あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 細々(こまごま)とした計画はすべて決まっている。

 そのため、出発前夜の今夜は壮行会(そうこうかい)をすることにした。

 

 明日に差し支えても困るのでお酒はほどほどに。

 ご馳走をお腹いっぱいに食べて英気を養う。

 あなたが用意したご馳走と、屋敷の使用人が用意したご馳走で乾杯だ。

 

 フィリアの要望であるアイスクリーム。

 サシャの要望であるグラタン。

 レインの要望であるチーズケーキ。

 ポーリンの要望である肉まん。

 

 あなたが用意した料理はその4種のみだ。

 張り切って使用人の仕事を奪うのはいけないことだ。

 そのようにレインに嗜められたためである。

 そして、今夜の晩餐はあなたも食べるつもりだった。

 

 なんでかと言えば、壁際で控えている使用人らに理由がある。

 そこに立ち並ぶ使用人たちは全て女性であり、男性は1人もいなかった。

 

 そう、レインが男性使用人を全て女性に置き換えてくれたのだ。

 あなたのしょうもない要望をちゃんと覚えていてくれたらしい。

 

 女性の作った料理には価値がある。

 美味しいとかそう言うことではない。

 ただ、価値があるのだ。

 

 冒険者は価値あるものが大好きだ。

 だからあなたは女性の料理は余さず食べる。

 たとえそれに媚薬が入っていようが。

 毒薬が入っていようが、食べる。

 むしろ媚薬は大歓迎まである。

 

「この屋敷はもうあなたのものだし、音頭はあなたが取るのよ」

 

 そう言えばそうである。

 あなたは頷くと、食前の挨拶の音頭を取った。

 

 あらゆる恵みは太陽の恵みあってこそのものである。

 ゆえにこそ、その恩恵を決して忘れてはならない。

 

 そう言ったような文言のお祈りの言葉である。

 エルグランドに太陽神はいないのだが、ウカノの出身地にはいたらしい。

 ウカノの属する神話体系においてはそれが最高神であるのだとか。

 ちなみに女神だそうな。あなたがこの文言を好むのはそのあたりにある。

 

 それぞれが信仰する神へ祈りを捧げ、食事に取りかかる。

 全員が和やかに、そして賑やかに食事をした。

 酒もほどほどに嗜んで、壮行会は穏やかに終わった。

 明日へ向けて英気を養うため、示し合わせることもなく。

 

 あなたは壮行会の余韻を感じながらサシャと共に入浴を行っていた。

 互いの背中を洗い合い、浴槽の暖かな湯に寄り添って浸かるのは心地いい。

 入浴は汚れを落とすだけではない、心を満たす行いでもあるのだということを実感する。

 

「冒険、楽しみですね。迷宮に挑んで、栄光を掴むって言うおとぎ話、いっぱいあるんです。だから、ちょっと憧れてて」

 

 エルグランドにもそう言ったおとぎ話は多々あったものだ。

 なんならあなた自身もおとぎ話になっているし、あなたの父もそうだ。

 自分のおとぎ話を聞くのは、なにやらすごく気恥ずかしい。

 いつか、サシャもそうしたおとぎ話の主人公になる日がくるのかもしれない。

 

「あはは、そうだといいですね。どうしたらおとぎ話の主人公にしてもらえるんでしょう?」

 

 それはもう偉業を達成するしかない。

 あなたも大冒険をし、とある迷宮を踏破した冒険の旅がおとぎ話になった。

 仲間と共に苦難を乗り越え、激闘の果てに巨悪を打ち倒した……そんな内容だ。

 

「そんなにすごい大冒険をしたんですね」

 

 実際のところはまぁ、違うのだが。

 その迷宮に挑んだのはあなた1人だったし、激闘もしていない。

 倒した相手も巨悪かと言うと、まぁ、違う。

 善人ではなかったが、悪人と言うのも違う。

 ただ、大冒険と言うものに相応しいような冒険であったのはたしかだった。

 

「そうだったんですか」

 

 まぁ、おとぎ話とはそんなものだ。

 尾ひれがついて背びれがつき、やがては翼や爪までつくものだ。

 

 数時間に渡る激闘を繰り広げたなんて尾ひれはまるきりウソ。

 適当にパナした『魔法の矢』1発で木っ端微塵だった。

 

 超がつくほどの美形だったなんてウワサもウソだ。

 エルグランドの歴史を冷笑していただけのつまらない老人だった。

 

 大陸の陰に蠢く悪の組織、その首魁だったというのもウソ。

 そんな組織は存在しないし、存在したこともない。

 仮にあってもみんなのオモチャにされてすぐ壊滅する。

 

 一番笑えた尾ひれ、あなたの間に悲恋があったのも大ウソ。

 時折地上に出ていて、偶然出会ったあなたと大恋愛なんかしてるわけがない。

 運命の残酷さに涙したりなんてしないし。

 あなたへの愛から剣の鈍った彼を涙ながらにあなたが殺したなんて事実無根だ。

 

 落ちたのは恋ではなく地獄だし、落ちたのも相手だけだ。

 涙ながらにトドメを刺したとか言うことも一切ない。

 むしろポッと出の人物だったので、こいつはいったいだれだったんだ、くらいの感覚でしかなかった。

 ただ、その秘宝を我がものとしていた老人はともかく。

 その秘宝の守り人である者は美形の青年だったと思う。

 

「えと……でも、その人と恋に落ちたわけじゃないですよね」

 

 もちろんである。堕ちるわけがない。

 

「そうですよね。秘宝の守り人かぁ……どんな人だったんですか?」

 

 なんか訳知り顔でよく分からない話をしてきた印象しかない。

 自分たちを楽しませて見せろ、みたいなことを言われた。

 ただ、話の内容は覚えていないし、美形だったのは覚えているが。

 具体的にどんな顔かはいまいち覚えていない。

 腰に下げていた素晴らしい剣の装飾と、その性能はよく覚えているのだが。

 

「なんでご主人様が性能を知ってるんですか?」

 

 そいつは死んだので、あなたがありがたく剣をもらい受けたのである。

 

「そうだったんですか……」

 

 まぁ、殺害の下手人はあなただが。

 いや、いい剣だったから、欲しくて……。

 

 そのせいかは不明だが、結局何者だったかは不明のままだ。

 その辺りを言うと、軽蔑されそうなのであなたは言わなかった。

 

「私がおとぎ話の主人公になったら、どうなるんでしょう。楽しみです」

 

 その場合、たぶんだが、あなたは男にされるだろう。

 やはり異性同士というのが物語的に映える。

 そして、冒険の途中であなたポジションの男は死ぬだろう。

 恋を盛り込みつつ、その恋が悲しい結末に終わるのが一番盛り上がるからだ。

 

「あはははは! やっぱり、そうなっちゃいますよね!」

 

 サシャもそうした物語のお約束を知っていたからか、そんな風に大笑いをした。

 ついでに言えば、冒険の旅が終わった後に、サシャのお腹にあなたポジションの男の遺児がいるとかもあるだろう。

 

「ありそう! すごくありそうですご主人様! ほんとは女の子同士なのに! あははは!」

 

 まぁ、あなたはサシャを妊娠させることが可能なのだが。

 きっとあなたとサシャによく似た可愛い女の子が生まれるだろう。

 そのことは言わず、あなたはサシャと声を合わせて笑った。

 

 そんな風に楽しく入浴を済ませ、あなたとサシャは同じ部屋のベッドに身を横たえていた。

 ヤり納めはして来たので、もちろんなにもしない。ただ、一緒に寝るだけだ。

 やはり一人寝は寂しい。隣に誰かのぬくもりがあるのが一番安心する。

 サシャはベッドの中では積極的にぺたぺたくっついてくれるのが嬉しいのもある。

 

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