『ハンターズ』を置いて、次に『世界樹の王』たちを置いて。
大幅に数の減った私たちはさらに前へと進む。
進む以外の道はもはやありえない。
私の周りから女の子たちが減っていくことがつらい。
女の子なんていればいるだけいいのに。
そして、私たちの前にはまた敵が現れる。
それは今までに現れた敵とは相反するように。
とても小さな、けれど、小さすぎはしないもの。
手、足、胴体、そして目玉、歯と言ったような、人体のパーツ。
それがいくつもいくつも転がり、飛び跳ねている。
その悪夢のような群体が集い、人間の形を成していく。
それは蠢き、繋ぎ合わさり、ひとつになる。
やがて、組み上がったそれは私のよく知る造形をしていた。
「ほう、趣味が悪いですね」
ジルが何の気なしと言った調子でそう評する。
その相対する、真っ白い髪と、白い瞳と言う不思議な外見の人間。
それは私の知る冒険者ジル・ボレンハイムと全く同一の姿かたちをしていた。
「うげぇ……自分とおなじ外見のやつが歩き回ってるのは気分がよかないねぇ……」
「儂は儂題材の演劇で見慣れてしもうた。見慣れたくはなかったがのう……」
セリアンとエルマがそんな風に評するように。
ジル以外の面々、セリアンにエルマ、そしてコリントまでもが私たちの前に対峙している。
いまこの場にいる面々をコピーした、と言った風情ではない。
私の知らない顔もいくつかあるし。
いまここにはいないモモロウ他の姿もある。
共通点と言えるものが私には伺い知れない。
「以前の戦いの際に、私たちからデータを採取して複製していたのね……」
コリントが難しい顔でつぶやいている。
以前の戦い……と言うと……。
「星屑戦争とか言われている戦いの時に、コリントたちの力を見抜かれたってこと?」
「ええ。おそらくはね」
ぞろぞろと集って来る敵。
ジルが、セリアンが、エルマが、コリントが。
複製された友人たちの姿を見るのは、ひどく複雑な気持ちだった。
なにが複雑って、こう。
なんというか、そう、べつにふざけているわけではないんだけど。
あのほら、複製するとしても、服までは複製されないみたいで。
ジルも、セリアンも、エルマも、コリントも。
こう、みんなプルンプルンで、ギュッと締まって、むちっとしていて……。
じつに、じつに持ち上げ甲斐があるというか……。
「お母様、柔らかくて重たそうなものを持ち上げる仕草をしないでください……」
「……ごめん」
カル=ロスにそっと手を押し下げられ、私は正気に戻る。
悔しいし、悲しいことだけれど。
私の女好きの本性はどうあっても抑え込めない。
この真剣な場面でやっていいことじゃないのはわかってる。
わかってるんだよ。頭では完璧に理解はしてるんだ。
でも、私の心がおっぱい揉みてぇ~! って叫んでるんだ……。
どうして私はこう、ちゃんとシリアスをやれないんだろう。
自分でもどうしようもないバカだなと自覚はあるんだけど……。
「私たちも、伝統ある言葉を言うことにしましょう。ここは私に任せて、さきに行ってちょうだい、とね」
「うん……ありがとう、コリント」
「いいのよ。本当なら、星屑戦争で私たちが終わらせているはずの戦いだったのだもの。むしろ、あなたに不始末を押し付けてごめんなさいね」
「ううん、想像の中でコリントのおっぱい持ち上げてたのスルーしてくれてありがとうって……」
「…………早くお行きなさい。ここは私たちがなんとかするわ」
「ありがとう……」
またスルーしてくれてありがとう。
コリントの迫真のスルースキルに私は感謝を捧げる。
そして、私たちは次の領域を目指して走り出した。
救いようのないバカを見送って、コリントはひとつ溜息を吐いた。
どうしようもないバカだとは思っていたが、こんな場面でまで色ボケるとは。
だが、そんなバカだから、世界を救う希望を担えるのかもしれない。
思えば、かつての戦いで世界の未来を背負ったのは高潔な戦士ではなかった。
魔法の腕はかなりのものだが、それ以外はどうしようもないろくでなしの放蕩娘だった。
神々とか、世界の流れとか、運命とか。
そう言うようなものが、世界を救う運命の戦士を選ぶのだとしたら。
優れた戦士や、英明な魔法使いなどではなく。
どうしようもない燃え盛るバカを選ぶのだろうか。
そこには何の根拠もないが。
不思議と当たっているような気がした。
迸るほどのバカでもなければ。
その責任の重さに押し潰されるのかもしれない。
「ねぇ、なんだか昔を思い出しちゃうわね」
迫りくる敵を迎え討ちながらコリントは問いかける。
その最中にも、その肉体は刻み付けた闘技で敵に対処する。
複製されたかつての自分たちはきわめて強力な敵だ。
悔しいが、勝ち目はほとんどないと考えていいだろう。
ただの不出来なコピーであれば苦労もないのだろうが。
一体一体が完璧な連携で襲い掛かってくるのだからたまらない。
魔法は使えないが、サイキックで魔法をエミュレートして使ってくるし。
しかも、刻一刻と数は増え続けていて、勝てる余地はかけらもなかった。
「そうじゃのう。あれ何年前じゃったっけ。10年前? 20年前?」
「まだ10年は……経ってないと思うよ、姉者。たぶんだけど」
長生きし過ぎて時間感覚がメチャクチャなエルマとセリアンの姉妹。
2人の能力までもがコピーされ、唯一コピーされないのは武具くらいなもの。
しかし、セリアンの手にするレリックの剣は戦況を打開するほどの性能ではない。
やはり2人も油断なく戦ってはいても。
この戦況を打開するような手札はなく。
じり貧の状況をなんとか維持し続けるだけ。
勝ち目のない戦いを前に神経をすり減らして持続しているだけだ。
「星屑戦争は7年前ですね。懐かしい話です」
ジルは油断なく、それでいてそこそこの余裕を残して対処をしていた。
だが、ジルの持てるリソースを使い切れば、その余裕は瞬く間に瓦解する。
元々ジルの戦闘力はかなりピーキーな構成のものだ。
優位な時、自分の流れを保持できる限りは無敵に近いが。
逆に相手に流れを取られれば、そのまま瓦解するほど脆くもある。
先手必勝の基本原理を先鋭化させ続けた先にジルの戦法はある。
同格以上の敵との連戦が延々と続く状況など想定してはいない。
「世界を救うようなバカなんて、後にも先にもあの子1人だけだと思っていたのだけどね」
コリントはかつての冒険を懐かしむ。
あの飄々としていて、形容のしがたい不思議な冒険者の少女。
リフラ・ハーベスタル・ルイと言う、コリントの友達との冒険を。
いや、あれはそもそも本当に冒険者だったのだろうか。
根っからの風来坊気質で。
それでいて義理人情に篤く。
そのくせどこか投げやりで。
だというのに人を惹き付ける。
いちおう、冒険者という肩書を持ってはいたけれど。
あれはやはり、冒険者なんて枠組みで語れるものではなかったように思う。
「いつの時代も1人や2人はいるのでしょうね。ああいう底抜けのバカが」
ジルも感慨深そうに、かつての友人のことを評した。
いまどこでなにをしているのかもわからない、謎多き友人。
さきほど惑星が丸ごと滅んでしまったので、おそらくは死んだのだろうが。
だが、惑星が無事に復活することがあれば。
かつてと変わらない飄々とした様子でのらりくらりと生きていくのだろう。
そんな確信が持てるくらいに、リフラは独特な人間だった。
「あら、あなたもかなり突き抜けたバカの類だと思うけれど?」
「私はダメです。私はルールに縛られる側ですから。ルールを突き抜けてはいけないのです」
そう言ってジルは苦笑気味に自分を評した。
自分自身の生きた道、選んだ道筋に後悔などありはしないし。
ルールに縛られることを選んだのはジル自身だが。
そのルールを無視して突き進んでいく姿には、憧れるものがある。
だからジルはリフラの友人なんてものをやっていたし。
ロクな見返りもない最終決戦にまで駆け付けたのだ。
最近知り合ったエルグランドの冒険者もそうだ。
あそこまであけすけに女好きなのが面白過ぎた。
依頼の報酬が魅力的だったというのも本音ではあるが。
「でも、そんなバカにロクな見返り無しで付き合ってるのよ。私たちも大概バカなんでしょうね」
「なるほど、それを言われると弱いですね」
2人は笑い合って、自分たちもバカだと認めた。
結局のところ、こんなところに立っている時点で救いようのないバカなのだ。
世界を救う戦いであるという大義名分こそあるが。
結局、バカに付き合ってバカをやっているのだ。
踊る阿呆を見るやつが、阿呆でない保障などありはしない。
「ふふふ、それを言うたら儂らなんぞ、もっと馬鹿じゃろ」
「だねぇ。あたしらなんか見返りないどころか、世界救うのすら関係ないからねぇ」
エルマとセリアンはこの次元とは縁もゆかりもない。
ただの偶然でこの次元に行きつき、成り行きで星屑戦争を戦った。
その果てにいまここにいて、この次元の未来を懸けて戦っている。
べつに、先ほど召喚された時も、応じる理由なんてなかった。
呼ばれているからなんとなく来ただけでしかなかった。
やろうと思えば今すぐ帰ることだってできるし。
そうしたところで、エルマにもセリアンにも、何の不都合もない。
「まぁ、戦う理由なんて、なくたっていいんだよ。やりたいならやればいいのさ」
「儂はこの世界を見捨てたら、寝覚めが悪いからのう」
「あたしもさ。せっかくなら、気持ちよく生きたいもんさ」
「だからできる限りのことはする……それで十分じゃろ」
エルマとセリアンはそのくらいの気軽な調子だった。
世界を救う戦いには似つかわしくないくらいにノリが軽い。
それで勝ち目のない戦いに身を投じて。
1分後の命も知れないほどギリギリの戦いをしている。
それはどうしようもないほどにバカな行いだったが。
2人ともそれを悔いてはいなかった。
「そんでもって、次があったら、また同じことするじゃろうな」
「あたしもだね。あんたらはどうだい?」
「どうでしょうね。なんだか不思議と、バカやってる気はしますが」
「あら、奇遇ね。私もバカをやっている気がしてならないわ」
そんな風に、冒険者たちはひとしきり笑って。
さらに押し寄せて来る『アルメガ』の尖兵たちとの戦いは激化し。
また一層圧を増す戦いに、全員の余裕が消え失せて。
それでも、ここに赴いたことに後悔はなかった。
自らの全身全霊を賭した達成感がそうさせているのか。
あるいは、賭けてもいいと思えるバカに出会えたがゆえか。
「ああ、苦しい! メチャクチャ苦しい戦いだわ! でも、楽しい! いま、すごく充実してるわ!」
「ちょっとわかります。苦戦するって、楽しいことなんですね。ビルド練ってる時が一番楽しいみたいな」
「ふふふ、なんかマゾヒストみたいで嫌じゃな。でも、気分はわかるぞ」
「これも戦士の達成感ってやつさ。はは、楽しいねぇ!」
状況に余裕はないけれど、その心に
戦いすらも楽しむ、心に余裕がある者。
それこそがバカなのかもしれない。
バカは感染するのかもしれないし。
元からそう言うバカだったのが表出したのかも。
いまここにいる4人のバカたちはひたすら充実していた。
この1秒先の明暗すらもわからない状況で。
戦いを楽しんで、世界の未来を懸けた戦いに身を投じていることを喜んだ。
そこにあるのは使命感とか達成感とかではなく。
ただ、理由もなく面白みを見出す自由さだった。
いつまで保つかもわからない。
無事に戦いを切り抜けられるかもわからない。
でも、その状況すらも楽しむ
それこそがバカの真髄なのだろうか。
「ねぇ、これが終わったら、打ち上げパーティーしましょうよ。きっと楽しいパーティーになるわ」
「大丈夫でしょうか。あの女たらしがいたら最終的には乱交パーティーになるのでは」
「なりそうで嫌じゃのう。いやでも男もおるからのう」
「でもさぁ、その男も女にして食っちまうだろうよ、あの子は」
いまから終わった後のことを考えて、4人は笑う。
「それはそれで楽しいじゃない? とにかく、パーッとやりたいわ」
「会場はコリントさんのところでおねがいします。私の領地は滅んだので」
「そうじゃな。コリントのところで頼むうちは手狭じゃからな」
「食料とかは持ち込むからさぁ」
楽しい未来を目指して、持てる力を振るう。
その先がどうなるかはわからないけれど。
少なくとも未来がつまらないなんてことはないだろう。
あの女たらしに、ひとつまみの希望を託して。
4人は絶望的な戦いを続けた……。
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