あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 移動経路の策定はスムーズに進んでいた。

 フィリアはソーラスに挑んだことがある。

 そしてもちろんそこまで移動もしたことがある。

 そのため、フィリアの意見をほとんど丸飲みする形になった。

 

「さて、冒険……の前準備はこの程度?」

 

 あなたは頷いた。

 今のところはこれくらいだろう。

 迷宮のことは現地に着いてから考えるべきだ。

 なにしろ情報が少ない。

 情報が少ないのに計画を立てるのは時間の無駄だ。

 

「そうね。次に、あなたが主張してた訓練期間なんだけど……」

 

 これに関してはなんとも言えない。

 所要期間は訓練の進み次第だろう。

 ただ、長くても1か月程度と見積もっている。

 訓練だけではなく、実戦も適度に積む必要があるためだ。

 

 その間に、フィリアの持っている魔法のかばんと同じものを買う必要があるだろう。

 

「あ、このかばんですか。それならオークションに行くのが確実ですよ」

 

 それに関してはレインに聞いている。

 問題はそのオークションとやらをよく知らないことだが。

 

「それでしたら、私が案内しますよ。オークションはよく利用していましたから」

 

「あ、そっか。たしかにフィリアなら利用したこともあるわよね」

 

「ええ。このかばんもオークションで落札したものですしね」

 

 であれば、フィリアと共にオークションに出向いて落札と言うことになるだろう。

 

「オークショニアの方に声をかけておきますね。魔法のかばんの出品がある日取りを教えてもらえますから」

 

 そんなことまでしてくれるとは。

 なんとも至れり尽くせりである。

 

「オークションをよく利用してると、そう言う気遣いもしてもらえるんですよ。あ、オークションには礼服が必要なんですけど……」

 

 エルグランドの礼服ならあるが……。

 

「どんなものか見せてもらえますか?」

 

 あなたは頷いて『四次元ポケット』から礼服を取り出した。

 複数持っているが、あなたが一番よく利用する礼服を。

 

 それはいわゆるワンピースである。

 黄色い布地で作られた、シンプルなデザインのもの。

 ハイランダーの伝統衣装でもあり、エルグランドでは広く知られた服だ。

 

 あなたの母はハイランダー、あなたの父は妖精。

 あなたはそうした混血児であり、そのルーツに従った礼服を選択するのは普通のこと。

 

 なお、ハイランダーとは女しかいない種族のことを言う。

 男社会と隔絶した人間の女による文化ではなく。

 女しか生まれないハイランダーと言う種族がいるのだ。

 特徴は金髪に蒼い瞳、そして俊敏かつ強靭な肉体を持つこと。

 あなたも種族としての基礎はそのハイランダーである。

 

 ただ、混血だと目の色が異なることはある。

 あなたも髪は金髪だが、目の色は赤だ。

 

「変わった色使いですね。うーん……なんと言うか、少女趣味と言うか。もうちょっと、こう……お姉様が幼かったら問題なかったと思うんですが……」

 

 どうやらこの礼服はダメらしい。

 エルグランドならば貴族の舞踏会にも参加できる服なのだが。

 

「それ、そこまで格式高い服なの?」

 

 布地は高級品だし、エルグランドの礼服の基本は黄色である。

 ハイランダーの伝統衣装としての色遣いは青と白になる。

 青しか染料が無かったというのが実際のところだが。

 民族衣装は礼服として扱われるのが通常であるし。

 色も社交に則ったものにしているのだ。問題ない、はずだ。

 

「他の礼服は持ってないですか?」

 

 あなたは持ち合わせている礼服をすべて取り出した。

 

「えっと、この貫頭衣(かんとうい)は……?」

 

「礼服と言うより乞食の服って感じなんだけど……いえ、布地は綺麗だし、ボロって感じではないんだけども……」

 

 これは妖精の礼服である。

 妖精は基本的に貫頭衣しか着ない。

 

 黄色と、より濃い黄色の布地で構成されたシンプルな貫頭衣。

 これも妖精の礼服として認められている。

 あなたの姿かたちは瞳の色以外はハイランダーそのものだが。

 父のことが広く知られているので妖精の礼服でも問題視はされなかった。

 

「こっちのドレスはよさそうですね。ダンスパーティーとかにもいけそうです」

 

「そうね。ちょっと流行遅れの感はあるけど、レトロな装いを演出すれば問題ないんじゃないかしら」

 

 レインとフィリアが認めたドレスは、人間の礼服だった。

 あなたのエルグランドにおける公的な職業は娼婦(しょうふ)だ。

 それも、娼婦ギルドのナンバーワン。

 頭に超がつくほどの高級娼婦である。

 

 それほどの高級娼婦になると社交界に顔を出すことも可能になる。

 貴族が高級娼婦を連れているというステータスのために買うのだ。

 客と娼婦としてなら貴族相手でも後腐(あとくさ)れなくヤれるというのも素晴らしかった。

 

 そのため、社交界に出れる程度の礼服は仕事柄(しごとがら)必須だったのである。

 まぁ、大体の場合、あなたと懇意(こんい)の客がプレゼントしてくれたのだが。

 実際、今見せたドレスもあなたと懇意の女貴族の客がプレゼントしたものだった。

 

「当日は馬車とかを雇わないとですね。えっと、使用人はこの家の人をお借りしても?」

 

「ええ、好きに使ってちょうだい」

 

 その辺りは分からないので、フィリアに任せる。

 エルグランドにオークション文化はなかったのだ。

 

「オークションの日程は後で分かるからいいとして、訓練は最長で1か月程度なのね?」

 

 たぶんそのくらいあればなんとかなると思う。

 あなたは曖昧にそう言った。

 そうとしか言いようがなかったし。

 

「まぁ、サシャの覚えのよさ次第ってことだものね。サシャは頭がいいから、割とすぐに終わるかもしれないわね」

 

「そうだといいんですけど……」

 

 なにをやらされるか分からないからか、サシャは不安げだった。

 迷宮を探索する心得や、迷宮探索に必要な技術を教えるだけなので、そこまで変なことはしないのだが。

 とりあえずあなたはサシャに安心させるようにニッコリ微笑んだ。

 サシャは引き攣った顔をした。なぜなのか。

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