あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 究極破壊兵器談義でだいぶ盛り上がった。

 しかし、サシャも来たので準備の話をしたい。

 あなたがそのように切り出すと、レインは頷いた。

 

「ええ、構わないわ」

 

「あの、ご主人様。フィリアさんは?」

 

 そう言えば姿が見えない。

 あなたはようやく思い至った。

 

 いったいどこにいるのだろうか。

 たぶんこの家にはいるのだろうが。

 ちょっと探してくるとあなたは席を立った。

 サシャにはレインと必要なものがないか話し合って欲しいと命じた。

 

「わかりました」

 

「そうね、あなた色々と非常識だから、サシャと話し合った方が建設的かもしれないわ」

 

 なにやら貶されたが、あなたは気にしなかった。

 この大陸のことはよく知らない。

 だから非常識なのはしかたないことだ。

 

「そう言うことじゃないわよ……」

 

「そうですね……」

 

 そう言うことではないらしい。

 あなたは首を傾げたが、気にしないことにした。

 

 

 フィリアの使っている部屋へと向かう。

 どうやらフィリアは中にいるようだ。

 扉をノックして声をかけると、バタバタと中で準備をするような音がする。

 

「は、はい! あ、お姉様」

 

 なにやらフィリアの顔が赤い。

 あなたは部屋の中を見やる。

 ベッドが随分と乱れている。

 寝乱れている、と言った感じではない。

 あなたはフィリアに顔を寄せると、すぅー、とフィリアを香った。

 

「あ、あの、その」

 

 フィリアの女の子らしい香り。

 そして、その中にある、淫靡(いんび)な香り。

 乱れたベッド。上気したフィリア。

 あなたは微笑むと、えっちな子だね、と耳元でささやいた。

 

「あぁ……そ、その……ごめんなさい……」

 

 何も悪いことなどない。むしろいい。

 えっちな女の子は最高でおじゃるな。

 

「だ、だって、お姉様が……サシャさんばっかり……」

 

 拗ねているようだ。なんとも可愛らしい。

 これは後で存分に可愛がってあげなくてはいけないだろう。

 あなたは釣った魚にはたっぷりとエサをやるタイプだった。

 

 ともあれ、今は話し合いである。

 シャワーを浴びてから談話室に来るようにと命じた。

 

「は、はいぃ……」

 

 フィリアは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 一緒にシャワーを浴びたい気持ちもあったが。

 人をそこまで待たせるのは本意ではなかった。

 

 

 

 談話室に戻る。

 サシャとレインがあーでもないこーでもないと話し合っていた。

 

 そもそも移動手段をどうするのか。

 移動中の経路はどこを使うのか。

 護衛を使うのか、護衛をしながら行くのか。

 思い当たるところを順々に話しているような雰囲気だ。

 

 机の上には地図などの類が散乱している。

 どれもこれも、とてもではないが正確とは言えそうにない。

 正確な地図と言うのは大変な軍事機密でもあるからしかたない。

 たとえ貴族だろうが、余人の手に届くような代物ではないのだ。

 

 普通の人が持てるのは、個人で書いた粗末な地図が精々である。

 エルグランドにも正確な地図はない。まぁ、ない理由はべつだが。

 あなたみたいな連中が地形を好き勝手変えるから、作ってもすぐに使い物にならなくなる。

 

「ご主人様なら移動手段はどうしますか?」

 

 エルグランドなら転移魔法で一瞬。

 ここでなら自分1人だけなら速度を上げて走る。

 4人なら無難に馬に乗るか、馬車を使うか。

 

「そこらへんは常識的ね……あなたはどれにすべきだと思う?」

 

 まず街道の状況次第である。

 おそらくあなたの見立てでは、ソーラスの町までの街道はある。

 

「ええ、たしかにあるわよ」

 

 古来から他国の侵攻を防ぐには、道をまことにクソにする、と言うのが古典戦術である。

 

 騎馬では通れないが、人間なら通れる。

 馬1頭なら通れるが、2頭横並びでは通れない。

 そんなせまくて(けわ)しい道を街道(かいどう)にすることで攻められにくくするのだ。

 

 同じ国の貴族とて、同胞と言うわけではない。

 そんな社会は珍しい話ではない。

 だから隣国、あるいは隣の領地の貴族。

 周囲の者に攻められぬようにすることは普通であった。

 

 しかし、迷宮から得られる利潤は、どこでも得られるわけではない。

 王都の旺盛な消費でこそ得られているという可能性は高い。

 あなたが見た限り、王都の規模は立派なもので、経済規模も大きい。

 王都に運べば金になる。侵攻のリスクを踏まえても街道を整備するだろう。

 

「あなたそんな戦略の知識まであるのね」

 

「ご主人様すごいです」

 

 褒められてあなたはちょっと鼻高々になった。

 ところで、あなたはレインに聞きたいことがあった。

 すでに手は打っているのだと思っていたのだが。

 特に動きが見えないので、ちょっと気になった。

 

「私に聞きたいこと? なによ?」

 

 これからレインとポーリンは身の振り方をどうするのだろうか?

 レインは自分で生きていけるだけの技術と才能があるだろう。

 しかし、ポーリンにはあるのだろうか? ないような気がする。

 

 ポーリンは伯爵家当主の妾だ。

 だからこそ、この屋敷に居られるわけで。

 その当主が死んだ、というか、あなたが殺した。

 なので、もう当主の妾ではない。

 

 次の当主の妾になる手もないではないが……。

 ポーリンは30半ばと言ったところだろう。

 さすがに、次の当主の妾になるのは無理だろう。

 

 前当主のように、よほどポーリン個人を愛しているか。

 あるいはあなたのような女ならなんでもいい人間とか。

 そう言うやつでなければポーリンを妾にはしないだろう。

 

「…………」

 

 レインが愕然(がくぜん)とした顔をしている。

 どうやら何も考えていなかったか。

 あるいは、思い至ってもいなかったらしい。

 

「どうしましょう……」

 

 そこであなたは提案した。

 ポーリンを雇いたいと。

 

「お母様を雇う?」

 

 あなたはこの王都か、ソーラスに屋敷を買うつもりでいる。

 単純に冒険をするための拠点が欲しい。

 

 どこに本拠を構えるかは思案中だが。

 とりあえず、王都の辺りは無難だろう。なんせ首都なわけだし。

 

 ソーラスに拠点を買うのもアリだろう。

 どうせしばらくはそこが冒険の主軸だ。

 要らなくなったら売ればいいのだし。

 

 以前、ソーラスに本拠を構えるのか、という問いに頷かなかったのは、どちらにするか決めかねていたからだ。

 

 サシャの故郷、スルラに本拠を構えるのもいいのだが。

 ソーラスからは王都よりも遠く、王都にも近くはない。

 サシャの歓心を買える以外のメリットがない。

 なら、ソーラスか王都だろう。

 

 あなたの提案の本題は、それに関連する。

 その本拠の管理人としてポーリンを雇いたい。

 ポーリンはこの屋敷の女主人として振舞っていた。

 屋敷の管理と、そうした人の使い方を弁えている。

 案外、そうした技能を持っている人間は少ない。

 正確に言えば、雇える人間でそれらを持っている者が少ない。

 

 レインの母なので信用できるし。

 この屋敷の使用人らに慕われてる様子から、技能は高そうだし。

 なによりあなたが雇って本拠に置けば、アプローチの機会が多い。

 あなたはその点は黙った。

 

「なるほど……お母様を屋敷の管理人に……」

 

 冒険で得た財産の類の保管もするので、屋敷の警備も雇う予定だ。

 そのため、財産と同時にポーリンの身の安全も守られる。

 職場としてはこれ以上ないほど優良ではないだろうか。

 当然、屋敷の購入に関してもあなたが金を出す。

 維持管理費も全てあなたが負担する。

 あなたの所有する物件だから当然だが。

 

「私に否はないわ。ただ、お母様の同意は得てちょうだい。雇い主のあなたがね」

 

 それは当然なので、あなたは頷いた。

 ついでに、この屋敷の使用人も可能なら引き抜きたい。

 ポーリンにも気心の知れた使用人が欲しいだろうし。

 実績ある使用人と言うのは価値ある人材だ。

 

「それはたしかにね。それに関してはあなたが出す給金次第じゃないかしら」

 

 いまの3倍を出そうではないか。

 ソーラスに本拠を構える場合は、そこまで引っ越しをする費用と、家族の職に関しても面倒を見る。

 

「それならほぼ全員頷くわね。ええ、分かったわ。それは私から使用人たちに布告するわ。話も取りまとめておく」

 

 お願いするとあなたは頭を下げた。

 ちなみに給金はエルグランドの金貨で払ってもいいだろうか。

 

「まぁ、同じ金貨ではあるから、いいんじゃないかしら。多少面倒だろうけど、その分額が多いから納得もしてもらえると思うわ。このあたりの金貨で払うなら2倍って言っておけばいいんじゃない?」

 

 それもアリだなとあなたは頷いた。

 ではそのようにしよう。

 

「よかったですね、レインさん」

 

「ええ、ほんとうに。あなたも、ありがとうね」

 

 あなたは自分の欲得100%だったので、気にするなと笑って答えた。

 欲得の中で仲間のためになれるなら、多少の骨を折るくらいはする。

 あなたにはその程度の善意の持ち合わせはあった。

 

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