あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 私たちは次の領域へと進み。

 そして、私たちを待ち受けていたのは、奇妙なほどに落ち着いた空間だった。

 

 それは爽やかな風の抜ける草原で。

 上を見上げれば蒼く澄み渡った空がある。

 彼方を見やれば、壮麗な山脈の数々。

 

 頬を撫でる風は初夏の爽やかなそよ風のように心地よく。

 地面から立ち上るのは生命力に満ちた肥沃(ひよく)な土の香り。

 青々とした草花は人の往来など知らぬげに伸び伸びと育っている。

 

 朝露か夜露か、水滴に濡れる草花。

 そこを歩く小さな虫。それを狙う小鳥。

 さわさわと地面の中で蠢いている虫の気配すらも感じる。

 生命の営みがたしかに存在する。

 

 気付かないうちに、どこかの草原にでも渡って来たかのような。

 私たち人間がごく自然と田舎と考える場所のようだった。

 けれど、『アルメガ』を討つために、私たちはそれを武器として消費した。

 ならば、ここはいったいなんだというのだろうか。

 

「な、なんなの、ここ……」

 

 レインが思わずと言った調子でそんな言葉をこぼす。

 私は唖然としてしまって言葉もなかったが、まったく同感だった。

 

「こっちにおいでなさいな」

 

 どこからか、そんな声が呼びかけられ。

 私たちは全員武器を手に周囲を見渡す。

 そして、私たちが現れたすぐ背後に、非常に立派な作りのガゼボが建っていた。

 

 素材こそ木材だが、質のいい木材をふんだんに使って建てられている。

 その上で手入れは欠かしておらず、見るだけで入ってみたくなるほど美しく整っている。

 そのガゼボの中では、マフルージャ王国では見慣れた蔓草を編んだソファーが置かれ。

 その中央には木製の立派なガーデンテーブル。そこで、お茶の用意をしている人影。

 

「話をしましょう? 冷静に。そして、建設的にね」

 

 そのオレンジ色の髪をした人物。

 その髪色は先ほどまで嫌と言うほど見ていた沸騰する混沌そのものだった。

 嫌な予感が脳裏を駆ける中、クロモリが確かな足取りでそちらへと向かう。

 

「薬師様?」

 

「状況はわかりませんが……敵対的な行動を取って来ない以上、対話の余地はある……のではないでしょうか……?」

 

 クロモリ自身、あまり自信のあることではないようだが。

 その発言に一抹の理があるのもたしかではあった。

 その対話にどれほどの意味があるのかはわからないが。

 あの人物が……『アルメガ』の意を酌む存在であるならば。

 少なくとも、まったく無意味なことではないのではないだろうか。

 

 私はひとつ深呼吸をして、状況を整理する。

 『アルメガ』は討たねばならない。これは絶対の事項だ。

 交渉の余地などありはしないし、刃を収める理由もありはしない。

 対話の余地があったところで、それを考慮する意味はない。

 

「女の子とはいくらでもおしゃべりしたいんだけどね……でも、敵は殺さなくちゃだから」

 

 私は相手の求める対話を拒否することにした。

 すべてを終わらせよう。そして、帰ろう。

 私が生きて帰れる可能性は限りなく薄いが。

 

 そして、私たちが勝利したところで。

 私たちにかつての生活が戻ってくる確証もないが。

 それでも戦わなければいけないのだろう。

 生命の尊厳を守るために、すべてを擲ってでも……。

 

「そう。お話をしてくれないならそいつらを殺すわ」

 

 そう、オレンジ色の少女が何の気なしに言って。

 私を除いた全員、EBTGのメンバーの眼から光が消えた。

 精神系の防御は万全に整えていたはずなのに……!?

 

「その魔法とやら、拡散型端末の精神波を使った意識抑圧ならまだしも、直接的な洗脳に対抗できる強度じゃないわ。いくらセキュリティを高めても、ハナから裏口が作ってあるようなもので……」

 

「みんなごめん!」

 

 私はやむなしと、少女が話すのを無視して剣を振りかぶる。

 傍らの仲間たちを全員薙ぎ払うように『剣群(スウォーム)』を放とうとし。

 

「少しは躊躇(ちゅうちょ)しなさいよ!」

 

 その前にオレンジ色の少女が突っ込んできて、私の剣を必死の形相で掴み止めた。

 すごい。私の動作の予兆どころか、剣戟の軌跡すら完全に読み切って来た。

 サイキックで未来予知かなにかでもしたのだろうかというほどの完璧な動きだった。

 

「なに仲間たちが洗脳されたと見るやまとめてぶっ殺そうとしてんのよ! いさぎよ過ぎて人の心がないわよ! なに『時間回帰/タイム・リグレッション』使わせてんのよ! なんで敵の命を救うためにサイキック使わなきゃなんないのよ! ふざけないで!」

 

「え、えと?」

 

「制圧端末に人の心がないって言われるの相当だからね! 自覚しなさいよ! なんで命を大切にしないのよ!? 仲間の子たちが可哀想だと思わないの!?」

 

「ご、ごめん、なさい……?」

 

 なんで私は推定で敵であろう相手に説教をされているのだろうか?

 内容があまりにも真っ当すぎて、逆になに言ってんだコイツ感がある。

 少女は私の剣から手を離し、後ろ歩きで少し距離を取り、佇まいを直す。

 

「カッコつけて精神的優位に立とうとしたのが間違いだったわ! こう言うのは本音でやるのが人間の流儀よね! だから、こうするわ!」

 

 そして、その少女は勢いよく地面に這い蹲った。

 

「死にたくないから殺さないでください! どうか命だけは見逃してください! おねがいします! なんでもしますから!」

 

 少女は全力で命乞いをして来た。

 

 

 

 あまりにも潔い命乞いに、思わずあっけに取られる。

 手にした剣を振り上げることもできないまま、私は少女の後頭部を見下ろす。

 ツーサイドアップにまとめられた髪型が妙にプリティーだった。

 

「交渉しましょう! あなたにとっても損な話じゃないわ! 私はね、べつに人類が憎いとか、滅ぼしたいと思ってるわけじゃないのよ! 損ではあるけど、人類を捕食せずに次の星に旅立ってもよかったわ!」

 

「もう手遅れだよ。星も壊しちゃったんだ。だから、君も滅んでね。私たちが滅ぶにしても、一緒に滅ぼうよ。それが筋じゃないかな?」

 

 交渉をするには、なにもかもが遅すぎる。

 ただ双方が滅びるだけでも、こいつが生き延びるよりはいいだろう。

 私は最後の切り札を切るべく意識を切り替え……。

 

「あっ、そうだ! 脱ぐわ! あんたに私の裸を見て欲しいの!」

 

「えっ!」

 

 少女が勢いよく起き上がる。

 そして、着用していた礼装みたいな衣服を勢いよく脱ぎ捨てた。

 露わになるのは、髪色と同じオレンジ色の下着。

 その下着も勢いよく脱ぎ捨て、露わになる裸体。

 

「う、うおおおおおっ……!」

 

 なるほどこれはなかなか……!

 出るとこ出てて、鍛えてるのか引き締まってもいる。

 これはじつに抱き心地がよさそうだ……!

 

 って、そうじゃないだろ!

 

 なに色仕掛けに負けかけてるんだ!

 こいつは敵だからブチ殺さなくては!

 私は勢いよく剣を振りかぶり『根之堅洲國死返法(ねのかたすくにまかるかえしのほう)』を起動しようとする。

 

「ちぃっ! そうだ! あんたらも脱ぎなさい! 早く!」

 

「えっっっ!?」

 

 少女の命令で、私の仲間たちも唯々諾々(いいだくだく)と脱ぎだす。

 サシャも、レイン、フィリアも、クロモリも。

 全員が全員、ためらいも恥じらいもなしに服を脱いでいく。

 

 それはある意味でおぞましい光景だったが。

 洗脳催眠シチュも全然イケる私にとっては楽勝で興奮できる光景だった。

 だいたいの性癖に対応できる自分の懐の深さがこの時だけは憎かった。

 

 だが、ストリップは大好物だが、ただそれだけ!

 目移りする状況でこそあるが、戦意が萎えたわけじゃない!

 

「それはいずこか地の国、根の国。黄泉平坂(よもつひらさか)入りていずれの魘魅(えんみ)邪魅(じゃみ)の根源……(ことわり)返せば……」

 

「くそっ、色仕掛けに弱いくせに意志は強いわね! そうだ! 私はすべての生命の原質……逆を言えば、すべての生命を再現することだってできるのよ! ほら、見なさい!」

 

 少女が叫ぶと、突如としてその肉体が蠢き出す。

 見る間に質量が増大し、少女から分離する肉塊。

 それは新たな形を獲得したかと思うと、私の前にその姿をさらけ出す。

 

「やっほー。こんにちは。ねえ、私とイイコトしない?」

 

 それは長身の体躯を持った金髪の美女で。

 その長く尖った耳と、その頬や肩に描かれたボディペイント。

 以前に訓練期間で世話になった記憶も懐かしい、アルトスレアのエルフ、ノーラ・アルマンタインその人だった。

 

 以前の彼女と寸分の差も伺うことはできず。

 私の見る限りにおいて、彼女を偽物と判断できる要素はなにもない。

 状況証拠が彼女を偽物と断じているが、記憶が断定し切れないと言っている。

 

 そのノーラは豊かな乳房を揺らしながら私へと歩み寄り。

 そっと私へと手を伸ばし、その胸元へと私を抱こうと誘う。

 ダメだと分かっているのに、私はその抱擁を避けられなかった。

 

「うおっ! うおおおおおっ!」

 

 柔らかい! あったかい! いいにおい! さいこう!

 おっぱいは最高でおじゃるな! 今夜は眠れないな!

 私の脳みそがあっと言う間にどろんどろんに溶けていく。

 

「か、懐柔には屈しない……!」

 

 私は必死でそう叫ぶ。

 ノーラの重たいおっぱいをそっと下から持ち上げつつ。

 私は託された使命を果たすべく、戦意を振り絞った。

 そんな私の背後から、そっと覆いかぶさってくる熱……。

 

「ねぇ、あなた。私とイイコトしない?」

 

「レイン!? あっ! あっ! 背中におっぱいの感触が! あっ!」

 

「ご主人様。私の耳と尻尾、お好きでしたよね?」

 

「さ、サシャ……! あっ、お耳が! ふあふあくにくにのお耳が!」

 

「お姉様、私の方が胸は大きいんですよ?」

 

「フィリア……! あっ、重い……! 頭に重たいのが……! 」

 

「あなた様、吸って下さい……」

 

「ク、クロモリ……! お、おいひぃ!」

 

 柔らかく温かな女体に包まれていく。

 私の思考が千々に乱れ、蕩けてゆく。

 みんなが私の身体を優しく、そして的確に撫でて揉んで来る。

 それだけで頭が弾け飛びそうになるくらいにキモチイイ。

 

「あ、あぅ、うあ、うあああ……も、もう……もう……」

 

 気が変になる。もうだめだ。

 おかしくなる。耐えられない。

 

 私は、私はずっと我慢してた!

 

 もう、ほんとに、ずっと! ずっと我慢してたんだ!

 『アルメガ』に戦いを挑むために月に飛んだ時も!

 克己の持ち出した戦艦に乗った時も! 『アルメガ』の内部に飛び込んだ時も!

 みんなを置き去りにして、彼女たちが死ぬだろうことを理解しながら走る時も!

 

 すごく気持ちいいのをずっと耐えてた!

 戦ってるだけなのに絶頂するのに耐えてた!

 すごい気持ちよくてイキまくりなのを!

 ずっとずっと、歯を食いしばって我慢してたんだ!

 

 私が超絶の女たらしだから辛うじて動けてたけども!

 まともな人間だったら歩くこともできなかった!

 

 媚薬って通常濃度で使ってもキスされるだけで絶頂するんだよ!?

 それが10倍! キスどころか風が吹いただけで絶頂するよ!

 しかも私はそこそこマゾいけるから、ぶん殴られても絶頂しちゃう!

 

 モモロウの顔見ても気持ちいいし!

 巨人の化け物見ても! ドラゴン見ても!

 複製されたトモとかタイトを見ても超絶に気持ちよかった!

 私って実は男もイケるのかと思ってしまうくらい気持ちよかった!

 仲間が死んでいくのを察しても気持ちいい自分が恐ろしかった!

 性癖が曲がっていくのを自覚できるくらい気持ちよかった!

 

 ここにきてこんなことされたら、我慢できないよ!

 私の身体から力が抜けて、がくがくと崩れ落ちていく。

 10倍媚薬に冒されて戦い続けたツケが今ここにきている。

 

 死ぬ気で頑張って我慢し続けたからこそ。

 私の身体は際限のない快楽地獄に堕ちようとしていた。

 

「か、カル=ロス……レウナ……ごめ、ん……」

 

 私にすべてを託してくれた子が。

 私に命運を懸けてくれた友が。

 その想いが、どろどろの快楽に流されていく。

 

 頭の片隅に残された冷静な部分が叫んでいる。

 ここで屈したら永遠に後悔するぞと。

 でも、身体は快楽に屈し貪欲に絶頂を貪ろうとしていた。

 それを肯定するように私を囲む女体が私を嬲る。

 

「気持ちいい?」

 

 きもちいい。

 気が狂いそうなくらいにキモチイイ。

 脳が液状化したんじゃないかってくらいキモチイイ。

 

「永遠にこの快楽を与えてあげるわ」

 

 永遠。この極上の快楽が、永遠に続く?

 それはきっと至上の楽園なのだろう。

 満たされ切った永遠が私を包んでくれる。

 

「周りの女に飽きたら、いくらでも新しい女を用意してあげるわよ」

 

 いくらでも新しい女の子を?

 それって具体的にどれくらいの数なんだろうか。

 

「10億人くらいはサクッと用意できるわよ。毎日100人食べても、全部食べるのに何万年もかかっちゃうわね?」

 

 あまりにも果てがなさ過ぎる。

 でもそれはあまりにもすばらしい未来だった。

 全世界の女の子とナカヨシになれて、イイコトできる。

 すばらしい。なんてすばらしいのだろう。

 

「気持ちいい上に、文句のつけようもない永遠の楽園があるわ。あなたが好きでたまらない女が何億といるのよ」

 

 それはまったくすばらしい天国と言うほかにない。

 私はとろとろと垂らされる甘い毒に翻弄される。

 

「じゃあ、まずは、このノーラって子から仲良くなりましょうよ。その次は、マロンちゃんって子。ガードの堅かった子も素直にヤらせてくれるわ。最高ね?」

 

 その甘い毒に、私は静かに侵されていった。

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