あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 『ハンターズ』を置いて、私たちは先へと進む。

 彼女たちは生き残ってくれるだろうか。

 可能性としては、かなり低いように思えた。

 

 いろいろな可能性が頭の中をよぎっていく。

 ああすればよかったとか、こうすればよかったとか。

 考えても仕方のないことばかりだけれど。

 

「ここですね。隔離空間の結節点」

 

 晶がサイキックによって探知した次の空間への入り口。

 そこに私たちは揃って突入し、次もまた同じような空間が広がっている。

 こんな空間がいくつも続いていると、果てがない。

 

「晶、この足止めをいくつもやられるとキリがないけど、どこかで一挙に突破とかはできないのかな?」

 

「空間を叩き壊すこと自体はできますが、それをやると隔離・拡張されていた空間がもとに戻り、結果的に圧縮されてしまうので……さきほどのキロメートル単位の拡張に比べれば小さいですが、それでも数倍には拡張してるはずです」

 

「なるほど?」

 

「クライアントの鋼の肉体ならなんとかなりそうですが、それ以外の面々がぺしゃんこです」

 

「なるほど、それは困るね……」

 

「空間拡張は連続させることが困難です。相手もおそらく、こちらの戦力を削ることを前提にやってるはず」

 

「さっきの『ハンターズ』みたいに、ってこと?」

 

「あわよくば、それで勝利を収めたいと思ってはいそうですがね。戦力をほぼ確実に削れる手堅い選択肢として選んでいるでしょう」

 

 そうして戦力を削られ切った果ては、敗北なのだろう。

 相手の思惑に乗る形でしか戦えないのは私たちの弱さゆえ。

 いや、私が最初にしくじったせいか。口惜しいばかりだ。

 

「『アルメガ』が超絶のサイキックであるにせよ、大幅にサイキック封止された状況では振るえる力も少ない。おそらく3つや4つが限界のはずです」

 

「そうだと、いいんだけど……」

 

 こんなことなら『てのひらのはめつ』を速めに補充しておくべきだった。

 アレを使えば、さきほどの化け物みたいな飛竜も一瞬で消し飛ばせた。

 ただ、あれはエムド・イルの超科学文明の産物な上に、終末兵器のひとつ。

 文明終焉を招いた道具なだけに、その数は多数あるとは言えない。補充はけっこうむずかしい。

 

「進みましょう」

 

「うん」

 

 私は晶に促されるままに前へと進む。

 『ハンターズ』たちの騒がしい声がどこにもない。

 それが、とても寂しいように思えた。

 

 

 さきへと進み。

 そして、空間から滲み出すように現れるそれ。

 それは圧倒的な巨躯を持つ人型だった。

 

 睦美の駆る兵器、ドラグーンに似たそれ。

 だが、その外観に明らかな生物的特徴を備えたそれ。

 その異様な巨躯の怪物は私たちに猛然と襲い掛かって来た。

 

 四肢と頭部を兼ね備えた、全長20メートルを超える巨人。

 私たちの知る、いずれの巨人にも合致しない、オレンジ色の沸騰する混沌。

 言うなれば、小型サイズの『アルメガ』とでも言うべき存在。

 それは刃状に形成された骨を腕から振りかぶる。

 

「あらあら~。これはちょおっと生半な手段では対抗できそうにないですね~」

 

 それに呼応するのは、カイラの操る巨大な鎧武者。

 手にした巨剣が骨の巨剣と激突し、激しい剣戟音が響き渡る。

 漆黒の鎧武者の振るう剣は、その装甲と同じ漆黒の刃。

 カイラが製造している、パペテロイとか言う特別仕立ての金属だろう。

 

「私のあなた。ここは私におまかせくださいな~」

 

「カイラ……」

 

「あらあら~。なんて顔してるんですか~。そんな悲しそうな顔して、かわいいですね~」

 

 ニコニコと笑うカイラ。

 眼鏡の下に覗く瞳は静かな愛情を湛えていた。

 思えば、なによりも真剣に私を求めていたのは彼女かもしれない。

 

 私にすべてを捧げて、私のすべてを求めた人。

 私はそれに応えることができなかった。

 私のすべてを捧げることは私の信念からできない。

 それでも、その一瞬だけを捧げてくれればいいとカイラは言った。

 

 可愛いけれど、メッチャ怖い子。

 でも、真剣な愛ほど怖いものなのかもしれない。

 それだけ彼女は本気で私を求めていた。

 

「カイラ……帰ったらいろいろしようね」

 

「はい。いろいろしましょうね~?」

 

 カイラはほがらかに笑って頷く。

 彼女のことをもっと知りたいし、知って欲しい。

 いや、なんか私のことを相当知ってそうな気配はあるけど。

 さすがにエルグランドでの私の言行とかは知らないだろうし……。

 

 まだこれから、カイラとはもっと親密になりたい。

 その果てにバッドエンドが待ち受けてそうで怖いんだけども。

 それはそれで一興かなと思わなくもないので、まぁ。

 

「それではまた、お会いしましょう~」

 

「うん、また、ね」

 

「はい、またね~」

 

 カイラは最後に可愛らしくぴこぴこと手を振って。

 真剣な顔で敵へと向き直った。

 

 『世界樹の王(エトラガーモ・タルリス・マギ)』のメンバーと共に。

 彼女たちは勇ましく戦いへと赴いた。

 

 

 

 

 カイラは指に繋げた繰り糸を介し、『大悪尉(おおあくじょう)』を操る。

 伝達された運動信号に従い、『大悪尉』が動き出し、その動作が増幅。

 手にした巨剣が縦横無尽に振るわれ、退治するオレンジ色の巨人と剣戟を交わす。

 

「うふふ……楽しい。楽しいですね~」

 

 その状況の最中にあって、カイラの顔にあるのは笑みだった。

 

「ああ、楽しいな! 私たちの鍛えた力が、人々のためになる! それが世界を救うほどの規模となるとは、昂らないわけがない!」

 

「そうだね! きっと、この時のために私たちの日々があったんだって、そう思えて来る!」

 

 リーゼとリゼラはそんな純粋な善意でこの状況を楽しいと評した。

 2人ともに善性の人間であり、高潔な使命を前向きに考える人間だ。

 英雄とはまさにこのような人間であろうとカイラは考えている。

 

「私はあんまり楽しかないな。だが、勝って帰った後の晩酌は最高だろうよ」

 

「うへ~……私もあんまり楽しくなぁ~い……でも、すごい状況だよね~……」

 

「私みたいに陰気な人間には似つかわしくない晴れ舞台よね」

 

 一方で、『世界樹の王』の陰気組はそんな調子だった。

 だが、『世界樹の王』とは元からそう言ったチームだった。

 チーも、トキも、スアラも、そしてカイラも。

 みんながみんな、リーゼとリゼラの真っ直ぐな輝きに惹かれて集ったのだ。

 

 この燃え盛る熱血冒険バカの姿を間近でみていたい。

 そんな気持ちで『世界樹の王』は結成されたのだ。

 

「うふふ……私みたいなのがこんな晴れ舞台にまでくるだなんて、思っても見ませんでしたね~」

 

 カイラが冒険者になった経緯は、いろいろと複雑なものがある。

 

 『世界樹の王』が結成される以前。

 カイラは冒険者と言う仕事に絶望していた。

 もうこんな仕事はうんざりと逃げ出した。

 

 カイラがカイラと名乗る以前のこと。

 姿かたちを変えて、名も変えて、ソーラスに舞い戻るよりも以前。

 カイラは所属していた冒険者チームで搾取されていた。

 

 カイラは高度な技術と知識、そして技能を持っている。

 その上で、それを高度に運用するだけの技量もある。

 冒険者チームのサポート役としてカイラ以上の人間はそうもいない。

 その上で正面戦闘能力も十分以上に持っているのだから。

 そんなカイラを便利に使い倒せれば、そのチームが名を挙げるのは当然だ。

 

 カイラは搾取され、それで冒険者の仕事に絶望し。

 いろいろとやさぐれて、闇の技術開発に傾倒したりしている中。

 ソーラスを訪れた、リーゼとリゼラに出会ったのだ。

 

 カイラは貧民とか乞食で人体実験をする日々にも飽いていた。

 そこで、冒険に誘って来た彼女らの冒険に同行してみることにした。

 ロクでもない連中だったら人体実験にでも使うかと酷薄なことを考えながら。

 

 そして、真摯な冒険者チームの熱意に触れた。

 こんなチームなら真面目にやっていくのも悪くないなと思って。

 初冒険から帰る帰路の最中、運命に出会った。

 

 君可愛いね、と開口一番に誉め言葉を投げかけ。

 それからカイラをお姫様扱いして言葉巧みにナンパして来た金髪の女たらし。

 それはとんでもない大悪党だったとしか言いようがない。

 

 カイラの情緒を粉々に破壊して。

 もうそれ以外なにも目に入らなくさせた大悪党。

 

「ああ、楽しいですね~」

 

 そんな大悪党は冒険が大好きで。

 だから、自分も冒険を大好きになろうと思った。

 

 人に言えば、賛否両論の嵐だろうけれど。

 カイラは好きな人のために変わるタイプの人間だった。

 そして同時に、自分を擲ってまで尽くすタイプの人間だ。

 

 だからここまで来た。

 世界を救う戦いの晴れ舞台。

 いや、世界はもう滅んでいるのかもしれないが。

 さきほど惑星を丸ごとぶつけて壊れてしまった。

 そうだとしても、カイラにはどうでもいい。

 

 自分がいて。

 愛しい人がいる。

 

 それでカイラにとっては十分だ。

 そこに仲間もいればなおよしだ。

 カイラにとって重要なのはそう言う狭い世界だ。

 世界のためなんて、そんなのはどうでもいい。

 

 だが、自分と愛しい人のためには世界が必要だ。

 冒険が大好きな女たらしと、冒険に憧れる仲間たち。

 そんな大切なみんなが世界が大事だというのならば。

 カイラもまた、世界のために戦おうと思える。

 

 カイラはどこまでも自分勝手だ。

 愛しい誰かが大事だから、そのために自分を擲ってまで尽くす。

 それは献身的なようでいて、逆にどこまでも身勝手だ。

 勝手に尽くす癖に、ちゃんとした見返りがなければ気に入らないというのだから。

 でも、それでいいと肯定してくれる人がいたから、カイラはそのまま自分を貫くことにした。

 

「うふふ……私たちのために、死んでもらわないと困ります~」

 

 『大悪尉』を操り、カイラは剣を振るう。

 意味もなく、目的もなく作られた技術と武具。

 それが今こうして日の目を見て、仲間たちのために役立っている。

 その高揚感がカイラを満たしていた。

 

 今日も明日も、カイラは変わらないだろう。

 カイラは自分勝手で、そのために人に尽くす。

 カイラ以上に自分勝手な女たらしのために。

 

 そのために世界が必要なら世界だって救おう。

 その中に愛しい人と仲間たちの笑顔があるなら救う甲斐がある。

 そのための技術、そのための力がカイラにはある。

 

 この大陸の冒険者らしくはないカイラだったけれど。

 自分の欲望が最優先で、それ以外には目もくれないさまは。

 奇しくも、愛しい人の生まれ故郷であるエルグランドのそれに合致していた。

 

 エルグランドに移住することになっても、カイラはうまくやっていけるだろう。

 最初はさすがに苦労するかもしれないが、うまく適応できる。

 そして、やがてはその思いの強さから超人級冒険者にまで成長することだろう。

 

「うふふ……楽しみですね……」

 

 そうなったら、どうしてくれようか?

 女たらしと対等の力を持てたら、やってみたいことがたくさんある。

 略奪愛とか、拉致とか、監禁とか、そう言うの。

 いまここに、新たなの悪の芽が胎動していた。

 

「ふふ……さぁ! そうと決まったら、世界を救ってやりましょう~! そして、みんなで冒険しましょうね~!」

 

 未来への希望を胸に抱いて、カイラはそう声を上げる。

 その希望がどす黒い欲望に塗れていても、希望は希望だろう。

 

「うん! やってやろう! そして、私の英雄譚の一幕として自伝に書くんだ!」

 

「そんなこと言って、まだソーラス冒険記の執筆が終わってないじゃないか! サシャに続く、ソーラス探検記出版をみんなが心待ちにしてるんだぞ!」

 

「うへ~、私も手伝ってるけど、リーダーは文章書くの苦手だからね~……」

 

「ふふふ、そう言う頼りないところがあるから支えがいがあるんじゃない」

 

「自伝を書くのは手伝ってやるから、分け前は弾んでくれよ」

 

 仲間たちもまた、胸に希望を抱いて戦っている。

 未来への展望があり、明るい未来を描いている。

 『世界樹の王』たちの希望が潰えることはない。

 その胸に無限に燃える冒険心と希望が輝いている。

 

 また明日が来て欲しい。

 その明日に自分がいたらいい。

 そんな願いを胸に戦っている。

 

「私たちの冒険は、これからですもんね」

 

 誰ともなくカイラはそう呟いて。

 仲間たちへの思いを新たにし。

 愛しい人への情念を深くする。

 

 戦いの終わりは遠いけれど。

 その胸の光が尽きることはない。

 ならば負ける道理などなかった。

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