「いいこと? この大陸における迷宮と言うのは、ある種の魔法的な建造物のことを言うの」
魔法的な建造物。
エルグランドにはそう言うのはなかった。
いや、セイフティテントは魔法を使っている。
魔法的な建築物の部類に入ると言えなくもないか?
しかし、テントは建築物と言えるだろうか?
どうも設置物に分類される物のような気がする。
「
ということは、設置した存在が奥底に潜む何かを守りたがっているということだろうか。
「そう言うふうにも考えられるけれど、実際のところはどうなのかはだれにもわからない。分かることは、そこから莫大な財宝が手に入ると言うことだけ……」
莫大な財宝。あなた好みの言葉だ。
換金するための財宝には興味がないが。
強大な武具、希少な品には大変興味がある。
使って有意義でなくてもいい。
手に入れることに価値がある。
「ただ、迷宮と言っても建築物に限られるわけではないわ。その建築物がある広大な森林を含めて迷宮とされることもあるわ」
森は宮と言えるのだろうか?
「実際には迷宮ではないのでしょうけど、その森の危険度が高いから迷宮の第一層とか表層とか……そう言う風に区分されることもあるの」
なるほどとあなたは頷く。
迷宮の主より、道中の敵の方が強敵とかよくあることだ。
最奥に待ち構える魔術師よりもゴキブリの群れの方が強いとか。
「迷宮は莫大な富を生むから、その周辺には町ができるわ。そう言うのを迷宮町とか言うわね」
しかし、それほどの規模で迷宮に挑んでいれば、いずれは迷宮も掘り尽くされてしまうのではないだろうか。
「そうね、そう言う枯れた迷宮もあるわ。でも、現れる生物から得られる素材だけでも栄えた町は生まれるわ。完全に枯れた迷宮と言うのは聞いたことが無いわね」
なるほど。生物が無尽蔵に現れるなら、たしかに。
素材としての価値が高いモンスターと言うのもいる。
鱗がついたままのドラゴンの皮革などは、そのままでもそれなりの防具になる。
その他、希少金属で出来ているゴーレムなども価値が高い。
そうしたモンスターを狩り、素材として利用するのだろう。
「そう言うこと。それで、迷宮なんだけど……近場の迷宮は3つね。一番近いのがソーラス。次がジャメシン。最後にタカゴ」
それぞれの迷宮の特徴は?
「ソーラスは表層が森で、その奥に地下迷宮型の構造がある迷宮ね。未踏破迷宮だから、未踏破地域までいけば成果も期待できるわよ」
未踏破の迷宮と言うのは実にいい。
やはり未踏破でこそ踏み入る楽しみがある。
「そう言うもの? ジャメシンは踏破済みの迷宮ね。城塞みたいな構造の迷宮で、各玄室の守護者を撃破して進む構造になってるわ。出現するモンスターが人型だから戦いやすいって評判よ」
面白くなさそうなのでパス。
素材を得て収入することに否はないつもりだが。
あなたはそれらの行為を冒険と呼びたくない。
「そうね、安定して収入が得られるけど……まぁ、冒険と言うよりは、仕事って感じよね」
実につまらなさそうである。
そもそも踏破済みで、そんな生業が成立するということ。
その作業としての流れも成立しているのだろう。
迷宮の構造も探索済みでマップも作られているに違いない。
ちょっと危険なだけで、ただの仕事である。
「タカゴは未踏破の迷宮よ。海の中にあるのよね……だから探索自体がかなり難しいの」
あなたは眉をしかめた。
実はあなたは泳げないのだ。
エルグランドでは水浴びですら結構な危険行為である。
そのため、水泳をするという機会自体がなく、上手い人もいない。
「あら、そうなの? あなたにもできないことがあるなんて意外だわ」
プールで少女の瑞々しい肢体を堪能するのは大好きなのだが……。
水を身ひとつで乗り越えることはべつに好きではないので……。
「じゃあ、機会があったら泳ぎ方を教えてあげるわ。ふふ、慣れれば楽しいわよ?」
水泳の個人レッスンとは最高に滾る言葉だ。
ぜひとも教えて欲しいとあなたは頷いた。
「熱意があるのは結構なことよ。さて、どこに挑む?」
選択肢がソーラスしかない。
なので、ソーラス。
「もっと遠出すればソーラス以外もあるわよ?」
そこまで遠出するのはまだ
本拠の近くで腰を据えて、じっくりと力をつけていきたい。
フィリアはともかく、サシャにはまだ訓練が必要だ。
「ソーラスを拠点にして、しばらくそこで訓練していくってこと?」
ソーラスにはもちろん挑むが、挑みっぱなしではない。
適宜必要な技術をこの王都で訓練して身に着ける予定だ。
ソーラスが2~3日で探索可能だとは思えない。
その程度の迷宮ならば、とうの昔に踏破されているだろう。
あなたは2~3日で踏破可能な迷宮にばかり挑んでいたので、そうした長期的な戦略が必要な迷宮に挑んだ経験はほとんどないのだ。
そのため、できる限り自分のよく知るやり方でサシャを鍛えてやって、万全を期して挑みたいのだ。
「なるほど……あなたって慎重派なのね?」
そりゃそうだ。
エルグランドでは死んでも蘇れる。
だが、無謀な愚か者でよいわけもない。
やはり死ねば色んなものを喪う。
喪ってばかりでは成長もできない。
そのため、エルグランドで名を馳せる冒険者はみな慎重だ。
大胆かつ慎重でなければ成功することはできない。
実際、あなたもそうした慎重さは持ち合わせている。
冒険中に気を抜いたり、色恋にうつつを抜かしたりはしない。
実際、冒険中にサシャと触れ合うことはあったが性的な行為は一切していない。
ちゃんと自制をして慎重に周囲を警戒しているのだ。
たとえそれが、あなたが負ける余地がないほどの雑魚ばかりの道中だとしても、だ。
「なんだかあなたの冒険者らしいところを初めて見たわね……」
貶されているのだろうか。
あなたは首を傾げた。
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