あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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「ヒャッハー! デク人形は消毒だ~!」

 

「燃える……燃えてしまう……エルグランド……お母様が、消えていく……これは……面倒なことに、なった……」

 

「うおおお! アルバトロス爆殺拳!」

 

「なんちゅう脆いデク人形だ!」

 

 私たちが精神攻撃に呻いていると、『アルバトロス』チームが張り切って戦闘をはじめた。

 きわめて可燃性の高い油を放出し、それに着火。

 ねばつく焔の放射をするという凶悪兵器が持ち出される。

 さらにはグレネードをやたらとばら撒く者。

 機関銃を両手に持って乱射する者。

 

 『アルバトロス』チームの主たる戦闘手段は兵器にある。

 高速連射可能な機関銃の殺戮スピードは剣やら弓とは次元が違う。

 私たち自身、あるいは私たちの肉親を模したデク人形が虐殺されていく。

 

「お、お母さん……」

 

「お母様が……死んでいく……お母様が……」

 

「お姉様……」

 

 それはそれでみんなの精神にダメージが入っている。

 そりゃそうだ。目の前で肉親が虐殺されたらそうもなる。

 

「ええい! 優花! いい感じにアレしてください!」

 

「内容が大雑把過ぎる! 対人でいいんですね! 広莫風(こうばくふう)を吹き起こし、荒れ狂いて悪心を喰らえ——! 召喚、窮奇(きゅうき)!」

 

 優花の叫びと同時、異質な魔力が空間を奔った。

 それは瞬く間に形質を得て、この物質界に肉体を持った存在として顕現する。

 

 形を得たそれは、牛のような異様な生物だった。

 だが、全身からは針のように鋭い体毛がくまなく生えている。

 なんか、見た目はあんまり強そうに見えないのだが。

 

「ウォォオオオン……!」

 

 それはまるで犬のような声で吼えたかと思うと。

 ずるん、と音を立てて私たちを襲うデク人形を呑み込んだ。

 まるでデク人形がゼリーで出来ているかのような、異様な光景だった。

 

「そんななまっちょろいもんじゃなくて、サクッと最強技をパナしてくださいよ! 早く!」

 

「あれメチャクチャ疲れるんですよ!?」

 

「ここで本気出さなくていつ出すんですか! いつまでも三味線弾いてないで本気出してくださいよ!」

 

「それでも『アルバトロス』チーム最強の召喚術師ですか! いい感じにアレしろっつったろ!」

 

「もういい! 優花なんかを頼りにした私たちがバカでした! あーお恥ずかしったらありゃしない!」

 

「なんでこれだけでボロクソ言われなくちゃいけないんですか! わかった! わかりましたよ! やりますよ!」

 

 優花がバチギレして、走りながら複雑な印を手で組み始めた。

 なにかしらの法則性があるらしい動きだが、一体どういう意図のものなのかは不明だ。

 

「オーン! 来たれ来たれ! 十二の神将、神王よ! クンビーラ! ヴァジュラ! メーキラ! アンディラ! アニラ! サンティラ! インダーラ! パーイラ! マハーラ! シンドゥーラ! チャウンドゥラ! ヴィカーラ! 十二の似姿、子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥の形を持ちて我に降りかかる一切の艱難(かんなん)辛苦(しんく)を退ける刃となれ!」

 

 そして、先ほどとは比較にならないほど膨大かつ濃密な魔力が吹き荒れた。

 人間がこんな凄まじい性質の魔力を扱えていいのかと疑問に思うほど。

 量と質と言う意味では、私はこれを軽々と超えることはできるだろうが。

 この特異性と言う意味では、あきらかに人間の域を超えてしまっている。

 

 上とか、下とか、優れてるとか、劣っているとか。

 そう言うことではなく、それはただ異質なのだ。

 人間と植物は同じ生き物だが、あまりにも性質が違い過ぎるように。

 優花の放つ魔力は、そう言う異常な性質を持っていた。

 

「召喚……天部十二神将!」

 

 そして、召喚されたのは、十二体の動物だった。

 牛とか、犬とか、猿とか、なんかあんま強そうに見えない動物たち。

 それらが優花を取り巻くように屹立し、前に立つ者たちを睨み据えている。

 しかし、その中央に立つ優花はフラフラだった。

 

「オエエエエッ……! や、やっぱ無理ですこんなん……! 十二支の形に零落させてとは言え、十二神将の一斉召喚・維持は無理です……! 死ぬ、死ぬ……!」

 

「泣き言なんか聞きたかないですね。そのまま気合で維持してなさい!」

 

「召喚状態の維持だけしていればいいです! 運ぶのは私が!」

 

 よほど負荷のキツイ召喚術らしく、優花はフラフラ。

 代わりに膂力に余裕のあるカル=ロスが優花を担ぎ上げて運ぶ。

 そんなんで大丈夫なんだろうか……。

 

 そんな私の不安を後目に、召喚された動物たちが戦闘をはじめる。

 そして、私はその戦闘力のすさまじさに目を剥いた。

 

「シャアアアアァァ――――!」

 

 蛇型の召喚体が一瞬でデク人形を50体くらい丸呑みした。

 たしかに人を呑み込めそうなほど巨大な蛇だが。

 だからって一瞬で50体丸呑みはヤバ過ぎる。

 

「グルルルッ……! ウォオ――――ン!」

 

 犬型の召喚体がその牙でデク人形を引き裂き、その爪がデク人形を叩き潰す。

 大型犬相当の犬ではあるけど、いくらなんでも強過ぎるだろ。

 

 そして、それ以外の召喚体たちも、凄まじい戦闘力で次々とデク人形をひき潰していく。

 どころか、ボルボレスアスの飛竜も容赦なく捻り潰している。

 ただのウサギにしか見えない生物がバビェーダ・スヴィエ瞬殺してて笑うしかない。

 

「十二神将、仏千切(ブッチギ)りでつええ! この調子で皆殺しにしてください!」

 

「喜んでもいられないですよ! 『アルメガ』も痺れ切らしてきました!」

 

 誰かが叫び、空を指差し。

 その先には、オレンジ色に蠢く手。

 

 自分の身体の上で好き勝手に暴れ回る羽虫。

 それに業を煮やした時、人は自らの手で叩きつぶそうと動くだろう。

 それと同じように、『アルメガ』が自身の身体の上の羽虫を潰しにかかった。

 

 あなたたちへと襲い掛かる手のひら。

 それはひどく緩慢な動きのように見えて。

 それでいて恐ろしいほどの速さで迫ってくる。

 

 それが到達した時、あなたたちは成す術もなく押し潰されるのだろう。

 

「次鋒! なんかいいようにアレしてください!」

 

「次鋒キリパルドンいきます! グオゴゴゴー!」

 

 切華がそう叫んだかと思うと、いつもの水兵服の袖をめくる。

 露出した彼女の腕には、奇妙な紋様のようなものが刻まれていた。

 いや、それは魔力によって励起した独特な呪文回路そのものだった。

 

 タトゥーメイジと言うような、刺青の形で呪文回路を刻む者がいる。

 おそらく切華の腕に刻まれているのは、そう言う類の呪文回路だ。

 だがそれは、私の知るどんな魔法とも一切合致しないきわめて特殊な呪文回路だった。

 

 魔法とは幻術や力術と言った、性質によって系統が決まっている。

 占術たるディビネーション、死霊術たるネクロマンシー、防御術たるアブジュレーション。

 そう言ったような系統があり、それは呪文回路を見れば一目で判別できる。

 それくらい、魔法の呪文回路には魔法の系統と言うものが出る。

 

 だが、切華の腕に刻まれている呪文回路はそのいずれとも一致しない。

 強いて言えば、それは創造系……つまり召喚術系統に似通ってはいる。

 だが、同時に力術や変性術、また幻術の特徴すらも組み込まれている。

 極めて巨大で強大な特殊過ぎる呪文回路であり、階梯で言うと15階梯くらいあるんじゃないかと言うほどに複雑なものだった。

 あんなもの尋常の人間に使えるとは思えないが……。

 

「我が父より相伝されし秘術、創剣乱舞(そうけんらんぶ)の真髄をご覧に入れましょう!」

 

 切華がそう宣言し、その腕を掲げ。

 その直後、その手には黄金に輝くロングソードが握られていた。

 

「剣士の真髄とは、ビームを打てるものと心得たり!」

 

 なんて?

 

「加速剣身展開! 七色(にじ)の宝剣の威力、知り置くがいい!」

 

 掲げた剣を囲うように、7本の剣が突如として現れる。

 あれは……剣を物質創造している? それも、凄まじく強力なエンチャントのされたものを。

 ひとつひとつの剣の外見は同じものだが、内面に施されたエンチャントが違う。

 

 純粋かつ強大な、剣の許容限界ギリギリまで詰め込まれた属性系エネルギー。

 7本の剣すべてに異なる属性エネルギーが秘められ。

 そして、切華の握る剣に、純粋な魔力の力が渦巻いている。

 

「これこそは我が最大の秘奥! 師より禁じられた究極の一斬! 偽典・極光剣(フォルス・オーロラブレード)ぉぉお!」

 

 切華が剣を振るい。

 そして、剣身より放たれるのは純粋魔力属性の斬撃。

 それに追随するように七色の属性エネルギーが放射される。

 

 それは加速・収束されることによりひとつのエネルギーとしてまとめ上げられ。

 純粋魔力属性の斬撃に、七種類の属性エネルギーの斬撃が集う。

 それはメチャクチャかっこよくて、その威力もまた凄まじかった。

 

 眼前に立ちはだかっていた巨大飛竜が一瞬で消し飛び。

 その奥部にいた飛竜、どころかドラゴンなどですらもが一瞬で消し飛ぶ。

 そして、その遥か果てにあったもの。

 『アルメガ』の腕がただの一撃で切り飛ばされ宙に舞った。

 

「これこそが我が最大の剣技……! それゆえに代償も大きい……! ごふっ!」

 

 切華の手にしていた剣が砕け散る。

 そして、切華が勢いよく血を吐き出した。

 威力が無法過ぎると思ったら生命力を削るタイプのやばい技だったらしい。

 

「知っていますか! 腕は2本ある!」

 

「『アルメガ』は隙を生じぬ二段構えと言うわけですか!」

 

 そして、あなたたちへと再度迫るオレンジ色の腕。

 『アルメガ』は人型の巨大生物。一方の腕が喪われようと、もう1本の腕がある。

 

「次! もえぎ!」

 

「我が父、日本人なのにインチキ日本文化の体現者よ! そして我が母、速度3000倍の若作りババアよ! 我が奥義をここに開帳しましょう!」

 

 尊敬度が一切伺えない宣言をし、もえぎが構えを取る。

 そして、呼吸と共に激しく練り上げられる魔力。

 それは彼女の体内で高速で駆動しだす。

 

「スーッ! ハーッ! セイシントーイツ! ナイトの身体運動、その究極の基本! バリツ粒子により駆動する最強の戦闘生命、それこそがナイト!」

 

 なんのなんだって?

 

「そして、我が母より受け継ぎし秘術、『雷音の術』により、私は1秒の間に99.9秒の行動を可能とする!」

 

 その手が複雑な印を組み、発動するのは『加速』の魔法に似たなにか。

 それは複数の縛りを経ることにより、きわめて強大な効果を発揮するタイプの魔法だった。

 だが、どちらかと言うと魔法と言うよりもあれは技術に近いものだ。

 模倣できなくはないが……体質改造しないとたぶん使えないな。

 

「往くぞ! バリツ究極奥義『聖剣一斬』の力を見よ――――!」

 

 もえぎが叫び、その全身に輝く魔力を纏い。

 一瞬のうちに振るわれた、超高速の剣戟を私は見た。

 エルグランドの超高速運動を見慣れる私だからこそ見切れた超スピードの武技。

 

 それは非常にシンプルな手刀の一撃であり。

 その手に纏わされた魔力の刃の冴えであり。

 その身体運動が産み出す奇跡の速度であり。

 

 それらすべてが混然一体となって実現する極限の武技。

 超スピードで振るわれた手刀に伴う魔力の斬撃。

 超極薄の刃が超スピードで奔り、切り裂く。

 

 そのシンプル極まりない一撃は、遥か遠方の『アルメガ』の腕を切り飛ばしていた。

 

 超スピードで見切るのも困難な上に、射程がキロメートル単位……。

 ふつうに技の性能が無法過ぎる。私も使いたいよあんな技。

 

「ぐああぁぁぁっ!」

 

 しかし、もえぎが手刀を放った右腕を抑えて叫ぶ。

 よくよく見れば、その腕が肉離れを起こしているのが見えた。

 さすがに凄まじい性能の技だけに負担が大きいらしい。

 いや、肉離れごときで今の技が出せるなら代償としては軽いが。

 

「いける……! いけます! 私たちだけで、勝てる!」

 

「しゃあっ! 私は天才だー!」

 

「天才は私の代名詞ですよ! 私は真にして真たる天才と、真にして万能の天才に育てられた万能の天才!」

 

「私は希有なサイキックの才能を持った天才!」

 

「えっと、あーっと、私んちの畑はテンサイも育ててますけど!」

 

 『アルバトロス』チームの力はかなりのものだ。

 普段、銃火器で戦ってるのがなんなのかと思うくらいだ。

 普段からこれらの技を解禁して戦えばいいだろうに。

 

 なにかしら理由があるのだろうか。

 この戦いに向けて、『アルメガ』相手に技を秘匿していた……とか。

 その線が可能性としては高そうだ。

 

 すべてが終わったら、いろいろと聞きたいものだ。

 永いお別れになる前に、『アルバトロス』チームとちゃんと話がしたい。

 

 私はそんな戦いの先のことを思った。

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