あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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「おいしいですね~。ドランカーもうひと瓶くださいな~」

 

 黒髪のメガネをかけた少女、カイラ。

 そのカイラの勧めで、楽園のそよぎ亭なる宿に来ている。

 冒険者の利用者が多い宿で、うまい食事とうまい酒が評判だとか。

 

 代わりに、値段が高い。

 奢らせるのも納得と言ったお値段だった。

 よその店の4~5倍くらいの値段がしている。

 その割に利用者は多く、店は賑わっている。

 すると、ただのぼったくりで高いのではないのだろう。

 高品質の食事と酒であるがゆえに高いのだ。

 なんと言うか、この国の国民性が見える。

 美食にこだわる層が幅広いと言うか……。

 

 しかし、そんな国民性もあってか、質は間違いなく高い。

 あなたも供されたエールの値段に納得した。

 純粋に質が高い。原料の麦、水の質の高さが伺える。

 それに、どうやっているのかよく冷えていて美味だった。

 さらにカイラおすすめと言うドランカーなる酒も非常に美味だ。

 

 香草(こうそう)漬けのリキュールのようだが。

 独特の甘い風味が突き抜けていく。

 なかなか強い酒だが、何杯も飲めてしまうほどに美味い。

 

「あ~……このハーブソーセージ、ほんとにうまい。このソーセージだけで店に来る価値がある」

 

「ほんとほんと。鳥の香草焼きも美味しいし、この店の香草の使い方ってすごいよね」

 

 血縁を感じさせる顔立ちの少女、リーゼとリゼラ。

 重装鎧を纏っていた方がリゼラ。

 軽装の剣士がリーゼである。

 

 リゼラはふわふわの金髪が可愛らしい。

 リーゼは真っすぐな髪を頭巾で纏めているのが可愛らしい。

 2人とも小柄だが、リーゼは服の上からでも分かるほど形の良い乳房が実にうまそうである。

 

「くぁーっ……このドランカー、ほんとにうまい。でもこの店でしか飲めないんだよね……」

 

 ドランカーの味に感嘆しつつも口惜しそうにしているのは弓使いのトキ。

 北方の生まれだとのことで、この辺りで一般的な人間とは容姿の感じがだいぶ違う。

 

「高いしね……私たちじゃ滅多に来れないし……奢りだから存分に飲んでおかないと」

 

 そう言って陰気そうに笑うのは野臥せりのスアラ。

 赤みの強い紫と言う非常に独特な髪色が特徴だ。

 髪色も相まって、なんとなく不健康そうに見える顔色だ。

 髪色のせいで、白い肌が強調されてしまうせいなのだろう。

 

「いつか自分たちだけの稼ぎで来れるようになりたいね~」

 

 などと微妙に悲し気な顔をするのは呪術師のチー。

 チー・ソラ・リグと言う名なので、ソラと呼ばれる方が多いらしい。

 あなたにしてみれば特に呼び難くないように思えるが。

 この辺りの人間からするとチーと言う名は呼び難いらしい。

 

「さぁさぁ~、カップが空ですよ~。飲んで飲んで~」

 

 あなたはカイラによってジャンジャン酒を注がれていた。

 かわいい少女に酒を注がれて、飲まないわけがない。

 あなたは注がれれば注がれただけ酒を飲み干していた。

 

「カイラ、あんまり飲ませすぎるのよくないよ……何も食べてないし」

 

「あら~、そうですね~。このハーブソーセージ、おいしいですよ~?」

 

 そう言ってカイラに勧められたが。

 あなたはいつものように断った。

 自分の手で作ったものしか基本的に食べないとも告げて。

 

「あら~……私のハーブソーセージが食べられませんか~? ほら~」

 

「カイラがくそめんどくさい絡み方してる……」

 

 カイラがフォークに突き刺したソーセージを差し出して来た

 あなたはそれを素直に(かじ)った。

 肉汁が溢れ、香草のふくよかな香りが弾ける。

 肉のうまさを引き出す香草の妙が光る味わいだった。

 なるほどこれはたしかに店の自慢になるだけある味だ。

 あなたは美味に唸った。それくらい美味だった。

 

「……いや、食べるの!?」

 

 リーゼにビックリされた。

 あなたは女性の手で差し出されたものを断る理由がないと答えた。

 

「そ、そうなんだ」

 

「あら~、じゃあお酒も断れませんよね~。どんどん飲みましょうね~」

 

「カイラが、カイラがすごくめんどくさいことをしてる……!」

 

 カイラの手によってジャンジャン注がれる酒。

 あなたはそれをジャンジャン干していった。

 リーゼが酒をやたら飲んでいるあなたを心配してくれるのが嬉しかったので余計に酒も進んだ。

 カイラは気にせず酒を注ぎまくる。あなたは飲みまくる。

 リーゼが不安がって、あなたに食事を食べさせてくれた。

 

 なんだこれは、天国か?

 かわいい少女がお酒を注いでくれて。

 べつのかわいい少女が食べさせてくれる。

 泣けてくるくらいに幸せだった。

 もうこれだけでナンパ成功と言える。

 

「ドランカーもうひと瓶~」

 

「あー、すまねぇが、カイラ……品切れだ」

 

「えっ」

 

 カイラが再度注文をしたが、店主のオドイなる男が品切れを告げた。

 都度ウェイトレスが下げてくれたが。

 いままで20本以上は空けたのだから品切れも仕方ないだろう。

 

「あ、では、ロアリーキラーを~」

 

「あいよ」

 

 またべつの酒があるらしい。

 あなたは酒を好んでいるので楽しみである。

 この店は食事も酒も、すべてハズレがない。

 実にいい店だ。今後機会があったら通おうと思う。

 店主が男なのは少々残念だが、店員がみな女性なのも素晴らしい点だ。

 

 やがて運ばれて来たロアリーキラーなる酒は、実に強い酒だった。

 ドランカーよりもさらに強く、それでいて余計な風味がない。

 純粋な酒精の味わいが楽しめる、ピュアな蒸留酒だった。

 ドランカーのような工夫を凝らしていない、水と酒精をシンプルに味わえる酒。

 そう言ったシンプルな酒も嫌いではない。ある意味で酒らしい酒である。

 

「本当に強いですね~。お酒の強い人って素敵ですね~」

 

「いやいやいや、カイラ、飲ませすぎ、飲ませすぎだって……」

 

「あら~? もう飲めませんか~?」

 

 ぜんぜん飲める。

 あなたは問題ないとカイラに応えた。

 実際、特に問題はなかった。

 エールばかり飲むと胃の容量に限界がくるのだが。

 蒸留酒は量が少ないのが基本だ。

 胃に限界が来るまでまだまだだ。

 

「きゃ~、カッコいいです~。どんどん飲んでください~」

 

 そう言ってカイラがどんどん酒を注いでくれる。

 あなたはどんどん飲み干した。

 カッコいいと言われるのはやや複雑に感じることもあるが。

 基本的にはうれしいものだった。

 

 どんどん飲み干し、やがて他の面々のお腹がくちくなり。

 ちびちびと酒を飲む程度になっても、カイラはあなたに酒を注ぎ続けた。

 

「ろ、ロアリーキラーもうひと瓶くださいな~」

 

「カイラ、ロアリーキラーも品切れだ。と言うか、うちにおいてる蒸留酒は全部品切れだ」

 

「えっ」

 

 カイラがあなたを見やる。あなたはカップの酒を干した。

 酒精の混じった溜息を吐き、あなたはカイラに酔い潰そうとしても無駄であると告げた。

 

「あ、はい、そうですよね……気付いてますよね~……」

 

 あんなに飲ませ続けられて気付かなかったら相当なアホである。

 

「あの~、どうして私をナンパしたのでしょうか~?」

 

 カイラがいまさらそんなことを聞いてきた。

 とは言え、理由などカイラが可愛かったくらいしかない。

 加えて言えば、カイラが強そうだったので気になったのもある。

 

「……え? ほんとにそれだけですか?」

 

 それ以外なにもない。

 

「わ、私がかわいいからナンパしただけ? え? それだけ?」

 

 むしろそれ以外にナンパする理由などあるのだろうか。

 あるわけがない。あなたは相手が誰であろうがかわいいから以外でナンパなどしない。

 まぁ、あなたにしてみればかわいくない女などいないが。つまり誰であろうが見境なくナンパする。

 

「私が、かわいいから……」

 

「あっ、カイラ照れてる!」

 

 にへ、とカイラが頬を緩めたことに気付いたのか、リーゼが指をさして笑う。

 

「ち、違います~! 照れてません~!」

 

「普通にカイラかわいいのに、ナンパされたことなかったの?」

 

「うっ……実は、その、なかったですね~……」

 

「まぁ、相手も女の子だけど、いい初体験になったね」

 

「うぅ……」

 

 初めてをもらえたとはなんとも嬉しい話である。

 しかし、カイラが何歳かは知らないが、初めてナンパされたというのも珍しい話だ。

 

「うぅ~……あんまりいじめないでくださいよぅ~……悪かったですね~、モテない陰気なやつで~……」

 

「カイラも実は酔ってるね」

 

「まぁ、割と飲んでたし。けど、モテなかったんだ、カイラ」

 

「ゔぅ~……学生時代はモテたことなんてなかったですよぉ……」

 

「学生……カイラって学生だったことあるの?」

 

「三流ですけど~、大学も出てますよ~」

 

「大学出てる時点で超一流では?」

 

「カイラって大学出てたんだ……いや、超がつくレベルのエリートじゃん」

 

 こちらの大学がどういった機関かは不明だが。

 少なくともエリートと呼ばれる類のもののようだ。

 

 エルグランドでも大学を出ているとなればエリートだ。

 学問に身を置く者の中では一流と言えるだろう。

 少なくとも、相当な学識を修めているのは間違いない。

 生半な人間では入ることも卒業することもできないものだ。

 

 と言うことは、カイラは見た目よりも幾分か年嵩と言うことになる。

 16とか17くらいだと思っていたのだが、少なくとももう少し上だろう。

 まぁ、若くして入学して、瞬く間に卒業したという可能性もあるが。

 

「あはは、そんな天才ではないですよ~。4年かけて卒業してます~」

 

 やはり見た目通りの年齢ではないらしい。

 

「そうですね~……女の子は秘密を着飾ることで女になるので~、秘密です~」

 

 セクシーな返答である。あなたは思わずうなった。

 なるほど、たしかに秘密を持たない女は存在しないだろう。

 そうしたミステアリスな部分が女性を女性たらしめるのだ。

 

 あなたはぜひともカイラの秘密が知りたいな、と流し目を送った。

 

「えぅ。あっ、その、えっと……女の子同士ですよ~?」

 

 それが何か問題なのだろうか。いや、ない。

 あなたはカイラをかわいいと思っている。

 カイラはそれをうれしいと思っている。

 ならば、その間に障害などなにもないだろう。

 

「そ、そうなのかな? そうなのかも……あの、私、そう言う経験、ないのですが……」

 

 優しくする、とあなたは告げ、カイラを抱き寄せた。

 散々飲んだので酒精の香りが漂う。

 カイラの細身ながら柔らかな肢体の感触が心地いい。

 

「ひぅ……」

 

 顔を赤らめたカイラに対し、あなたは店主のオドイに声をかけた。

 つまり、部屋を1つ借りたいと。

 

「お、おう……まぁ、うちはそう言うことしても文句は言わねぇが……ところで、その前に支払いを頼む」

 

 あなたはテーブルの上に金貨の山を叩きつけた。

 具体的な支払額が分からないので、まず間違いなく足りる量を。

 

「お、おお……見たことねぇ金貨だが……」

 

 迷惑料代わりに多めに払う。釣りはとっとけ。

 そう告げ、あなたは部屋の鍵をさっさと寄越すように要求した。

 

「わかったわかった……」

 

 それからあなたは、テーブルについていた他の面々に声をかけた。

 そして迷惑をかけた詫びと称し、それぞれに金貨を一掴み握らせた。

 

「えっ。そんな、迷惑料って、晩御飯まで奢ってもらったのに」

 

 もしかしたらカイラは明日1日使い物にならないかもしれない……。

 そんな風に言ってやると、あなたが耳打ちをしたリーゼが顔を赤くした。

 

「な、なるほどー……わ、分かりました。いただきます」

 

「お、おお……おおおお……ひ、ひとつかみの、金貨……」

 

「お、お金持ちだ……!」

 

「スーパーお金持ち!」

 

 スーパーお金持ち。なんとも珍妙な呼び名である。

 あなたは笑いつつも、カイラを抱き上げて部屋へと連れ込んだ。

 

 今夜は眠れないな!

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