あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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18-023

「『グレイスメイデン』の人が来たならやることはひとつ! お願いします先生!」

 

「ヤクザの用心棒みたいな呼び方はやめてもらえますか、晶さん」

 

「お願いしやすアニキ!」

 

「ヤクザの若頭みたいな呼び方もやめなさい」

 

 辟易したように言うレイ。

 『グレイスメイデン』のメンバーだという彼。

 彼はなぜか、ずいぶんと装飾過多な洒落たメイド服を纏っていた。

 パーラーメイドが着てそうな感じのメイド服だった。

 

 そして、彼が引き連れるのもまた、そんなメイド服姿の集団。

 イロモノが過ぎないだろうか。なんなのこの人たち。

 

「まず、すべきことはひとつです。アポートチーム!」

 

 パチンと音を立ててレイが指を弾く。

 それに呼応するように、アクセサリーや染髪でしか区別のつかないほど容姿の似通った人物が前に出る。

 

「タイトさんを強制召喚してください。どうせ死んではいません」

 

「アイアイマム」

 

 その人物が頷いて、私たちの目の前で強烈なサイキックの波動が弾けた。

 こんな出力のサイキックが人間に使えていいのかと思うほどの超密度。

 そして、それは一瞬後に結実し、以前にも見た白い端正な服装のタイトが姿を現した。

 

「これは……来ていたのか、『グレイスメイデン』」

 

「大変に型破りなやり方ですがね」

 

「無くしたとか言って探し回ってたセクサロ」

 

「わああああ――――!! お久しぶりですねタイトさん! お元気そうで何よりです!」

 

 セクサロ……以前にレイが言っていた、セクサロイドとか言うやつだろうか。

 具体的にそれが何なのかは不明だったが。

 文脈からしてえっちなことができる道具なのは間違いないだろう。

 

「ふむ。この話題で過剰反応するということは偽物でもなさそうだ。元気そうでなによりだ」

 

「あなたこそ」

 

「下半身の方は元気か。勃起不全は治ったのか」

 

「死んでください」

 

「可哀想にな」

 

「頼むから死んでください」

 

 しょうもない会話をして苦笑するタイト。

 レイの方は普通にキレてる感じがするけど。

 

「おまえたちがいるならば、勝ちの目が少しはあるか」

 

「それどころか、そちらの彼女が物理法則に敬意を払わない方法で『アルメガ』をどうにかしてくださるそうですよ」

 

「ほう?」

 

「光に寄生するなら、光ごとぶん殴るように超光速で攻撃するそうで」

 

「なんだって?」

 

「ですから、光よりも速く殴りかかるそうですよ」

 

「光速度不変の原理をナメてるのか?」

 

「ナメ腐った上で勝利してしまえるようですよ」

 

「そうか、だから以前に光の速さがどうとか……なるほどな」

 

 タイトは目を閉じて頷き、そして『アルメガ』を見据えた。

 蠢くオレンジ色の混沌はその全身の再構築を終え、両手足五体満足の肉体を取り戻していた。

 『アルメガ』は砕け散った惑星を嘆くように、その両手に砕けた岩塊を抱えていた。

 

 あそこにはかつて命だったものがたくさん転がっているのだろう。

 その中には私の両親、私の愛しい人、そして私の帰りを待っていた人も……。

 

 私たちが負ければ、あの惨事はそのままに終わるだろう。

 そして、私たちが勝利したのならば、神々がなんとかしてくれるに違いない。

 神々だって、あのままでは自分までも滅ぶしかないのだから。

 

「やるか」

 

「やりましょう」

 

 2人は頷く。

 そして、サイキックの波動を放った。

 

「『トラッパーズ』の真骨頂、1人にして1軍たるを見せてやるとしよう」

 

 タイトの周囲に次々と召喚されていく人影。

 それはタイトのお仲間である『トラッパーズ』の面々そのものだった。

 その彼女ら、彼らが、武装もなにもかもコミで召喚されていく。

 

「サイキック組である私たち『グレイスメイデン』と『トラッパーズ』が外を担当しましょう」

 

「俺たちは外側からサイキックを封止しつつ、攻略成功の可能性を上げるために少しでも質量を削る」

 

 私は頷く。

 彼らが身命を賭して戦うならば、私もそうしよう。

 

「私は突っ込んで殴ればいい。そう言うことだよね。得意だよ、速度を上げて物理で殴るはエルグランドの基本だからね」

 

 魔法に耐性のあるやつ、状態異常に耐性のあるやつ、属性に耐性のあるやつ。

 そんなやつ、エルグランドには掃いて捨てるほど存在した。

 そのあたりを一切合切無視できるのが、純粋物理攻撃。

 つまり最終的には速度を上げて物理で殴るがいちばん効く。

 

 物理攻撃に耐性を持つことも可能ではあるけれど……。

 あれはナラカやアストラと言った迷宮では効果が発揮されない。

 そのため、私のような超人級冒険者は物理攻撃耐性を無視する。意味がないからだ。

 だから、私たちには速度を上げて物理で殴るがいちばん効くのだ。

 

「おねがいします」

 

「元より、これは俺たちの戦いのようなものだからな。こちらからお願いする」

 

 私に向けて2人は頭を下げて、船の甲板から飛び出していった。

 宇宙空間を普通に飛んで行ってる。サイキックってすごい……。

 

「こちらは真っ向から突っ込んでいくまで。行きましょう」

 

「克己さん、『アルメガ』の心臓部までよろしくどうぞ!」

 

「最後の最後までエスコートいたしますよ」

 

「それが私たち『アルバトロス』の役目ですからね」

 

 『アルバトロス』チームの子たちが言うように、船が動き出し。

 その動きを察知したかのように、『アルメガ』が私たちへと向き直った。

 砕け散った惑星の残骸を一瞥して、『アルメガ』が私たちへと攻撃の手を伸ばす。

 

 その肉体から、体のパーツが分離するように飛び出して来る。

 手の形をしたもの、足の形をしたものが、無数に迫りくる。

 それはひとつひとつが小山のように巨大な使い魔であり。

 私たちをいともたやすく捻り潰すだろうことは想像に難くない。

 

「露払いは任せよ」

 

「聚楽、任せてもいいの?」

 

「その程度のことはやらねばな」

 

 聚楽氏は静かに腰に下げていた剣を抜き放つ。

 そして、その剣に凄まじい出力の生命エネルギーをみなぎらせた。

 これは私がセリナから習い覚えた気功のそれに類するエネルギーだった。

 

「秋雨、そなたもだ」

 

「はい、お父様」

 

 その隣に立つ秋雨もまた剣を抜き放つ、気功の力を浸透させた。

 聚楽のそれと比べて、いかにも出力は劣るように見えたが。

 命を賭してでも最高の一撃を放たんとする気概が見えた。

 

「この一斬(いちざん)にて(いくさ)(けっ)する」

 

(ゆえ)にその名を決戦奥義(けっせんおうぎ)と成す!」

 

 2人が同時に剣を大上段に構える。

 そして、2人が同時にその剣を振るった。

 

「決戦奥義『百雷光(びゃくらいこう)』! 参る!」

 

 放たれるのは凄まじい雷光のエネルギー。

 それは空を舐め尽くし、空間を焼く雷撃となって奔る。

 迫りくる『アルメガ』の使い魔を一瞬に焼き払う一斬。

 

「なんて威力……気功武術の出力が無法過ぎる!」

 

「あのバカ、これを宴会芸でパナそうとしてたんですか!」

 

 喚く『アルバトロス』チームの声でふと思い出す。

 そう言えば、『トラッパーズ』のところで宴会をやった時。

 たしかに秋雨はこの奥義『百雷光』なる技をぶっ放そうとしていたような。

 

 止めてよかった。止めてなかったら、あの場にいた人みんな死んでたんじゃ。

 いや、さすがに秋雨ひとりだとここまでの威力はないかもだけど。

 

 私たちの前で放たれた決戦奥義なる技。

 それは迫りくる『アルメガ』の使い魔の群れをことごとく焼き払った。

 

「はぁ、はぁ……すみません、あとは、おまかせします……」

 

「往け。道は切り開いた」

 

 『アルメガ』までの道が啓開され、船は加速する。

 私たちは宇宙を駆ける矢のように鋭く飛んだ。

 

 

 

 『アルメガ』の体表が沸騰する。

 蠢く混沌の肉体から、無数の針のようなものが飛び出して来る。

 それは私たちに向けて、凄まじい速度で飛来してくる。

 

 それに呼応するように、船の上にある無数の銃が火を噴く。

 それは迫りくる針のようなものを次々と撃ち落していく。

 

『喫茶店のマスターがなんで対空砲の担当なんだよ! 普通は厨房とか担当だろ!』

 

『バカスカ撃ち落しておいて、それはないです。我が方の料理の天才にその程度の散発的な攻撃では無駄です!』

 

 克己の声と共に、船が揺れ動く。

 それはすばらしく繊細な動きで迫りくる針を躱し。

 あるものは撃ち落し、あるものは防ぎ。

 甲板の上を走り回っているドラグーンも迎撃を行っている。

 

『まったく、睦美ったら情けないわね! この責任は克己に体で払ってもらいましょうか!』

 

『それがいいわ! きっと克己がエッチなおもてなしをしてくれるわ! 子供のやったことなんだから親が責任取らないとね!』

 

『だまらっしゃい!! 黙って戦いなさい!!!』

 

 親し気な様子で克己と声を交わす、よく似た声の2人組。

 察するに、この2人組が克己の恋人だという人物だろう。

 克己が照れを含んだ声でブチキレているのに嫉妬心が沸く。

 克己を乱れに乱れさせまくった上で、睦美と仲直りさせたのは私だぞ……!

 

 

 嫉妬に狂う中も、船は恐れを知らずに突き進んでいく。

 甲板上の私たちはその戦いの嵐に静かに耐え凌いでいる。

 激しい激突、そして弾ける炎、砕ける鋼と肉。

 頭上で繰り広げられる壮絶な戦い。

 

『さぁて、そろそろ目標地点に到着です。みなさま、お降りの際は手荷物などお忘れでないように願います』

 

『車内販売がまだ来てないわよ』

 

『キャビアとシャンパンのサービスはまだ?』

 

『艦首にエネルギーラインを全段直結。ビームラムチャンバー正常加圧。解放タイミング、トリガーコマンド、アイコントロール』

 

『ちょっと待って。マジでぶつけるつもりなの?』

 

『いいわよ、いいわよ。私はそう言う馬鹿が大好きよ!』

 

『パスコード入力、BRAVO・TANGO・SEVEN・TWO・SEVEN・FOUR』

 

『カッ飛ばしなさいよ克己!』

 

『向こう側までブチ抜きなさい!』

 

 そして、私たちは『アルメガ』の眼前にまで辿り着いて。

 船の先端に、巨大な光の剣が産み出され。

 それは『アルメガ』の心臓部を貫くように激突した。

 

 弾ける光の渦。それは『アルメガ』の胸を穿ち。

 しかし、あるタイミングで突然船がガクンと止まる。

 

『ピッチングを!』

 

 克己がそんな指示を出し、私は戸惑う。

 ピッチングっていったいなんだろうか?

 そう思ったのも束の間、私の身体が突然なにかに掴みあげられる。

 

 それは甲板上で戦っていた人型兵器、ドラグーンだった。

 私の身体に突如としてかかる荷重。それは『アルメガ』へと向かうもの。

 ドラグーンが、その腕で私を放り投げたことを理解した。

 

 克己の恋人2人が操っていた2機が次々と人を投げ飛ばす。

 なんて無茶な人員輸送なんだろうか。

 受け身うまくないと体壊すよこんなの。

 

 次々と投げ飛ばされていく人々。

 速度が衰えて来たところで、私の身体を再度掴む手。

 それはずいぶんとボロボロになったドラグーンの姿で。

 

『ライデン、もうちょっとだけ頑張って!』

 

 いつの間にやら先行していた睦美が、私を再度投げ飛ばす。

 さらに加速して飛んでいく私は見る間に『アルメガ』へと迫っていく。

 また肉薄し、その体表にまで到達することができそうだった。

 

『悪いけどあとは任せたわよ』

 

『あとは、あなたたちの役目よ』

 

 『アルメガ』の巨大に過ぎる手が船を握りつぶす光景が見えた。

 さきほどまで聞こえていた、克己の声も、その恋人2人の声も。

 そして、船の中にいたのだろう、他の面々の親たちの声も。

 そのすべてが聞こえなくなって、私たちは悪魔の巣へと降り立った。

 

 続々と着地する面々。

 そして最後に睦美が着地して来た。

 

「ライデン……」

 

 見上げる先には、半壊したドラグーンの姿。

 最後の最後まで戦い抜いて、最後に主である睦美を投げ飛ばしたらしい。

 そして、そんな睦美の真横に、巨大な人型が着地した。

 

「スコーチング・タイタン……私のドラグーン。お母さんが最後に……」

 

『おかえりなさい、リンカー。冷房を再起動します』

 

「あと、もう少しだから……」

 

 睦美は涙を呑み込んで、その人型、ドラグーンへと乗り込んでいく。

 今さっき、育ての親である克己を喪って。

 その恋人……睦美にとっては姉とも親とも言えるだろう存在をも喪って。

 それでも毅然として弱いところなど見せずに立つ。

 

「負けられないね」

 

 元から負けられないけれど。

 もっと負けられなくなった。

 私たちの肩に2つの世界の未来がかかっている。

 

 私たちは最後の戦いへと臨もうとしていた。

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