あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 書店で本を購入した後、私はぶらぶらと王都を歩いていた。

 この王都はそれほど散策をしていなかったし、復興で街並みもずいぶんと変わっている。

 せっかくだからと区画整理などもしているらしく、意図的に取り壊している家すらもある。

 以前にちょっと見た時とはずいぶんと印象が違って見えた。

 

 取り壊し・立ち退きすらも含む区画整理の実現はやはり、英雄王ダイアの威光ゆえだろう。

 やっぱりこう、権威ある王様ってなんだかんだと人に言うことを聞かせられるので。

 戦って勝った王様と言うのは、ただそれだけで正しいのだ。

 

 神授(しんじゅ)の王権と言うものを主張するこの大陸ではなおさらに。

 勝てたから王様になったのではなく、王様になるから勝てた。

 王権を神授されるとはそう言うこと。神が王になる後押しをしたのだ。

 

 実際のところ、神様はそこまでヒマじゃないとは思う。

 この大陸の神々は距離が遠いから、エルグランドみたいに特別な寵愛を受けた信徒はいないようだし。

 まして王様が神様から王権を神授されるなんて、そんなことないと思う。

 

「まぁ、口にしたら怒られそうだから、言わないけどね~……」

 

 少なくとも白い眼で見られてしまうだろう。

 この大陸と、あとはアルトスレアもそうだが。

 神様がほどよい距離感でいるせいか、異様に特別視している人が多い。

 

 エルグランドでは人と神が近過ぎるので「神様そこまでヒマじゃないでしょ」と実態から推察してしまうし。

 ボルボレスアスは人と神が遠過ぎるので「神様なんかいるわけないだろ」と全否定してしまうし。

 まぁ、そのあたりは大陸それぞれの特色かな~……。

 

「ん~……」

 

 王宮を訪ねようか。どうしようか。

 救国の英雄アノール子爵の威光を使えば王宮を訪ねるのは楽勝。

 やろうと思えば、王様にアポなし訪問すらできてしまう。

 まぁ、またアポなし訪問して変な案件おっかぶされても嫌なので、やらないけど。

 

 しかし、王宮の弟子たちを訪ねることくらいはできる。

 私がトイネの反乱軍征伐にあたって便利に使い倒したエルフの戦士たち。

 一応、弟子としてしっかりと教え導きはしたので、弟子なのは間違いない。

 

「……うん、やっぱいいかな」

 

 弟子たちのことが嫌いなわけじゃないけど。

 こう……ノリがちょっと……ついていけない……。

 

 私は戦士の名誉と言うものは知っている方だと思う。

 私自身、かつては専業戦士として身を立てたからだ。

 けど、戦士の名誉にすべてを賭していくような姿勢はわからない。

 私はたしかに専業の戦士だったけど、あくまで冒険者だったからだ。

 戦士の名誉にすべてを懸けるほど入れ込んではいなかった。

 

「……うん、帰ろう」

 

 私はそう決めると、(きびす)を返して王都の外へと向かった。

 考えてみると、トイネ各地への思い入れってあんまりないんだなぁ……。

 まぁ、マフルージャも津々浦々まで冒険したってわけではないしね。

 

 そう考えてみると、まだまだ冒険すべき場所は多いなぁ。

 マフルージャ各地に存在する遺跡の類も調べてみたいところ。

 この先史文明だったというクヌース帝国の遺跡とか発掘してみたい。

 

 トイネに存在する迷宮もいろいろと探索したいところ……。

 あれ、でも、『アルメガ』倒したあとも迷宮って残るのかな……?

 『アルメガ』が創り出してるとすると、消滅する可能性もあるような。

 

 ……国家単位で経済が迷宮に依存してるのに?

 

 私は予想外の方向から出て来た亡国の危機に気が遠くなる。

 『アルメガ』を倒した後、私はもしかして経済問題が発端の戦争に参陣しなきゃいけないのだろうか。

 経済が悪化したら、他国を呑み込むことで凌ぐ血も涙もない戦争経済が想定される。

 って言うか、それ以外に起死回生(きしかいせい)の一手なんか存在しないのだ。

 そう思うと、戦争の発生はもはや規定事項のようですらある。

 

「今のうちに、進言とかしておいた方がいいのかなぁ……」

 

 どうせ私が参戦しなきゃいけなくなるにせよ。

 それ以外の準備を整えておくのに無駄はないだろう。

 もしかしたら私の負担もずいぶんと楽になるかもだし……。

 

「……めんどくさいからいいや」

 

 でも結局私ががんばればいいから、べつにいいや。

 私は雑にそう結論付けると、トイネを後にした。

 

 

 

 トイネを後にした私が次に向かったのはボルボレスアス。

 トイネを救った後の私たちはソーラスの攻略に勤しんだ。

 そのソーラスを制覇した後、私たちはもろもろのよしなしごとからの逃避にトイネに逃げた。

 サシャとレインの母たちを連れてまでの逃避だ。本気度合が違う。

 

 そして、ギールを救出し、私はイミテルと結婚。

 その結婚からの新婚旅行で、私たちはボルボレスアスに向かった。

 その足跡を再度辿るために私はボルボレスアスに来たのだ。

 ついでにだが、サシャが連れて来たハウロを送り返すためでもある。

 

「いやぁ、悪ィな。タクシーみてぇに使っちまって」

 

「いいよいいよ。サシャの突然の申し出に頷いてくれて、こっちが申し訳ないくらいだもの」

 

「まぁ、こっちも楽しめたからな。べつにそんな恐縮しなくていいぜ」

 

 なんてカラカラと笑うハウロ。

 ハウロはドロドロとした情の深さと同時、カラッとした豪放磊落さが同居している。

 精神状態がおかしいのか、奥深い二面性を持つ美女なのか……前者な気がするなぁ。

 

「しかし、ここはメンゼルタか?」

 

「うん。ドルドーマに家があるんでしょ? たまに様子を見に行きなよ」

 

「ああ、なるほどな」

 

 そこのところが実はちょっと気になっていたりした。

 ハウロはメンゼルタ地域自治区の存在するログラックの町の近郊にあるドルドーマの町に自宅を持っている。

 その家はお隣さんに管理を任せているらしいのだけど……。

 さすがに何カ月も留守にして様子を一切見ないのはちょっとね。

 そう言うわけで、送り返すついでにドルドーマに寄ろうというわけ。

 

「トモのお姉さんって話だし、どんな美人さんか気になってたのもあるんだよね。むふふ」

 

「そらもう別嬪(べっぴん)さんよ……そこそこ歳行ってるけどな……」

 

「まぁ、それはねぇ」

 

 トモがたしか、いま23歳くらいだったろうか。

 そのお姉さんなんだから、まぁ少なくとも24歳なのだろう。

 私は全然食べごろだと思うけど一般的には嫁き遅れの年増か。

 

「マヤさん、なんで結婚しねーんだろうな」

 

「さぁ。だれかに性癖破壊されてるとかじゃない」

 

「誰だよそんなひでーことするのは」

 

「広義の意味でハウロだと思うんだよねー」

 

「ありそうで嫌だなぁ……」

 

 この大陸にいた時点で、トモとモモは仲良くやっていたらしい。

 それを考えるとモモとマヤと言う人物も面識があるのだろう。

 弟の恋人に横恋慕(よこれんぼ)する姉と言う人間関係複雑骨折の可能性が……。

 

「ま、そのあたりの真相も確かめるために、ドルドーマまでいこうか」

 

「おー。竜車使うか?」

 

「んー、いらない」

 

 この大陸で一般的な竜車。

 草食竜に曳かせる車で、まぁ別大陸の馬車相当の存在か。

 もちろん人が乗るタイプの車も存在するけど、あんまり早くはない。

 健脚な人間なら急ぎ足で歩いた方が早い。

 

「じゃ、行くか」

 

「うん、行こう」

 

 私とハウロは頷き合って、近郊のドルドーマの町へと向かった。

 

 

 

 ログラックの町は特殊な町だ。

 飛竜多発地帯に意図的に作られ、飛竜迎撃拠点としての側面が強い。

 って言うか、ドルドーマの保護のために作られた町と言うべきか。

 いつしか規模が逆転してしまい、今ではログラックの方が大きいが。

 

 そんな特殊な成り立ちの町なだけあり、居住機能はあまり高くないのが本音。

 時を経た今はそこそこ居住機能に注意を払ってはいるのだろうけど。

 なんせ飛竜多発地帯なので土地は限られるし、高層建築もできないし。

 やはり、比較的安全なドルドーマの方が居住地としては適切。

 そのため、腕利きの狩人はそこに自宅を構えることもしばしばだ。

 

 私とハウロはサクッと徒歩で移動した。

 常人なら歩いて丸1日はかかる距離だが。

 健脚な私たちなら半日で移動できる。

 

「ここが俺んちだ」

 

 夕方になる前に到着し。

 ハウロが案内してくれたのは、そこそこ大きな一軒家。

 ハウロの稼ぎなら豪邸だって住めるだろうに。

 まぁ、ハウロしかいないなら豪邸住んでもしょうがないのか。

 

「マヤさんいるみたいだな。入ろうぜ」

 

 ハウロの言う通り、中からは人の気配を感じる。

 ハウロは驚かせないようにと扉を叩いて帰宅を報せた。

 

「お~い、家主のハウロ・G・ヒータ様だぞ~。俺様のお帰りだぞ~」

 

 なんてハウロが声を張り上げると、そう間もなく扉がそっと開かれた。

 扉の隙間から人の姿は見えず……下を見下ろせば、そこにはふわふわとした白い毛並みのネコがいた。

 

「うわっ、ご主人~! ほんとに帰って来てる~!」

 

「うわっぷ」

 

 ネコが叫んで、ハウロの顔に飛び掛かる。

 ボルボレスアス固有の超大型のネコなので、ハウロの頭がすっぽり覆われる。

 体長1メートルを超えるネコなので常人なら首を痛めそうだ。

 訓練もしているタイプのネコのようで、ふつうに人語を喋っている。

 

「こ、こらっ、頭にしがみ付くな……! 重いぞコタツ!」

 

「ご主人ご主人~! うわ~ん! たまには帰って来てよ~!」

 

「うおおおおっ……! 前が見えねぇー!」

 

 そんなことをしていると、また扉の隙間から姿を現すふわふわの毛並み。

 しかし、ハウロの頭にしがみ付いているのとは違う種類の毛並み。

 

「ご主人さまぁー! おかえりなさぁぁいぃぃぃー!」

 

「ぬわーっ!」

 

 ハウロの頭にしがみ付くネコよりもさらにでかいイヌ。

 厳密に言うと、ネコよりも体長は短いように見受けるのだが。

 骨格の太さと筋肉量の次元が違う。がっしりと重たそうな体躯だ。

 ネコが暗殺者の体躯ならば、こちらは戦士の体躯と言うべきか。

 

 その重たそうなイヌに飛びかかられ、ハウロがひっくり返る。

 私はその肩を掴んでなんとか踏み止まらせてやる。

 

「重いんじゃボケェー!」

 

 ハウロが頭のネコを引き剥がして投げ捨て。

 体にしがみ付いているイヌも引き剥がして投げ捨てる。

 

 2匹がひゅるひゅると飛んで、庭に着地。

 そして、ハウロにすぐさま飛び掛かって来た。

 再開の感動があまりにも強過ぎて歯止めが効かないらしい。

 

「『物体浮揚』」

 

 しょうがないので空中のイヌとネコに魔法をかける。

 以前、クローナが使っていた魔法で、対象を宙に浮かばせる魔法だ。

 

「わぁぁ!? ボク、飛んでる~!?」

 

「わ、わ、わっ、お、落ちない~!?」

 

 2匹ともシャカシャカと足を動かしている。めっちゃ可愛い。

 思わず頬が緩んでしまいそうになる愛らしさがある。これはじつにたまらん。

 私はネコ派だが、イヌが嫌いなわけじゃない。

 この白い毛並みのふわふわしたイヌは可愛い。

 

「はぁ……助かった……おまえらなぁ……」

 

 2匹に呆れた声を出すハウロ。

 だが、すぐに苦笑し、2匹の頭をわしゃわしゃと撫でだした。

 

「ただいま、コタツ。ただいま、シチリン。元気にしてたか?」

 

「うん! みんな元気だよ! マヤも元気!」

 

「お隣さんも元気です! ご主人様も元気そうでよかったです~!」

 

 空中でシャカシャカと動く足。

 もふもふ揺れる毛並み、そして愛らしい声。

 やっぱりボルボレスアスのイヌとネコは最高にかわいい。

 

 ハウロは2匹を存分に撫でまわして機嫌を取ってやっている。

 私も撫でたいなぁ。触りたい……ボルボレスアスはなにもかもがクソデカなので、イヌとネコもクソデカだ。

 そんなクソデカなイヌとネコに触りたくないわけがない……。

 

「あら……本当に帰って来たのね、ハウロ」

 

 手をわきわきさせていると、しっとりとした美声。

 扉を開けて、そこから美女が姿を現していた。

 その女性は、私があの大陸で知己を得たゲイの少年、トモによく似ていた。

 

 トモに女性らしい丸みを足してやりつつ、体の厚みや骨格の太さを抜く。

 その上でしっかりと主張する程度の大きさの胸を加える。

 そんな外見をした美女は、トモの姉と言われて即座に納得できる外見だった。

 

「おう、ただいま。ちょっとメンゼルタに用事があってな、そのついでだ」

 

「そう。後ろの子は?」

 

「別大陸の凄腕魔法使い様だ。ここまで魔法で送ってくれたんだ」

 

「そうなのね。うちのハウロを送ってくれてありがとう。世話が焼けたでしょう?」

 

 なんて微笑んで私に声をかけてくるマヤ。

 ほほう、これは実に堂に入った細君振り……。

 

「いえいえ、ハウロには私の部下の仕事を手伝ってもらったりと世話になっていますよ」

 

 ハウロを立てる言葉を返しつつ、マヤと握手。

 お針子をしていると聞いていたが、まさにその通りの手だ。

 裁縫ダコの出来た、硬さがありつつもやわらかな手……いい手だ。

 私は彼女の手を優しく握って微笑む。

 

「お針子をなさっていると伺っていましたが、らしい手で。働き者のすてきな手だ」

 

「ふふふ、そんな、働きものだなんて。こんな堅い手でお恥ずかしい」

 

「勤勉さは美徳です。あなたのような方に家を守ってもらえるハウロは幸せ者ですね」

 

「あら、本当にお上手」

 

 そこでマヤが手を引くそぶりを見せたので、私は手を放す。

 深追いはナシだろう。なにしろ目の前にハウロがいるし。

 人んちで女口説くなよ……と言う眼で見られてる。ごもっとも。

 

「さ、こんなところで立ち話もなんですから、おあがりになって。いいわね、ハウロ」

 

「ああ。入ってくれ」

 

「おじゃまさせていただこうかな」

 

 マヤとハウロの招きに応じ、私は家に上がらせてもらう。

 2人の間柄がこじれない程度に様子は見たいところだ。

 久し振りの再開で喧嘩なんてこともザラにあるからね……。

 

 元々、私の提案でこの町を出たようなものだ。

 そのくらいのアフターフォローはしてやってもいいだろう。

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