あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 全身すべてがキモチイイ。

 気持ちよくないところがない。

 呼吸をするだけで気持ちいい。

 

 喉が気持ちよくて、肺が気持ちよくて、胸が気持ちよくて。

 沸騰する思考が弾け、またどこかに繋がり、弾ける。

 焼け付くような快楽に脳が焦がされる。

 

「気持ちいいよね? イイコトしようよ。私になにをしてもいいよ?」

 

 ノーラが私の耳元でささやく。

 それだけで首筋にぞくぞくとした快楽が奔る。

 その快楽は増幅し、私の首筋から股下まで雷撃のように突き抜けていく。

 声を聴かされるだけで絶頂してしまうほどに性感が狂っていた。

 

「さぁ、次の女も用意してあげるわ。どんな願いも望むがままよ? イミテルって子とはしばらくご無沙汰で寂しかったわよね。もちろん用意してあげるし、さらにイミテルの母親と祖母もどう? エルフだから若くてきれいで最高ね?」

 

 私へと際限なく流し込まれる快楽。

 それは果てを知ることはなく加速し続ける。

 望んでやまなかった最高のシチュエーションを好きなだけ再現できる。

 いずれはと思っていた、一時断念中の希望が叶えられる。

 

 性急に迫ったら義実家との関係がこじれると諦めた義母。

 そしてもっとこじれるからまずいと諦めた義祖母。

 そこにさらにイミテルまでも交えた、母娘3代丼。

 考えただけで脳が焼き切れそうなシチュエーションだ。

 

「ここでは好きなだけ女を抱いていいのよ。最高ね?」

 

 流し込まれる毒に私は翻弄される。

 私の欲しいものが無限に手に入る。

 

 際限なく手に入れば人は飽きるものだが。

 私は女の子に関してはさっぱり飽きる気がしない。

 きっと私は永遠に欲望に耽溺し続けるのだろうな。

 私の冷静な部分が、私の欲望に狂った部分を嘲笑している。

 

「だから、ここで永遠に女を抱いていましょう? それ以外なにもしなくていいのよ?」

 

 それは素敵だ。私はそう思って。

 けれど、すぐにそれはつまんないなとも思った。

 

 女の子は最高だ。たぶん永遠に飽きないだろう。

 それだけに耽溺し続けたことがあるわけじゃないけど。

 そんな確信があるくらい、私は女の子が大好きだ。

 

 でも、私にはそれよりも大好きなものがある。

 

 そのためなら、私は大好きな女の子も諦めるだろう。

 その大好きなことの最中は自ら女の子を絶つほどだ。

 それくらい私はそれが好きで好きでたまらない。

 それほどまでに私を魅了してやまないものがある。

 

 私は冒険が好きだ。

 

 女の子と冒険、どっちを取ると言われたら。

 死ぬほど悩んだ挙句に冒険を取るくらい冒険が好きだ。

 冒険のためなら身重の妻を放って旅立ってしまうほどに冒険が好きだ。

 冒険そのものも大好きだが、冒険のための準備も大好きだ。

 

 冒険に使う道具を買い集めたり。

 愛用の冒険道具を手入れしたり、修繕したり。

 冒険のために必要な技能を訓練したり。

 そんなこまごまとしたことも大好きだ。

 

 冒険と言うものが好きでしょうがないんだ。

 だから私はいまも冒険者をやってる。

 一生遊んで暮らせるだけの金は得た。

 だれもが賞賛するほどの名声も得た。

 絶大な魔力、絶大な生命力、比類なき力も得た。

 快楽に耽溺する日を送れる環境も金もあるのに。

 それでも私は冒険者がやめられない。

 

 だって、冒険は女漁りよりも楽しい。

 

 この世界には私の知らないものがたくさんある。

 世界中を見て回ったし、人の知らないものもたくさん見た。

 でも、それでも、世界は私を飽きさせることがない。

 まだまだ私の知らないものがいくらでもある。

 同じ次元の中でもそうなのに、別次元にまで冒険は広がる。

 

 空に見える輝く星たちもそうだ。

 天の光はすべて星で、そこには私たちの住むものと同じ星がある。

 なら、きっとそこには私の知らない世界があって。

 私の知らない人々が生きて、私の知らない文明がある。

 そこを冒険することを想うだけで胸の高鳴りが止まらない。

 

 冒険がしたい。女の子を抱くだけじゃ物足りない。

 

 私の胸にそんな願いが芽生え、それは私の身体を突き動かす。

 快楽と欲望に濁り切っていた頭が冴え、私の意思が目覚める。

 

 オレンジの少女が次々と女を創り出していく。

 それは種々様々の美女美少女たちで、見るだけで幸福な気持ちになれるほど美しい。

 こんな状況でなければ、よだれを垂らして口説きにかかっていたことだろう。

 

「ほら、まずは1000人の美女美少女よ。簡単に口説けない、ガードが堅めの女もたまに口説くと楽しいんでしょう? そんな女も織り交ぜたわ」

 

 オレンジの少女がそう言って笑う。

 まったく、私のことをよく分かってる。

 サイキックで私の思考でも読んでるんだろうか?

 

「さぁ、好きなだけ口説いて、好きなだけ抱きなさい? 女たらし冥利に尽きるわよね?」

 

 そんな言葉に、私はそっと笑う。

 

「女たらしって呼ばれるのはうれしいけど、それよりうれしい呼び名があるんだよね」

 

「へぇ?」

 

「エルグランドの冒険者、って呼び名がね」

 

 そう、私は倫理と常識の墓場であるエルグランドの冒険者。

 色んな意味で終わってるし、イッちゃってる大地。

 そんな地で生まれ育ち、世界に羽ばたいた冒険者が私だ。

 

 欲望に正直で、自分を貫くことにためらいのないやつら。

 それこそが冒険者と言う生き物で、冒険者と言う生き方。

 なら、生粋の冒険者である私も、それらしくやろう。

 

 私は自分を中心に『大源の波動』を発動させる。

 魔力制御によって、私を囲む仲間たちは吹き飛ばさないように。

 しかし、『アルメガ』であろう少女と創り出されたデク人形たちは吹き飛ばす。

 余人には真似できない超絶の魔力制御の真骨頂だ。

 

「女の子とヤり放題ってのは最高だけど、それよりもやりたいことがあるんでね」

 

「がはっ……! なん、で……!?」

 

「冒険がしたいんだ。私の知らないものを知りたい。世界を旅したいんだ」

 

 だから、ここで女の子とヤり放題してるわけにはいかない。

 とても後ろ髪は引かれるけれども、遊んではいられない。

 たぶん、この時のことを長いこと後悔しまくるんだろうな。

 

 『アルメガ』が目標を達した暁には。

 私のことをどうにかこうにか謀殺しようとするんだろうけど。

 そうと分かっていても、世界中の女の子とヤり放題の日々は捨て難いことこの上ない……。

 

「う……? あれ……? 私、なんであなたに抱き着いて……」

 

「やぁ、レイン。目が覚めた?」

 

「ええ……悪い夢を見ていた気分だわ……」

 

 私の背に抱き着いていたレインが周囲を見回して。

 

「私はなにを……」

 

「なんでしょう、世界の裏で暗躍する巨悪が、人を洗脳した挙句にやることが色仕掛けって……」

 

 同じように、サシャやフィリアも正気に戻る。

 サシャはあまりにもアレ過ぎる『アルメガ』の策謀に苦言を呈する余裕すらある。

 

 みんなの眼に理性の色が戻る中、正気に戻らないままのクロモリを引き剥がす。

 この子はちょっと意志薄弱なところがあるので、洗脳の作用が強いのかもしれない。

 こう、浮気と言うか、寝取られ案件と言うか、そう言う方向性で意志薄弱なので。

 

「さぁ、勝って帰ろう。みんな協力してくれるね?」

 

 私の言葉にみんなは頷き。

 『ポケット』の応用で衣服と装備を着用し直し。

 その手に武器を、その胸に戦意を抱いて立ち向かう。

 

「彼方より来りし巨神『アルメガ』! 私はフィリア! フィリア・ユールス! 私は我が名と名誉にかけ、おまえに決闘を挑みます!」

 

 フィリアが高々と手にした盾を掲げ、宣言する。

 手にしたヒーターシールド、その傷だらけの盾は今にも壊れそうなほどに傷付き。

 だが、その信仰心が尽きぬ限り、その盾は決して砕けない。

 

 それはまぎれなき希望の戦士。

 その姿は秩序と善の行いを成し。

 その行いは消えることなき希望を示す。

 悪を討つすべての善なる者の同盟者。

 誉れ高き聖なる騎士、その体現。

 

 その姿を眼にした『アルメガ』が血走った眼でフィリアを睨む。

 空間が歪む感触、超絶のサイキックたる『アルメガ』のサイコパワーが空間を揺らす。

 放たれるサイキックの鞭が猛然とフィリアへと襲い掛かる。

 

「おまえが決闘から逃げようというのならば! その不名誉がおまえの魂を損なうと知りなさい!」

 

 フィリアの大音声での宣言。

 それと同時、手にした『砕けぬ盾』から放たれる眩い光。

 

 フィリアの身体にサイキックの鞭が当たるよりも前に。

 その眩い光がサイキックの鞭を弾き飛ばした。

 

「なんですって!?」

 

 『アルメガ』が驚愕の声を発し、対照的に、フィリアは凛とした態度で叫ぶ。

 

「この攻撃は決闘に応ずる返答と認める! ならば、おまえに決闘のルールを伝えましょう!」

 

 そして、フィリアへと目線をやり。

 私はその目線に頷くことで応える。

 

「決闘は1対1であり、どちらかの命が失われぬ限り決闘は終わらぬものとする! そして、私は私の敬愛する先達、生命の導き手たる者を代理闘士としましょう!」

 

「私はフィリア・ユールスの求めに応じ、身命を賭して彼女の名誉と尊厳を守るべく戦おう!」

 

 フィリアは誉れ高き聖騎士だ。

 それゆえに決闘を自ら受ける権利はもちろん持っている。

 だが、同時に。フィリアは女なのだ。

 

 女には決闘にあたって、代理闘士を用いる権利がある。

 その代理闘士の役目を私が負うこともできる。

 ザイン神のイモータル・レリックたる『砕けぬ盾』の力。

 『誉れ高き決闘』のパワーは決闘の強制にある。

 

 もちろんそれを振り切って逃げだすことも可能ではある。

 だが、そのためにはきわめて強靱な意思が必要だ。

 そしておそらくだが、『アルメガ』にそう言った強靱な意志はない。

 

 『アルメガ』はそう言う部分がひどくちぐはぐな存在だ。

 造られた存在特有の異質さがあり、凄まじい身体能力はあるのだが。

 その意志の力はどうにも非常に稀薄と言うちぐはぐさがある。

 

 『アルメガ』は『砕けぬ盾』の力に抗えない。

 私との決闘に応じる以外の選択肢はない。

 

「迷宮は『アルメガ』に由来するらしいわね。でも、古代巨人帝国が人間を奴隷として投入した迷宮鉱山……おかしいと思わない?」

 

 レインは手にした『無尽の魔導書』を開く。

 そして、そのページがひとりでに凄まじい速度で捲られていく。

 パラパラと連続した音が響く中、そのページがあるポイントで止まる。

 

「古き時代には巨人族文明が隆盛を誇った。人間が地の果てに追いやられ、細々と生きる希少種族になった時代すらあったのよ」

 

 レインが過去の歴史を語る言葉によどみはない。

 だが、その内容はいったいなにを意味しているのだろうか?

 

「なのに、大陸を席巻していた巨人用の迷宮ではなく人間用の迷宮があった……そして、巨人族が人間を投入するために迷宮を作ったという伝承……火のないところに煙は立たない、そう言うことなのね」

 

 レインの手により、その魔導書から読み出される恐るべき術式。

 それは尋常の領域を遥かに超えた呪文であり、余人には余る絶大なる叡智……。

 だが、それは、レインの力をもってすれば、手の届かぬ領域ではなかった。

 

「『アルメガ』。おまえも神ならぬ者が創り出した人造のもの。その力がいかに絶大であれ、人の叡智の届かぬものではない。そう言うこと」

 

 呪文回路に魔力が満ちる。

 それはレインの全魔力を投入しての強引な起動。

 疑いようもない『神話級呪文(ミシック・スペル)』の起動だった。

 

「地の底、果ての国の建国。古代巨人族の滅びの切っ先たる『迷宮創造』の力を知るがいいわ!」

 

 そして、発露したパワー。

 それはきわめて異質なものだった。

 

 私たちを囲うように創り出される異空間。

 私たちが立っていた異質な草原を上から覆うように。

 新たな異次元空間が創造され、それが内部へと綴じられる。

 

 9階梯呪文に『迷路』と言う呪文がある。対象を迷路に閉じ込める呪文だ。

 きわめて強力な呪文で、足止めにはこの上ない絶大な力を発揮する。

 おそらくレインの用いた『迷宮創造』はそれの強化版なのだろう。

 

 かつていにしえの時代。

 巨人族の賢者たちは複数人でこの呪文を用い。

 人間を投入するための、迷宮鉱山を創り出していたのではないだろうか。

 おそらく、『アルメガ』が用意していた、巨人族用の迷宮を触媒として改変する形でだ。

 

 『アルメガ』と私の1対1の決闘。

 そして、『アルメガ』を逃がさない『迷宮創造』の決戦場。

 お膳立てされたこの状況で、もはやしくじりはありえない。

 

「ご主人様……勝って、帰りましょう」

 

 サシャが私の肩に手を置いて、そんな願いを込めてささやいた。

 私はサシャにそっと微笑んで、答えた。

 

「帰るよ。かならず帰る。少し、時間はかかるかもだけど。かならず帰るから……待っててね」

 

 私は名残惜しむようにサシャの手を優しく撫で。

 そして、想いを振り払うようにサシャから視線を外し、敵を見据える。

 『アルメガ』。私の敵。いや、すべての命の敵。

 

 それは必死の形相で逃げようと試みている。

 私と戦おうという意思すらもないのだろうか。

 

 それを見ると、『アルメガ』も決して悪性の存在ではないのだろうなと思った。

 人類が憎いとか、滅ぼしたいと思ってるわけじゃないと、『アルメガ』は言った。

 ただの方便だと思ったけれど、案外それは本当だったのかもしれない。

 

 『アルメガ』は牛や豚を育てて食べる人間のように。

 あの星と言う牧場で人間を育てて食べていただけなのだろうか。

 私たち人間だって、間違っても牛や豚を憎みながら畜養なんてしない。

 むしろ逆だ。元気に育て、美味しくなれよと愛情を込めて育てる。

 その愛情を、殺されて食われる側が嬉しく思うわけもないけれど。

 『アルメガ』は案外、私たち人間を愛していたのかもしれない。

 

 でも、そうだとしても。

 私たちは生きていたい。

 この世界で生きて、冒険がしたいのだ。

 

 あいにく私は生きて帰れないようだけど。

 それならそれでいっしょに死んでやろう。

 そう言うわけだから、死んでくれ、『アルメガ』。

 

「待っ……待って……待って! いやよ死にたくない! 殺さないで!」

 

 『アルメガ』が慌てふためいて、私に必死で命乞いをする。

 命乞いをする時の表情は人間と同じなんだな。

 そう思いながら、私は翅を広げた。

 

「さよなら、『アルメガ』」

 

 私は切り札たる『根之堅洲國死返法(ねのかたすくにまかるかえしのほう)』を起動して。

 だれよりもはやく、なによりもはやく、私は飛んだ。

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