存分に飲んで、存分に歌い、存分に殴り合いをした。
酒が入ったら腕相撲やら殴り合いやら猥談がはじまるのは普通のことだ。
シェバオは『ハンターズ』の女衆を殴れず、一方的に殴られていた。
そこで遠慮とかしたりせずに一方的に殴り続けるのが『ハンターズ』だ。
ボコボコになったやつらと、べろべろになったやつら。
どうしようもない狩人どもが団子になって、そのまま寝付く。
「まったく、世話の焼ける子たちね」
唯一、双方の意味で無事なコリントが呆れたように呟く。
コリントはアンデッドの特性で酩酊することがない。
その上、コリントは拳士でもあるのだ。全員を殴り倒すなど余裕だ。
世話の焼ける連中であるのはたしかだが。
世話の焼ける状態にした主犯がコリントなのは余談だ。
『ハンターズ』が目を覚ますと、シェバオの姿はもうなかった。
アヴァターラである彼は、出現地点から移動するには徒歩で動く必要があるが。
ここから引き上げて消える分にはどうにでもなるのだろう。
「はあー……らしくなく、説教めいたこと言ったりなんかしちまったな……どうにも、ああいう感じのは苦手だ」
「ああいう感じって?」
「こう……特級狩人に憧れてるんだけど、自分にはとても無理だと諦めてて、それでも憧れは止められなくて、諦めてるのに努力はし続けてる感じのやつだ」
「あ~……」
2人がボルボレスアスで特級狩人として生活した期間はそう長くはない。
気付いたらなんかアルトスレアに漂流していたので、正味は半年ほどか。
それでも、その半年間で彼らに憧れる狩人とは数えきれないほどに出会った。
トモは彼に憧れる男たちを言葉巧みにベッドに連れ込んだりしていたが。
モモは比較的真面目に応対し、彼らを導いたり、慰めたりとかしていた。
特級狩人に憧れ、そこに至ろうという女性狩人は少なく、男ばかりだったのでしょうがない。
モモは強引に迫られたら男でもイケるが、自分から男に迫るほどではない。
そう言う時、モモは教訓めいたことや説教めいたことを口にする。
モモは自分がクズだという自覚がある。
だから、これがもう恥ずかしくてたまらない。
自分は酒浸りで女遊びもするクズだ。
それが、なにを指導者ぶってるのか……。
モモにはそう言うところがある。
自分の行いを省みて恥じるだけの羞恥心があり。
そのくせ行いを改めない程度に面の皮が厚い。
自分をごまかす技能が無暗に高いあらわれだ。
「俺にああいう説教だのなんだのやらせるなってーのよ。トモちんがうまいこと言えよ」
「シェバオくんをベッドに連れ込めってこと?」
「神をも恐れぬ行い過ぎて竹が生える」
でも、渋い壮年戦士のシェバオがベッドに連れ込まれる姿。
それはそれでなかなか面白そうな気がしてならない。
次があったらトモちんを仕向けよう。モモはそう決めた。
「まぁ、トモちんに説教は無理でござろう。説教と言えば、転生チートオリ主の嗜みでござるからなぁ」
「どこのだれがチートオリ主だってんだよ」
「そうですよ。チートオリ主は美少女を囲って、女の子を女にしていくものです。モモみたいに、美少年に迫られて女の子にされるのはチートオリ主ではありませんよ」
「やかましいわ猫耳女郎が!」
朝っぱらからしょうもない喧嘩をしつつ、撤収の準備。
最下層まで来て、神様と遭遇した。
ならば、たぶんここが終わり……なのだろうと思われる。
確証とかはないが、そんな気がしていた。
ここから先にまだ道があるとしたら。
あのシェバオは中ボス扱いと言うことになる。
神様が中ボスと言うのはさすがに無い……と思われる。
「行きはよいよい、帰りは怖いだからな。帰るまでが冒険だぞ」
「おやつは300円までか? バナナがおやつに入るかうんぬんかんぬん」
「モモのおいどにならバナナが入るでござる」
「うっせー! てめーのおそそにだってバナナが入るだろーが!」
賑やかに撤収の準備を終え、『ハンターズ』は引き上げに入る。
元々冒険者でない彼らに戦利品を得て儲けるという考えは薄く。
コリントは戦利品を換金するという習慣をやめて久しい。
もはや彼女にとって、物質界の金銭はさしたる価値を持たないのでしょうがないと言えばそう。
こうして、『ハンターズ』の片手落ちな冒険は終わった。
「と、言う感じだったぞ」
冒険を終え、撤収し。
金髪の女たらしの屋敷に戻り、報告を行う。
この際に報告を行うのはモモではない。
『ハンターズ』において先頭に立つのはモモが多いが。
明白にリーダーとして取り決められているのはアトリだ。
これはアルトスレア時代、アトリが率先して雑務を引き受けていた名残だ。
アトリは当時、右腕を喪っていた。
これは後々にジルに正規の料金を払うことで治療してもらったのだが。
それ以前は利き腕の喪失もあって、戦闘はほぼできなかった。
なので内向きの仕事を請け負っていたのだ。
その流れで現在もリーダーとしての役目を担っている。
仕事があった方が、過去から目を背けるのに役立つからだ。
「ふうん。
聞き取った報告を女たらしが紙面に書き留める。
冒険者とは思われぬほどに美しく繊細な指先が綴る文章はやわらかで美しい。
その優美さに目を奪われつつも、アトリは静かに頷く。
「私たちが遭遇したモンスターは以上の通りだ」
「うん、ありがとう。それで、そのモンスターと言うのは……すべてボルボレスアスのモンスターでいいのかな?」
「ああ、ボルボレスアスに生息しているのは間違いない。別大陸に生息している可能性を否定しうる材料はないがな」
「それはその通りだね」
頷いて、女たらしが紙面に難しい顔をして視線を落とす。
ボルボレスアスに生息しているはずの、各種の強大な飛竜に剛獣種。
1層、
2層、
3層、
4層、
「こっちでは既に、この迷宮に一般冒険者を入れて探索させるのは到底不可能だって結論が出てるんだけど……どう思う?」
この領地の主たるアノール子爵としてはそのような結論に至った。
その上で、ボルボレスアスのモンスターの専門家の意見を聞きたい。
その要請に対し、アトリは培った狩人の知識から答えを導いた。
「ひとつの条件をクリアすれば……冒険者を入れて探索させること自体は不可能ではないだろう」
予想していなかった答えに女たらしがきょとんとする。
普段は余裕のある微笑を浮かべているのが、どこか幼げに見える。
ロリコンのアトリとしてはグッと来てたまらなかった。
「その条件って言うのは?」
「この迷宮において、最も危険な存在は1層のバビェーダだ。これをクリアしさえすれば、後の迷宮探索はそう難しくはない」
「でも、バビェーダを避けて探索って言うのは難しいよね?」
「不可能ではない」
そこでアトリは自分の考えをつらつらと開陳した。
「ボルボレスアスのモンスターの多くが高度な知覚能力を持ち、バビェーダ・スヴィエもその例外ではないが、ひとつ着目して欲しいのがスヴィエ種には隠密が有効だということだ」
「隠れればそこそこ騙せるのはわかるけど……」
「やつらは五感によって他の生物を探知している。魔法的知覚能力は持っていないか、あるいはきわめて微弱だ。つまり……魔法で隠密すれば、比較的容易に姿を隠せる」
「ああ、なるほど」
ヤバい相手は避けて通る。
冒険者としてはごく自然な考え方だ。
しかし、ドラゴンはきわめて高度な知覚能力を持つ。
下手な魔法による隠密は無意味と普通は考える。
だが、ボルボレスアスの飛竜はドラゴンではないのだ。
さして高位でもない幻術でも十分にだますことが出来る。
「危険な冒険にはなると思うが、それなりに高度な秘術が使えれば、バビェーダ・スヴィエを避けて通ることは可能……だと思う」
「なるほどね……でも、2層の奏楽竜は? 『ハンターズ』のみんなが苦戦するほどの飛竜なんだよね?」
「刺激しなければ問題ない」
あれはトモが演奏した『
『呪歌』を使わないようにと注意喚起しておけば、おそらく問題ないだろう。
そうなると、密林と秘境林を踏破する技術さえあれば先に進める。
北方平原に到達することも、雪原に到達することもできる。
そこで何を得られるかと言う点について、アトリが答えられるものはないが……。
「なので、挑戦前に迷宮の研修を受講する義務を設け、受講後の冒険者にならば探索させてもいいのではないだろうか」
「迷宮の研修」
そのあまりに聞き慣れない語句に女たらしが面食らった顔をする。
迷宮探索と言うのは自己責任だ。そこに研修なんてものが付随するなんて。
商業化する上ではやって不思議ではない行為ではあるのだが……。
それにしたって、迷宮に潜るための研修……女たらしの中の常識が悲鳴を上げていた。
ボルボレスアスの狩人は種々の試験の上に成り立つものであり。
その中には学者のように高い学識を求めるものも存在する。
そんな『ハンターズ』だからこそ、迷宮探索の研修と言う発想が出て来たのだろう。
「ただ、探索が可能だろうというだけで、そこに商業として成り立つ何かがあるかは知らないぞ」
「ボルボレスアスの動植物類はあったんだよね?」
「私の知る限り、植生はすべて間違いなくボルボレスアスのものだった」
「果実とか野菜とかもあった?」
「真剣に探索はしていないが、あったな」
「なら、お金にすること自体は可能かな……うん、ありがとう」
手にしていた羽飾り付きのつけペンを女たらしが水ビンに差し込む。
赤く染色された羽ペンのインクを流し、それを拭き取ってペン立てへ。
その一連の動作がいちいちしなやかで美しい。アトリの肌が性的興奮で粟立った。
アトリは『ハンターズ』の例に漏れず、非常に好色だ。
そしてアトリは文化的で可愛らしい少女と言うのが大好物なのだ。
こんな姿を見せられたらヤりたくなってもしょうがない。
今晩空いてるだろうか。ヤろうと誘ってみようか。そんな考えがアトリの脳裏をよぎる。
「さて、ここからは先輩冒険者としてのお小言なんだけど」
「うん?」
冒険者の先達として言っておくべきことがある。
女たらしがそう宣言し、言葉通りにお小言を始めた。
「バビェーダ・スヴィエを倒した後に野営をしたって言うのは、まぁ、分かるよ。強大な飛竜の撃破だからね。特にみんな戦士だから身体疲労があるのは分かるんだけどさ……」
「う、うむ」
「その後に野営したりって言うのも……まぁ、状況が状況だからわかるんだけどさ……依頼を請け負ってる状況でそれは、どうなのかなって思うんだよね」
「か、返す言葉もない。たしかに、仕事を甘く見ていたことは認める……」
「でもそれ以上に問題なのはさ、みんなお金を稼ごうって真剣に考えてないよね?」
「いや、しかし、べつに金に困ってるわけでは……」
「ここではね。アトリはエルグランドに渡るつもりなんだよね? エルグランドじゃ、アトリの資産は小銭くらいの価値しかないんだよ?」
「う、うむぁ……」
「これからは狩人じゃなくて冒険者なんだよ。ちゃんと意識を改革していかないと。あとあと苦労するのはアトリたちなんだよ?」
「む、むむ……むむむ……」
「狩人の界隈ではそれでよかったかもしれないけれど、エルグランドの冒険者ギルドは冒険者を無限に湧いて出て来る自然物くらいにしか思ってないところなんだよ」
「それはひどくないか……?」
「自分の身は自分で守らないといけないし、自分の利益は自分で確保しないといけない……依頼だって早い者勝ち。複数人に依頼を出して、いちばん早く終えたやつにだけ報酬を払うなんてこともあるんだよ?」
「む、むむむ……」
内容がことごとく正論だ。
その上、アトリを思いやっているからこそ言ってくれている。
だからこそ金言として受け止めるべきだとわかる。
真剣に思いやって、説教をしてもらえるありがたさをアトリは知っている。
だが、それはそれとして説教は聞きたくない……。
説教を必要なものと理解する理性はあるが。
受け止める自制心がアトリには不足していた。
そのため、アトリは突然その場でパチンと手を打った。
「?」
突然の拍手に女たらしがきょとんとし。
アトリがその場で服を脱ぎ捨て、上半身を晒した。
「やらないか」
「うおっ……!」
ここでアトリは自分の欲望を満たしつつ、女たらしを黙らせる妙手を打った。
つまり、ベッドへのお誘い……!
えっちなことにクソザコの女たらしには致命打となる。
アトリを思ってのお説教も、アトリを想っての色事の前には霞む。
「迷宮探索で溜まってる」
「溜まってるんだね……」
「イイコトがしたい」
「私とだ」
「ベッドに行こう」
「行こう」
そう言うことになった。
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