グォリンドンの巨躯が山肌を薙ぎ倒すように地表に激突する。
その壮絶な激突の中を『ハンターズ』は駆け抜け、その被害半径から離脱する。
「ま、まま、まずい!
「なんとかったってな! 戦ったことねぇ飛竜相手にそう妨害なんかできっかよ!」
「気合でなんとかしろ! 私もがんばるからおまえもがんばるんだよ!」
「キヒェー! 拙者の剛射を喰らえでござるぅー!」
『ハンターズ』のメンバーが各々の武器を手にグォリンドンへと襲い掛かる。
その巨躯を地面に横たえたグォリンドンが身を起こし、その巨大な前ヒレを上げる。
身体の捻りと同時に振るわれるヒレが山肌を勢いよく削ぎ飛ばした。
「あっぶねぇぇぇ!」
「それ前に動くんでござるかよ!」
「ぉのれぇ!」
全員が気合の限り跳んで躱した。
勘の鋭さ、もしやという予測の立て方。
『ハンターズ』の歴戦の経験が呼ぶ危機回避。
初見の飛竜が相手でも、決して無力ではない。
『ハンターズ』の強さはそう言う領域にある。
「なかなか気合の入った敵ね……グォリンドンとか言ったかしら」
コリントは壮絶な身のこなしによる空間転移で回避がてら肉薄。
グォリンドンの至近まで潜り込むと、握り締めた拳を鋭く打ち込んだ。
同時、気功技術によって撃ち込まれる超震動。
コリントが持つ武僧としての技術、その奥義『
「弾けなさい!」
その超震動の解放をコリントは狙い。
そして、それをグォリンドンの圧倒的な肉体強度が捻り潰した。
体内で発生し、内臓を完膚なきまでに破壊するはずの超震動。
それは筋肉の蠕動によって強引に抑え込まれ、無力化されたのだ。
「なんてこと……! いったいどれほどの頑健さがあれば……!」
慄きながらコリントが離脱。
拳を構え直し、僅かに宙に浮かぶグォリンドンを睨みつける。
「クォロロロロロ……」
グォリンドンの軽やかな鳴き声。その巨躯に見合わない涼し気で艶やかな声。
それはグォリンドンの空洞ある体内で反響し、体外に露出した音響器官を震わせる。
グォリンドンの鳴き声と共に行われる演奏が大気を震わせ、魔力を励起する。
「なんとか止めなきゃあ!」
「トモちんそれはやべぇって!」
「援護します!」
トモがバトル・ホルンを手に飛び込み。
モモがそれに続き、メアリが砲撃でそれを援護する。
その最中にも、凄まじい音圧と共に魔力が大地から湧き上がるように励起していく。
それをさらに力強く補助する不可思議な反響音がより一層強く魔力を励起する。
グォリンドンの体内にため込まれた浮揚ガス。
グォリンドンはこれを用いて飛行をしている。
だが、この浮揚ガスには隠れたもうひとつの使い方がある。
空気と浮揚ガスではさまざまな特性が異なる。
浮揚ガスの満たされた気鳴音響器官を通した旋律は高く早く。
通常の空気が満たされた音響器官を通した演奏は普通通りに。
この二重奏によって、グォリンドンは驚異的な倍率の『呪歌』を演奏することが可能なのだ。
それを通せば、『ハンターズ』側の勝機は薄れる。
それゆえの強引な攻め。トモの判断は正しいと言える。
モモロウの剣が、メアリの銃が、トモのバトル・ホルンが、キヨの矢が。
それぞれの持てる最大の火力がグォリンドンに殺到していく。
それはグォリンドンの強靱な体表を傷付け、切り裂き、血を噴き出させていく。
しかし、禁域級の飛竜に無理攻めはそう通じはしない。
『ハンターズ』必死の攻勢はグォリンドンの呪歌を止めるには至らない。
「クォロロロロロロロ…………!」
そして、グォリンドンの『呪歌』が成立した。
その成立と同時、激しく励起される魔力の渦。
トモが驚異的な身体能力ですさまじい演奏をしたように。
それよりもさらに強靱で強い肉体を持つグォリンドンがさらにすさまじい演奏をした。
これによって引き起こされた魔法効果はすさまじく。
グォリンドンの生命力が賦活され、驚異的な倍率で肉体が強化される。
白灰色の体表が赤く染まり、グォリンドンの筋肉が力強く隆起する。
爆発的に増幅された自然治癒能力が刻まれた傷を瞬く間に癒す。
「おいおい……! あんな規模の呪歌、アリかよ……!」
モモロウが思わずといった調子でこぼす。
ほかのだれも口にはしないが、それには同意を示していた。
肉体が目に見えて再生するほどの治癒活性は尋常ではない。
飛竜の桁外れの生命力があってもまずありえるようなことではない。
「トモちん……呪歌の規模、あれは相当すさまじいのではないか?」
「うん……アトリちゃんの言う通り、あれは人間には無理だよ。僕の何百倍もの密度の呪歌……今の奏楽竜にまともな攻撃は通じない……!」
トモの搾り出すような呻き声。
その絶望のほどを示すように、グォリンドンが動き出した。
空中を浮揚する体が機敏に動き、前ヒレが地面を抉り飛ばす。
それは先ほどの地表を薙ぎ払う一撃とは違う。
岩盤そのものを抉り、表層数十センチを丸ごと削ぎ飛ばしているのだ。
弾丸のごとき勢いで飛来する石つぶて。
咄嗟にコリントが前に飛び出してそれを弾き飛ばし。
同様に、手盾を持つモモロウとアトリがそれを盾と剣で弾く。
まるで銃弾が連続して激突しているような。
腕が痺れを覚えるほどのすさまじい威力。
「クソッ、バカみたいな筋力しおって! 全方位から仕掛けるぞ!」
「合点承知の助でござる!」
狙いを絞らせないよう、『ハンターズ』が散開する。
近接武器を持つ者は各地点からの波状攻撃を。
遠距離武器を持つ者は走り回りながらの断続的な攻撃を。
相手の出方を伺う、『ハンターズ』の基本攻勢だ。
いや、それはボルボレスアスの狩人の基本姿勢と言うべきか。
ボルボレスアスの狩人は超人的な身体能力を持つが、飛竜を相手にそれはいかにも非力……。
飛竜の動きをよく観察し、その攻撃をすべて回避してのけるほどの意気込みで狩りは行われる。
実際、モモは狩人生活では1度たりとも被弾をしていない。トモもそれは同じことだ。
断続的な波状攻撃にグォリンドンも戸惑う。
基本が温厚な生物である奏楽竜は積極的な攻撃を行わない。
超大型飛竜と言う点も相まって、食料を得るための狩りにも苦労はしない。
戦闘と言う経験値が低いのだ。
それゆえに四方八方からの滅多打ちにグォリンドンは成す術もなく。
しかし、成す術もないからと言って、それが有効打かと言うと……。
「くそ! 私の刀では歯が立たん!」
「拙者の矢、ぜんぜん効かんでござるがー!?」
リンとキヨが喚く。
グォリンドンの柔軟性に満ちた皮膚はリンの長巻の太刀を弾き返し。
キヨの放つ強弓の射撃もことごとくを弾き返していく。
そしてそれは、モモロウにアトリ、トモですらも例外ではない。
「冗談だろ……! 属性エネルギーしか通らない……!」
その強靱過ぎる皮膚があらゆる斬撃・打撃を弾き返し。
武具の持つ属性エネルギー放出の特性がその生命を削り取るが……。
ごく一瞬の後、強烈に賦活された治癒力がそれを帳消しにしてしまう。
グォリンドンは今まさに超空の要塞と言うべき存在になっていた。
「クォロロロロロ……!」
怒りの鳴き声と同時、発せられる音波エネルギーの放出。
空気の歪み、層のズレとなって目に映ったそれを、それぞれが躱していく。
気合の咆哮と共に放たれる反撃の打撃、斬撃。
そのことごとくがグォリンドンに弾き返され。
ごくわずかに通った攻撃ですらも、瞬く間に癒えていく。
「くそが! やっていられんぞ!」
「トモちん、なんか! なんか手立てねぇの!? 手!」
「ないよぉ! グォリンドンの呪歌は強過ぎる! 僕の呪歌じゃ相殺なんてできない!」
呪歌の音波エネルギーはもちろん妨害することが可能だ。
それは物理的な手段もそうだが、おなじ呪歌による音波エネルギーの相殺もある。
しかし、グォリンドンのあまりにも圧倒的な呪歌の出力は人間では相殺不能。
特級狩人と名乗れるだけの力量がトモにはあるが、それでもグォリンドンの呪歌には届かない。
「なら、叶う限り強化しまくってくれや!」
「演奏だけやってくれ! 無理に前に出なくてもいい!」
「ガードはこっちでしますから! リスクあるやつでもいいので、強化してください!」
『ハンターズ』の求めに応じ、トモがバトル・ホルンを振り上げる。
「任された。全力で行くよ。戦いのビート! 『
トモが全力で呪歌を練り上げていく。
それに、グォリンドンが激怒し、咆哮を放った。
「グォロロロロロロロ……! ギュオ、オオ■■■■■■■■■■■■■■■――――!」
呪歌によって励起される魔力は、グォリンドンの音波エネルギーを揺らがせる。
自身以外の呪歌を否定する、独りよがりの指揮者。それが奏楽竜グォリンドン。
「まだ! まだいく! 『底力の
トモは仲間たちに全力で呪歌の力を注いでいく。
それは仲間たちならできると信じた、無茶苦茶な演奏だ。
狩人の強靱な肉体を限界に追いやり、湧き上がる底力を無理やり引き出す呪いの歌。
本来ならば使うべきでない、呪わしき演奏。狩人の限界を超える悪魔の歌。
濫用すれば、人を死に追いやるほどに危険度の高い演奏だ。
それでも仲間たちならば。
この演奏を使いこなし、生還してくれると信じた。
だからこその演奏で、だからこその歌。
狩人の力を極限まで引き出し。
その限界を超越させる究極の呪歌。
トモは呪歌の最秘奥の扉をこじ開けた。
「『
『ハンターズ』の肉体の枷が外れる。
彼ら、彼女らの肉体に最後に残っていたひとかけらの理性。
彼らの生命を限界ギリギリのところで留める最後の安全機構。
それらから解き放たれた彼らの肉体はなによりも自由で。
そして何よりも強く、それゆえに、悲しいほどに脆い。
いま彼らはガラスの刃のように鋭く繊細な存在となった。
「ははっ。すげぇな、この呪歌」
「マジヤバですね」
「最強モード到来でござるな」
「リスクは激ヤバだがな……」
「だが、それだけ強い」
その強さを強く感じ取って。
彼らは再度武器を構え直す。
激怒し、咆哮を発するグォリンドンの圧力。
それを感じ取りながらも、彼らには一寸たりとも怯みはなく。
「さぁ、一狩りいこうぜ」
そして彼らは挑みかかる。
それはきっと、どんな英雄譚よりも勇ましく。
この世界のだれであろうとも表現できないほどに壮絶で。
だからこそ、すべての生命の胸を力強く打つ。
それは、すでに生命ですらない者の胸をも……。
「……すごい」
限界を超越した力を発揮する『ハンターズ』の姿を呆然と眺めるのはコリント。
すでに、生命の鼓動を手放して久しい彼女にもまた呪歌の力は宿っている。
生命の持つポテンシャルを限界まで引き出し……いや、限界以上に引き出す呪わしき呪歌。
適用者の限界を弁えない。
未来をそのまま燃料にするおぞましき呪い。
だが、だからこそ、それは何よりも強く。
どんな輝きよりも美しい、命のきらめきがあった。
「きれいだわ……」
コリントは呆然と言葉を漏らす。
死に際の命ほど、強い輝きを発するのが生命。
いま『ハンターズ』たちは、その死の瀬戸際へと追いやられているのだ。
グォリンドンとの戦いがゆえにではない。
傷を負ってもいないし、疲弊すらもしていない。
呪歌のエネルギーが、彼らの生命を限界以上に励起している。
その輝きを極限まで引き出すために。
そのあまりにも眩しい輝きがコリントの眼を焼く。
あまりの美しさに、涙すらもこぼれてしまいそうだった。
既にアンデッドとなった彼女にそんな情動はないはずなのに。
それでも胸を打って止まない、生命の輝き……。
「きれいだわ……」
もう1度、そう呟いて。
「あ、いけない……私も、戦わなくちゃ」
コリントはハッとなって戦いに戻る。
今の今まで『ハンターズ』にすべてを任せきりだった。
チーム唯一の魔法の専門家としてサボりは許されないだろう。
彼女もまた、いまは『ハンターズ』の一員なのだから……。
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