あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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18-011

 克己の家を後にし、私は再度『生物探知』でめあての人物を探す。

 今度の目当ての人物は大和だ。彼女……いや、一応今は彼かな?

 ともあれ、彼はどこぞでお店をやっているらしいので、そこを訪ねるわけだ。

 

 前回の時は療養だったので、あまり家から離れなかった。

 そのため大和のやっているという店を訪ねることはできなかったのだ。

 大和ご自慢の料理とお茶をひとつ堪能してやろうと、そう言う目論見だ。

 

 それからしばらく私は上空を飛び続けて目当ての店を探し当てる。

 結構なスピードで飛んだが、それでも1時間近くかかってしまった。

 やはり、克己のところを長居しないで正解だったようだ。

 

「さて、ここが大和のお店かな」

 

 地面に降り立ち、私は大和の反応のある建物を見やる。

 エルグランドでもなじみ深い、レンガ造りの年季を感じさせる建物だ。

 外側には大きなガラスがふんだんに使われ、屋外から店内の様子が伺える。

 店内では大和がヒマそうにコーヒーを飲んでいた。

 

 いまならおじゃまして話し込んでも大丈夫そうだ。

 私は入り口から店内に入る。

 

「おっと、いらっしゃーい……って、あんたは」

 

「や、こんにちは、大和。元気だった?」

 

「ああ、元気だ」

 

 手にしていたマグカップをカウンターの上に置き、大和が私に向き直る。

 やはり何度見てもイケメン美女だ。これで自称男と言うのだからわからない。

 胸もすごいボリュームがあって、じつに重たそうなんだけどな……。

 

「なんだその重たいものを持ち上げる仕草は?」

 

「おっと、なんでもない」

 

 私は手を後ろ手に回して引っ込める。

 

「お店、いまはヒマなの?」

 

「ああ。今日は平日だし、ここらは学生街だ。書き入れ時は夕方だな」

 

「そうなんだ。じゃあ、おすすめのお茶を1杯もらおうかな?」

 

「はいよ」

 

 大和がお茶の準備をはじめる。

 それを見ながら、私は適当なテーブルに就く。

 椅子はあまり座り心地がいいとは言えないが、悪くもない。

 

「おまたせ。ダージリンだ」

 

「ありがとう」

 

 手早く用意されたお茶を受け取り、飲む。

 うん……おいしい。大和の淹れる紅茶は抜群においしい。

 私が本気出して淹れたのより格段においしい。

 やっぱり腕の違いとしか言いようがない。

 

 料理とお茶に関しては妥協を許さず研鑽してきたつもりだ。

 それを、私の半分も生きていない大和が易々と超えて来る……。

 真の天才とは本当に理不尽なものだなと思う。

 

「今日はどうしたんだ。また療養か?」

 

「ううん。今までの冒険を振り返る旅行中。知り合った人のところも訪ねてるんだ」

 

「ああ、なるほど」

 

「だからあまり長居はできないんだ。このお茶を飲んだら帰るね」

 

「そうなのか。そりゃまた慌ただしいな」

 

 なんて言いながら大和がなにか調理を始めた。

 パンを軽く炙り、そこに葉物野菜やらハムやチーズを挟んでいる。

 その調理の音と香りを感じながら、私はおいしいお茶を1杯ゆったりと堪能する。

 

「ごちそうさま」

 

「あいよ。これはサービスだ。持ってけ」

 

「いいの?」

 

「いいよ」

 

 大和が作っていたサンドイッチは私へのサービスだったらしい。

 くれるというならありがたくもらっておこう。

 ちょうどおなかも空いていた頃合いなのでありがたい。

 

「ところでさ、大和」

 

「あん?」

 

「もし、瑞穂を拾う前後あたりにまで戻れたら、大和はどうする?」

 

「どうもこうもしねぇけど。普通に瑞穂を天才に育てるよ」

 

「そうなんだ」

 

 まぁ、大和と瑞穂はこじれた関係でもなかったしね。

 普通に義理の親子としてほどほどの距離感と関係だった。

 それが一般的な距離感なのかはちょっとわかんないけど。

 私に言わせると、この国の人は肉親でも距離感が遠いように思うし。

 

「そこで私がいるとしたら、私にどういう助力を頼みたい?」

 

「う~ん……? 店番とか? 瑞穂の面倒見ながら店回すの大変だったからなぁ」

 

「なるほど」

 

 それはたしかに人手がいるだろう。

 なるほど、参考になった。この店の未来の看板娘は私だ。楽しみにしていてほしい。

 いや、私からすると未来だけど、大和からすると過去か……。

 

「さて、じゃあ私は次のところに行くね。ごちそうさま」

 

 『ポケット』からこの次元のお金を取り出す。

 1万円札と言うらしいお札を大和へ。

 

「いいよ、茶の1杯くらい。サービスだ」

 

「ダメだよ。ちゃんと商売しなよ。おつりは取っておいて」

 

「いやいや、いいって。ぼったくりはしねぇ主義だ」

 

「いいからいいから」

 

 私は大和の豊かな胸の隙間にそっとお札を差し込む。

 むちっとした質感に挟まれた指先がとっても幸せ!

 

「あーもう、いかがわしい店じゃないんだぞ。胸に札入れんなよな」

 

「すなおに受け取らないからでしょー。じゃ、私は行くね。またねー」

 

「おー。次来たら、1万円分はサービスしてやるよ」

 

「その時はお泊りコースで」

 

「それは1万円じゃ足んねぇよ」

 

「あっはっはっは」

 

 そんな軽口を交わしつつ、私は店を出る。

 さて、次は目指すは鮮香(せんか)のところだ。

 

 

 

 さきほどまで来た方向に引き返す。

 どうやら、大和はそこそこ遠いところにいたらしい。

 順序的には鮮香の方に先に行くべきだったようだ。

 まぁ、速度を上げれば何とでもなる程度ではあるが。

 

 しばらく飛んで、辿り着いたのはごく普通の家。

 いや、この国の一般的な家と比べるとずいぶんと大きいか?

 ともあれ、ここがたぶん鮮香の家だろう。

 

「……ドアノッカーがないな」

 

 ふつうにドアを手で叩けばいいのかな。

 しかし、こんなに立派な家なのにドアノッカーがないなんて不思議だな……。

 そう思いつつ、私はドアをゴンゴンと叩く。

 

「ごめんくださ~い。ここに鮮香と言うスケベな人が住んでいませんか~?」

 

 声を上げると、家の中から足音。

 そして、すぐに扉が開けられ、姿を現したのは鮮香その人だった。

 

「おや、君は。どうしたんだね、突然うちに来て。いや、私は君に家を教えたか?」

 

「ううん。探知魔法で鮮香の場所を調べただけ」

 

「ああ、そう言う。たしかにその手の防御はしとらんからな……まぁ、入りたまえ」

 

「ううん、今日はちょっとあいさつに来ただけなんだ。だからここで」

 

「まぁまぁ、入りたまえ」

 

「いや、だから」

 

「入りたまえ」

 

「えっと」

 

「入れ」

 

「はい……」

 

 有無を言わさぬ勢いだったので、私は渋々頷く。

 なんでそんなに勢いよく押して来るのかそれがわからない。

 そう思いつつも、私は鮮香の後に続いて家の中へ。

 そして通された先のリビングルームでは黒髪の青年がソファに座って本を読んでいた。

 

「紹介しよう。私の夫であり、優花の父である赤木(あかぎ)日向(ひゅうが)くんだ」

 

「うん? おっと、これは失礼。ようこそ、日向です」

 

 そりゃもちろん鮮香は既婚だから夫がいるわけで。

 だが、ベッドの中で仲良しになった女性の夫……なるほど、嫉妬の炎が燃える……。

 

「日向くんはこれがもう絶倫でな。もう足腰立たなくされてしまって身が保たんくらいなんだ。夫婦円満の秘訣は旦那のアレの角度と言うわけだ!」

 

「どうして俺はシモ事情を暴露されてるんだ?」

 

「くっ、悔しい……! 絶倫度合では負けないけど、角度の上がるものが私にはない……!」

 

「そしてなんか別ベクトルで心理的衝撃受けてるなぁ!」

 

 この青年が股間のお愉しみ棒で鮮香をひぃひぃ言わせてるなんて……。

 考えただけで嫉妬で脳が焼けつきそうになる。ぐぐぐぐ……!

 まさか鮮香はこれをやるために家に私をあげた……?

 

「それで日向くん。彼女はカル=ロスくんのお母上だよ」

 

「ああ、カル=ロスさんの。いや、娘さんには仕事上での付き合いもあって、とても世話になっています。勤勉な上に有能な娘さんで、お母様の薫陶のたまものでしょう」

 

 日向氏がカル=ロスを引き合いに出して私を褒めて来る。

 そのあたりはそつがないというか、上流仕草が出来ている。

 

「こちらこそ、優花ちゃんとは仲良くさせていただいています」

 

「ああ、そう言う意味で仲良くしてるらしいぞ。楽しいなぁ、優花のはじめての人と言うことだ」

 

「ぎぃっっっ……!!」

 

 日向氏が頭を抱えて体を丸めてしまった。

 

「悲しいな、日向くん。娘は大人になり、独り立ちするものなんだ」

 

「き、聞きたくなかった……!」

 

「うちの娘は友人の母親相手にママ活をしているというわけだ」

 

「うおおおおおおっ……!」

 

「ここは父として娘に正しい教育をしなくてはいけないな?」

 

「たしかに本当にママ活してるなら止めないとだが……」

 

「父として熟成強靱大人液を娘に注ぎ込まなくてはな? もちろん、ナマで、抜かずに5発くらいな?」

 

「しないぞ!?」

 

「馬鹿な! 男が女を最初に感じる相手が母親であるように、女が男を最初に感じる相手は父親だ! 日向くん! 君は父親として、娘たる優花に正しい大人の男のありかたを教えなくてはいけない!」

 

「それでなんでナマとか5発とか出て来る!」

 

「一番奥に、腰を叩きつけて教えるのが父親だろうが! 違うか!?」

 

「おまえお義父さんにそうやって教えてもらったのか!? ええ!?」

 

「そんなわけないだろ。近親相姦ではないか。気持ち悪い」

 

「おまえ、おまえというやつはなー!」

 

 愉快な夫婦喧嘩がはじまりそうだったので、手を叩いてクールダウンさせる。

 

「ダメだよ、望んでない人にそう言うことを強要するのは。そう言うことは仲良くお互いを満たすためにすることなんだから」

 

「その通りだ! あんたいいこと言うな!」

 

「だから、鮮香……私と君と、娘たち……4人でヤろう」

 

「⁉︎」

 

「ほう……なるほど、バトルロワイヤルと言うわけか」

 

「⁉︎」

 

「娘たちが絡み合う中で絡むのもいいね……」

 

「そして、それを部屋の外で日向くんが窃視(せっし)している……すばらしい、感動的な光景だ……!」

 

「⁉︎」

 

「そんな光景を見てしまったら、スタンディングマスタベーション待ったなしだな! なぁ、日向くん!」

 

「普通はスタンディングオベーションの間違いだろうが、この場合は本気でスタンディングマスタベーション言うてるなコイツ……!」

 

 いやぁ……私は、あんま見られる趣味はないんだけどな……。

 女の子ならともかく、さすがに男の人に覗かれるのは……は、恥ずかしいし……。

 

「どうだね、日向くん。私と彼女の絡みを見て、君は鬱々しく勃起しながらつぶやくのだ……俺の方が先に好きだったのに! となぁ!」

 

「……この人と会ったのいつ?」

 

「先月だが」

 

「こないだやったお祝いは?」

 

「銀婚式かね。結婚25周年だな」

 

「1ヶ月VS300ヶ月。どっちが先だ?」

 

「300ヶ月に決まっているだろう。人のことを馬鹿にしているのかね!」

 

「コイツほんま……!」

 

 鮮香のあまりにも破綻した話に日向氏が頭を掻きむしる。

 

「ごほん。えーとそれでなんだけどね」

 

「うむ、なんだね。優花以外にも手を出したとか言わんだろうね。下の子は未成年だぞ」

 

「言わないよ。と言うより、優花の妹に遭ったこともないよ。私が来た用事についてだよ」

 

「ああ。優花の寝取りビデオレターでも持ってきてくれたのかね? やはり日向くんよりすごいとか言ってるのかね?」

 

「すでに俺が義娘抱いてるみたいなこと言うのやめてもらえるか?」

 

「そう言うのは個人で楽しむよ。以前お世話になったからあいさつに来ただけなんだよね」

 

「ほう、ハメ撮りはしているわけか。しかし君もわざわざあいさつなど律儀だな。まぁ、礼節を大切にするのは好感が持てるがね」

 

「女の子の艶姿は永遠に保存したい物だからね。やっぱりあいさつもセックスも対面でするのがオーソドックスだと思うんだよね」

 

「礼儀正しいな。器具の消毒などもしっかりしていたし、避妊具も衛生目的で積極的に使っていたしな。コンドームをつけられるやつはあいさつもできるということか」

 

「猥談と世間話を同時進行で話すのやめねぇ?」

 

「おいおい、日向くん! 女同士の猥談に耳を傾けるとは男子高校生かね! 角度も回数も高校生顔負けとはいえ慎みを持ちたまえよ!」

 

「こいつほんま……」

 

 なんと言うかこの関係性は、あれだ。

 この夫婦、なんだかんだ言ってお互いラブラブなんだろうな。

 というか、ラブラブになる努力をおたがいにし続けているというか。

 

 どれほど愛し合っていても、やはりマンネリ化と言うのはある。

 そのあたりを解消するにはおたがいの努力と言うものが必要だ。

 この2人はそのあたりをごく自然にやってる感があるというか。

 いや、日向氏の方がどうなのかはわからないが。

 彼は努力が要らないタイプの異常者の可能性がある。

 

 たまにいるんだよね。

 配偶者が好き過ぎて、自分の性衝動を100%発揮し続けられる人。

 普通の人間はだんだんと目移りしてしまうものなのに。

 生物としての本能だからしょうがないものなんだけど。

 その目移りするという概念がない人間がいるんだよね、たまに。

 私はその対極側に位置する人間だから尊敬するよ。

 

「それで、ちょっとした雑談めいたものなんだけど。たとえば、優花を拾った直後に戻れるならどうする?」

 

「優花を拾った直後か。これということはないと思うが……もう少しこう……慎みを持って子育てをするだろうな」

 

「そうだな。優花が中学卒業するまではラブホに行くことにすると思う」

 

「そ、そっか。じゃあ、たとえば、そこに私がいたとしたら、どんな手伝いをしてもらいたい?」

 

「3P」

 

「私もたいがいアレだけど、鮮香は私よりも性欲に卑しいところあるよね」

 

 曇りなき眼で即答して来た内容があまりにもアレ過ぎる。

 

「まぁまぁ、冗談だ、冗談」

 

「もう、ちゃんと答えてよ」

 

「やはり、優花に長女としての責任を押し付けすぎてしまったきらいがあるからな。そのあたり、ちゃんとあの子を長女ではなく、優花として可愛がってやらねばならんかったろう」

 

「だな……その時に手伝ってもらえるとしたら、下の子たちを見てもらって、俺と優花と鮮香でお出かけとか……」

 

「なるほどね」

 

 あまりの忙しさにうまくやれなかっただけで、やはり優花のことはちゃんと可愛がっていたのだろう。

 すれ違いがあっただけで、うまく行く余地は十分にある。

 私が手伝ってやりつつ、優花の誤解をうまく解きほぐしてやれば……。

 

「うん、ありがとう。参考になったよ。じゃあ、私は次のところに行くね」

 

「うむ。次はゆっくりしていけ。うちの病院で使える、遺伝子検査割引チケットをあげよう。親子鑑別に使える」

 

「ありがとう」

 

 使い道があるかは不明だけど、とりあえず受け取っておく。

 遺伝子検査か……エルグランドだと需要なさそうだなぁ……。

 私はそんなことを思いつつ鮮香の家を辞し、次へと向かうのだった。

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