あなたはうとうとと眠気を弄んでいた。
あなたの胸にはレインが
ねむい。とても、とてもねむい。まぶたが落ちそうだ。
あなたは昨晩、メアリと10連戦もハッスルした。
その後、軽くまどろんだだけで帰ってきたのだ。
さほども眠っていない身で、さらにレインとベッドで格闘すれば、行為後の気だるさも相まって眠くもなる。
あなたには無尽蔵の体力があるが。
15時間ほど起きていれば眠くなるのは生物として当然の反応だ。
これはどれほど強くなっても、どれだけ人知を超えた魔力を得ても変わらぬことだ。
このまま軽くお昼寝でもしようかな、などと思っていると、とろんとした眼であなたを見つめていたレインの眼に理性の光が灯った。
「ッ……た、大したことなかったわね! ええ」
あんなに可愛く鳴いていたのに、大したことなかったのだろうか。
これは大変すまないことをした。次は本気でやる。5倍はすごい。
「えっ、あれ以上があるの……5倍も、すごいの……」
やはり、経験のない相手に本気を出してしまうのはよろしくない。
経験がないと、青くて硬いものだ。
それは何歳であってもそうだ。
そう言った部分を解きほぐすような……。
優しくソフトな行為から始めるのがよい。
サシャにしたよりは少し激しかったかもしれないが。
おおむねサシャに初めてやったのと変わらない。
つまり、キスをして、優しく睦言を囁いた。
そして、性感帯を慈しむように撫でる。
最後に優しく優しく、ゆっくりと指を挿れる。
要するにペッティング。
いわゆるところのBまで。
娼婦相手にやったらキレられるほどに優しい行為だ。
これだけで相手を蕩けさせるのは中々に骨が折れる。
だからこそ燃えるものもあるのだが。
「た、大したことないわ……ええ、あれの5倍でもね! 5倍であってもね!」
あなたは半分寝ながら、5倍で足りなければもっとすごいこともしてあげよう、と応えた。
「え……ま、まだ上があるの……」
恐怖と期待の入り混じった弾む声でレインが呟く。どっちなのだろうか。
寝ぼけているあなたの思考能力ではそこを理解することは叶わなかった。
「くっ……! い、いいわ。いくらでもかかって来なさい! こ、これはあくまでも、そう、あくまでも、あなたに払う報酬だから、しかたないのよ!」
うんうん、しかたないしかたない……。
だって報酬だもの……などとあなたはおざなりな返事を返した。
「そ、そうよ、分かってるじゃない。それでいいの……ねぇ、何かして欲しいこととかある?」
寝かせて欲しい……とにかく眠くて、あなたはそう答えた。
「あ、うん……私も疲れたからちょっと寝るわ……」
そのようにレインが言うので、あなたはレインを引き寄せた。
「きゃっ。んん……もう」
レインのさらさらとした
なんだかとてもよく眠れそうだった。
昼寝をしばし楽しみ、目覚めた時にはもう夕食時だった。
気分
そのため、今日はちょっとばっかり骨を折って、
今のところのこの家の主であるレインに頼み、厨房を借り切る。
ちなみにこの厨房の主は男性だった。
今後もあなたがこの家で供される食事を食べないことが確定した。
まぁ、厨房の主が妻を供してくれるというなら喜んで食べるのだが……。
供さなくても勝手に食うが。
なんならもう食った。
「我が家の女使用人たちが次々と毒牙にかかっていく……まぁ、いいけどね」
諦めたようにレインが言う。
あなたを迎え入れるとはそう言うことだ。
諦めるのが最適解なことを悟ったのだろう。
「もうちょっと控えてもバチは当たらないと思うわよ」
あなたはそれをするくらいなら死ぬとレインに断言した。
「そう……好きにしなさいよ、もう……」
好きにさせてもらう。
さしあたっては厨房を好きに使わせてもらうことにする。
あなたはそれはそれは豪勢な晩餐を用意した。
材料の調達先はあなたの『四次元ポケット』である。
つまり、この辺りではお目にかかれないような高級品だらけである。
「…………あの、ご主人様。これはなんのお肉ですか?」
メインディッシュと言うか、今回の晩餐の主役であるステーキを前に、サシャが不安げな顔をする。
以前の馬肉がよっぽど嫌だったのだろうか。
しかし、馬肉のハンバーグは美味なのだが……。
「いえ、そう言うことではなくて……いえ、いいです。あの、それで、これは何のお肉なんですか?」
あなたは頷いて、今日の晩餐のあまりにも豪勢なメニューを紹介していくこととした。
まずは色とりどりの野菜サラダ。
『四次元ポケット』に突っ込まれていた各種野菜を用いた爽やかな一品だ。
具体的にいつから入っていたかは不明だが……。
そんなのはどの食材も同じなので割愛する。
多様な魚たちは、全てフライ料理にしてある。
カラッと揚がったきつね色のフライたち。
どれも美味であることを保証する。
エルグランドにおける最高級の魚料理と言えば活け造り。
もちろんあなたも作れるが……この辺りで受け入れられるかは不明だったので控えた。
そもそもあれはステータスを誇示する料理なので、美味かどうかはべつなのである。
主食は各種の調理パン。
くるみを練り込んだシンプルなもの。
リンゴのコンポートを仕込んだデザートパン。
シンプルなサンドイッチ、メロンパンと多種多様だ。
また、ドラゴンの肉を使った蒸し饅頭もある。
数種の歯応えのよい野菜と共に甘辛く煮詰めた肉餡がたっぷりと詰め込まれている。
アッツアツのあなた風グラタン。
ミルクの香り豊かなグラタンはアッツアツだ。
おなじミルクが主軸の料理で言えば、あなた風アイスクリームもある。
やはり忘れてはならない主役のステーキ。
それは空を往く絶対強者、ドラゴンのステーキだ。
べつに飛びぬけて美味とかそんなことはないのだが。
なんかドラゴンのステーキは、ステータスらしい。
あなたからするとさほどの感慨もないが、なにやらウケがいいのでよく出す。
デザートには各種の瑞々しいフルーツケーキとパフェ。
氷菓子が苦手、と言う人もいるので、そこも抜かりない。
チョコレートケーキの王様、ザッハトルテも用意してある。
「わぁ……金貨をいくら積んでも食べられなさそうな晩餐ですね……」
「王様だって食べられなさそうね……まぁ、いいわ。それじゃあ、お母様」
レインが語り掛けたのは、レインの母であるポーリンだ。
この王都屋敷の女主人として采配を振るっている。
晩餐の開始を告げる役割は彼女が行うと言うことだろう。
現在のところ暫定でレインがザーラン伯爵家の当主なので本来音頭はレインが取るべきなのだが。
「そうね。それでは、素敵な晩餐を用意してくださった冒険者さんに感謝を捧げて……」
何やらこの辺りで一般的であるらしいお祈りが始まる。
あなたは知ったことではないので、ウカノ様に感謝を捧げるべく合掌する。
サシャは少し迷ったような仕草を見せたが、あなたと同じく合掌をした。
それからはにぎやかに晩餐が始まった。
「ドラゴンのステーキ……な、なんだかあっさりと出て来てしまったせいか、感動みたいなものがないわね」
「でも、味は抜群ですよ!」
そう言っておいしそうに食べるフィリア。
表面はカリッと中はジューシー。肉を噛む快感が味わえる。
まぁ、この場合、すごいのはドラゴンの肉ではなくて、あなたの調理技術の方なのだが……。
「はふぁ、あふ……このグラタン、なんだか安心する味です!」
ほふほふとグラタンを頬張るサシャの姿は可愛らしい。
あなたは思わず頬を染め、おいしい? と尋ねた。
このグラタンは色んな意味であなたの自慢の逸品なのである。
「はい! すごくおいしいです! お母さんのグラタンを思い出します!」
あなたはますます頬を染めた。
「この肉まん? と言う料理、美味しいわねぇ。ふかふかで柔らかくて、それでいて中はあつあつで……ちょっとお行儀が悪いけど、齧り付きたくなってしまうわね」
ポーリンには肉まんが高評価のようだ。思う存分食べて欲しい。
「へぇ、お母様が言うだけあって、たしかに美味しい……これ、うちのシェフに教えて貰えたりできない?」
べつに教えるのは構わないが、作るのは無理だろうとあなたは答えた。
「なんで?」
この肉まんの肉にはドラゴンの肉が使われている。
さらにはエルグランド特有のハーブであるスト=ガスが使われている。
他の肉ではこの味にならないのだ。
もっちりふっくらした生地も作れないだろう。
この生地にはスト=ガスが必須なのである。
「ああ、そう言うこと。あなたにしか作れない料理ってわけね」
ついでに言えば、調理にもかなり高度な技術が必要だ。
スト=ガスの扱いは錬金術の領域なので錬金術の基礎知識も必須である。
まぁ、錬金術は台所から始まったともいうので、案外なんとかなるのかもしれないが。
「そう言う意味ではこのサラダもそうですね……使われてる野菜の季節がメチャメチャです……」
「言われてみれば……」
「このフライもそうですよ。海の魚がたっぷり使われてます」
「どこでこんなもの調達してきたの?」
あなたは少し考えてから、ちょっと言えないとこ、と答えた。
べつに、庭の噴水で釣って来たと教えてやってもいいのだが。
レインが混乱しそうだったので配慮した。
エルグランドの釣り竿はそこらの水たまりでも魚が釣れる。
なんでかは知らないが、まぁ、便利なので誰も気にしない。
水場と言う概念さえあれば釣りはできると知っておけばよい。
そんな釣り竿を使えば、庭の噴水で魚を釣るくらいは楽勝だ。
「そ。まぁいいわ」
サシャはなにか悟ったような顔をしていた。
以前、サシャは川で海の魚を釣って来た
「この氷菓子、おいしいですね……ああ、おいしい……」
しあわせそうな顔でフィリアはアイスクリームを食べている。
あなたは頬を染めると、フィリアに恐る恐る尋ねた。おいしい? と。
「はい、すごく。ミルクを使った菓子って苦手だったはずなんですけど、なんだか落ち着くというか……優しい味わいで、お姉様を思い起こさせますね」
そう言って笑うフィリアに、あなたはもう真っ赤になってしまった。
食べたくなったらいつでも作ってあげる、とあなたは伝え、赤くなった頬を撫でた。
あなたは乳製品と卵料理に絶対の自信があるので、その点では鼻高々だった。
その後もにぎやかに晩餐は続き、全員が大いに空腹を満たした。
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