私は意気消沈してトイネへと戻って来た。
正妻周りのごたごたをちゃんとしなくてはいけない。
私のお姉ちゃんはそのあたりがしまり屋だ。
でもちゃんとやってもメチャクチャ殴られるんだろうな。
って言うか、最悪はブチ殺されるのだろうな……。
「ああ、どうしよう……前の時はとやかく言われなかったのに……」
たぶんその時点ではまだ誰も奥さんにしてなかったからだとは思うが。
お姉ちゃんは爆裂に聡いのだ。私の姉を100年近くやってるだけはある。
「ボルボレスアスの時も、アルトスレアの時も、お姉ちゃんはすごく聡かった……この調子じゃ、ファートゥムや日本でやらかしても気付くんだろうな……」
どうしてお姉ちゃんはあんなに聡いのだろうか。
それとも私が猛烈にわかりやすいのだろうか。
……うん、どう考えても後者かな。私が女引っかけないわけないもんね。
だがそれでも私はやると言ったらやる。
そうだ、日本に行くときは最初からお姉ちゃんも連れて行くというのはどうだろう。
やはり、行くとなるとカル=ロスがまだ幼いうちに行くことになる。
その頃こそが日本にいるママ友たちが食べごろ落としごろのタイミングだ。
その時期に片親だけになるのはいかにもカル=ロスが可哀想だ。
だからお姉ちゃんも連れて行って、両親ともに揃って育てる……。
こうしてお姉ちゃんを日本に連れて行くといいことがひとつある。
そう、私が浮気をしても、即座にバレるということだ。
即座にバレると、即座に私はお仕置きをされることだろう。
だが逆を言うと、問題が山積してから露見することはないのだ。
10割殺しされたら死ぬが、1割殺し10回払いならば死ぬことはない。
うん、この線でいこう。
しかし、そうなるとナンパ難度が高くなるな……。
引っかけることはできても家に連れ込むことは無理だ。
そして、関係性のステージを上げるのも困難だろう。
「なんせ、お姉ちゃん美人だからな……」
ハイランダーはそもそもの時点で美貌で知られた種族だ。
ハイランダーからすれば大した造形でもない者も、人間の界隈では美人と言われる。
そして、お姉ちゃんはそんなハイランダーの中でも美人に分類される顔立ちだ。
そんな正妻がいると知った上で自己主張できる人間はあまりいない。
いや、私に愛されているという自信の下に、自分こそが正妻に相応しいと主張する人はかなり現れるだろう。
自分の美貌ではなく、自分を愛する人間の価値の下に自信を持つ人は多いので。
しかし、そうなったらお姉ちゃんは容赦なく粉砕しに行く。
そして私もお姉ちゃん以外を正妻と考えるつもりは一切ない。
そうなると、絶世の美女の正妻の下につく自分を認めなくてはいけない。
これを認められる種類の人間はなかなか希少だったりするのだ……。
「つまり、私が日本で見つけないといけないのは……」
お姉ちゃんのことを正妻として立ててくれて。
なおかつ自分は愛人でいいと弁えてくれる子で。
しかも私に義理とは言え娘がいてもいいと言ってくれて。
さらには浮気しまくっても許してくれるほど寛大でないといけない。
「最低条件がそれで……高望みをしていくとすれば……」
家庭的な人で、疲れてる時に優しくしてくれる人がいい。
やっぱり私は妹属性なので、姉属性に弱いというかね。
帰ってきたらごはんが出来てて、疲れてるでしょすぐにごはんにするねと言って欲しいというか。
その上で、疲れた? おっぱい揉む? と言ってくれたら最高だ。
そして、そう言ってくれるならば、胸は大きければ大きいほどにいいというか。
それでいつつも身長はできれば私よりも低いとうれしい。
ボディバランスも可能な限り引き締まっていてほしい。
そして精神面では私にべったりと頼り切りだとイヤだ。
そう言うタイプの人って、私を母親とか父親だと思い出すからね。
だから、私のことをちゃんとひとりの女として愛して欲しい。
さらにはエロいことが大好きであればあるほどにいい。
私の性欲は無尽蔵なので、相手も同じくらい無尽蔵だと最高。
レナイアみたいに10回でも20回でもさせてくれると最高。
プレイの幅も広くて、3Pや4Pもさせてくれると文句なし。
多少の倒錯プレイもさせてくれて、媚薬を使わせてくれるとなおよし。
「むずかしいな……10年20年とかけても見つからないんじゃないか……?」
だが、だからこそ燃えるではないか。
私の中で女好きの魂が燃え上がった。
……未来のことを考えての現実逃避とは言わないでほしい。
自分でもちゃんと自覚はしてる。してるけども……。
イミテルにそのあたり説明するのが気が重いんだよ……!
「頃合いを見て……話そうかな……ウン……出産前とかに言うのよくないし……ネ……」
産後にイミテルと子供が落ち着いてからでいいんじゃないだろうか。
そう、
うん、急ぐ必要はないよね。イミテルのことを思えばこそだから……!
私はそのように結論づけて現実逃避を続行した。
この5年間を振り返る旅行は案外あっさりと終わった。
こうしてみると、私はまだまだこの大陸のことを知らない。
そして、それはボルボレスアスやアルトスレアも同じことだ。
長い時を生きて、長い時を冒険に費やして、それでも世界は私を飽きさせない。
この世界には私の求めるものがまだまだ広がっている。
まだ冒険がしたい。
この世界がなくなって欲しくない。
私はまだこの世界を知りたい。
冒険がしたい。
そうだ、私は。
この世界が好きだ。
滅んで欲しくない。
私の胸の中で燃えていた想いが言葉となって溢れた。
そうだ、私はこの世界が好きなんだ。
戦う理由なんてそんなもので十分だ。
だれかに頼まれたからじゃない。
死にたくないからでもない。
好きだからだ。この世界が。
私の理由はそこにあった。
じゃ、がんばるとしようか。
「そう言うわけで、『アルメガ』とか言う爆裂ヤバいなんかそのようなアレが復活して、きわめてデンジャラスらしいよ」
「驚くほど内容がふわっとしていますが、どういうことですか?」
「私にもよく分からないんだ……」
「ええ……」
私の知ってる内容はすごくあっさりしていて、よくわからない。
そして、レウナも意外と分かっていないことの方が多いらしい。
サシャが疑問を呈してくるが、その疑問を発したいのは私の方だ。
「そう言うわけで、カル=ロス。よろしく」
私は私の頼れる義娘のカル=ロスに声をかける。
カル=ロスはいつもと変わらぬ髪で目元を隠し、感情の伺えない様子で頷く。
化粧もなにもかも統一しているので個人識別の難易度が高い。
「説明しましょう。『アルメガ』とは星よりでかいハイパーに危険なバケモノです」
「いまいち危険度が伺えない……!」
「われわれとしても、表現できる範疇を大幅に超えてしまっているのです。なんと表現したものか」
カル=ロスが困ったように溜息を吐く。
腕組みをして椅子の背もたれに体を預ける姿勢は本当に困っている様子だった。
実際、パンサラゲア神に見せられたり、『インメタル』と戦った感触からしても。
壮絶なまでに強大であり、それでいつつ超絶に巨大であるとしか言えない。
人間は巨大な宮殿を大きいと思うことができる。
そして、遠方に見える山々を大きいと理解もできる。
だが、足元の地面を見て、この惑星は大きいとは思えない。
人はあまりに大き過ぎるものを認識できないのだ。
「ですので、レウナさん。パスで」
「私か。いや、しかし、私の方からも、どう表現したものか……」
レウナが困ったような顔をして唸る。
実際、レウナ視点で見てもほとんど分からないと思う。
私はパンサラゲア神にレウナと『アルメガ』の戦いを見せられたが。
レウナは『アルメガ』の端末とか言う人間型のそれと対峙し。
それに対してアルトスレアの神聖魔法、その最秘奥を行使した。
つまり、レウナ視点では人間型端末を見た以上のことはしていない……。
「ただそれが、途方もなく巨大で強大であることはわかる……わかるんだ……!」
レウナが力説する。
私とカル=ロス、『アルバトロス』チームは深く頷いている。
しかし、それ以外のメンバーのみんながピンと来ていないような様子だった。
そりゃまぁそうだろう。
私も同じ説明されたら「なに言ってんだコイツ」って思うし。
でも、可能なことなら理解してほしいな……。
「戦いの時は近く、そして、その戦いは壮絶なものになります。それは間違いありません」
「どれくらい壮絶なものになるんでしょうか……?」
「最悪は人類滅亡ですかね。よければ2割くらいは残ります」
「あまりにも壮絶過ぎる!」
レインが叫ぶが、サシャは難しい顔をしている。
なんだろう、以前に手に入れたレリックである『天球の指輪』の力について何か……?
壮絶な破壊をもたらすほど強大ななにかであるとは聞いてるけど……。
「あの、質問よろしいでしょうか、あなた様」
「うん、なにかな?」
「その戦いと言うのはいつになるのでしょうか?」
「ごめんね、それも分からないんだ」
「ははぁ……」
クロモリが困ったような顔で頷く。
そして、立ち上がると私の下へと歩み寄ってくる。
「では、戦勝祈願のおまじないだけでもさせてください」
「そんなのあるの? じゃあ、やってもらおうかな」
「はい、もちろんです」
どんな根拠があるおまじないなのかはともかく。
私の勝利を祈願するおまじないなら受けない理由もないだろう。
「お手をおねがいします」
「うん」
言われるがままに手を差し出す。
そして、クロモリが私の手になにかを刺した。
「痛っ!」
「あ、失礼しました。代わりにこちらをどうぞ」
「うひょ~!」
右手のひらに突き刺さる痛み。
その一方で、クロモリが私の左手を導いたのは自分の胸。
クロモリのどたぷんとしたボリューム抜群なおっぱい!
手のひらに走る強い痛みなんかまるきり気にならない!
「ぽんぽん、ぽん……と。終わりました」
「うひひ、うひ……」
「あなた様、終わりましたよ」
「もうちょっともうちょっと……」
「あなた様」
手を叩かれて私は渋々とクロモリの胸から手を離す。
そして、先ほどなにかを刺されていた右手を見やる。
そこには小さな針で刺したような傷がいくつかできていた。
「これは?」
「戦勝のおまじないです。厳密に言うと、先に強い痛みを伴う刺し傷を負うと、戦場では刺されなくなるというものなのですが……」
「あー、そう言うね……」
そう言う感じのおまじないって結構あちこちであるんだよね。
それどういう根拠? って言いたくなるようなやつが多い。
クロモリは私の手を刺すのに使ったもの……それを腰元のポーチにバラバラと放り込む。
なんかの植物の棘とかかな? 野歩きの得意なクロモリならではのおまじないかな。
「さて、戦いがいつになるかは不明なんだけども、割と近い頃になりそうって話なんだよね」
私は首筋を爪先でガリガリと掻きながら言う。
ここ数日旅行で爪切ってなかったからちょっと痛いな。
今日はお風呂に入ったあとに爪を切っておかないと。
女たらしとして、伸びっぱなしの爪はいただけないからね。
「カル=ロスたちが未来から来たって言うのは知ってるよね?」
「はい。『アルバトロス』チームの皆さんが情報源と言うことですか?」
「そう言うことだね。それで、『アルバトロス』チームのみんなが言うには……」
「話によると、イミテルさんの出産前に起きたとのことらしいので、そう遠い話ではないらしいのです」
朗々と話すカル=ロスの姿を眺めて、私はふとめまいを感じた。
ここ数日の旅行で疲れがたまったかな。さしもの私も疲れを感じることはある。
いや、お姉ちゃんに課せられた使命のせいで心理的疲労が重なったかな……。
イミテルに説明することを考えると、既に気が重い……!
その時のことを考えるだけで喉が詰まるような息苦しさを感じるというか。
むしろこう、オエッとなる感じがするというか、お腹もキリキリ痛むというか……。
もし受け入れてくれなかったらどうしよう。
私こそが正妻だ、正妻と決闘して正妻の座を勝ち取るとか言い出したらどうしよう。
イミテルは強いけど、お姉ちゃんに勝てるほど強くはない。
うう、2人の間で殺し合いなんかはじまったらと思うと不安感がヤバい。
めまいすらも感じるような未来の暗さ。
説明するカル=ロスの声もどこか遠く感じる。
どうしてこんなことになっちゃったんだろうね……?
なにもかもすべてが自業自得ではある。
そのあたりはわかってるけど、みんな可愛いからしょうがないじゃん……!
くっ、なんか吐き気が強くなってきた……なんか気持ち悪いぞ……!
私はみんなが話す中、にわかに襲って来た体調不良に耐えていた。
ふと、クロモリが無表情に俯いているのが視界の端に見えた……。
文字数はどの程度が好ましいですか?
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