが楽しみで狩りに来てるまであるでござるよ!」

 

 なんて口々に話し合い、コリントもまた自分の身に引き起こされた現象を見分する。

 前回は戦闘の直前ということもあって、あまりしっかりと見分できなかったが。

 今回は一応の事前準備の形で振る舞われたので、確認の時間が十分にある。

 

「すごい効果ね……それも、一息で3つも呪歌(まがうた)を完成させるなんて……前回も2回一気にやっていたけど、この感じだと無理なく3回成立させられるのね」

 

 ボルボレスアスの民は超人的な身体能力を持つが。

 それ以外の多くが他大陸の戦士たちに劣るとコリントは考えていた。

 だが、このあまりにも無法なバードとしての能力を思うと。

 魔法がロクに使えない以外はこの世界で最強の民族なのかも……。

 

 普通、他大陸のバードは一瞬で3つも呪歌を演奏するなんてできない。

 呪芸(じゅげい)自体、繊細で難しいものなのだ。連続演奏自体が困難。

 それをトモは、一瞬で3つも使い、それに対して疲労している様子もない。

 挙句の果てに、昨日体感した効果からすると、持続時間は5分はザラに持続する……。

 

 別大陸のバードは泣いていいし、ブチキレてもいいくらいだ。

 普通は1日に10回も演奏できれば凄腕の部類に入るし。

 持続時間も2分維持できれば凄腕と言っていいのだ。

 トモの演奏能力はそれを遥かに超越していた。

 

「秘密は……肉体能力かしらね……」

 

 そして、その秘密はボルボレスアスの民特有の超人的身体能力による。

 まぁ、単純に肺活量とか体力とかがすごいのでいっぱい演奏できるのだ。

 あまりにも身もふたもないが、それゆえに真似できない強みだった。

 

「よーっしゃ! いくか!」

 

「いくか。コリント、次の階層への案内を……」

 

 そう、アトリが頼もうとしたところで。

 大気を震わせるすさまじい音圧の咆哮が秘境林に響き渡った。

 それは山肌にかかる薄雲を吹き流すほどの凄まじい圧力であり。

 それと同時に、その咆哮には強烈な音の力が乗っていた。

 

「あっ、やっば」

 

 それを感じ取って、トモが思わずといった調子で漏らす。

 もちろん『ハンターズ』はそれに目ざとく気付いて、目線で何事かと尋ねた。

 

「えーっと……ほらさ……高地に……奏楽竜(そうがくりゅう)って生息してるじゃん……?」

 

「あー、なんかいるでござるな。でかいクジラみてーなの」

 

「それがどうした?」

 

 『ハンターズ』の狩人としての経験はかなり豊富な部類に入る。

 狩人として過ごした年月は短くとも、その分だけ密度が濃いのだ。

 しかし、そんな生活でも遭遇したことのない飛竜も存在する。

 ボルボレスアスの生物学的多様性はすさまじいのだ。

 そのため、トモを除いて奏楽竜の生態を知るものはいなかった。

 

「奏楽竜は……『呪歌』を聞くと激怒して、襲い掛かって来るって……知ってた?」

 

「……やばい?」

 

「やばい」

 

 モモが真顔で尋ね、トモが真顔で頷き。

 そして、上空から激怒した奏楽竜グォリンドンが襲い掛かって来た。

 

「■■■■■■■■■■――――!」

 

 それはもはや、耳で聞き取ることも不可能なほどの音圧であり。

 グォリンドンがすさまじい勢いで激怒していることが伺えた。

 その空舞うクジラのような飛竜、グォリンドンが『ハンターズ』へと猛然と襲い掛かる!

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