『アルメガ』に私たちの故郷が激突した。
私たちの見ている前で、蒼い命の星が木っ端微塵に砕け散っていく。
それと同じくらいの勢いで、オレンジ色の蠢く混沌が砕ける。
その激突の威力の壮絶さは理解の範疇を超越している。
速度も凄まじいが、ぶつけた物の大きさ、重さの次元が違う。
魔法でも大質量物体をぶつける魔法はあるにはあるけど。
さすがにあんなにでかいものをぶつける魔法はない。
一応『つき』って言う魔法はあるけど。
あれ月とか言いつつ直径500キロくらいしかないし。
本当の月ってもっと大きいでしょ。
さっきも月に立ったからわかるけどさ。
しかし、そうして砕け散る惑星を見ると、思い出すことがある。
「最初に切り札の試し打ちをした時みたいだ……」
私がかつて、『
速度の限界を超えられることに気付いた私は、速度を鍛えに鍛えまくった。
速度が高いほどに、攻撃力は上昇する。
なら、極限の速さで捻り出した攻撃の威力を知りたくなるのは自然な発想だろう。
だから私は切り札を使って、地面に全力の剣戟を叩き込んだ。
そしたら惑星が砕けちゃってさ。
いやぁ、あの時はほんと凄かったね。
神々がマジギレしながら時を巻き戻したお陰で事なきを得たけど。
おまえ次やったらマジで殺すかんなとまで言われたくらいマジギレされた。
あの時はさすがに悪いことしちゃったかなと思ったよね。
べつに私だって、惑星を砕きたくて砕いたわけじゃない。
あれはただ、思ってたよりも威力が凄かっただけなのだ。
「なんてことを。これでは私の領地は壊滅です」
「領地だけで済むレベルじゃないと思うけれど……」
「それもそうですが」
眼前の光景に、私以外のみんなも唖然としている。
さすがのジルも呆然とした声音でそんなことをこぼす。
コリントが冷静に領地どころじゃないとツッコミを入れる。
「なぁ、これ、戦い終わったらご都合主義で全部きれいに戻ったりとかするんだよな……? なぁ……?」
「勝てたらなんとかなるかもしれませんね」
カル=ロスが難しい顔をしながらそんなことをこぼす。
実際、無事に『アルメガ』を滅ぼすことができれば、そうなる可能性は高いだろう。
神々は人の存在がなければ力を維持できないのだ。
そうした人々の全滅を回避できるなら、力を振るうことに躊躇はすまい。
物質界にみだりに力を振るうことは褒められたことではないが。
これほどの惨事となれば、神々の介入もやむ無しだろう。
そもそも力の介入を掣肘するのはほかの神々の言なので、そんなこと言ってられる場合じゃないと分かるだろうし……。
「……『アルメガ』が再構築をしている」
晶が目を細めて、遥か彼方の蠢く混沌を睨む。
オレンジ色の混沌は蠢き、自分に激突した命の星を取り込む。
砕けた大地の中からずるりと溢れ出すオレンジ色の混沌。
宇宙に散らばった水の中から飛び出す巨体。
さきほどまで私たちが戦っていたものよりも巨大な。
だが、サシャがぶつけたことで大きくその質量を減じさせた『アルメガ』。
私たちが戦っていた時の、3倍以上の大きさはあるだろうか。
すべての命の
それの4分の3ほどの大きさという方がまだしも理解できるか。
「想定よりも威力が低い……! それでも神々ですか!」
「乾坤一擲なんだから、全部使い尽くす勢いでぶつけてくださいよ!」
「こんな、こんなはずでは……!」
「これ、なんとかなる、のか……?」
『アルバトロス』チームの狼狽の声。
その声音に、私は不吉なものを感じて問う。
「カル=ロス……まずい状況なのかな?」
「かなり、まずいです……」
苦り切った顔でこぼすカル=ロス。
その顔は苦渋の色に満ち満ちている。
「『アルメガ』を撃破するにはいくつかの制約を超える必要があります」
「手短に」
「『アルメガ』の不死性は光に寄生することにあります。その作用を実現するためにサイキックが用いられています」
「それは聞いた。そのサイキックを遮断することで『アルメガ』を撃破して来た……つもりだったと『トラッパーズ』に聞いた」
「ですが、お母様は光の速さで殴るという物理法則に敬意を払わない攻略法を提示しました」
「私にできるのはそれだけだからね」
「しかし、超光速攻撃をするにせよ、その破壊の伝播は超光速とはいきません」
「なるほど?」
まぁ、それはたしかにそう言われてみるとそうだ。
光を超越する速度でぶん殴ったとしても。
それによって発生する破壊の伝播はたしかに超光速ではない。
ふつうに、その物質の特性に沿った速さで壊れるだろう。
「光寄生サイキックの発振には限界がありますが……体が大きければ大きいほどに、その限界の問題点を帳消しに出来るのです」
「1秒に1回しか発振できないとして、その1秒間の間に全身を破壊しつくさないといけないってことかな」
「超光速による無限質量の作用限界、そしてサイキック発振周波数の限界……そこから鑑みるに、許容できるのは月の2倍までのサイズなのです」
遠方に見える『アルメガ』の大きさはすさまじい。
さきほど砕け散った月と比べても、3倍以上はあるだろう。
あきらかに月の2倍のサイズなんて生易しいものではなかった。
「晶。やはり、難しいですか」
「無理……ですね。私が命を賭しても、“彼ら”が全力を振り絞ったとしても。このサイズでは、封止しきれない……」
「残念です……」
「なにもかも、無駄だったというのですか……」
『アルバトロス』チームが嘆きの声を発する。
そんな彼女たちの嘆きの声に、他の皆にも動揺が走る。
そして、晶が懐から奇妙なものを取り出した。
それは円筒形の、握り締めやすいサイズのもので。
親指に当たる部分に、赤い色に塗られたボタンがついていた。
「晶! まだそれは! そのスイッチを押しては!」
「まだ何か手があるはずです! その自決用スイッチを押してはなりません!」
「このクソアマをとっちめろ!」
「カル=ロス! 時とか止めてください! 時止める弾あるんでしょ!?」
『アルバトロス』チームの子たちの発言から伺える内容。
その言葉の意味を理解して、私は晶の手の中に納まるものの意味を知る。
それはたぶん、毒薬とか、そう言うものが封入された道具で。
そのボタンを押した瞬間に、晶は死ぬと、そう言うことなのだろう。
「晶、待っ――」
止めようと手を伸ばし。
そして、晶は叫んだ。
「いいえ、限界です。押します」
カチンとごくシンプルな音がして。
そして……そして……何も起こらなかった。
「……?」
「この自決用スイッチ、自決用ナノマシンが封入されてるんですけど。使用済みなんで空です」
「え、あ、うん……?」
「ですが、このスイッチには、ある機構が搭載されているのですよ」
「それは?」
「押した人間を識別し、その人間の所在地を、超次元的に発信するという機構……このボタンを押した、命を諦めた馬鹿者を助けに行くための機構がね」
そう言いながら、晶は笑って手にしていたものを投げ捨てた。
その姿を見て、『アルバトロス』チームはじたばたと暴れ出した。
「あーあ! これで私たちが必死こいて頑張って来た結果がぜーんぶ台無しです!」
「チッキショー! これでお父様とお母様からお説教ですよ! あーあーあー!」
「うわぁ、次元がギッシギッシ言ってるの聞こえるぅ……やばいですよこれぇ……」
「よくもまぁこんな無茶苦茶やったもんですね、あの人たち……」
『アルバトロス』チームがヤケクソ気味に叫んでいる。
その様子に『アルバトロス』チームを除いた面々は困惑のし通しだ。
私もなにがなんだかといったところで、なんで叫んでるのか謎だ。
「クライアント。第2ラウンド開始です」
「と言うと?」
「以前に聞いたと思われますが。『アルメガ』のサイキックを封止することで、『アルメガ』を撃破していたと『トラッパーズ』や『グレイスメイデン』は語ったでしょう?」
「うん……?」
「そして、クライアントは超光速攻撃でその封止無しで倒そうとした」
「うん、そうだけど……」
「なら、その2つを同時にやれば最強では!?」
「そうかもだけど」
けど、その『グレイスメイデン』はもういない。
『トラッパーズ』に後事を託し、別惑星に旅立っていったと聞いた。
「でも、その『グレイスメイデン』は……」
「ええ、そうです。“こっち”では呼べません。数光年は離れたところにいるでしょうね。連絡をつけるだけでも年単位です」
「……こっち?」
「クライアントは、『グレイスメイデン』に会ってますよね。私もそうですし。そして、私のママも」
私がかつて療養で向かった先で会った、晶の母親……いや、父親。
彼とはスケベな本を回し読みする仲になったけれど。
たしかに彼は『グレイスメイデン』のメンバーだと言っていた。
麗しい淑女、の通り名を持つ男性ってなんだよとは思ったけど。
「そう、数光年離れたところにいる『グレイスメイデン』が呼べないなら……20年後から呼んで来ればいい!」
「ワハハハ! 20年後の未来から大人数、大質量呼んだせいで、連結地帯はメチャクチャ!」
「これで向こうの地球にも迷宮が発生するようになるんだろうなぁ! 霞が関の皆さんごめんなさい!」
「でも背に腹は代えられないんです! マジですみません! 許してください!」
『アルバトロス』チームが叫ぶ中。
空間を捻じ曲げて、それはこの宇宙へと姿を現し始めた。
転移魔法のそれと似たような空間の歪みの感触。
それを伴って表れるのは、鋼によって作られた奇怪な
最新鋭の軍艦である甲鉄艦のように、全体を装甲で覆った異様な外見の船。
それはすさまじく巨大な砲を備え。
その甲板の上に、睦美が駆るライデンと同じドラグーンなる兵器が屹立し。
ドラゴンの頭部を模した艦首、そのドラゴンの瞳がぎらりと輝きを放っていた。
それは私たちを、下から掬い上げるように乗せ。
私たちはその鋼によって作られた船の甲板に足を落ち着けた。
『ふふふ、騎兵隊のお出まし、と言うわけです。本当にお呼びがかかるとは思いませんでしたが』
その艦から響いて来る声は聞き覚えのあるもの。
睦美のエッチなママである克己の声だった。
この戦艦を操っているのは克己なのだろうか?
そして、戦艦の扉が開いたと思うと、そこから出て来る影。
それは私にとっては見知った顔がいくつもあって。
同時に、知らない顔もいくつかあった。
ただ分かることは。
ここに集った人たちが、『アルメガ』と戦う意思があること。
だれもがみんな、世界の未来を守るために戦う意思がある。
そして、その先頭に立つ者。
黒い髪に黒い瞳の秀麗な相貌の青年。
彼に向かって私は苦笑いを浮かべて謝る。
「ごめん……私の力不足だった」
「謝罪は不要だ。そう言うことはある」
「許してくれるの? あれだけ啖呵切った癖に、結局は助けてもらってるのに」
「そう言うことはある。そう言うことはあるのだ、稀人よ」
私に、世界の未来のために助力を乞うた人。
結局、私は彼の求めたような結果を出すことはできなかった。
「私はこの老骨にしか天下太平の任が担えぬならば、いっそ滅んでしまえと言った」
「うん、だから……」
「だが、その任を必死で担い、世界の未来のために命を賭して戦う者を後目に、安穏と過ごせるほど恥を知らぬでもないのだ」
聚楽氏は以前よりも少しばかり人間味を増した笑顔を浮かべる。
「われらの住まう世界の未来のため、われらもまた身命を賭して戦うは当然であろう」
「そっか。なら……私から言わせてほしい」
「ふむ?」
「私はこの世界が好きなんだ。滅んで欲しくない。だから、この世界の平和のために、手を貸してもらえないかな?」
そんな私の願いに、聚楽氏は静かに頷いた。
「任されよう」
「ありがとう」
「礼は不要だ」
「それでも、ありがとう」
「ならば、そなたもまた戦働きで謝意を示すがよい」
「うん、そうする」
私は笑って。
聚楽氏は静かに頷いた。
さぁ、戦いを続けよう。
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