あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 『ハンターズ』の振るう武器が鋭くうなりを上げる。

 それは先ほどとは打って変わって、グォリンドンの強靱な皮膚をいともたやすく切り裂いた。

 限界以上に引き出された『ハンターズ』の潜在能力がグォリンドンを上回ったのだ。

 

「超おもしれぇ~! 俺たち強ぇ~!」

 

「これはたまらんな! 最強モードが過ぎる!」

 

「あまり調子をこくな! 1発でも被弾したら即死しかねんのだぞ!」

 

「いつものことでござるよ!」

 

「たしかにそれはそうなんだが」

 

 それでもいつもよりも遥かにリスクの高い状態だ。

 『ハンターズ』はこう見えて、安定志向の戦闘をする。

 ボルボレスアスの狩人全体がそうだと言えばそうだが。

 いっそのこと消極的と言っていいくらいのものだ。

 

 そこで戦闘力のために限界を超えた強化をかける。

 いつもの『ハンターズ』ならまずやらないような方策だ。

 そこまでするくらいなら撤退を視野に入れて行動する。

 今回は逃げられそうもないので諦めたからだが。

 

「クォロロロロ……!」

 

 戦闘を続ける中、突如としてグォリンドンの表皮の色が元に戻る。

 それはグォリンドンに付与されていた呪歌(まがうた)の効果時間が切れたことを意味する。

 

「ひゃはははは! どうやらこっちに勝機が回って来たらしいなアァ!」

 

 モモが悪党みたいな叫び声をあげ、グォリンドンへと切りかかる。

 その柔軟な皮膚を薄紙のごとく切り裂き、その下の肉までも深々と抉る。

 それは先ほどまでとは比べ物にならない威力の発揮だ。

 

 グォリンドンが空中で痛みに身を捩る。

 この秘境林(ひきょうりん)の頂点捕食者たる彼が味わうはずのない痛み。

 それに激高したグォリンドンが、力強く音律を響かせ、周囲の魔力を励起する。

 

「させるか! 気合入れろやクソ女ども!」

 

「テメーも気合入れろでござるメス男が!」

 

「しくったらケツに花を生けるぞホモガキが!」

 

 暴言を交わし合いながら、『ハンターズ』が一斉攻撃を仕掛ける。

 グォリンドンの生命を脅かすべく、その音律の構成を阻むべく。

 

 猛る刃が血潮をしぶかせ、奔る焔が肉を焼く。

 刃と弾の響かせる即興戦闘音楽がグォリンドンの身を叩く。

 その死の運命が間近に迫っていると伝えるかのように。

 

「クォロロロロロ……!?」

 

 グォリンドンはそれをどう捉えていたのだろう?

 この秘境林の頂点捕食者たる自分を脅かす小さな闖入者たち。

 自分の生命の音律を乱す、不躾な乱入者たち。

 それが、生命の根幹をも刈り取るおぞましき襲撃者だと、いつ気付いたのだろう?

 

 音響器官を破壊され、体内の浮揚ガス貯蔵のための空間に穴を開けられ。

 その身体を空に舞わすこともできず、音律を響かせることもできず。

 彼がその身体を山肌に横たえるまで、そう時間はかからなかった。

 

 

 

 グォリンドンが山肌に身を横たえ。

 その身体からどくどくと血を流し、その生命に幕を閉じる。

 『ハンターズ』は狩人として、その生命に哀悼の意を示す。

 

 狩人はただの殺戮者ではない。

 自然と人、生命の調和を守るためのものだ。

 それはただの人間らしい傲慢さから出たおためごかしかもしれないが。

 

 少なくとも、殺した生命に対して無責任ではない。

 そうあろうとするのが、狩人としての責務の一端だった。

 

「よし。解体するか」

 

「んね。さすがにこの巨体は骨が折れそうだけど、やろうか」

 

 狩った獲物を糧として、余さず使うのも狩人の責務だ。

 ボルボレスアスなら協会から派遣された者が解体してくれるが。

 いない以上、自分たちでそれを完遂させなければならない。

 それは大変な手間だが……それが狩人だ。彼らがそう自分に定めている。

 

 コリントからすると、それは無用な手間と思えたが。

 『ハンターズ』の習慣を否定するほどの理由もない。

 もともと野営したから競争では負けるのが確定してるし……。

 いまさらちょっとくらい時間食っても誤差だ誤差。

 

「このまま野営が必要だったりはするかしら?」

 

「ん~。さすがに必要ござらんかなと。まだまだいけるでござるし」

 

「そう?」

 

「時間を取って申し訳ないでござるが、付き合ってほしいでござる」

 

「かまわないわ。気長な方なのよ、私って」

 

「そう言ってくれるとありがたいでござる。あ、でも、お湯を用意してくれると助かるでござるかな~と……」

 

「ええ、構わないわ。任せておいてちょうだい」

 

 コリントが魔法で大きな鍋を創造。そこに魔法で水を張る。

 さらに、魔法でその水を一瞬で沸騰させてしまう。

 ほんの30秒足らずで、大鍋一杯の熱湯が創り出された。

 

「はえ~……魔法の使い方が、マジでこなれてござるな……拙者らでは届かんレベルでござる……」

 

「ふふ、使ううちに慣れて、出来るようになるわ。キヨちゃんはそう筋も悪くないわよ?」

 

「ほんとにござるか~?」

 

「ほんとほんと。ほんとにござるわ」

 

 なんて話をしている間にも、グォリンドンの解体はつつがなく進み。

 グォリンドンの主要な部位を回収し、これを保存。

 そして、残る部位はそのまま野に晒す。

 

「……これ、普通の環境ならそのまま他の生物のエサとかになるけど、ここだとどうなるんだ?」

 

「え、いや、さぁ……」

 

「……まぁ、今までのやり方を崩す必要もないだろう。たぶん」

 

「気持ちの問題ですから、気持ちの」

 

 いまいち締まらないところもあったが。

 こうしてグォリンドンの戦いの一連の流れは終わった。

 

 

 

「やっぱさぁ、『不退の鎮魂歌(レクイエム)』は強過ぎるよな」

 

「まぁ、狩人の未来を省みない旋律だからね……それで強くなかったら困るよ」

 

 秘境林をぼつぼつ移動しながら、『ハンターズ』はそんな会話をしていた。

 ボルボレスアスの呪歌は種類が多く、そして同時に極めて強力だった。

 その中でも特別に強力なものこそが『不退の鎮魂歌』だ。

 

「リスクが大きい呪歌なのはわかるのだけど、そこまで厳しいものなの?」

 

 しかし、コリントには『不退の鎮魂歌』のリスクがよくわからない。

 たしかにすさまじい強度の強化がかかっていたのはわかるのだが。

 それによって発生する、あるいはしていたというリスクは実感できなかったのだ。

 

「あ~……ボルボレスアスの防具ってのはさ、狩人を守るためのもので……飛竜の素材を使ってるから、魔法の特性を帯びてるのは知ってるよな?」

 

「ええ。魔法を付与したわけではないけれど、魔法の防具と同等の効果がある防具……飛竜の素材特性に由来するから、自由自在に付与できるとは言えないと聞いているけれど」

 

 ただ作っただけで、その鎧に特別な魔法の力が発露する。

 そう言う意味でボルボレスアスの鎧はすさまじい性能だが。

 しかし、飛竜の特別な素材をふんだんに使わないといけず。

 魔法を付与する余地が存在しないので柔軟性が低い。

 魔法が存在しないからこそ発達した技術と言えばそうだ。

 

「その中には、致命傷を1度限り保護したり、致命傷を負った際に生命力を回復してくれるって類の効果もあるんだが」

 

「へぇ。『急所防御』とか『危機払い』みたいな効果があるのね」

 

 『急所防御』は急所への一撃を防ぐと言う防具に付与される特殊効果だ。

 鎧や盾の場合が多いが、ネックレスなどに付与されることもある。

 急所に刃が突き込まれそうになれば、そのネックレスが防いでくれたりするわけだ。

 

 そして『危機払い』は致命傷を負った際、それによる死を回避し、傷を癒すと言う効果だ。

 大抵の場合は使い捨てのお守りなどに付与されている。

 鎧に付与されている場合もあるが、きわめて希少だ。

 付与のためには現実改変能力を持つ強力な魔法が必須なのだ。

 手慰みに作れるお守りと違い、鎧に付与するにはいろいろとハードルが高い。

 

「『不退の鎮魂歌』はその手の防護すらも無効化する。まぁ、つまり保険的な魔法の類がまったく作用しなくなるわけだ」

 

「へぇ……どういう理屈で?」

 

「『不退の鎮魂歌』はその手の魔法の効果を攻撃能力向上に変換する作用を持ってるからだ」

 

「恐ろしいことするわね」

 

「防御効果の高いやつほど魔法効果が高いので攻撃力が上がる」

 

「攻撃は最大の防御ってそう言う意味じゃないのよ」

 

 コリントが呆れ果てた調子でそんな苦言を呈する。

 まさかそんなメチャクチャな作用まであるとは思っていなかったのだ。

 

「防御系効果を全部攻撃に変換すれば最強なのではないか。そんな酔っ払いの戯言みてぇな呪歌なんだが、これがまぁ強ぇんだ……」

 

「うん、強いんだよね……危険すぎて、禁断の技扱いされてるけどね。『剛撃の輪舞曲(ロンド)』とか『閃転の遁走曲(フーガ)』みたいな特別に効果の高い呪歌は特級狩人になった時に伝授されたんだけど……」

 

「『不退の鎮魂歌』だけは、相当後になっての伝授だったもんな。そんだけ特別扱いの呪歌なんだよ」

 

「まぁ、そうせざるを得ないだけのものと言うことは分かるけれど……」

 

 コリントも付与されて、その性能の凄まじさは実感していた。

 それが保険的な効能のある防護をすべて投げ打ってとなると……。

 ちょっとリスクが高過ぎて採用したいかは微妙なところだった。

 

「今回は必要だったのはわかるけれど、あまり無理に使わないように頼むわね……?」

 

「拙者らもべつに好き好んで使わないでござるよ」

 

「そーそー。あくまで緊急事態だったからな」

 

「なんなら『底力の悲歌(エレジー)』とか『餓狼(がろう)諧謔曲(スケルツォ)』も早々使わねぇぞ。あれ、肉体を危機状況に追い込んで無理やり生命力賦活させる、呪いの類の呪歌だからな……」

 

「そして、賦活した生命力は攻撃力に変換する」

 

「もちろんメチャクチャ危ない」

 

「ボルボレスアスの呪歌はカッ飛んだやつが多いわね……」

 

 コリントが呆れる。

 呆れるのも当然なくらいリスクが高い。

 だが、それだけ強力なのも分かるのでとやかくは言えなかった……。

 

 

 

 それからしばらく移動し、次の階層へ到達する。

 エルグランド北部に存在する、泥炭地の平原だ。

 

「あ~……こういう地形、飛竜リスク高ぇんだよなぁ」

 

「飛竜の生息地ではなくとも、通過地点ではありますからね……」

 

「この手の平原は四足剛獣(ごうじゅう)種が強いのだよな。やはり平原を高速で駆ける四足獣は強い」

 

「ゲムガロンとか、ポギルバオとか……まぁ、めんどくせぇのが多いんだよな……」

 

 なんてぼやきながら、またコリントの『導きの月光』で経路を探知。

 移動効果を持った魔法の類は使わない、徒歩での移動だった。

 

 それゆえに、この平原を席巻する捕食者の群れは『ハンターズ』を補足し。

 それを自分たちの射程圏に捉え、獲物として襲い掛かるに至るのは当然の流れだったと言えるだろう。

 

 

 徒歩で移動する『ハンターズ』に勢いよく襲い掛かったのは、巨大な四足の獣。

 それは白い毛並みを持った、大型の狼。北部に生息する四足剛獣種、ゲムガルフ。

 

「おいおい、ゲムガルフくんのお出ましだぞ」

 

「おー、こっちゃこい。ほーら、エサやるぞ~」

 

「だーっしゃっしゃっしゃ、死ねでござる!」

 

「ゲムガルフくんは殺しやすいから可愛いですよね」

 

 そして、『ハンターズ』はこれを雑に処理った。

 ゲムガルフの優れた点は、統率能力と連携にある。

 野生の犬、狼に似た能力を、大型サイズでやるから強い。

 

 なら、大型サイズの犬を雑に処理れる人間に当たったら。

 ゲムガルフたちに取りうる術はなにもなく。

 『ハンターズ』たちの手により、鎧袖一触と薙ぎ払われた。

 

「あっさりね。あまり強くないモンスターなの?」

 

 3分足らずの接敵時間でゲムガルフがザックリ10体ほど始末され。

 残ったゲムガルフは早々に離脱していった。

 その死体を眺め、コリントがそのようにこぼす。

 

「あんま強くはねーな。油断したら危ねぇが……」

 

「厄介なモンスターではあるがな。飛竜種と違って、家畜を狙って食うからなこいつらは」

 

「剛獣種は飛行能力ないでござるからな。狙いやすい家畜を狙うのは当たり前っちゃそうでござる」

 

 そう言う意味で、それは飛竜よりも危険ではないが、生活の敵と言う意味では飛竜以上だった。

 飛竜はその巨躯を維持するために、草食竜などを襲って捕食する必要がある。

 

 しかし、剛獣種はよほどの大型でない限り、飛竜ほどの食料は要らない。

 すると、人間が畜産物として飼育している動物を狙っても事足りる。

 その手の畜産物は野生の獣よりもずっと狩りやすいし。

 

「討伐の依頼なんか出ることもあるが、さほどの苦労はねぇよ」

 

「まぁ、100体規模の群れになると大変だがな……」

 

 なんて、『ハンターズ』はゲムガルフのことを評し。

 軽い採取をした後、その遺体を軽く弔ってその場を離れた。

 

 目指すは次なる階層だ。

 もはやゲムガルフのことなど忘却の彼方だった。

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