あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 オレンジ色の大地を踏みしめ、暗い空を駆け抜けていく。

 私たちは放たれた矢のように振り返らず駆ける。

 

「睦美! 目標ポイントまであといくつですか!」

 

『残り1450! もうひと踏ん張りです!』

 

「晶! 目標の状況!」

 

「凄まじいPCMが展開されているのでほとんど読めませんが、12層に渡る超能力防壁が展開されているところまでは読めました! これを突破する手段が必要です!」

 

「もえぎ!」

 

「次は左腕でやりゃいいんでしょ! 左腕で!」

 

「切華はどうです!」

 

「もう回復しましたが、さすがに3発目は無理ですよ!」

 

「優花! あとどれくらい保ちますか!」

 

「もうむりです。あと5分で死にます。いままでありがとうございました、みんな大好きでしたよ……」

 

(みこと)! 準備はいいですか!」

 

「私はボタン押すだけですからね!」

 

「瑞穂!」

 

「私は天才です!」

 

「一二三! 必殺技とかどうですか!」

 

「私の必殺技が『アルメガ』に通用するわけないでしょ! 対人用拳法ですよ!」

 

「アストゥム! 覚悟キマってますか!」

 

「我が母の思し召しのままにですよ。姉上に恥じぬ挺身を示すだけです」

 

 『アルバトロス』チームの八面六臂の活躍。

 そして、その大詰めに至ろうとしている。

 

 私たちEBTG、『ハンターズ』と『世界樹の王(エトラガーモ・タルリス・マギ)』たちの出番がないくらいだ。

 もちろん寄って来た飛竜やモンスターを撃破するなどはしているのだが。

 目立った活躍などはまるでなく、『アルバトロス』チームの後塵を拝するばかりだ。

 

 それは彼女たちが、これを最後の戦いと見据えて命を燃やしているからだろう。

 この戦いを超えることさえできれば、後はどうにでもなれと言わんばかりの態度。

 死兵と化した者は強い。それは先のない強さではあるけれど……。

 

 彼女たちがこの戦いに懸ける思いの強さが窺い知れる。

 自分たちの生きる世界の未来を守りたい、その一念が彼女たちを突き動かしている。

 

『あと1000!』

 

「もうひと踏ん張り!」

 

「気合で走って! どうしても休みたいやつはあの世に行ってから存分に寝なさい!」

 

「まぁ、あの世は砂漠みたいなところで寝苦しいですけどね!」

 

 そんな言葉を交わしながら私たちは走って。

 そして、私たちは『アルメガ』の中心部へと至った。

 

 

 

 それは人間で言うならば、心臓に相当する部位。

 そのだだっ広い空間へと走り込んで、体に奔る違和感。

 なにかしらの、魔法やサイキックで区切られた空間特有の違和感だ。

 

「もえぎ! 切華! おねがいします!」

 

「これで最後ですよ!」

 

「我が剣は隙を生じぬ二段構え!」

 

 そして、もえぎと切華が、先ほど使ったのと同じ必殺の技を放つ。

 それは私たちが踏みしめる大地、『アルメガ』の心臓部を穿つ。

 地面へと開けられた大穴。だが、数十メートルほどの穴が開いたところで攻撃が止まる。

 さきほどのもえぎと切華の攻撃力ならば、もっと深い穴が開いてもいいはずだが……。

 

「進路啓開!」

 

『私が行きます!』

 

 睦美の操る鋼の巨人、ライデン。

 それが力強く地面を蹴り、その大穴へと飛び込む。

 そして、その動きがピタリと空中で止まった。

 まるで時の止まったような不自然な光景に私たちは息を飲む。

 あれはいったい……?

 

「やはり、空間延長……! 晶! 中和を!」

 

「もうやってますよ!」

 

 泣きそうな顔で叫ぶ晶。

 いったいどういうことなのか分からず私は首を傾げる。

 そんな私の疑問に答えるように、コリントが口を開いた。

 

「如何なる兵器に対しても絶対の効果を発揮する防御手段が存在するわ」

 

「コリント。それって?」

 

「距離。どんなに強力な兵器でも、射程距離と言う絶対の制約が存在する。なら、攻撃の当たらない距離まで離れる。これこそが絶対の防御手段だと思わない?」

 

「現実的にそんなことは不可能だけど……それを可能とする方法が存在する。そう言うことだね?」

 

「そうよ。サイキックによる空間転移にはいくつかの原理が存在するけれど、その中でも空間を圧縮する類のテレポートを応用すれば、それは可能よ」

 

「短距離に見えて、その間に凄まじい距離が立ちはだかっている……?」

 

「そうよ。そしていま、晶ちゃんがそれをサイキックで解除している……でも……」

 

「でも?」

 

「サイキックの出力、その次元が違い過ぎる……これでは……」

 

 むずかしい顔で唸るコリント。

 穴を見やれば、落下していくライデンの姿は先ほどと変わりがない。

 晶の力では、これを超えることは不可能なのだろうか。

 

 大穴の周囲で立ち止まっている私たちに向け、周囲の飛竜たちが襲い掛かってくる。

 足を止めた私たちに向かって、四方八方から襲い掛かる敵。

 攻撃のために一直線に進み続けていた先ほどとは状況が違う。

 

「なんだかよく分かんねーが、時間を稼げばいいんだな!?」

 

「ええ、そうよ」

 

「そっちの方が分かり易くていいぜ! トモちん、『呪歌(まがうた)』を頼む!」

 

「うん! とびっきりのやつ、いくよ!」

 

「カイラ! 基本の防御陣形で行くよ! 私とリゼラで前に!」

 

「はいな~。支援はおまかせくださいな~」

 

「私もノーラあたり連れて来ればよかったですね」

 

 私たちは即座に持ちこたえるための防御陣形を展開する。

 大穴の周囲に展開している『アルバトロス』チームを守るように。

 私たちの中にサイキックはほとんどいない。『アルバトロス』チームに任せるしかない。

 

「……私が、私がやれば……だが……」

 

 レウナが酷く難しい顔をしながら、そう呟いていた。

 私はレウナの手を掴んで、そっと囁いた。

 

「最後まであきらめちゃダメだよ。私も、まだあきらめない」

 

「……ああ。そうだな」

 

 それでも、レウナはむずかしい顔をやめようとはせず。

 その胸に切ない決意の炎を宿していることが伺えた。

 

 レウナが命を擲ったのならば。

 かつて、星屑戦争で成し遂げたように。

 永の別れを前提とした魔法行使ならば。

 死の神たるラズル神の降臨を成せば。

 

 おそらく、この状況を打開することはたやすいのだろう。

 だが、それをすれば、レウナはもう2度とは還らない。

 すでに1度、その命を喪った身であろうとも。

 それは恐ろしい未来だ。叶うことならば選びたくもない未来に違いない。

 私もまた、友が命を喪うところなど見たくはなかった。

 

 

 

 『アルバトロス』チームが必死の攻略をする中。

 私たちEBTGらを筆頭としたチームもまた必死の応戦をする。

 もちろん私も応戦するんだけど、切り札の後遺症と媚薬の悪影響はいかんともしがたい。

 

 なんで私は絶頂しながら戦ってるんだろうか。

 そんな疑問が頭の中からどうしても消えてくれない。

 絶頂による虚脱感と高揚感と同時に、戦闘の緊張感と達成感が襲い来る。

 もうなにがなんだかよくわからない。しばらく媚薬は見たくもない。

 

「くっ……ダメだ……やはり、私では『アルメガ』の空間延長を中和し切れない……!」

 

「ダメですか!」

 

「ならば、純粋物理攻撃で突破するほかありません! もえぎ! 次は足で撃ちなさい!」

 

「歩けなくなっちゃうんですが!?」

 

「だったら走ればいいだろ!」

 

「切華! あなたも3発目をがんばってください!」

 

「全身バキボキなんですけど! 3発目撃ったら、這いずることもできませんけど!?」

 

「じゃあここで乾いて行けばいいだろ!」

 

「死ねっつってます!?」

 

「命! なんかデンジャーでゴイスーな爆弾とかないんですか!」

 

「あったらもう使ってますよ!」

 

 『アルバトロス』チームも進退窮まり、捨て身の攻撃に移ろうとする。

 その中、レウナが私たちの隊列から外れる。

 

「わかった。私がなんとかする」

 

「ダメだよ、レウナ!」

 

「ダメではない。ここがそうだ。命には使い時と言うものがある」

 

「レウナの命が、そうだって言うの!?」

 

「未来へと希望を繋げることができるのならば。私にとってはそれで十分なのだ」

 

 そう言って、レウナは透明な笑みを浮かべて。

 その背後から迫って来た平手打ちに頭を引っ叩かれた。

 

「はい、悲壮な覚悟を決めてるところ申し訳ありませんね」

 

「なにをするか……おまえは、カル=ロスか?」

 

「アストゥムですよ、レウナさん」

 

「そうか」

 

 唯一、『アルバトロス』チームで信仰魔法が使えるメンバー、アストゥム・カーマイン。

 彼女がいつの間にやら背後に回ってレウナの頭を引っ叩いていた。

 そして、アストゥムが身に着けている水兵服を掴んだかと思うと、その一瞬後に服装が変わっていた。

 『ポケット』の応用による早着替え、エルグランドの民ならば多くが弁えている技術だ。

 

 それによって変わったアストゥムの姿。

 それは、いつもの水兵服とはまるで違っていて。

 けれど、私たちもよく見慣れた服装だった。

 

 レウナが身に纏う白い装束に、赤いパターンを施した装束。

 2人は非常によく似た……いや、まったく同じ装束を纏っていた。

 

「『白』の聖女レウナ・ファンスルシムに『赤』の女教皇アストゥム・カーマインが申し上げる。『降神/コール・ゴッド』の合同祭祀を実行いたしましょう」

 

「お、おまっ……!?」

 

「1人より2人なのですよ、姉上。1人では死を免れ得ぬ儀式も、2人ならば後遺症だけで耐えられる……やりましょう」

 

 そう言うことだったのかと、私は思わず唖然とする。

 『アルバトロス』チーム全員の親のことを知っているわけじゃないけれど。

 そう言えばたしかにアストゥムの親は高位神格だと聞いていた。

 神格の寵児と言うのは、探せばいないことはないのだ。

 だが、思えばその神格が何者なのかをアストゥムが語ったことはなかった。

 

 そして、レウナが出会った当初の頃。

 ラズル神とはみだりに名を口にしていい神ではないと聞いた。

 だから、アストゥムは自分を寵愛する神の名を口にしなかった。

 

 アストゥムと言うのが、古い言葉で赤を意味する言葉だとも聞いた。

 そして、レウナと言う名が、古い言葉で白を意味する言葉だとも。

 2人の信仰する教えにおいて、色こそが信仰者の位階となっているとも。

 

 符合する要素は多々あった。

 私がマヌケだから気付いていなかっただけで。

 アストゥムはレウナと同じ神を信ずる信仰者であり。

 既に喪われて久しい神の信仰を身に宿す者。

 未来からやって来た、古き神ラズルの寵児だったのだ。

 

「こんなことがあるのか……ハハハ……私以外に、ラズル様の教えに身を捧げる者が現れるのか……」

 

「ええ、そうです。こんなバカげたご都合主義の展開があるんですよ」

 

「まったく、未来に希望が持てること、この上ないな。2人できたならば、3人できることだってあり得るだろうさ」

 

「私たちの妹、あるいは弟が現れる未来だってありえるのです。この世界が喪われない限り」

 

「ああ、それは……想像するだけでも楽しい未来だな」

 

「ええ、ほんとうに」

 

 2人は笑い合って、手を取り。

 朗々と、歌うように詠唱を始めた。

 

「はじめに、命がある」

 

「終わりに、死がある」

 

「死と生は背を合わせた刎頸(ふんけい)の友である」

 

「生とは待ち受けたる死へと進む物語に過ぎない」

 

「故に、迫りくる死に抗うこと、そのなんと無意味なことよ」

 

「私は何にもなれぬ白。燃え尽きたるもの」

 

「私は何もかもを滅ぼす赤。燃やし尽くすもの」

 

「われらは死を知りながら歩む者」

 

「この世にただ1人、心を分かち合う形があると知る者」

 

「生きること、死すこと、その喜びを知るいずれの命も歓呼せよ!」

 

「それが出来ぬ者は、この生者の(ちまた)より去るがいい!」

 

「彼方より来る巨神、アルメガよ!」

 

「いまふたたび、おまえに死をもたらす黒き比翼があらわれん!」

 

「生命を貪る亡者よ! ()()ぬるがいい!」

 

『我が神よ、この憐れなる亡者に、滅びをお与えください。第十五の法、『降神/コール・ゴッド』』

 

 そして、奇跡が紡がれた。

 

 

 

 これを見てはいけない。

 私の全知全能がそう叫んでいた。

 その理解が及ぶ前に、私の肉体は動き出していた。

 そのおぞましい死の形から必死で目を反らしていた。

 

「私は滅びのカタチ。命を壊し、文明を砕く者」

 

 耳から入り込んで来る声が脳を焼き尽くす。

 私の生命力がガリガリと削れているのが分かる。

 

「私は地を(さら)い、空を埋め、海を乾かした」

 

 私たちの立つ大地、生命の原質が塵になっていく。

 視界の端に移すことすらも許されない絶対の死が、死に誘っている。

 

「私は世界を白き清浄なるカタチに満たした」

 

 見てはいけない。

 聞いてはいけない。

 口にしてはいけない。

 

 ラズル神の名を口にしてはいけない理由がわかった。

 これは、こんなものを口にしていいわけがない。

 こんなもの、名前を口にしただけで人が死ぬ!

 信仰が途絶えた理由もわかる! どうやって伝承するんだよこんなの!

 

「レウナ。白き者。私の死すべき従者。愛しい我が子よ」

 

「我が神……私の名はレウナ。あなたに抱擁される果てを持つ者」

 

「アストゥム。赤き者。未だ死なざる我が従者。死すべき運命を持つ末妹(まつまい)よ」

 

「母上……私はアストゥム。あなたに振るわれる赤き炎を持つ者」

 

「ふ……私たちは死をもたらす漆黒の翼となりて、この地に舞い降りた。ならば、共に」

 

「はい。ラズル様」

 

「参りましょう」

 

 そんな、神と信仰者の間にわずかな問答が交わされ。

 そして、漆黒の颶風が吹いた。

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